• 著者: De Gracia J., Bravo C., Miravitlles M., Tallada N., Orriols R., Bellmunt J., Vendrell M., Morell F.
  • Corresponding author: Javier de Gracia (Hospital General Universitari Vall d’Hebron, Barcelona, Spain)
  • 雑誌: American Review of Respiratory Disease
  • 発行年: 1993
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 8442600

背景

末梢性肺癌は、気管支鏡直視下では腫瘍を直接視認することができないため、中枢型肺癌と比較して気管支鏡を用いた診断が極めて困難である。気管支鏡で可視化できる病変に対しては、気管支内生検 (endobronchial biopsy) が極めて高い診断価値を有することが Zavala (1975) によって示されている。一方、気管支鏡非可視の末梢性原発性肺癌に対しては、透視ガイド下の経気管支生検 (transbronchial biopsy) やブラッシングが高い診断率を示すことが Cortese and McDougall (1979) や Richardson et al. (1974) によって報告されている。しかしながら、透視装置(蛍光透視ガイド)が日常的に利用可能でない医療施設は世界的に多く存在し、そのような環境における最適な診断アプローチは未確立であり、議論が分かれる controversial な領域であった。

透視ガイドが使用できない状況下では、気管支肺胞洗浄 (BAL: bronchoalveolar lavage)、気管支洗浄 (BW: bronchial washing)、気管支鏡後喀痰 (PBS: post-bronchoscopy sputum) などの非侵襲的な細胞診手技の最適な組み合わせが重要な課題となる。BALは血液悪性腫瘍やびまん性肺病変においては高い診断率を示すことが知られているが、末梢性肺癌(結節型や浸潤影型)における診断的価値については、過去の報告で蛍光透視ガイドの有無、細胞診の処理方法、病変の可視性、組織型、および胸部X線パターンの差異が統一されておらず、確固たる結論が得られていなかった。このように、透視ガイド非存在下における末梢性肺癌に対する各細胞診手技の正確な診断能や、それらを組み合わせた際の累積診断率の向上効果に関する詳細なデータは不足しており、臨床現場における最適な診断プロトコールの確立に向けた knowledge gap が残されていた。すなわち、どのような手技の組み合わせが最も効率的であるかは not yet established の状態であった。

目的

本研究の目的は、透視ガイド(蛍光透視装置)が利用できない臨床環境において、気管支鏡で直接視認できない末梢性肺癌(結節型および浸潤影型)が疑われる患者を対象に、気管支肺胞洗浄 (BAL)、気管支洗浄 (BW)、および気管支鏡後喀痰 (PBS) のそれぞれの単独における診断感度を前向きに評価することである。さらに、これら3つの細胞診手技を組み合わせることによる累積診断率の向上効果を定量的に明らかにし、透視ガイドを欠く施設でも実施可能な、低侵襲で効率的な診断戦略を提示することを目的とする。あわせて、胸部X線上の病変形態(結節型 vs. 浸潤影型)および組織型(腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、細気管支肺胞上皮癌)の違いが、各手技および組み合わせの診断感度に与える影響を詳細に解析し、末梢性肺病変の鑑別診断におけるBALの臨床的有用性を総合的に検証する。

結果

対象患者の背景と最終診断の構成: 気管支鏡検査を施行した67例のうち、55例 (82%) が最終的に悪性腫瘍(原発性肺癌)と診断され、12例が良性疾患と診断された。悪性55例の組織型内訳は、腺癌23例、扁平上皮癌22例、小細胞癌6例、細気管支肺胞上皮癌 (BAC: bronchioloalveolar cell carcinoma) 4例であった (Table 1)。悪性55例の年齢は35〜85歳(平均58歳)で、男性19例、女性6例であった。胸部X線上の病変形態は、結節型が n=35、浸潤影型が n=20 であった (Table 2)。良性12例の内訳は、肺結核5例、肉芽腫1例、線維腫1例、肺炎4例、変化なし1例であった (Table 1)。

3手技併用による累積診断感度の有意な向上: 本研究における主要評価項目である診断感度の比較において、BW、BAL、PBSの3手技を併用した全体の累積診断感度は 56% (95% CI 43-69%) であり、各単独手技の感度である BAL単独の 33% (95% CI 21-47%) や BW単独の 33% (95% CI 21-47%)、PBS単独の 30% (95% CI 17-46%) と比較して、56% (95% CI 43-69%) vs 33% (95% CI 21-47%, p<0.02) と有意に向上した (Table 2)。悪性55例中31例 (56.3%) が気管支鏡時の細胞診で診断され、残り24例は追加検索(経皮針生検13例、外科的処置11例)で確定した。3手技間に単独感度の有意差は認められず、補完的な組み合わせが必須であることが確認された。

各手技の単独診断能とBALの独立した診断価値: 各手技が「唯一の陽性検体」となった割合を評価したところ、BALが唯一の陽性となった割合は 11% (6/55例) であり、BWの 5.4% (3/55例) や PBSの 7% (3/43例) と比較して最も高かった (Table 2)。PBSは67例中43例でのみ採取可能であり(3例は喀痰得られず、9例は唾液のみで評価不能)、全43例での解析ではBAL・BWより若干低い感度となった。BALは、他の手技で陰性であった症例において独立した診断価値を示すことが明らかになった (Table 3)。

病変形態(結節型 vs. 浸潤影型)別の診断感度の比較: 3手技併用における診断感度は、胸部X線上の病変形態によって大きく異なっていた。浸潤影型における診断感度は 75% (95% CI 53-90%) であったのに対し、結節型では 46% (95% CI 31-62%) であり、浸潤影型 vs 結節型における 75% (95% CI 53-90%) vs 46% (95% CI 31-62%, p=0.035) と、浸潤影型において有意に高かった (Table 2)。BAL単独での浸潤影型陽性率は 40% (8/20例) であり、結節型の 28.5% (10/35例) と比較して高い傾向が見られたが、統計的有意差には達しなかった。BW単独の陽性率も浸潤影型で 55% (11/20例) vs 結節型で 20% (7/35例) と、浸潤影型で高い傾向が観察された。

組織型別の細胞診陽性率と組織型一致率: 細気管支肺胞上皮癌では 4/4例 (100%) で陽性(うち浸潤影型3例)であり、BALが2例で唯一の陽性検体であった。扁平上皮癌は 15/22例 (68.2%) で陽性(結節型 8/13例=61.5% vs 浸潤影型 7/9例=77.8%)であり、BWおよびPBSが各3例で唯一の陽性検体となった。腺癌は 10/23例 (43.5%) で陽性(結節型 6/16例 vs 浸潤影型 4/7例)であり、BALが3例で唯一の陽性検体であった。小細胞癌は 2/6例 (33.3%) で最も低い診断率を示し、BALが1例で唯一の陽性検体であった。細胞型同定の一致率は 53/55例 (96.4%) で最終病理診断と一致し、偽陽性は 0% であった。

安全性および良性疾患(肺結核)における診断能: 良性疾患群12例のうち、肺結核5例中4例 (80.0%) でBALが陽性(うち2例はBALのみが唯一の陽性検体)であり、肺悪性腫瘍の鑑別診断のみならず肺結核の診断にも高い有用性を示した (Table 1)。気管支鏡とBALは全例で良好に忍容され、重篤な合併症は認められなかった。軽度の気管支鏡後発熱が7例(24〜48時間持続)に観察されたのみであった。1回の気管支鏡検査で全手技を完結させる効率的なプロトコールにより、患者への負担を最小限に抑えつつ高い診断能を達成した。

考察/結論

本研究は、透視ガイドが利用できない臨床環境下において、気管支鏡非可視の末梢性肺癌に対するBAL、BW、PBS of 3手技を組み合わせることで、56%という実用的な細胞学的診断率が達成できることを前向きに示した。

先行研究との違い: 本研究は、透視ガイド下での経気管支生検やブラッシングの有用性を報告した Cortese and McDougall (1979) などの先行研究と異なり、透視装置が日常的に利用できない施設を想定し、非侵襲的な細胞診手技のみを組み合わせた場合の診断能を前向きに評価した点で一線を画している。また、BAL単独の診断率を14〜69%と幅広く報告していた過去の不均一な報告(Rennard, 1990の総説など)と異なり、本研究では病変の可視性、細胞診処理法、組織型、および胸部X線パターンを厳格に統一して解析を行っており、より信頼性の高いデータを提供している。

新規性: 本研究で初めて、透視ガイド非存在下の末梢性肺癌において、BAL、BW、PBSの3手技を併用することで、単独手技(30〜33%)を有意に上回る 56% の診断感度が得られることが本研究で初めて実証された。特に、細気管支肺胞上皮癌においては 100% の診断感度を達成し、腫瘍の生物学的特性(気道内腔への連続的な腫瘍細胞の剥落)がBALの診断能に直接寄与していることを新規に明らかにした。

臨床応用: 本知見の臨床的意義は極めて大きい。透視ガイドを欠く医療施設(臨床現場)においても、侵襲を伴う「盲目的」な経気管支生検やブラッシング(代替手技の総診断率55%, Mak et al., 1990)と同等の診断率を、より安全かつ低侵襲な細胞診の組み合わせによって達成できることを示している。さらに、肺結核などの良性疾患の鑑別診断においてもBALが高い有用性(陽性率80%)を示したことは、結核高蔓延地域や日常臨床における鑑別診断の意思決定において重要な臨床的有用性を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、BAL細胞診における組織型同定の精度向上が挙げられる。本研究では大細胞未分化癌と腺癌の間で1例の不一致が報告されており、細胞異型と最終病理診断の乖離を最小限に抑えるための細胞病理学的基準の精緻化が必要である。また、現代の呼吸器内科領域においては、超音波気管支鏡ガイド下シース法 (EBUS-GS: endobronchial ultrasound with a guide sheath) や仮想気管支鏡ナビゲーション (VBN: virtual bronchoscopic navigation) などの高度なモダリティが普及しているが、これらの先進技術が利用できない地域や施設における本プロトコールの位置づけ、ならびに遺伝子変異解析や液体生検(リキッドバイオプシー)との統合的利用については、今後の課題として検証が待たれる。

方法

本研究は、1985年1月から1990年2月にかけて、スペインのバルセロナにある Hospital General Universitari Vall d’Hebron において前向きに実施された前向きコホート研究 (prospective cohort study) である。対象は、胸部X線上で末梢性肺病変(結節または浸潤影)を認め、原発性肺癌が疑われるものの、気管支鏡検査において気管支腔内に直接視認できる病変が存在しなかった連続症例67例である。本研究は臨床試験登録制度(NCT00000000 など)の開始前に実施されたため、公的レジストリへの登録IDは存在しない。また、本研究は探索的な前向き研究であり、事前に設定された sample size calculation は行われていないが、連続する67例を全例登録して解析対象とした。

主要評価項目 (primary endpoint) は、各細胞診手技(BAL、BW、PBS)単独およびそれらの組み合わせにおける診断感度(陽性率)とした。全例において、気管支鏡検査の前に酸耐性菌(結核菌)の同定および細胞診のための早朝喀痰検査を1〜3回施行し、陰性であるか、または適切な検体(喀痰)が得られなかったことを確認した。

気管支鏡検査は、経験豊富な4名の気管支鏡専門医によって実施された。検査15分前にアトロピン0.5 mgを皮下注射し、上気道を4%リドカイン溶液5 mLのネブライザー吸入で麻酔した。気管支鏡には Olympus BF B-3R (bronchofiberscope B-3R) または Olympus BF 1T10 を使用した。全例において、気管支洗浄 (BW)、気管支肺胞洗浄 (BAL)、および気管支肺胞洗浄後気管支吸引液 (PBBA: post-bronchoalveolar lavage bronchoaspirate) をこの順序で採取した。PBBAは、BAL施行後に気管支鏡の先端をウェッジ位置から引き抜いた後に、当該分節気管支から吸引された液体と定義した。BWとPBBAは同一の試験管に回収し、一括して「BW」の細胞診結果として処理した。

BALは、胸部X線上の異常陰影に対応する分節気管支に気管支鏡をウェッジさせ、室温の滅菌生理食塩水50 mLを3回(計150 mL)注入し、手動シリンジで緩やかに吸引回収した。回収率が30%以上(回収量45 mL以上)に達した検体のみを評価対象(representative)とした。気管支鏡検査後、3日間にわたり早朝喀痰(PBS)を採取した。

回収されたBAL液は2等分され、一方は細胞診に、他方は結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の同定に供された。細胞診用検体は1,500 rpmで10分間遠心分離し、沈渣をスライドガラスに塗抹して95%アルコールで固定後、Papanicolaou(パパニコロウ)染色を施した。BWおよびPBSも同様に処理した。気管支鏡検査で診断が得られなかった陰性例に対しては、経皮型胸腔穿刺針生検または開胸肺生検を施行して最終診断を確定した。統計解析には、Yatesの補正付きカイ二乗検定 (chi-square test with Yates’ correction) を用い、p < 0.05 をもって統計的有意差ありと判定した。