• 著者: Rovers
  • Corresponding author: N/A
  • 雑誌: LancetOncol
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-07-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 38977112

背景

大腸癌腹膜限局転移は、肝転移に次いで最も一般的な孤立性転移部位であり、伝統的に予後不良と治療選択肢の少なさが課題とされてきた (Lemmens et al. 2011)。近年では、選択された切除可能な大腸癌腹膜限局転移患者に対して、細胞減量手術 (CRS) と温熱腹腔内化学療法 (HIPEC) を組み合わせた根治的治療が行われている (Verwaal et al. 2003)。しかし、術前術後全身療法 (perioperative systemic therapy) の追加による有効性については、エビデンスが不足しており、議論の的となっている。

ASCO (American Society of Clinical Oncology) は切除可能な大腸癌腹膜限局転移に対する術前術後全身療法を推奨しているものの、その根拠は主に後方視的コホート研究に基づいている (Morris et al. 2023)。これらの研究は、患者集団の異質性、選択バイアスのリスク、および結果の矛盾が指摘されており、術前術後全身療法の真の価値は未解明であった (van den Heuvel et al. 2024)。そのため、各国や施設、ガイドラインによって術前術後全身療法の使用は大きく異なり、標準治療が確立されていない状況であった。

術前術後全身療法は、術前の腫瘍縮小効果、術後の残存腹腔内癌細胞の根絶、および術周術期の腹腔外微小転移の排除により、治療成績をさらに改善する可能性が考えられる。一方で、大腸癌腹膜限局転移における全身療法の有効性は低いとされており、術前進行のリスクや、CRS-HIPEC (cytoreductive surgery with hyperthermic intraperitoneal chemotherapy) との併用による治療負担の増加、術後合併症の増悪、再発時の全身療法選択肢の減少といった懸念も存在する (Franko et al. 2016)。このようなエビデンスの不足を解消するため、切除可能な大腸癌腹膜限局転移患者における術前術後全身療法と手術単独の安全性および有効性を比較する無作為化第III相試験であるCAIRO6試験が計画された。本試験のフェーズ2では、この設定における術前術後全身療法の実施可能性と安全性が示されている (Rovers et al. 2021)。本研究は、このフェーズ3試験の結果を報告するものである。

目的

本研究の主要目的は、切除可能な大腸癌腹膜限局転移患者において、術前術後全身療法と細胞減量手術 (CRS) および温熱腹腔内化学療法 (HIPEC) の併用が、手術単独と比較して全生存期間 (OS) を改善するかどうかを評価することである。

副次目的として、両群における無増悪生存期間 (PFS)、無病生存期間 (DFS)、マクロ的完全またはほぼ完全なCRS-HIPECの実施割合、外科的特徴(PCI、手術時間、出血量、吻合およびストーマ造設の割合)、術後入院期間、90日以内の主要術後合併症および再入院の割合を評価した。また、術前術後全身療法群においては、主要な全身療法関連毒性の割合、術前治療に対する客観的放射線学的奏効および病理学的奏効の割合も評価した。これらの評価を通じて、術前術後全身療法の全体的な有効性と安全性を詳細に検討することを目的とした。

結果

全生存期間 (OS) の比較: 中央値41ヶ月 (IQR 21–62) の追跡期間後、術前術後全身療法群の全生存期間中央値は44ヶ月 (95% CI 30–54) であった。一方、手術単独群では39ヶ月 (95% CI 31–46) であり、両群間に統計学的に有意な差は認められなかった (ハザード比 [HR] 0.85, 95% CI 0.62–1.15; p=0.28)。3年全生存率は術前術後全身療法群で54%、手術単独群で53%であり、5年全生存率はそれぞれ40%と26%であった (Figure 2A)。この結果は、無作為化された全患者集団 (HR 0.86, 95% CI 0.64–1.16)、治療開始患者集団 (HR 0.81, 95% CI 0.59–1.11)、およびプロトコル遵守患者集団 (HR 0.73, 95% CI 0.51–1.05) においても同様の傾向を示した (Figure 2B)。層別化因子で調整した事後感度分析でも、調整済みHRは0.82 (95% CI 0.61–1.11) であった。

無増悪生存期間 (PFS) および無病生存期間 (DFS) の改善: 術前術後全身療法群では、無増悪生存期間中央値が13.5ヶ月 (95% CI 10.9–15.3) であり、手術単独群の7ヶ月 (95% CI 6.5–7.6) と比較して有意に延長した (HR 0.51, 95% CI 0.41–0.65; Figure 2C)。3年無増悪生存率は術前術後全身療法群で20%、手術単独群で4%であった。同様に、無病生存期間中央値も術前術後全身療法群で11.6ヶ月 (95% CI 9.8–14.8) であり、手術単独群の6.8ヶ月 (95% CI 6.3–8.5) と比較して有意に延長した (HR 0.58, 95% CI 0.44–0.75; Figure 2D)。3年無病生存率は術前術後全身療法群で23%、手術単独群で5%であった。

サブグループ解析における全生存期間の差異: 事前規定された探索的サブグループ解析では、原発腫瘍の側性によって治療効果の異質性が認められた (pinteraction=0.044)。右側結腸癌患者では、術前術後全身療法群の全生存期間中央値が43ヶ月 (95% CI 27–47) であったのに対し、手術単独群では26ヶ月 (95% CI 21–33) であり、術前術後全身療法群で有意な改善が認められた (HR 0.62, 95% CI 0.42–0.93; Figure 3)。しかし、左側結腸癌患者では両群間に有意差はなかった (HR 1.11, 95% CI 0.69–1.78)。さらに、事後サブグループ解析では、右側結腸癌かつ同時性腹膜転移患者において、術前術後全身療法群の全生存期間中央値が45ヶ月 (95% CI 26–未到達) であり、手術単独群の22ヶ月 (95% CI 13–29) と比較して有意に延長した (HR 0.44, 95% CI 0.27–0.75; Figure 3)。

術前治療に対する奏効と全生存期間: 術前術後全身療法群において、術前治療に対する客観的病理学的奏効を認めた患者 (Peritoneal Regression Grading Score [PRGS] 1–2) は、奏効を認めなかった患者と比較して全生存期間が有意に長かった (中央値65ヶ月 vs 35ヶ月; HR 0.53, 95% CI 0.30–0.92)。同様に、客観的放射線学的奏効を認めた患者 (放射線学的PCIの減少およびRECISTの部分奏効または完全奏効) も、奏効を認めなかった患者と比較して全生存期間が長かった (中央値65ヶ月 vs 35ヶ月; HR 0.54, 95% CI 0.30–0.97)。

安全性プロファイル: マクロ的完全またはほぼ完全なCRS-HIPECを受けた患者における90日以内の主要術後合併症の発生率は、術前術後全身療法群で36% (n=49/138例)、手術単独群で26% (n=40/154例) であった (Table 3)。最も一般的なグレード3-4の術後有害事象は、腹腔内膿瘍 (術前術後全身療法群12% vs 手術単独群10%)、吻合部漏出 (9% vs 4%)、および筋膜離開 (9% vs 4%) であった。90日術後死亡率は、術前術後全身療法群で1% (n=2/138例)、手術単独群で1% (n=1/154例) であった。術前術後全身療法を開始した患者161例中、92例 (57%) で主要な全身療法関連毒性 (CTCAEグレード3-5) が発生した (Table 4)。最も一般的なグレード3-4の全身療法関連有害事象は、高血圧 (8%)、下痢 (7%)、好中球減少症 (7%)、血栓塞栓症 (6%) であった。全身療法関連死は1例 (高血糖による) 発生した。

考察/結論

本無作為化第III相試験CAIRO6の結果は、切除可能な大腸癌腹膜限局転移患者において、術前術後全身療法が手術単独と比較して全生存期間を統計学的に有意に改善しないことを示した。これは、術前術後全身療法が全患者に一律に推奨されるべきではないという結論を支持するものである。

先行研究との違い: これまでの後方視的コホート研究では、術前術後全身療法の価値について矛盾する結果が報告されており、その有効性は未確立であった。本研究は、切除可能な大腸癌腹膜限局転移患者を対象とした術前術後全身療法と手術単独を比較する初の無作為化第III相試験であり、これまでのエビデンスとは異なり、全身療法が全生存期間の有意な改善には繋がらないことを明確に示した。ただし、無増悪生存期間と無病生存期間は術前術後全身療法群で延長しており、これは切除可能な大腸癌肝転移を対象とした先行研究 (Nordlinger et al. 2013) と同様の傾向である。

新規性: 本研究で初めて、右側結腸癌かつ同時性腹膜転移のサブグループにおいて、術前術後全身療法が全生存期間を改善する可能性が示唆された (HR 0.44, 95% CI 0.27–0.75)。この知見は、これまで報告されていない新規の発見であり、この特定の患者集団における術前術後全身療法の潜在的な利益を示唆する。また、術前治療に対する病理学的奏効および放射線学的奏効が、術前術後全身療法群における全生存期間の延長と関連することも示された。

臨床応用: 本研究の結果は、切除可能な大腸癌腹膜限局転移患者に対する臨床現場での治療戦略に重要な含意を持つ。全患者に対して術前術後全身療法を一律に推奨すべきではないが、右側結腸癌かつ同時性腹膜転移の患者には、その生存利益を考慮して術前術後全身療法を検討する価値がある。左側結腸癌や異時性腹膜転移の患者には、手術単独が引き続き有効な治療選択肢であると考えられる。

残された課題: 本研究の限界として、追跡期間がまだ不十分である可能性が挙げられる。術前術後全身療法群の全生存曲線は、約3年後から手術単独群と乖離する傾向が見られ、5年時点では14%高い推定全生存率を示している。これは、術前術後全身療法の潜在的な晩期効果を検出するには、さらなる長期追跡が必要であることを示唆している。また、プロトコル遵守率が完全ではなかったこと (術前術後全身療法群の20%がCRS-HIPECを受けず、51%が術後補助療法を開始しなかった) も、結果に影響を与えた可能性がある。今後は、右側結腸癌かつ同時性腹膜転移患者における術前術後全身療法の利益を説明する基礎的な生物学的メカニズムの解明や、BRAF変異陽性患者に対する新たな変異駆動型レジメンの術前術後設定での評価が残された課題である。

方法

本研究は、オランダの9つの三次医療センターとベルギーの1つの三次医療センターで実施された、無作為化非盲検第III相試験であるCAIRO6試験の一部である。対象患者は、18歳以上、WHOパフォーマンスステータス0または1、病理学的に切除可能な大腸腺癌の腹膜限局転移を有し、過去6ヶ月間に全身療法を受けていない患者であった。本試験はClinicaltrials.gov (NCT02758951) に登録されている。

患者は、術前術後全身療法とCRS-HIPEC (cytoreductive surgery with hyperthermic intraperitoneal chemotherapy) を併用する群 (術前術後全身療法群) または手術単独群 (手術単独群) に1:1で無作為に割り付けられた。無作為化は、過去の全身療法歴、腹膜転移の発生時期 (同時性または異時性)、腹膜癌指数 (PCI) (0-10または11-20)、および予定されるHIPECレジメン (マイトマイシンCベースまたはオキサリプラチンベース) で層別化された最小化法を用いて行われた。

術前術後全身療法は、研究者の判断により、CAPOX (カペシタビンとオキサリプラチン)、FOLFOX (フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン)、またはFOLFIRI (フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカン) のいずれかのレジメンが選択された。これらのレジメンには、ネオアジュバント療法としてベバシズマブが追加された。ネオアジュバント治療期間中に毒性が生じた場合、レジメンの変更や減量が可能であった。CRS-HIPECは、オランダのプロトコルに従って実施され、PCIが20以下で、マクロ的完全またはほぼ完全な細胞減量が可能と判断された場合にのみ行われた。HIPECは、オープンコリゼウム法を用いて、マイトマイシンC (35 mg/m²を90分間) またはオキサリプラチン (460 mg/m²を30分間) が投与された。

主要評価項目は、無作為化された患者から、治療開始前に同意を撤回した患者または主要な適格基準に違反した患者を除外した修正intention-to-treat集団における全生存期間であった。副次評価項目には、無増悪生存期間、無病生存期間、90日以内の主要術後合併症、および全身療法関連毒性が含まれた。主要術後合併症はClavien-Dindo分類グレード3-5と定義され、全身療法関連毒性はCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) グレード3-5と定義された。放射線学的奏効は放射線学的PCIおよびRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumours) を用いて評価され、病理学的奏効はPRGS (Peritoneal Regression Grading Score) およびMandard腫瘍退縮グレードを用いて評価された。

統計解析には、Kaplan-Meier (カプラン・マイヤー) 法による生存期間の推定、ログランク検定による群間比較、およびCox比例ハザードモデルによるハザード比 (HR) の推定が用いられた。サブグループ解析は、原発腫瘍の側性、腹膜転移の発生時期、およびKRAS/BRAF変異ステータスに基づいて実施された。