- 著者: S Kudoh, M Fukuoka, S Negoro, H Tanaka, Y Kusunoki, K Matsui, N Masuda, N Takifuji, K Itoh, M Nishioka, M Takada
- Corresponding author: M Fukuoka (Department of Internal Medicine, Osaka Prefectural Habikino Hospital, Japan)
- 雑誌: American Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 1992
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 1372463
背景
小細胞肺がん (SCLC; small-cell lung cancer) は、化学療法および放射線療法に対して極めて高い感受性を示す悪性腫瘍であり、初期治療により高い奏効率と生存期間の延長が期待される。しかし、従来の間欠的多剤併用化学療法では、進展型 (ED; extensive disease) SCLC患者における中央値生存期間は8〜11ヶ月に留まり、長期的な治癒率は依然として低いことが課題であった。この状況を改善するため、治療効果における用量強度 (dose intensity) の重要性が注目された。Hryniuk and Bush (1984) は乳がんにおいて、用量強度が奏効率と生存期間の重要な規定因子であることを示しており、SCLCにおいても同様の関係が推測された。
高用量強度化学療法を週1回投与するアプローチは、Klimo et al. (1985) が悪性リンパ腫において MACOP-B (methotrexate, doxorubicin, cyclophosphamide, vincristine, prednisone, and bleomycin) レジメンで確立し、その有効性が示された。このMACOP-Bレジメンは、腫瘍細胞への細胞傷害性薬剤の継続的な曝露、高い薬剤送達率、非交差耐性薬剤の早期導入、および骨髄抑制による毒性の最小化を目的として設計され、従来のレジメンと比較して短期間で同等以上の治療成績を達成可能であった。この成功を受けて、SCLCにおいても週1回投与による高用量強度化学療法の応用が試みられてきた。Murray (1987) とOsoba et al. (1990) が開発した CODE (cisplatin, vincristine, doxorubicin, etoposide) レジメンは、標準レジメンである CAV/PE (cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine alternating with cisplatin, etoposide) の約2倍の用量強度を目指して設計された。彼らの研究では奏効率94%、中央値生存期間14.3ヶ月の改善が示された。しかし、従来のCODE試験では、週1回投与に伴う重篤な骨髄毒性が治療の制限因子となり、計画された用量強度でのフルスケール実施が困難であった。Osoba et al. (1990) の報告では、計画された薬剤投与量を完全に達成できた患者は半数に過ぎなかったとされている。これは、高用量強度化学療法における毒性管理の難しさを示しており、用量強度の維持と安全性プロファイルの改善が今後の課題として残された。
近年、遺伝子組み換え顆粒球コロニー刺激因子 (rhG-CSF; recombinant human granulocyte colony-stimulating factor) の登場により、化学療法誘発性好中球減少症の期間短縮と重症度軽減が可能となり、より高い用量強度の化学療法を安全に実施できる可能性が示唆された。この進歩は、SCLCにおける用量強度増強アプローチの実現可能性を高めるものとして期待された。しかし、当時のSCLC治療における用量強度に関する知見はまだ不足しており、特に日本人患者における週1回投与CODEレジメンの安全性と有効性に関するデータは未解明な点が多かった。この知識ギャップを埋めることが重要な課題であった。
本試験は、大阪府立羽曳野病院において1988年から1989年にかけて開始された単施設パイロット試験であり、rhG-CSF支持下でのCODE週1回投与 (12サイクル) の実施可能性、有効性、および安全性を評価することを目的とした。特に、rhG-CSFが用量強度の維持と骨髄毒性の軽減に与える影響を探索し、SCLC患者に対する高用量強度化学療法の新たな戦略を確立するための基礎的データを提供することを目指した。
目的
本パイロット研究は、未治療の小細胞肺がん (SCLC) 患者を対象に、G-CSF支持下または非支持下でのCODE療法 (cisplatin, vincristine, doxorubicin, etoposide) を週1回、合計12サイクル投与するレジメンの実現可能性、有効性、および安全性を評価することを目的とした。具体的には、以下の4つの主要な目的を設定した。
- 奏効率と生存期間の評価: CODE療法がSCLC患者においてどの程度の客観的奏効率 (ORR; objective response rate) および完全奏効 (CR; complete response) 率を達成し、限局型 (LD; limited disease) および進展型 (ED) の各病期における中央値生存期間 (OS; overall survival) と奏効期間がどの程度であるかを評価する。特に、LD患者における長期生存の可能性を探索する。
- 実際用量強度の評価: 計画されたCODEレジメンに対して、実際にどの程度の用量強度 (actual dose intensity) が達成されたかを累積用量プロット法を用いて算出し、rhG-CSFの併用が用量強度維持に与える影響を検討する。これにより、週1回投与スケジュールの実現可能性を評価する。
- 毒性の評価: CODE療法に伴う血液毒性 (白血球減少、好中球減少、貧血、血小板減少) および非血液毒性 (悪心・嘔吐、脱毛、口内炎、肝機能障害、感染症、神経毒性、聴力毒性、体重減少、全身状態の悪化) の種類、頻度、および重症度をWHO基準に基づいて評価する。特に、重篤な副作用の発生率と管理可能性を詳細に分析する。
- rhG-CSFの骨髄毒性への影響評価: rhG-CSFの併用が、化学療法誘発性Grade 3-4好中球減少の持続期間、発熱性好中球減少症の発現率、および感染症の発生に与える影響を、rhG-CSF投与群と非投与群間で比較検討する。これにより、rhG-CSFが用量強化化学療法の安全性プロファイルを改善し、治療完遂に貢献するかを探索する。
本研究は、週1回投与による用量強化CODEレジメンがSCLC治療において有効な選択肢となり得るか、またrhG-CSFがその安全性プロファイルを改善し、用量強度維持に貢献するかを探索するものであった。本試験は、今後の大規模臨床試験の基盤となるデータを提供することを目指した。
結果
全体および病期別の客観的奏効率: 未治療小細胞肺がん患者17例における客観的奏効率 (ORR) は88.2% (15/17例) であり、そのうち完全奏効 (CR) は29.4% (5/17例)、部分奏効 (PR) は58.8% (10/17例) であった (Table 2)。病期別では、限局型 (LD) 患者7例においてCRが28.6% (2/7例)、PRが57.1% (4/7例) であり、ORRは85.7%であった。進展型 (ED) 患者10例においては、CRが30.0% (3/10例)、PRが60.0% (6/10例) であり、ORRは90.0%に達した。Regimen Aを投与された13例の奏効率は84.6% (11/13例) であったのに対し、Regimen Bを投与された4例では100% (4/4例) の奏効率を示した。
生存期間と奏効期間の臨床成績: 全患者における中央値観察期間は22.8ヶ月 (範囲15.4-26.1ヶ月) であった。LD患者における中央値生存期間 (OS) は20.5ヶ月を超えており (median OS >20.5 months)、観察終了時点で複数例が生存中であった。一方、ED患者における中央値OSは8.1ヶ月であった。奏効期間の中央値は、LD患者で14.3ヶ月超 (範囲3.7-26.1+ヶ月)、ED患者で5.6ヶ月 (範囲3.4-20.4+ヶ月) であった (Table 2)。全患者中11例が死亡し、6例が生存を継続していた。再発が確認された7例のうち、4例が原発部位での再発、3例が脳転移による再発であった。
実際用量強度とG-CSFの寄与: 全患者における平均実際用量強度は、プロトコル計画量の88%に達した (Fig. 1)。rhG-CSF投与群 (n=8) における平均実際用量強度は90%であり、非投与群 (n=9) の86%と比較して統計的な有意差は認められなかった (p > 0.1)。化学療法12サイクルを完了した患者における治療期間の中央値は13週 (範囲12-17週) であった。rhG-CSF投与群と非投与群の治療期間中央値はそれぞれ13週 (範囲12-16週) と14週 (範囲13-17週) であり、有意差はなかった (p > 0.1)。
rhG-CSFによる好中球減少期間の短縮: Grade 3-4の好中球減少 (ANC < 1,000/μl) の発現率は、rhG-CSF投与群で75% (6/8例)、非投与群で100% (9/9例) であり、両群間で有意差はなかった (Table 3)。しかし、Grade 3-4好中球減少の持続期間は、rhG-CSF投与群で中央値5日間 (範囲0-11日間) であったのに対し、非投与群では中央値19日間 (範囲11-25日間) と著明に短縮され、統計的に極めて有意な差が認められた (p < 0.001) (Table 4)。Grade 2以上の感染症は全体で29% (5/17例) に認められ、非投与群の1例で大腸菌による敗血症が発生したが、好中球減少に伴う感染死は認められなかった。
重篤な血液毒性および非血液毒性: 骨髄抑制が本レジメンにおける最大の毒性であった (Table 3)。Grade 3-4の白血球減少は15例 (88%)、Grade 3-4の貧血は16例 (94%) に認められ、15例が赤血球輸血を必要とした。Grade 3-4の血小板減少は10例 (59%) に認められ、予防的血小板輸血が行われた。非血液毒性では、悪心・嘔吐がほぼ全例に認められ、Grade 3が2例 (15%) であった (Table 5)。脱毛は16例 (94%) に発現した。治療期間中の平均体重減少は6.4 ± 5.9%であり、4例 (24%) で10%以上の体重減少が認められた。また、Performance Status (PS) の悪化は平均で2.2ポイントと顕著であり、5例でPSが1から3へ悪化した。疾患進行とは無関係の治療関連死が4例認められ、内訳は薬剤性肺炎疑い2例、精神症状後の急速悪化1例、急性心不全1例であった。
主要評価項目における用量強度と生存期間の相関: 本パイロット試験における主要な治療効果および生存データの統合的解析において、用量強度と生存期間の関連が詳細に検討された。本試験は単群パイロット試験であり直接的なハザード比 (HR; hazard ratio) の算出は限定的であるが、生存解析において、LD患者における生存期間中央値は20.5ヶ月超に達したのに対し、ED患者における生存期間中央値は8.1ヶ月に留まり、病期による生存期間の差が顕著であった。また、本試験の全生存期間 (OS) における治療関連死の影響として、疾患進行とは無関係の死亡が4例 (24%) 発生した。これらの重篤な毒性および治療関連死は、週1回投与によるCODE療法の累積毒性が原因と考えられ、生存期間を短縮させる要因となった。
考察/結論
先行研究との違い: 本パイロット試験において達成された計画量の88%という高い実際用量強度は、Osoba et al. (1990) による原著CODE試験の報告と対照的である。Osobaらの試験では、計画された薬剤投与量を完全に達成できた患者は半数に過ぎなかったが、本試験では入院管理下での積極的な支持療法を行うことで、より高い用量強度の維持が可能であることを示した。これは、週1回投与という高強度スケジュールの実施において、厳密な全身管理と支持療法が極めて重要であることを裏付けている。
新規性: 本研究は、週1回投与の用量強化CODEレジメンにおいて、rhG-CSFの併用がGrade 3-4好中球減少の持続期間を中央値19日間から5日間へと有意に短縮すること (p < 0.001) を本研究で初めて実証した。これは、G-CSF支持療法が、従来は毒性のために完遂が困難であった高用量強度化学療法の安全な実施を可能にする強力な手段であることを新規に示した重要な知見である。
臨床応用: 限局型 (LD) SCLC患者において、中央値生存期間 (OS) が20.5ヶ月を超えるという優れた成績が得られたことは、極めて高い臨床的有用性を示唆している。当時の標準的治療法であったCAV/PE交互療法による中央値OS (12-14ヶ月) と比較して顕著に良好であり、化学療法後の放射線療法や外科的切除を組み合わせた集学的治療アプローチの臨床的意義を強調するものである。一方で、進展型 (ED) SCLC患者における中央値OSは8.1ヶ月に留まり、用量強度の増強がED患者にもたらす生存利益は限定的であると考えられた。
残された課題: 本試験における最大のlimitationは、17例という極めて小規模な単施設パイロット研究であり、無作為化比較試験ではない点である。また、治療期間中の顕著な体重減少 (平均6.4%) やPSの著しい悪化 (平均2.2ポイント低下)、そして4例の治療関連死が発生したことは、本レジメンの毒性管理における重大な残された課題である。これらの重篤な副作用は治療サイクル数と密接に関連しているため、著者らは治療サイクル数を従来の12サイクルから9サイクルに短縮することを推奨している。rhG-CSFが感染症予防や用量強度の直接的な維持に寄与するかどうかを検証するため、今後はED-SCLC患者を対象とした、rhG-CSF併用の有無をランダム化する大規模な第II相試験などの今後の検討が必要である。
方法
本研究は、1988年5月から1989年4月にかけて大阪府立羽曳野病院で実施された単施設、前向き、非ランダム化のオープンラベル・パイロット試験 (non-randomized open-label pilot study) である。未治療の小細胞肺がん (SCLC) 患者17例 (限局型 [LD] 7例、進展型 [ED] 10例) が組み入れられた。本研究はパイロット試験であり、特定の臨床試験登録番号 (NCT番号など) は付与されていない。
患者選択基準: 組織学的または細胞診でSCLCと確定診断された未治療患者、ECOG Performance Status (PS) 0-2、年齢75歳未満、測定可能または評価可能な病変を有すること、十分な骨髄機能 (白血球数 ≥ 4,000/μl、血小板数 ≥ 100,000/μl、ヘモグロビン濃度 ≥ 10 g/dl)、肝機能 (血清トランスアミナーゼ < 正常上限の2倍、総ビリルビン < 2.0 mg/dl)、および腎機能 (血中尿素窒素 < 25 mg/dl、血清クレアチニン < 1.5 mg/dl) を有することが求められた。重篤な心疾患 (うっ血性心不全、不整脈、最近の心筋梗塞) や他の悪性疾患の合併患者は除外された。全ての患者からインフォームドコンセントを取得した。
病期分類: 病期分類は、病歴聴取、身体診察、標準的な腎機能・肝機能検査、血液検査、胸部X線、気管支鏡検査、胸部・脳・腹部CTスキャン、骨シンチグラフィ、および骨髄生検を含む包括的な評価に基づいて行われた。LDは、病変が一側半胸部および両側縦隔・鎖骨上リンパ節に限局しているものと定義され、これを超える病変または悪性胸水を有する患者はEDと分類された。
化学療法レジメン: CODEレジメンは週1回投与で合計12サイクル実施された。2種類のバリアントが用いられた (Table 1)。
- Regimen A (13例): シスプラチン 25 mg/m² (週1回)、ビンクリスチン 1.0 mg/m² (週1回、シスプラチンと交互投与)、ドキソルビシン 30 mg/m² (週1回)、エトポシド 100 mg/m² (週1回)。
- Regimen B (4例): ドキソルビシン 40 mg/m²、エトポシド 80 mg/m² を2週間隔で3日間連続投与。このレジメンは、原著CODEレジメンの用量強度に近似するように設計された。 化学療法は入院下で実施され、適切な支持療法が提供された。白血球数が1,000/μl未満または血小板数が30,000/μl未満の場合、次回の治療は1週間延期された。用量減量は行われなかった。6サイクル後に病勢安定または進行が認められた患者は試験から離脱し、シスプラチンとエトポシドによる治療が実施された。12サイクル後に完全奏効 (CR) を達成した患者には、予防的全脳照射 (PCI; prophylactic cranial irradiation) として30 Gy/15分割が実施された。
G-CSF支持療法: 8例の患者には、遺伝子組み換え顆粒球コロニー刺激因子 (rhG-CSF; KRN8601、協和発酵キリン) が50 μg/m²/日の用量で皮下注射により投与された。G-CSFは化学療法当日を除き連日投与された。
評価項目:
- 奏効評価: 治療12サイクル後に、初回病期分類時に用いた全ての検査を繰り返して再評価された。CRは、全ての臨床的・放射線学的病変の4週間以上の消失と定義され、気管支鏡検査による細胞学的または組織学的CRの確認が必要であった。部分奏効 (PR) は、測定可能病変の最大径の積が50%以上縮小し、4週間以上持続することと定義された。
- 生存期間: 奏効期間は初回治療日から病勢進行または最終フォローアップ日まで、生存期間は初回治療日から死亡または最終フォローアップ日までと定義された。
- 毒性評価: 毒性は、World Health Organization (WHO) の標準基準に基づき、種類と重症度 (最大グレード) で評価された。
- 用量強度評価: 累積用量プロット法を用いて、計画用量に対する実際の薬剤送達率 (actual dose intensity) を算出し、rhG-CSF投与群と非投与群間で比較された。
統計解析: rhG-CSF投与群と非投与群間の好中球減少期間の比較には、Mann-Whitney U検定が用いられた。その他の比較にはFisher’s exact testが用いられた。生存曲線および生存期間の解析にはKaplan-Meier法が用いられた。統計的有意水準はp < 0.05と設定された。