- 著者: D.R. Spigel, D. Vicente, T.E. Ciuleanu, S. Gettinger, S. Peters, L. Horn, C. Audigier-Valette, N. Pardo Aranda, O. Juan-Vidal, Y. Cheng, H. Zhang, M. Shi, A. Luft, J. Wolf, S. Antonia, K. Nakagawa, J. Fairchild, C. Baudelet, D. Pandya, P. Doshi, H. Chang, M. Reck
- Corresponding author: D.R. Spigel (Sarah Cannon Research Institute/Tennessee Oncology, Nashville, USA)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-02-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 33539946
背景
小細胞肺がん (SCLC) は、初期治療に対する奏効性が高い一方で、ほぼ全ての患者で再発を経験し、再発後の予後は極めて不良である。二次治療における全生存期間 (OS) 中央値は一般的に5〜7ヶ月と報告されており、限られた治療選択肢しか存在しない。現在、二次治療の標準的な選択肢としては、プラチナ製剤感受性SCLCに対してはトポテカンが、日本ではアムルビシンが用いられているが、これらの薬剤による奏効は一時的であり、持続的な効果は期待できないのが現状である OBrien et al. JClinOncol 2006、vonPawel et al. JClinOncol 2014。これらの従来の化学療法では、持続的な奏効やOSの改善が困難であり、新たな治療戦略が求められていた。
免疫チェックポイント阻害薬、特にPD-1阻害薬であるニボルマブは、先行する第I/II相試験であるCheckMate 032において、既治療SCLC患者に対して有望な抗腫瘍活性を示した。具体的には、客観的奏効率 (ORR) が10〜24%であり、奏効持続期間 (DOR) 中央値が17.9ヶ月と長期にわたる奏効が報告された Antonia et al. LancetOncol 2016、Ready et al. JThoracOncol 2019、Ready et al. JThoracOncol 2020。これらのデータに基づき、ニボルマブは米国において3次治療以降のSCLCに対する承認を取得していた。しかし、これらの試験は主に3次治療以降の患者を対象としており、より早期の治療ライン、特に二次治療におけるニボルマブの有効性については、大規模な第III相試験での検証が不足していた。この領域における知識ギャップを埋めるための重要な試験であった。
SCLCの治療において、一次治療後の再発は避けられない課題であり、二次治療の選択肢の改善は喫緊の医療ニーズである。従来の化学療法では、持続的な奏効やOSの改善が困難であり、新たな治療戦略が求められていた。特に、免疫チェックポイント阻害薬が他の固形がん種でOS改善を示していることから、SCLCにおいても同様の効果が期待された。しかし、SCLCは腫瘍の生物学的特性が複雑であり、免疫療法の効果予測バイオマーカーも未解明な点が多かった。PD-L1発現や腫瘍変異負荷 (TMB) が他の癌種で免疫療法の効果予測因子として検討されてきたが、SCLCにおけるその役割は十分に確立されていなかった。
本研究は、CheckMate 032試験で示されたニボルマブの有望な結果を、より早期の治療ラインである二次治療において、標準化学療法と比較してOSの有意な改善を検証することを目的とした。これにより、再発SCLC患者の予後を改善するための新たな治療選択肢を確立できるかどうかが問われた。
目的
一次治療のプラチナ含有レジメン後に再発または進行した小細胞肺がん (SCLC) 患者を対象として、PD-1阻害薬であるニボルマブ単剤療法が、標準化学療法(トポテカンまたはアムルビシン)と比較して全生存期間 (OS) を有意に改善するかどうかを検証すること。
副次的に、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、奏効持続期間 (DOR)、および安全性を評価する。さらに、探索的解析として、PD-L1複合陽性スコア (CPS) や腫瘍変異負荷 (TMB) とニボルマブの有効性との関連性を検討し、SCLCにおける免疫療法の効果予測バイオマーカーの可能性を探ることも目的とした。本試験は、再発SCLCの二次治療におけるニボルマブの臨床的有用性を確立することを意図した。
結果
患者背景: 2015年8月28日から2017年4月24日の間に合計781名の患者が登録され、そのうち569名が無作為化された。ニボルマブ群にn=284名、化学療法群にn=285名が割り付けられた。両群間でベースライン特性は均衡がとれていた (Table 1)。最短追跡期間は15.8ヶ月であった。ニボルマブ群では89名の患者が病勢進行後も治療を継続した。
全生存期間 (主要評価項目:非達成): データベースロック時(2018年9月28日)において、ニボルマブ群の225名 (79.2%)、化学療法群の245名 (86.0%) が死亡していた。OS中央値はニボルマブ群で7.5ヶ月 (95% CI 5.6-9.2)、化学療法群で8.4ヶ月 (95% CI 7.0-10.0) であった。ハザード比 (HR) は0.86 (95% CI 0.72-1.04, P=0.11) であり、ニボルマブ群でOSの有意な改善は認められなかった (Figure 1A)。6ヶ月OS率はニボルマブ群で54.5%、化学療法群で59.9%であり、12ヶ月OS率はそれぞれ36.6%と34.1%であった。生存曲線は約11ヶ月の時点で交差しており、初期は化学療法群が優位であったが、長期ではニボルマブ群が逆転する傾向を示した。探索的な3ヶ月間隔での区分的OS解析では、HR (ニボルマブ vs 化学療法) は時間とともに減少し、最初の6ヶ月間は1より大きく (化学療法優位)、その後は1より小さくなる (ニボルマブ優位) 動的な変化が確認された (Supplementary Table S1)。
無増悪生存期間 (PFS): ニボルマブ群の258名 (90.8%)、化学療法群の235名 (82.5%) が病勢進行または死亡を経験した。PFS中央値はニボルマブ群で1.4ヶ月 (95% CI 1.4-1.5)、化学療法群で3.8ヶ月 (95% CI 3.0-4.2) であった。ハザード比 (HR) は1.41 (95% CI 1.18-1.69) であり、化学療法群がニボルマブ群と比較して有意に良好なPFSを示した (Figure 1B)。6ヶ月PFS率はニボルマブ群で19.7%、化学療法群で26.5%であり、12ヶ月PFS率はそれぞれ10.9%と10.0%であった。長期では両群のPFS曲線は収束する傾向が見られた。
客観的奏効率 (ORR) および奏効持続期間 (DOR): 治験責任医師評価によるORRは、ニボルマブ群で13.7% (95% CI 10.0-18.3%)、化学療法群で16.5% (95% CI 12.4-21.3%) であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった (オッズ比 0.80, 95% CI 0.50-1.27)。最良総合効果の内訳は、CRが各群1例 (0.4%)、PRがニボルマブ群38例 (13.4%) 対化学療法群46例 (16.1%)、SDがニボルマブ群58例 (20.4%) 対化学療法群116例 (40.7%)、PDがニボルマブ群150例 (52.8%) 対化学療法群67例 (23.5%) であった (Table 3)。奏効持続期間 (DOR) 中央値は、ニボルマブ群で8.3ヶ月 (95% CI 7.0-12.6, 範囲 0.0+~31.7+) と、化学療法群の4.5ヶ月 (95% CI 4.1-5.8, 範囲 1.6~23.9) と比較して有意に長かった (Figure 1C)。
探索的バイオマーカー解析 (PD-L1 CPS・TMB): PD-L1 CPS評価可能患者(ニボルマブ群n=171例、化学療法群n=150例)において、CPS ≥1%の患者割合はそれぞれ45.6%と45.3%であった。PD-L1 CPS ≥1%と<1%のサブグループ間でOSのHRに大きな差はなく(それぞれ0.96と0.91)、PD-L1発現がSCLCにおけるニボルマブの効果を予測するバイオマーカーとして機能しないことが示された (Figure 3A)。TMB評価可能患者(ニボルマブ群n=155例、化学療法群n=157例)での解析でも、TMBは全てのカットオフ値(10、11、13、14、15 mut/Mb)においてニボルマブと化学療法のOS差を予測しなかった(交互作用P>0.20)。TMB評価可能集団のOS中央値はニボルマブ群5.7ヶ月 (95% CI 4.9-8.3) vs 化学療法群7.9ヶ月 (95% CI 6.6-10.0) であり、TMB非評価可能集団のOS中央値(ニボルマブ群9.4ヶ月 vs 化学療法群9.2ヶ月)とは大きく異なっていた (Supplementary Figure S5)。この結果は、TMB評価可能集団がITT集団を代表していない可能性を示唆し、TMBを予測バイオマーカーとして評価することの限界を示した。
サブグループ解析におけるOS改善傾向: 探索的サブグループ解析では、ベースラインの乳酸脱水素酵素 (LDH) 値が正常上限以下 (≤ULN) の患者 (n=293) において、ニボルマブ群でOS改善の傾向が示唆された (HR 0.70, 95% CI 0.53-0.90)。また、ベースラインで肝転移がない患者 (n=363) でもOS改善の傾向が認められた (HR 0.77, 95% CI 0.61-0.97)。さらに、プラチナ製剤抵抗性患者 (n=246) においても、ニボルマブ群でOS改善の傾向が見られた (HR 0.71, 95% CI 0.54-0.94) (Figure 2)。多変量解析では、LDH ≤ULN (HR 0.76, 95% CI 0.59-0.98) および肝転移なし (HR 0.74, 95% CI 0.59-0.94) が、ニボルマブのOS改善と独立して関連する因子として残存した(交互作用P=0.0477)(Table 2)。
安全性プロファイル: 治療関連有害事象 (TRAE) の発生率は、ニボルマブ群で55.3%であったのに対し、化学療法群では90.2%と高かった。特にグレード3または4のTRAEの発生率は、ニボルマブ群で13.8%であったのに対し、化学療法群では73.2%と著明な差が認められた (Table 4)。重篤なTRAEもニボルマブ群で13.1%に対し化学療法群で32.8%と低く、治療中止に至るTRAEもニボルマブ群で6.0%に対し化学療法群で14.3%であった。ニボルマブ群で多く見られた免疫関連のTRAEは、内分泌系 (11.7%)、皮膚 (11.3%)、消化器系 (7.1%)、肝臓 (4.6%)、肺 (4.6%) であった。化学療法群で多く見られたTRAEは、貧血 (55.5%、グレード3-4が25.7%)、血小板減少症 (30.2%、グレード3-4が21.1%)、好中球減少症 (34.3%、グレード3-4が27.5%) など、骨髄抑制関連のものが主であった。治療関連死はニボルマブ群で2例 (0.7%)、化学療法群で3例 (1.1%) 報告された。
考察/結論
CheckMate 331試験は、再発小細胞肺がん (SCLC) の二次治療において、ニボルマブ単剤療法が標準化学療法(トポテカンまたはアムルビシン)と比較して全生存期間 (OS) の有意な改善を達成できなかったという、重要なネガティブ試験結果を示した。この結果は、同時期に非小細胞肺がん (NSCLC) の一次治療でニボルマブが化学療法に対するOS優越性を示せなかったCheckMate 026試験と同様のパターンであり、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) が化学療法に対して直接的なOS優越性を示すことが常に可能ではないことを示唆している。
先行研究との違い: 本研究のOS結果は、ニボルマブが3次治療以降のSCLCで有望な奏効を示したCheckMate 032試験の知見とは対照的であった。CheckMate 032ではニボルマブのORRが10-24%と報告されていたが、本試験の二次治療ではORRが13.7%に留まり、化学療法群の16.5%と比較して数値的にも劣っていた。しかし、注目すべき点として、ニボルマブ群は化学療法群と比較して無増悪生存期間 (PFS) が短かった (中央値1.4ヶ月 vs 3.8ヶ月) にもかかわらず、奏効持続期間 (DOR) 中央値は8.3ヶ月と化学療法群の4.5ヶ月より長かった。これは、ニボルマブが奏効した患者においては持続的な利益をもたらす一方で、全体としてはPFSの短縮がOS中央値の改善を妨げた可能性を示唆する。また、グレード3/4の治療関連有害事象 (TRAE) 発生率はニボルマブ群で13.8%と、化学療法群の73.2%と比較して著明に低く、ニボルマブの良好な安全性プロファイルが確認された。
新規性: 本研究で初めて、再発SCLCの二次治療におけるニボルマブと標準化学療法の直接比較が行われた。探索的解析ではあるが、ベースラインの乳酸脱水素酵素 (LDH) 値が正常上限以下 (≤ULN) の患者および肝転移がない患者において、ニボルマブのOS改善傾向が示唆されたことは新規の知見である。これらの因子は、SCLCにおける免疫療法の効果を予測するバイオマーカーの可能性を示唆するものであり、LDH高値や肝転移が免疫チェックポイント阻害薬の効果を減弱させるメカニズムが他の癌種で報告されていることと一致する。
臨床応用: 本試験の結果は、再発SCLCの二次治療においてニボルマブ単剤をルーチンに推奨することはできないことを示している。しかし、ニボルマブが奏効した患者で長期のDORが得られること、および安全性プロファイルが良好であることは、特定の患者集団においては依然として臨床的有用性がある可能性を示唆する。特に、探索的解析で示されたLDH正常および肝転移なしの患者群におけるOS改善傾向は、将来的にSCLC患者の層別化治療に繋がる臨床的意義を持つ可能性がある。これらのバイオマーカーを用いた患者選択により、ニボルマブの恩恵を最大限に引き出すことが期待される。
残された課題: 本試験は主要評価項目を達成できなかったが、SCLC免疫療法の今後の方向性に関する重要な示唆を与えた。残された課題として、SCLCにおける免疫療法の効果を正確に予測するバイオマーカーの確立が挙げられる。PD-L1発現やTMBは本試験では予測因子として機能しなかったが、他の免疫関連バイオマーカーや複合バイオマーカーの検討が必要である。また、本試験と並行して、アテゾリズマブ (IMpower133) やデュルバルマブ (CASPIAN) が一次治療におけるプラチナ製剤併用療法でOS改善を示し、SCLC免疫療法の重心は「一次治療への上乗せ」へと移行している。今後は、二次治療以降においても、ニボルマブ単剤ではなく、他の薬剤との併用療法や、より厳格な患者選択基準に基づいた試験が今後の検討課題となる。本試験の限界として、OS曲線の交差によりログランク検定の検出力が低下した可能性があり、時間依存的なHRの変化を考慮した解析手法の重要性が示された。
方法
本研究は、国際共同非盲検無作為化第III相試験であるCheckMate 331 (ClinicalTrials.gov識別番号: NCT02481830) として実施された。世界24カ国の142施設が参加した。
患者選択: 対象患者は、組織学的または細胞学的に確認された限定期または進展型SCLCで、一次治療のプラチナ含有化学療法または化学放射線療法後に再発または進行した成人患者であった。ECOGパフォーマンスステータスは0または1であり、RECIST v1.1基準に基づく測定可能病変を有することが条件とされた Eisenhauer et al. EurJCancer 2009。患者は少なくとも4サイクル以上の一次プラチナ含有化学療法を受けている必要があり、4サイクル未満の場合は、最良総合効果が部分奏効 (PR) または完全奏効 (CR) であることが求められた。中国の患者を除く全患者において、無作為化前に中央検査室で腫瘍組織(アーカイブまたは最近の生検)の収集が義務付けられた。
試験デザインと治療: 患者はニボルマブ群と化学療法群に1:1で無作為に割り付けられた。層別化因子は、一次治療後の疾患コントロール期間(プラチナ製剤感受性:プラチナ療法完了後90日以上の無増悪期間 vs プラチナ製剤抵抗性:90日未満)と、ベースライン時の脳転移の有無(あり vs なし)であった。ニボルマブ群の患者には、ニボルマブ240 mgが2週間ごとに30分間の静脈内 infusion で投与された。化学療法群の患者には、担当医の選択および地域での承認状況に応じて、トポテカンまたはアムルビシンが投与された。トポテカンは1.5 mg/m²を3週間サイクルの1〜5日目に30分間の静脈内 infusion または経口カプセル (2.3 mg/m²) で投与された。アムルビシン (日本のみ) は40 mg/m²を3週間サイクルの1〜3日目に5分間の静脈内 infusion で投与された。治療は病勢進行、許容できない毒性、同意撤回、または試験完了まで継続された。ニボルマブ群の患者は、特定の基準を満たせば、初期の病勢進行後も治療を継続することが可能であった。
評価項目: 主要評価項目は全生存期間 (OS) であった。主要副次評価項目は、治験責任医師評価による無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、および奏効持続期間 (DOR) であった。PFSは、無作為化からRECIST v1.1に基づく最初の病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。安全性は有害事象 (AE) の発現率および重症度によって評価され、NCI-CTCAE v4.0に基づきグレード分類された。探索的評価項目として、PD-L1発現レベル(Dako PD-L1 IHC 28-8 PharmDxアッセイによるCPS ≥1% vs <1%)および腫瘍変異負荷 (TMB) と有効性との関連性が検討された。TMBはFoundationOne CDxアッセイを用いて評価され、複数のカットオフ値(10、11、13、14、15 mut/Mb)で解析された。
統計解析: 最終解析は最初の患者の無作為化から34ヶ月後に計画され、中間解析は実施されなかった。約480件の死亡イベントが発生した時点で、560例の患者サンプルサイズは、両治療群間のOSハザード比 (HR) 約0.745を検出するために90%の検出力を提供すると推定された(両側タイプIエラー0.05のログランク検定を使用)。主要副次評価項目であるPFSおよびORRについては、タイプIエラーを0.05に保つために階層的検定手順が用いられた。OSおよびPFS曲線はカプラン・マイヤー法を用いて推定され、HRおよび95%信頼区間 (CI) は層別化Cox比例ハザードモデルを用いて推定された。探索的解析として、OSの3ヶ月間隔での区分的解析、およびベースライン特性によるサブグループ解析が実施された。多変量解析では、ベースラインの予後因子で調整されたCoxモデルが用いられ、治療と候補変数の間の交互作用P値が0.20未満の場合に治療効果の異質性が示唆されるとされた。