• 著者: Dirk G. Brockstedt, Martin A. Giedlin, Meredith L. Leong, Keith S. Bahjat, Yi Gao, William Luckett, Weiqun Liu, David N. Cook, Daniel A. Portnoy, Thomas W. Dubensky Jr.
  • Corresponding author: Dirk G. Brockstedt (Cerus Corporation, 2411 Stanwell Drive, Concord, CA 94520, USA)
  • 雑誌: PNAS
  • 発行年: 2004
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 15365184

背景

Listeria monocytogenesは食品媒介性細胞内寄生菌であり、そのユニークな細胞内生活環(ファゴリソソームからの脱出、細胞質内増殖、アクチン重合によるActAを介した隣接細胞への伝播)が自然免疫と獲得免疫の両方を強力に誘導する。この特性から、組換えListeriaを用いた腫瘍免疫療法の有効性は複数の動物モデルで示されてきた (Paterson & Ikonomidis, 1996; Jensen et al., 1997)。しかし、Listeria自体が食品媒介病原体であり、野生型を人体に投与することは安全性上大きな問題がある。

これまでの研究では、Listeriaの毒性を低減するための弱毒化戦略が検討されてきた。例えば、ActA遺伝子を欠失した単一変異株(ΔactA)は、細胞間伝播能が失われることで毒性が約1000倍低減されることが報告されている (Camilli et al., 1993)。しかし、このような単一の弱毒化変異では免疫原性は保持されるものの、肝臓への感染とそれに伴う肝毒性が残存するという課題が未解決であった (Lingnau et al., 1995)。Listeriaの病原性には、ActA以外にもInternalin B (InlB) などの複数の因子が関与しており、InlBは非貪食細胞への侵入に重要な役割を果たすことが知られている (Cossart et al., 2003)。したがって、単一の変異ではListeriaの病原性を十分に制御しつつ、その強力な免疫誘導能を維持することは困難であった。

癌免疫療法は有望な治療戦略として注目されているが、特定の悪性腫瘍に対して日常的に適用可能で、持続的かつ強力な治療的抗腫瘍応答を一貫して誘導できる実用的な免疫化戦略の必要性が依然として不足している。特に、自己腫瘍抗原に対する免疫寛容を打破し、強力な抗腫瘍効果を発揮できる安全なワクチンプラットフォームの開発が喫緊の課題であった。免疫原性と毒性の間の適切なバランスを達成しながら、臨床応用可能な弱毒化プラットフォーム株を開発することが、Listeriaベースの癌ワクチン開発における重要なギャップとして認識されていた。本研究は、この課題を解決するため、複数の毒性因子を標的とした遺伝子改変により、安全性が高く強力な免疫応答を誘導できるListeria株の創出を目指した。

目的

本研究の目的は、Listeria monocytogenesの二つの主要な毒性因子であるActA(細胞間伝播)とInternalin B(非貪食細胞感染)を同時に欠失させた二重変異株(ΔactA/ΔinlB)を開発し、その安全性と免疫原性を評価することである。具体的には、以下の点を実証する。

  1. ΔactA/ΔinlB二重変異株が、野生型Listeriaと比較して1000倍以上の毒性低下を示しつつ、同等またはそれ以上の強力な抗原特異的CD8+ T細胞応答を誘導できること。
  2. ΔinlBの欠失が肝細胞などの非貪食細胞への感染を効果的にブロックし、肝臓からの迅速なクリアランスと肝毒性の消失をもたらすこと。
  3. 組換えΔactA/ΔinlB株が腫瘍抗原を発現することで、既存腫瘍に対する治療的免疫応答を誘導し、自己寛容を打破して長期生存を達成できること。

これらの評価を通じて、ΔactA/ΔinlB株が、安全性が高く、かつ強力な癌免疫療法ワクチンプラットフォームとして臨床応用可能であることを示すことを目指した。

結果

ΔactA/ΔinlB二重欠失株は>1000倍の毒性低下と同等の免疫原性を達成: 多種類の弱毒化単一変異株のスクリーニングにより、ΔactA株が最も高い免疫原性(OVA特異的CD8+ T細胞誘導)と約1000倍の毒性低下を示した (Figure 1A)。ΔactAをベースにΔinlBを追加したΔactA/ΔinlB二重変異株は、単一ΔactA株と同等のOVA特異的一次(day 7)および記憶CD8+ T細胞応答を維持した (Figure 2)。他の二重変異株では免疫原性が有意に低下する傾向が見られたが、ΔactA/ΔinlB株は野生型Listeriaと比較して3 log低い用量で同等のOVA特異的CD8+ T細胞応答を誘導し、治療窓の拡大を示唆した (Supporting Information Figure 5A)。また、i.m.投与でもi.v.投与と同等の強力な免疫応答が確認された (Supporting Information Figure 5B)。ΔactA/ΔinlB株のLD50はΔactA株と同程度であり、毒性のさらなる低減は認められなかったが、免疫原性は維持された。このスクリーニングでは、n=8 mice/groupで評価し、ΔactA株はOVA特異的CD8+ T細胞の6.03%を誘導したのに対し、野生型は0.40%であった (Figure 1A)。

ΔinlB欠失が肝細胞感染をブロックし、加速クリアランスと無肝毒性を実現: in vitro感染実験において、HepG2細胞への感染率はΔinlB含有株で野生型比約80%低下し、初代ヒト肝細胞では約60%低下した (Figure 3A)。この実験では、n=3 independent experiments (HepG2 cells) および n=2 donors (primary human hepatocytes) で評価された。一方で、THP-1単球および初代ヒト単球への感染率はすべての株で同等であり、貪食細胞への感染はActAまたはInlBの欠失によって影響を受けないことが示された。in vivo増殖動態の評価では、野生型Listeriaは接種後4日間で約10,000倍に増加し、day 11までにクリアされた。ΔactA株は48時間で肝臓において約10倍に増加したが、脾臓では増加せず、day 7までにクリアされた。このΔactA株の感染では血清ALT/ASTの上昇が認められ、肝毒性を示唆した (Figure 1B)。対照的に、ΔactA/ΔinlB二重変異株はday 3-4までに肝臓および脾臓から急速にクリアされた (Figure 3B)。血清ALTおよびASTレベルは、ΔactA/ΔinlB株を投与したn=3 mice/groupではすべての時点で上昇が認められず、肝毒性が消失していることが示された (Supporting Information Figure 6B)。また、モルモット急性感染モデルにおいて、ΔactA/ΔinlB株がhighly toxicな中枢神経系(CNS)感染能を喪失している可能性も確認された。これは、ΔactA/ΔinlB株がin vivoでより安全なプロファイルを持つことを強く支持する。

組換えΔactA/ΔinlB-AH1-A5による自己耐性の破壊と腫瘍退縮・長期生存: CT26結腸腫瘍の内因性腫瘍抗原gp70のAH1-A5変異エピトープを発現する組換えΔactA/ΔinlB-AH1-A5株で免疫したn=8 mice/groupでは、脾臓においてAH1-A5特異的CD8+ T細胞が2.2%誘導され、そのうち1.1%がオリジナルAH1エピトープ特異的であり、自己耐性が打破されたことが示された (Supporting Information Figure 7A)。in vivo細胞傷害性アッセイでは、AH1-A5およびAH1ペプチドを負荷した標的細胞が、HBSSまたはΔactA対照群と比較して、ΔactA/ΔinlB-AH1-A5接種群で選択的に消去された (Figure 4A)。この細胞傷害性アッセイはn=3 individual miceで評価され、AH1-A5パルス細胞の特異的殺傷率はΔactA/ΔinlB-AH1-A5群で約80%であった。CT26肺転移モデルにおいて、ΔactA/ΔinlB-AH1-A5接種群はHBSS対照群に比べ肺転移数が有意に減少した (p < 0.05) (Figure 4B)。生存試験では、ΔactA/ΔinlB-AH1-A5群 (n=10 mice) で40%の長期生存が達成され、HBSSおよびΔactA対照群と比較して有意な生存延長が認められた (p < 0.0001) (Figure 4C)。LD50の10,000倍低用量でも有意な生存延長効果が確認され、中央生存期間は対照群の21日に対し35日以上であった (p < 0.001)。さらに、CT26腫瘍i.v.接種10日後(皮下腫瘍サイズ100 mm³以上に相当)という遅延投与でも同等の腫瘍退縮効果が確認された (Supporting Information Figure 7C)。この抗腫瘍応答はCD8+ T細胞除去により完全に消失したことから、完全にCD8+ T細胞依存性であることが示された。

考察/結論

本研究は、Listeria monocytogenesをベースとした癌ワクチンプラットフォームとして、ActAとInternalin Bを二重欠失させたΔactA/ΔinlB株を系統的に確立した重要な成果である。

新規性: 本研究で初めて、ActA(細胞間伝播)とInlB(非貪食細胞感染)の二重欠失という戦略により、Listeriaの免疫原性の源泉(専門的抗原提示細胞との相互作用)と毒性の源泉(非貪食細胞感染、特に肝炎)を効果的に解離できることを実証した。これにより、野生型Listeriaと同等の強力な免疫誘導能を維持しつつ、毒性を1000倍以上低減した安全なワクチン株を開発することに成功した。これは、同時期の他の弱毒化戦略では達成が困難であった、免疫原性と安全性の両立という点で新規性が高い。

先行研究との違い: これまでのListeria弱毒化研究では、単一の遺伝子欠失(例: ΔactA)では肝毒性が残存するという課題があったが、本研究のΔactA/ΔinlB株は、肝臓からの加速クリアランスと肝毒性の完全な消失を達成した点で、既存の弱毒化株と大きく異なる。また、CT26結腸腫瘍モデルにおいて、内因性自己腫瘍抗原gp70に対する耐性を打破し、完全な腫瘍退縮と40%の長期生存を達成したことは、抗原パルス樹状細胞、組換えワクシニアウイルス、アデノウイルスなど、これまで広く用いられてきた他のワクチン戦略では腫瘍増殖遅延に留まり、完全な腫瘍退縮が観察されなかったことと対照的である (Slansky et al., 2000; Kershaw et al., 2001; Nakamura et al., 2002; Casares et al., 2001)。この結果は、Listeriaベースのワクチンが自己耐性打破において優位性を持つことを示唆する。

臨床応用: 本研究で開発されたΔactA/ΔinlB株は、極めて低い毒性(LD50の10,000倍低用量でも有効)と強力な抗腫瘍免疫誘導能を兼ね備えており、ヒトにおける癌免疫療法の安全かつ効果的なプラットフォームとしての臨床応用が期待される。特に、i.m.投与でもi.v.投与と同等の免疫応答が確認されたことは、臨床現場での実用性を高める上で重要な知見である。本論文は、Listeriaベースの癌ワクチンであるCRS-207(ヒトメソテリン発現)やADXS(HPV E7発現)など、複数の臨床開発プログラムの基礎となる研究として位置づけられる。

残された課題: 今後の検討課題としては、ヒト腫瘍関連抗原を発現する組換えΔactA/ΔinlB株の前臨床評価をさらに進める必要がある。また、ΔactA/ΔinlB株が中枢神経系(CNS)感染能を完全に喪失していることの確証的なデータ取得も重要である。さらに、CD4+ヘルパーT細胞がCD8+ T細胞応答の誘導と記憶形成に果たす役割の詳細な解明や、Listeriolysin O (LLO) の細胞傷害性変異体と免疫原性の関係をより深く理解することも、ワクチン設計の最適化に資する今後の研究方向性である。本研究の知見は、Listeria感染初期の24~48時間で免疫プログラムが決定されるというMercado et al. (2000) やBadovinac et al. (2002) の説を支持しており、弱毒化による増殖抑制が、より高い投与量によって補償され、抗原提示量が増加することで強力なT細胞応答が誘導されるという合理的説明が提示された。

方法

本研究では、Listeria monocytogenes野生型株10403Sを親株として、splicing-by-overlapping extension PCRとallelic exchange法を用いて、ΔactA、ΔinlBなどの各種単一および二重欠失株を作製した (Camilli et al., 1993)。組換え抗原(OVA、AH1-A5)は、LLO (Listeriolysin O)-fusion発現カセットとしてpPL2 integration vector (Lauer et al., 2002) を用いてListeriaゲノムのtRNAアルギニン遺伝子隣接部位に単一コピーで挿入された。抗原の発現はhlyプロモーターによって駆動され、LLOのN末端領域との融合タンパク質として分泌された。AH1-A5エピトープは、OVA内にAva IIサイトを用いてインフレームで挿入された。

in vivo毒性評価のため、各Listeria株のLD50 (50%致死量) を測定した。in vitro感染実験では、HepG2細胞(ヒト肝細胞癌細胞株)および初代ヒト肝細胞(非貪食細胞)と、THP-1細胞(ヒト単球細胞株)および初代ヒト単球(貪食細胞)への感染率を、野生型Listeriaに対する比率で正規化して比較した。HepG2細胞および初代ヒト肝細胞にはMOI 10で、THP-1細胞および初代ヒト単球にはMOI 1および100で感染させた。ゲンタマイシン処理後、細胞を溶解し、脳心臓浸出液寒天培地に希釈してコロニー形成単位(CFU)を計数した。

in vivo増殖動態は、C57BL/6マウスに各Listeria株を0.1 LD50の用量で静脈内(i.v.)投与し、経時的に肝臓および脾臓のCFUを定量することで評価した。肝毒性マーカーとして、血清中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルをワクチン接種後の指定された時点で測定した。

抗原特異的T細胞応答の評価には、OVA-SL8、gp70 AH1またはAH1-A5、およびLLO特異的CD8+ T細胞の頻度を細胞内サイトカイン染色法(IFNγおよびTNFα)で定量した (Prussin & Metcalfe, 1995; Geginat et al., 2001)。OVA特異的CD8+ T細胞の検出にはH-2Kb拘束性エピトープSL8 (SIINFEKL) を、gp70特異的免疫の評価にはH-2Ld拘束性エピトープAH1 (SPSYVYHQF) および改変ペプチドリガンドAH1-A5 (SPSYAYHQF) を使用した (Slansky et al., 2000)。細胞表面マーカーは抗CD8α-ペリジニンクロロフィルプロテインで染色し、固定・透過処理後に抗IFNγ-アロフィコシアニンおよび抗TNFα-フィコエリトリンで細胞内サイトカイン染色を行った。フローサイトメトリーでデータを取得し、CELLQUESTソフトウェアで解析した。

in vivo細胞傷害性アッセイは、CFSE (carboxyfluorescein diacetate-succinimidyl ester) 標識ターゲット細胞を用いて実施した (Mueller et al., 2002)。AH1またはAH1-A5ペプチドをパルスしたCFSEhi標識細胞と、β-ガラクトシダーゼコントロールペプチドをパルスしたCFSElow標識細胞を1:1の比率でi.v.投与し、7日前にワクチン接種したBALB/cマウスにおける標的細胞の消失をフローサイトメトリーで評価した。

CT26腫瘍モデルでは、BALB/cマウスにday 0に2 × 10^5個のCT26細胞をi.v.投与し、day 4に各Listeria株またはHBSS(対照)をi.v.接種した。day 19に肺を採取し、ブアン液で固定後、肺表面転移数を計数した。生存期間は、ストレスや呼吸困難の兆候が見られた時点でマウスを安楽死させ、カプラン・マイヤー法で評価した。統計解析には一元配置分散分析(ANOVA)および両側Studentのt検定を用いた。すべての動物実験は、NIHガイドラインに従い、Cerus動物管理使用委員会によって承認されたプロトコルに基づいて実施された。