• 著者: Satoshi Yamaguchi, Yasuto Yoneyama, Hiroshi Katayama, Takahiro Yamamoto, Masataka Hirose, Masatoshi Hida, Akira Watanabe, Ou Yamaguchi, Hiroshi Kagamu, Atsuto Mouri, Ayako Shiono, Harue Utsugi, Sachiko Miyauchi, Fuyumi Nishihara, Yuri Maeno, Yoshitake Murayama, Kunihiko Kobayashi
  • Corresponding author: Kunihiko Kobayashi (Saitama Medical University International Medical Center, Japan)
  • 雑誌: Annals of Cancer Research and Therapy
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • DOI: 10.4993/acrt.26.1

背景

小細胞肺がん (SCLC) は全肺がんの13-20%を占める高悪性度神経内分泌腫瘍であり、非小細胞肺がん (NSCLC) と比較して化学療法および放射線療法への感受性が顕著に高い (Chua et al. 2004)。限局型 (LD) SCLC患者での奏効率は85-95%、進展型 (ED) でも65-85%に達するが、これらの数値はECOG PS 0-2の良好な全身状態の患者を対象としたものである (Ihde 1992)。

Performance status (PS) はがん患者の予後を規定する重要な因子であり (Hauser et al. 2006)、ECOG PS 4 (完全に起居不能で自己管理が全くできない状態) は最重症を意味する (Oken et al. 1982)。PS 4患者への化学療法は毒性リスクが極めて高く、通常は禁忌に近い扱いをされてきた。NCCN ガイドラインでは PS 3-4の進展型SCLC患者に対し、「PSの低下がSCLC自体に起因する場合は化学療法または支持療法を選択する」としているが (NCCN guidelines)、その選択基準は明確ではない点が課題であった。PS 4患者を対象とした先行報告はきわめて少なく、Sakuragi et al. (1996) らの5例報告 (中央値OS 1.7ヶ月) や Baldotto et al. (2012) らの10例報告 (中央値OS 7日) など小規模で限定的なものしか存在せず、化学療法の有効性や安全性のデータが不足していた。特に、PS 4患者における化学療法の生存利益を明確に示した報告はこれまでになく、治療適応の判断基準が未確立であった。

SCLCはEGFR変異NSCLCがEGFR-TKIに対して示す高感受性と同様、初回化学療法への感受性が非常に高いという特性を持つ (Inoue et al. 2009)。この特性から、PS 4であっても化学療法による腫瘍縮小がPS改善をもたらし、最終的に延命効果をもたらし得るという臨床的仮説が存在した。埼玉医科大学国際医療センターでは、インフォームドコンセントを取得したPS 4のSCLC患者に対し、初回サイクルを標準量の60-80%に減量した化学療法を実施し、PS回復に合わせて投与量を段階的に増量するという独自のアプローチを蓄積してきた。本研究は、このアプローチの有効性と安全性を検証し、PS 4 SCLC患者に対する化学療法の臨床的意義を明らかにすることを目的とする。これまでの報告ではPS 4患者における化学療法の臨床的利益を明確に示したデータが不足しており、治療適応の判断基準が未解明であった。

目的

本研究の目的は、単施設後ろ向き研究として、極めて不良な全身状態であるECOG PS 4の小細胞肺がん (SCLC) 患者を同定し、減量化学療法の有効性 (奏効率、無増悪生存期間 [PFS]、全生存期間 [OS])、安全性 (有害事象)、および治療後のPS変化とその生存予測への関連を系統的に検討することである。特に、化学療法の恩恵を受けられる患者サブセットを同定し、実臨床で化学療法または支持療法を選択するための判断基準を確立することを目的とする。これにより、これまで治療が困難とされてきたPS 4 SCLC患者に対する治療戦略の確立に貢献することを目指す。本研究は、PS 4患者における化学療法の役割と、治療後のPS変化が予後予測因子となり得るかという臨床的な問いに答えることを意図している。

結果

患者背景と化学療法施行状況: 2007年4月から2015年10月の期間に314例のSCLC患者が入院し、そのうちPS 4は25例 (8.0%) であった。PS 4例中4例は化学療法なし (同意取得困難3例、間質性肺炎急性増悪1例) とし、21例が減量化学療法を受けた。化学療法を受けた21例の患者背景は男性15例 (71.4%)・女性6例 (28.6%)、中央値年齢74歳 (範囲50-90歳) であった (Table 1)。喫煙量中央値は50 pack-yearsであった。全21例が進展型 (ED) であり、脳転移は7例 (33.3%) に認められた。間質性肺疾患は1例 (4.8%)、気腫性変化は14例 (66.7%) に認められた。PS 4の原因は呼吸不全6例 (28.6%)、意識障害6例 (28.6%)、麻痺5例 (23.8%)、疼痛3例 (14.3%)、全身倦怠感1例 (4.8%) であり、95%が腫瘍学的緊急症に分類された。化学療法レジメンはカルボプラチン+エトポシド (中央値AUC 4.0 [範囲2.5-5.0]、エトポシド中央値80 mg/m² [範囲60-100 mg/m²]) が19例 (90.5%)、split-doシスプラチン+エトポシドが1例、カルボプラチン+パクリタキセルが1例であった (Table 2)。施行サイクル数の中央値は3サイクル (範囲1-6サイクル) であった。

奏効率 (主要有効性所見): 20例が奏効評価可能であり、客観的奏効 (ORR) は66.7% (95% CI 46.5-86.8%;部分奏効14例、完全奏効は記録なし)、安定病変4例 (19.0%)、進行2例 (9.5%)、評価不能1例 (4.8%) であった (Table 2)。疾患コントロール率 (DCR) は85.7%であった。このORR 66.7%は、PS 0-2の通常患者におけるED-SCLCの化学療法奏効率 (65-85%) に匹敵し、PS 4という極めて不良な全身状態においてもSCLCの化学療法感受性が維持されていることを示した。また、21例中10例 (47.6%) がPS改善による退院を達成した。

生存成績: 化学療法を施行した21例の中央値PFSは94日 (95% CI 81-107日)、中央値OSは195日 (95% CI 81-269日) であった (Figure 1)。一方、化学療法を施行しなかった4例の生存期間は10-32日と極めて短く、化学療法施行群との間に大きな差が示された。本研究での中央値OS 195日は、先行研究 (Sakuragi et al. 1996: MST 1.7ヶ月、Baldotto et al. 2012: MST 7日) を大幅に上回るとともに、1970年代の最善支持療法群 (MST 56-93日) の約2-3倍に相当し (Pelayo Alvarez et al. 2013)、PS 4患者においても化学療法の生存利益が得られることを示唆した。

PS改善と生存期間の関係 (最重要所見): 第1サイクル化学療法後のPS改善は9例 (42.9%;全員PR) で認められた。PS改善群 (n=9) の中央値OSは263日 (95% CI 160-528日) であった。一方、PS非改善群 (n=12、うち11例は奏効なし/PS≥3) の中央値OSは83.5日 (95% CI 38-310日) であった (Figure 2)。log-rank検定によりPS改善群の予後が有意に良好であることが確認された (p=0.029)。この結果は、第1サイクル後のPS改善が長期生存の有力な予測因子として機能することを示し、「第1サイクル完了後にPS改善がみられれば治療継続、改善がなければBSCへ移行する」という臨床意思決定アルゴリズムの根拠となる。神経学的合併症 (麻痺・意識障害) を有した11例のうちPS改善は6例 (55%) にとどまり、神経学的障害の可逆性がPS改善の規定因子の一つであることが示唆された。PS改善群と非改善群のOS中央値は263日 vs 83.5日であり、HR 0.40 (95% CI 0.17-0.95, p=0.029) であった。

有害事象: 全21例で何らかの有害事象が認められた (Table 3)。骨髄抑制が主要毒性であり、好中球減少は全グレードで19例 (90.5%)、Grade 3が5例 (23.8%)、Grade 4が10例 (47.6%) と高頻度であった。白血球減少も全グレードで20例 (95.2%)、Grade 3が12例 (57.1%)、Grade 4が2例 (9.5%) であった。血小板減少は全グレードで18例 (85.7%)、Grade 3が3例 (14.3%)、Grade 4が2例 (9.5%) であった。貧血は全グレードで20例 (95.2%)、Grade 3が7例 (33.3%) であった。発熱性好中球減少症 (FN) はGrade 4として2例 (9.5%) に発生した。非血液毒性として食欲不振はGrade 3が1例 (4.8%)、薬剤性肺炎がGrade 4として1例 (4.8%) であった。治療関連死 (初回化学療法から4週間以内の死亡) は肺炎による1例 (4.8%) であり、FNとは関連しなかった。重要な点として、初回サイクルで60-80%減量投与にもかかわらず71.4%でGrade 3-4好中球減少が発生したことは、PS 4が薬物動態・薬力学に影響する可能性を示唆し、減量投与の必要性を裏付けた。

考察/結論

本研究は、埼玉医科大学国際医療センターという単一施設において314例のSCLC患者から抽出したPS 4の25例 (8.0%) を対象に、減量化学療法の有効性・安全性・生存予測因子を後ろ向きに解析した希少データを提供するものである。主要所見として、(1) ORR 66.7%はPS 0-2の標準患者に匹敵する奏効率であり、PS 4であっても化学療法感受性が保持される、(2) 中央値OS 195日 (95% CI 81-269日) はBSC群 (10-32日) を大幅に上回り、化学療法の明確な生存利益が示唆される、(3) 第1サイクル後のPS改善 (42.9%) が長期生存の有意な予測因子 (PS改善群OS中央値263日 [95% CI 160-528日] 対 PS非改善群OS中央値83.5日 [95% CI 38-310日]、p=0.029) であることが確認された。

先行研究との違い: 本研究の臨床的意義の核心は、PS 4患者に対する化学療法の適応を、治療前の因子ではなく第1サイクル後のPS改善という動的な指標で判断するアルゴリズムの実証にある。これは、治療前の因子のみで治療適応を判断してきたこれまでのアプローチと異なり、治療効果を早期に評価し、治療継続の是非を判断する新たな視点を提供する。先行研究ではPS 4患者の生存期間が極めて短かったが (Sakuragi et al. 1996: MST 1.7ヶ月、Baldotto et al. 2012: MST 7日)、本研究では大幅な生存期間延長が認められた。これは、適切な患者選択と減量化学療法、そしてPS改善に基づく治療継続戦略が奏功した結果と推察される。

新規性: 本研究で初めて、PS 4のSCLC患者において、初回減量化学療法後のPS改善が長期生存の有意な予測因子となることを示した。95%のPS 4の原因が腫瘍学的緊急症 (上大静脈症候群、気道狭窄、胸水、脊椎/脳転移、低ナトリウム血症) であったことは、これらの腫瘍関連PS低下が化学療法に可逆的に応答しうることを意味し、EGFR変異NSCLCへのEGFR-TKI (Inoue et al. 2009、ORR 66%、PS改善79%) との類比から本アプローチの妥当性が支持される。この知見は、PS 4患者に対する治療戦略において、治療前の因子だけでなく、治療後の動的なPS変化を重視するという新規の臨床意思決定アルゴリズムを提案するものである。

臨床応用: 本知見は、これまで化学療法の適応外とされてきたPS 4のSCLC患者に対し、減量化学療法を試行し、PS改善の有無によって治療継続を判断するという、より積極的な治療戦略の臨床応用に直結する。特に、正常な腎・骨髄機能を有するPS 4患者であれば、腫瘍学的緊急症によるPS低下であっても化学療法によるPS回復の可能性を「試す」戦略が合理的である。これにより、多くのPS 4 SCLC患者が生存利益を得られる可能性が示された。

残された課題: 今後の検討課題として、PSが改善しない場合のBSCへの早期移行判断の最適タイミング、第2サイクル以降の増量戦略の標準化、神経学的合併症の可逆性を事前予測する因子の同定が挙げられる。また、免疫療法時代における超不良PS患者への免疫チェックポイント阻害薬の位置づけも今後の研究課題である。本研究は単施設後ろ向き研究 (n=25) という設計上の限界があり、選択バイアスが存在する可能性がある。倫理的観点から前向き無作為化試験の実施は困難であるため、本研究を踏まえた多施設共同前向き研究による本知見の検証が今後の方向性として必要である。

方法

本研究は、埼玉医科大学国際医療センターの倫理審査委員会承認 (承認番号15272) の下に実施された単施設後ろ向き研究である。2007年4月から2015年10月の期間に入院したSCLC患者の診療記録を後ろ向きに検索し、「PS 4」の記載または「不良PSによる最善支持療法」と記載されたインフォームドコンセント書を根拠としてPS 4症例を抽出した。本研究は、PS 4患者に対する減量化学療法の有効性と安全性を評価する目的で実施された。

評価項目として、年齢、性別、病期、喫煙歴、治療前検査値 (AST/ALT、クレアチニン [Cr]、アルブミン、LDH、ProGRP、CRP、血清ナトリウム [Na]、CEA、WBC、血小板) を収集した。腫瘍病期分類は胸腹部CT、脳MRIまたは造影脳CT、PET検査に基づいて実施された。PS 4の原因についても、画像検査、臨床検査、および診療記録から詳細に評価された。

化学療法では原則として第1サイクルの投与量をPS 0-2患者の標準量の60-80%に減量した。第2サイクル以降は、第1サイクルの骨髄抑制の程度およびPS回復度に応じて、投与量を約20%ずつ段階的に増量した。実際の治療レジメン、投与量、および初回化学療法サイクル数も収集された。奏効はRECIST v1.1で評価し、生存期間は初回化学療法開始日から死亡日までと定義した。治療関連早期死亡は、初回化学療法から4週間以内の死亡と定義した (Lassen et al. 1999)。有害事象はCTCAE v4.0で分類した。

PS改善の定義は、PS 4からPS 1または2への改善とし、PS非改善群 (PS 4のまままたはPS 3への変化) と比較した。全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) はKaplan-Meier法で算出した。サブグループ間のOS比較はlog-rank検定を実施し、p値 <0.05を有意水準とした。全ての統計解析は、独立した統計機関であるMedical Toukei (東京) によりSAS version 9.4を用いて実施された。本研究はretrospective cohort studyとしてデザインされ、主要評価項目はOSおよびPFS、副次評価項目は奏効率と有害事象であった。