- 著者: In-Jae Oh, Kyu-Sik Kim, Cheol-Kyu Park, Young-Chul Kim, Kwan-Ho Lee, Jin-Hong Jeong, Sun-Young Kim, Jeong-Eun Lee, Kye-Chul Shin, Tae-Won Jang, Hyun-Kyung Lee, Kye-Young Lee, Sung-Yong Lee
- Corresponding author: Young-Chul Kim (Chonnam National University Hwasun Hospital, Jeonnam, South Korea)
- 雑誌: BMC Cancer
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-08-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 27566413
背景
進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) は、肺癌全体の約15-20%を占め、診断時には既に遠隔転移を伴うことが多く、極めて悪性度の高い疾患である。その予後は不良であり、過去数十年にわたり標準治療の進歩は限定的であった。1980年代中頃以降、プラチナ製剤とエトポシドの併用療法 (EP療法) がES-SCLCの標準化学療法として確立され、現在に至るまでその中核を担っている。しかし、EP療法による中央値全生存期間 (OS) は約10ヶ月と推定され、5年生存率は依然として低い水準に留まっているのが現状である Govindan et al. JClinOncol 2006。奏効率 (ORR) は50-80%、完全奏効 (CR) 率は0-30%と報告されているが、これらの数値は患者の長期生存に大きく寄与するものではない Roth et al. JClinOncol 1992。
新たな治療選択肢として、イリノテカンとシスプラチンの併用療法 (IP療法) が注目された。日本では、Noda et al. NEnglJMed 2002 が実施した第III相試験において、IP療法がEP療法に対してOSの優越性を示し、日本のES-SCLCの標準治療の一つとして位置づけられた。しかし、その後の欧米での2つの大規模な無作為化第III相試験、すなわちHanna et al. JClinOncol 2006とLara et al. JClinOncol 2009では、IP療法のEP療法に対する優越性を確認することはできなかった。これらの結果は、人種差や遺伝的背景、あるいは支持療法の違いなどが影響している可能性を示唆している。
過去10年間、EP療法を上回る新規化学療法レジメンは確立されておらず、ES-SCLCの治療成績向上は喫緊の課題として残されている。特に、既存の治療法では血液毒性や消化器毒性が問題となることが多く、より忍容性の高い、かつ有効な新規薬剤の開発が不足していた。このような状況下で、新規のカンプトテシン誘導体であるbelotecan {7-[2(N-isopropylaminoethyl)]-(20S)-camptothecin} が有望な薬剤として浮上した。BelotecanはDNAトポイソメラーゼIを阻害することで抗腫瘍効果を発揮する。複数の第II相試験において、belotecanとシスプラチンの併用療法 (BP療法) は、ES-SCLCの一次治療としてORRが70%以上、OSが10ヶ月以上という良好な成績を示した。例えば、LeeらはBP療法を受けた患者で中央値PFS 6.9ヶ月、中央値OS 19.2ヶ月を報告している。また、LimらはBP療法で73.8%のORRを報告しており、これらのデータはBP療法がES-SCLCに対する有効な治療選択肢となる可能性を示唆していた。しかし、これらの先行研究は小規模な第II相試験であり、大規模な第III相試験での有効性と安全性の検証は未解明であった。
これらの有望な先行研究の結果を受け、韓国においてBP療法とEP療法を直接比較する初の多施設無作為化第III相非劣性試験が実施されることになった。この試験は、ES-SCLCに対する新たな標準治療の確立を目指し、BP療法の有効性と安全性を詳細に評価することを目的としている。特に、既存のEP療法と比較して、BP療法が同等以上の奏効を達成しつつ、忍容性においても許容範囲内であるかどうかが重要な評価ポイントであった。ES-SCLCの治療において、新たな有効な治療法の導入は、患者の予後改善に大きく寄与する可能性を秘めているが、その一方で、新規薬剤に伴う毒性のプロファイルも慎重に評価する必要がある。これまでの治療法では、特に骨髄抑制や消化器毒性が問題となることが多く、belotecanがこれらの毒性プロファイルにおいてどのような特徴を示すのかも注目された。
目的
本研究の主要目的は、化学療法および放射線療法未施行の進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者において、belotecan/cisplatin (BP) 療法の奏効率 (ORR) が、標準治療であるetoposide/cisplatin (EP) 療法に対して非劣性であることを、修正intention-to-treat (mITT) 集団で検証することである。非劣性マージンは-15.0%に設定された。
副次目的として、両治療群における無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を比較評価すること、ならびに各治療レジメンの安全性プロファイル(有害事象 [AEs]、重篤な有害事象 [SAE]、治療関連死 [TRD] を含む)を詳細に分析し、忍容性を評価することが挙げられる。さらに、ECOG Performance Status (PS)、年齢、体重などの患者背景因子に基づくサブグループ解析を実施し、BP療法の有効性が特定の患者集団において異なる傾向を示すか否かを探索的に検討することも目的とした。これらの評価を通じて、ES-SCLCに対するBP療法の臨床的有用性を総合的に判断し、将来的な治療選択肢としての位置づけを確立するためのエビデンスを構築することを目指した。
結果
患者背景と治療コンプライアンス: 合計157例がスクリーニングされ、147例が適格基準を満たし無作為化された。BP群にはn=71例、EP群にはn=76例が割り付けられた。mITT集団はBP群n=71例、EP群n=76例であった。患者背景において、年齢中央値 (BP 67歳 vs EP 66.5歳)、性別 (男性 BP 87.3% vs EP 85.5%)、ECOG PS (PS 0-1: BP 84.5% vs EP 72.4%) に有意差は認められなかった (Table 1)。しかし、BMI中央値はBP群23.5 kg/m²に対しEP群22.0 kg/m²と、BP群で有意に高かった (p=0.004)。治療コンプライアンスに関して、4コース以上完遂した患者の割合はBP群67.1%に対しEP群63.7%であり、平均施行コース数はBP群3.9コース、EP群4.1コースであった。相対用量強度 (RDI) はBP群0.79±0.14に対しEP群0.86±0.13と、BP群で有意に低かった (p=0.001)。これはBP群における用量調整がより頻繁に行われたことを示唆している。
奏効率 (主要エンドポイント): mITT解析において、BP群のORRは59.2% (CR 1.4%, PR 57.7%) であり、EP群のORRは46.1% (CR 0%, PR 46.1%) であった (Table 2)。両群間のORRの差は13.1% (90% CI: -0.3%〜26.5%) であり、事前設定された非劣性マージンである-15.0%を上回ったため、BP療法はEP療法に対して非劣性を達成したと結論された (Figure 2)。Per-protocol (PP) 解析では、BP群のORRは71.9% (CR 1.8%, PR 70.2%)、EP群のORRは54.0% (PR 54.0%) であり、両群差は18.0% (90% CI: 3.7%〜32.2%) と、BP群が数値的に優れている傾向が示された。CMH検定では、mITTおよびPP集団のいずれにおいても、両治療群間のORRに統計的有意差は認められなかった。
全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS): OSの中央値は、BP群で360日 (95% CI: 285-482日)、EP群で305日 (95% CI: 232-343日) であった (Log-rank p=0.210) (Figure 3)。PFSの中央値は、BP群で190日 (95% CI: 148-219日)、EP群で172日 (95% CI: 144-195日) であった (Log-rank p=0.369) (Figure 3)。OSおよびPFSともに、両治療群間で統計的に有意な差は認められなかった。数値的にはBP群でやや長い傾向が見られたものの、優越性を示すには至らなかった。
安全性プロファイル (血液毒性および非血液毒性): 全n=147例が安全性解析の対象となった。重篤な有害事象 (SAE) の発生率はBP群で60.0% (42/70例) と、EP群の40.3% (31/77例) と比較して有意に高かった (p=0.021)。治療関連死 (TRD) の発生率はBP群12.9%に対しEP群10.4%であり、有意差はなかった (p=0.797)。 血液毒性において、Grade 3/4の貧血はBP群34.3%に対しEP群13.0%と、BP群で有意に高頻度であった (p=0.003) (Table 3)。同様に、Grade 3/4の血小板減少症もBP群54.3%に対しEP群16.9%と、BP群で著明に高頻度であった (p<0.001) (Table 3)。Grade 3/4の好中球減少症はBP群77.1%に対しEP群67.5%であり、数値的にはBP群で高かったが統計的有意差はなかった (p=0.204)。発熱性好中球減少症のGrade 3/4発生率はBP群15.7%に対しEP群7.8%であり、これも有意差は認められなかった (p=0.196)。 非血液毒性については、悪心、嘔吐、下痢、倦怠感、肝機能障害、低ナトリウム血症など、いずれの項目においても両群間でGrade 3/4の発生率に統計的有意差は認められなかった。特に、Grade 3/4の下痢はBP群で2.9%と低く、イリノテカン併用療法で報告されている16-19%と比較して著明に低値であった。
サブグループ解析: ECOG PS 0-1の患者では、BP群のORRは63.3% (n=60) であり、EP群の52.7% (n=55) を上回った。ECOG PS 2の患者では、BP群のORRは36.4% (n=11) であり、EP群の28.6% (n=21) を上回った。年齢層別では、65歳以下の患者においてBP群のORRは66.7% (n=30) であり、EP群の57.8% (n=33) を上回った。65歳以上の患者では、BP群のORRは53.7% (n=41) であり、EP群の37.2% (n=43) を上回った。体重別の解析でも、BP群はEP群より高いORRを示す傾向にあった。これらのサブグループ解析では、いずれの層においてもBP群のORRがEP群を上回る傾向が示されたが、多重比較の問題から解釈には慎重を要する。特に、ECOG PS 0-1の患者や若年患者においてBP療法が有利な傾向が認められ、これらの患者群への選択的適用が示唆された。
考察/結論
本試験は、化学療法および放射線療法未施行のES-SCLC患者において、belotecan/cisplatin (BP) 療法がetoposide/cisplatin (EP) 療法に対し奏効率 (ORR) で非劣性であることを示した初の無作為化第III相試験である。mITT解析におけるORRはBP群59.2%、EP群46.1%であり、その差13.1% (90% CI: -0.3%〜26.5%) は、事前設定された非劣性マージン-15.0%を上回った。Per-protocol (PP) 解析では、BP群のORRが71.9%とEP群の54.0%を上回り、数値的にはBP群が優れている結果であった。
先行研究との違い: これまでのES-SCLCの治療において、EP療法を上回る新規化学療法レジメンは確立されていなかった。イリノテカンとシスプラチン (IP) 併用療法はNoda et al. NEnglJMed 2002で優越性が示されたものの、欧米の試験ではその優越性が確認されず、標準治療としての位置づけは限定的であった。本研究は、IP療法とは異なるカンプトテシン誘導体であるbelotecanを用いたBP療法が、EP療法に対して非劣性であることを示した点で、新たな治療選択肢の可能性を提示した。特に、IP療法で問題となるGrade 3/4の下痢がBP群で2.9%と極めて低値であった点は、消化器毒性のプロファイルにおいてIP療法と対照的であり、BP療法の優位性の一つである。
新規性: 本研究は、ES-SCLCの一次治療としてBP療法とEP療法を直接比較した初の第III相無作為化試験であり、BP療法の非劣性を大規模コホートで初めて実証した。先行する第II相試験ではBP療法で高いORRが報告されていたが、本試験のORR (59.2%) はそれらの報告 (例: Hong et al. CancerChemotherPharmacol 2012 の73.8%) より低かった。これは、より不良なECOG PSの患者 (PS 2: 15.5% vs 先行試験の少数例) が含まれていたことや、試験規模の拡大、評価の厳格化が影響した可能性が考えられる。
臨床応用: BP療法はEP療法と同等の奏効が期待できる一方で、安全性プロファイルには重要な違いが認められた。特に、Grade 3/4の貧血 (34.3% vs 13.0%, p=0.003) および血小板減少症 (54.3% vs 16.9%, p<0.001) がBP群で有意に高頻度であり、重篤な有害事象 (SAE) の発生率もBP群で有意に高かった (60.0% vs 40.3%, p=0.021)。相対用量強度 (RDI) がBP群で有意に低かった (0.79 vs 0.86, p=0.001) ことは、これらの血液毒性による用量調整を反映している。したがって、BP療法を臨床現場で適用する際には、特に高齢患者やECOG PSが不良な患者、骨髄機能が低下している患者に対しては、貧血や血小板減少症のリスクを十分に考慮し、慎重な投与と綿密なモニタリングが不可欠である。G-CSFの予防的投与や、必要に応じた用量減量(例えば25%減量)などの毒性管理戦略が重要となる。
残された課題: 本試験の限界として、第一に非劣性デザインである点が挙げられる。BP群で血液毒性が増加したことを正当化するためには、優越性の証明が必要である。第二に、統計解析における有意水準を片側α=0.05に設定した点である。非劣性試験では通常0.025が推奨されるため、この設定は結果の解釈に影響を与える可能性がある。第三に、主要評価項目であるORRが患者の長期的な転帰と十分に相関しない可能性があること、およびmITT集団の定義において9例が除外された点が挙げられる。第四に、オープンラベル試験であるため、非劣性試験としては盲検化されていない点が欠点となりうる。今後の検討課題としては、BP療法のOSおよびPFSにおける優越性を検証するための大規模な臨床試験が必要である。また、ECOG PS 0-1の若年患者など、BP療法が特に有効である可能性のある患者集団を特定し、そのサブグループにおける有効性と安全性をさらに詳細に評価することも重要である。
方法
本研究は、韓国の14施設で2009年1月から2013年1月にかけて実施された多施設共同、無作為化、オープンラベル、並行群間非劣性第III相臨床試験である (ClinicalTrials.gov identifier NCT00826644)。
患者適格基準: 対象患者は、以下の基準をすべて満たす者とした。(1) 19歳から80歳までの年齢、(2) 組織学的または細胞学的に確認されたES-SCLC、(3) 過去に化学療法または放射線療法の既往がないこと、(4) RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) バージョン1.0に基づき測定可能な病変が1つ以上存在すること、(5) ECOG Performance Status (PS) が0-2であること、(6) 予想生存期間が12週以上であること、(7) 適切な臓器機能(好中球数 [ANC] ≥ 1,500/mm³、血小板数 ≥ 100,000/mm³、ヘモグロビン ≥ 9.0 g/dL、総ビリルビン ≤ 1.5 mg/dL、アミノトランスフェラーゼ ≤ 2倍ULN [肝転移がある場合は ≤ 3倍ULN]、アルカリホスファターゼ ≤ 2倍ULN、クレアチニン ≤ 1.5 mg/dLまたはクレアチニンクリアランス ≥ 60 mL/min)を有すること。
除外基準: 重篤な細菌感染、基底細胞癌または子宮頸部上皮内癌以外の悪性腫瘍の既往、脳転移、妊娠可能年齢の女性、妊娠中または授乳中の女性は除外された。
治療レジメン: 適格患者は、ECOG PS (0-1 vs 2) および年齢 (<65歳 vs ≥65歳) を層別因子として、BP群またはEP群に1:1で無作為に割り付けられた。
- BPレジメン: Belotecan 0.5 mg/m²を30分かけて静脈内点滴でDay 1-4に投与、Cisplatin 60 mg/m²をDay 1に静脈内投与。これを21日サイクルで繰り返した。
- EPレジメン: Etoposide 100 mg/m²をDay 1-3に静脈内投与、Cisplatin 60 mg/m²をDay 1に静脈内投与。これも21日サイクルで繰り返した。 両レジメンとも、適切な輸液と制吐剤の投与が必須とされた。G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子) の投与は臨床判断に基づいて行われた。次サイクル治療は、ANC ≥ 1,500/mm³、血小板数 ≥ 100,000/mm³、クレアチニンクリアランス ≥ 60 mL/minの場合に開始された。ANCが1,000-1,500/mm³、血小板数が75,000-100,000/mm³の場合、次サイクル用量は20%減量された。ANC < 500/mm³、血小板数 < 25,000/mm³、または発熱性好中球減少症を発症した場合は、20%減量された。Cisplatinはクレアチニンクリアランスが30-60 mL/minの場合に50%減量され、30 mL/min以下で中止された。
評価項目: 主要エンドポイントは、mITT集団におけるORR (RECIST 1.0基準) の非劣性であった。ORRは、完全奏効 (CR) と部分奏効 (PR) の合計と定義された。非劣性マージンは-15.0%に設定され、90%両側信頼区間 (CI) の下限がこのマージンを上回る場合に非劣性が示されたと判断された。 副次エンドポイントは、PFS (無作為化から病勢進行または死亡までの期間) およびOS (無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間) であった。有害事象 (AEs) はNCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) バージョン3.0に従って評価された。
統計解析: サンプルサイズは、BP群のORRを71%、EP群のORRを66%と仮定し、非劣性マージン-15%、検出力80%、片側α=0.05で150例と算出された。ベースライン特性の比較には、Studentのt検定およびカイ二乗検定が用いられた。ORRの差に対する90%CIはNewcombeの方法で算出された。非劣性基準を満たした患者については、層別因子を考慮したCochran-Mantel-Haenszel (CMH) 検定が実施された。PFSおよびOSはKaplan-Meier法で解析され、群間比較にはログランク検定が用いられた。