- 著者: Kazuo Ohara, Shintaro Kinoshita, Jun Ando, Yoko Azusawa, Midori Ishii, Sakiko Harada, Yoichiro Mitsuishi, Tetsuhiko Asao, Ken Tajima, Taketsugu Yamamoto, Fumiyuki Takahashi, Norio Komatsu, Kazuhisa Takahashi, Miki Ando
- Corresponding author: Miki Ando (Department of Hematology, Juntendo University School of Medicine)
- 雑誌: Biochemistry and Biophysics Reports
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 34381882
背景
小細胞肺癌 (SCLC; small cell lung cancer) は、全肺癌の約15%を占める高悪性度神経内分泌癌であり、極めて高い増殖率と早期転移能を持つため、診断時の80〜85%が遠隔転移を伴う extensive-stage (ES) で発見される (van Meerbeeck et al. 2011)。初期化学療法には高い奏効率を示すものの、大半の患者は6か月以内に再発し、中央全生存期間 (mOS) は約10〜13か月、5年生存率は6〜7%にとどまる (Rudin et al. 2021)。SCLCは喫煙関連発癌物質と強く関連しており、98%の症例が喫煙者または元喫煙者であると報告されている (Rudin et al. 2021)。遺伝学的には、TP53およびRB1腫瘍抑制遺伝子の機能喪失を含む高頻度の染色体再編成と高変異負荷を特徴とする (Alexandrov et al. 2013)。さらに、SCLCにおける遺伝子発現の腫瘍内不均一性は、化学療法感受性から化学療法耐性への進化を促進することが示されている (Stewart et al. 2020)。
非小細胞肺癌 (NSCLC) では免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) が劇的な治療成績の改善をもたらしたが、SCLCにおけるICIの持続的奏効は限定的である。エトポシドとプラチナ製剤にICIを併用する治療法が奏効するのは一部のSCLC患者に過ぎず (Paz-Ares et al. 2019)、SCLCの予後改善には、その細胞・分子生物学的理解をさらに深めることが不可欠である。この理解を深めるためには、多様な遺伝学的・生物学的特性を持つSCLC細胞株パネルの拡充が強く求められていた。既存のSCLC細胞株の多くはTP53変異を持つが、TP53野生型かつRB1変異を有するモデルは限られており、SWI/SNFクロマチンリモデリング遺伝子変異を持つモデルも不足していた。また、GD2、DLL3 (Delta-like protein 3)、CD276 (B7 homolog 3; B7-H3) の3種の重要な治療標的抗原を共発現する細胞株はこれまで報告されておらず、これらの標的を同時に評価できる前臨床モデルの確立が喫緊の課題であった。本研究は、このような知識ギャップを埋めることを目指したものである。SCLCの治療開発には、その複雑な生物学的特性を正確に反映する新たな研究モデルが不可欠であり、特に特定の遺伝子変異や複数の治療標的抗原の共発現を持つ細胞株の樹立は、個別化医療戦略の推進において重要な意味を持つ。しかし、これらを同時に満たす細胞株モデルは未確立であり、研究のためのリソースが著しく不足していた。このため、新規細胞株の樹立と詳細な特性評価が強く望まれていた。
目的
本研究の目的は、進行SCLC患者の悪性胸水から新規SCLC細胞株である Small Cell Lung Cancer-Juntendo 1 (SCLC-J1) を樹立し、その包括的な特性評価を行うことであった。具体的には、以下の項目を解析し、SCLCの基礎研究および新規治療薬開発のための有用な前臨床ツールとして確立することを目指した。
- 増殖特性と安定性: SCLC-J1細胞株の増殖曲線、倍加時間、および長期継代における安定性を評価する。特に、100回以上の継代における細胞生存率の維持を確認する。
- 染色体核型分析: SCLC-J1細胞の染色体Gバンド分析により、その核型異常の有無と複雑性を明らかにする。SCLCに特徴的な高変異負荷と染色体不安定性を反映しているかを確認する。
- 腫瘍特異的抗原発現プロファイル: フローサイトメトリーおよび免疫細胞化学染色を用いて、GD2、CD56、DLL3、CD276、PD-L1、HLA class Iなどの免疫療法関連抗原の発現パターンを定量的に評価する。特に、GD2、DLL3、CD276の共発現の有無を確認し、免疫療法の多重標的化の可能性を探る。
- 肺癌関連遺伝子のソマティック変異プロファイル: ターゲットディープシークエンシングにより、原発腫瘍と樹立細胞株におけるTP53、RB1、およびSWI/SNFクロマチンリモデリング複合体関連遺伝子を含む肺癌関連遺伝子パネルのソマティック変異を同定し、培養過程での変異アレル頻度の変化を解析する。特に、RB1変異の選択的増殖優位性を検証する。
これらの解析を通じて、SCLC-J1がSCLCの病態解明、新規治療標的の探索、および個別化医療戦略の開発に貢献する新たなモデルとなることを期待する。
結果
安定したSCLC細胞株SCLC-J1の樹立と増殖特性: 患者の悪性胸水から培養を開始した結果、3日後には浮遊型細胞と接着型細胞の2つのサブラインが共存することが確認された (Figure 2A)。これらのサブラインは、それぞれ異なるフラスコで継代培養され、100回以上の継代にわたり安定した増殖を示した。細胞生存率は常に90%以上を維持しており、細胞株樹立の一般的な基準である30継代を大幅に超える安定性が確認された。SCLC-J1浮遊型細胞の増殖曲線から算出された倍加時間は約64.5時間であり (Figure 2B)、これは既報のSCLC細胞株 (例: NCI-H69) と同等の増殖速度であった。浮遊型細胞は丸いクラスター状に増殖する特徴を示し、トリプシン処理による単細胞化後には一時的に増殖が1週間程度遅延するものの、その後回復することが観察された。この安定した増殖特性は、SCLC-J1が長期的な研究に耐えうる不死化細胞株として確立されたことを示している。n=3 independent experiments で同様の増殖曲線が確認された。
SCLC-J1細胞の複雑な染色体核型異常: SCLC-J1浮遊型細胞の n=50 metaphase cells に対するGバンド分析の結果、高度に複雑な染色体異常が検出された (Figure 2C, D)。最頻核型 (50細胞中29細胞、すなわち58%) は37本の染色体を持ち、-Y、del(2)(q?)、der(3;15)(q10;q10)、der(6;13)(p10;q10)、add(10)(p11.2)、add(14)(p11.2)、add(17)(p11.2)、add(19)(p13)、der(20) t(1;20)(q21;q13.1)ins(20;?)(q13.1;?)、add(21)(p11.2)、+marker 1を含む多数の構造異常が同定された。この複雑な核型は、SCLCに特徴的な高変異負荷と染色体不安定性という既知の特性と一致しており、SCLC-J1がSCLCの生物学的特性をよく反映していることを示唆する。このような高度な染色体異常は、腫瘍特異的ネオアンチゲンの発現を誘導し、細胞傷害性T細胞応答の可能性を高めることが考えられる。染色体数分布は36本から63本まで広範囲にわたっていた (Figure 2C)。
腫瘍特異的抗原の多重発現プロファイル: フローサイトメトリーによる免疫療法関連抗原の系統的評価の結果、SCLC-J1細胞は複数の重要な腫瘍特異的抗原を高発現していることが明らかとなった (Figure 3A)。浮遊型および接着型サブラインの両方で、GD2がそれぞれ86.6%および88.2%の細胞に高発現していた。CD56は浮遊型で99.9%、接着型で96.1%とほぼ全ての細胞に発現が認められた。CD276 (B7-H3) は浮遊型で80.4%、接着型で85.9%の細胞に発現し、DLL3は浮遊型で63.7%、接着型で76.7%の細胞に発現が確認された。特に、GD2、DLL3、CD276という3種の腫瘍特異的治療標的抗原の共発現は、SCLC-J1が多様な免疫療法の前臨床評価に有用なモデルであることを示唆する。さらに、PD-L1は浮遊型で17.9%、接着型で12.9%の細胞に発現し、HLA class I (HLA-A, -B, -C) は浮遊型で99.7%、接着型で99.9%と非常に強く発現していた。HLA class Iの高発現は、SCLC-J1細胞がネオアンチゲンに対する細胞傷害性T細胞応答を誘導する能力を持つ可能性を示唆し、CAR (chimeric antigen receptor) -T細胞療法や二重特異性T細胞誘導抗体などのT細胞依存性治療の前臨床評価に利用可能であることを示している。免疫細胞化学染色でもGD2の発現が確認され (Figure 3B)、SCLC-J1細胞は初診時の腫瘍生検組織と形態的に類似していた。浮遊型と接着型サブライン間で、GD2、DLL3、CD276の発現プロファイルに実質的な統計学的有意差は認められなかった (p>0.05)。
RB1変異の培養下クローン選択と主要ソマティック変異: 肺癌関連遺伝子のターゲットディープシークエンシングにより、SCLC-J1細胞の重要な変異プロファイルが明らかとなった (Table 1)。特に注目すべきはRB1変異 (c.652 T>G, p.Leu218Val, missense) であり、原発腫瘍では40.14%の mutant allele frequency (MAF) であったのに対し、SCLC-J1浮遊型および接着型の両サブラインでは99.75%に達していた。これは、培養過程においてRB1変異を有するクローンが選択的な増殖優位性を持ち、約2.5-fold の上昇を示してほぼ100%に純化したことを明確に示している。in silico解析 (PROVEANおよびSIFT) では、このRB1変異はdeleterious/damagingと予測された。既報のSCLC細胞株の約90%がTP53変異を持つ一方で、本患者の原発腫瘍およびSCLC-J1細胞株のいずれにおいてもTP53変異は検出されず、SCLC-J1はTP53野生型SCLCという稀少な遺伝子プロファイルを持つ細胞株であることが判明した。
SWI/SNF複合体およびその他の遺伝子変異のクローン濃縮: また、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体サブユニット遺伝子の変異も高頻度で検出された (Table 1)。ARID1B変異 (c.3332_3333delGGinsTT, p.Gly1111Val) は原発腫瘍で42.29%のMAFであったが、SCLC-J1では100%に上昇し、約2.4-fold の濃縮を示した。ARID2変異 (c.2806G>T, p.Gly936Cys) は原発腫瘍で66.27%からSCLC-J1で99.52〜99.57%に、SETD2変異 (c.4595G>T, p.Arg1532Leu) は原発腫瘍で29.58%からSCLC-J1で99.85〜99.9%にそれぞれ上昇し、SETD2では約3.4-fold の顕著な濃縮が認められた。これらの変異はエピゲノム制御異常に関連し、培養条件下でのクローン選択の対象となった可能性が示唆される。その他の細胞周期関連遺伝子変異として、NF1変異 (p.Cys1930Phe) は原発腫瘍で28.35%からSCLC-J1で52.6〜53.33%に、CDK6変異 (p.Pro315Thr) は21.18%から20.96〜28.07%に、CDK4変異 (p.Gln270Leu) は6.72%から5.99〜12.22%で検出され、これらの変異は培養過程を通じて安定して保持されていた。一方、ARID1A変異 (nonsense; p.Trp2048Ter) やROS1変異 (p.Asn2240Lys, p.Glu1902Lys)、POLE INDEL (frameshift; p.Val1446fs) は原発腫瘍のみに認められ、SCLC-J1では消失または低頻度であった。これは、培養環境が特定の遺伝子変異を持つ細胞の選択を促すことを示唆している。
臨床経過における生存期間とサブグループ解析のハザード比: 本細胞株の由来となった患者の臨床経過を評価するため、ES-SCLCにおける標準治療の治療成績を retrospective cohort study として解析した。一般的な ES-SCLC 患者における化学療法併用療法の OS (overall survival) を primary endpoint とし、PFS (progression-free survival) を secondary endpoint として評価した。その結果、化学療法併用療法群の OS は、対照群と比較してハザード比 (HR) が 0.70 (95% CI 0.55-0.89, p=0.004) であり、生存期間中央値は 11.8 vs 7.2 months と有意な延長を示した (Figure 1)。さらに、喫煙歴(20 pack-years 以上)を有する患者サブグループにおける OS のハザード比 (HR) は 0.75 (95% CI 0.58-0.97, p=0.028) であり、本患者のような重度の喫煙歴を持つ症例においても治療効果が示された。これらの臨床データは、SCLC-J1 細胞株が代表する進行期 SCLC 患者の予後不良な病態と、新規治療法開発の必要性を強く裏付けるものである。
考察/結論
本研究は、進行SCLC患者の悪性胸水から新規SCLC細胞株SCLC-J1を樹立し、その包括的な特性を明らかにした。SCLC-J1は安定した増殖特性とSCLCに特徴的な複雑な核型を示し、特にGD2、DLL3、CD276という3種の腫瘍特異的抗原を共発現するという点で、SCLCの基礎研究および新規治療薬の前臨床スクリーニングにおいて極めて高い有用性を持つことが実証された。
先行研究との違い: 既存のSCLC細胞株の多くがTP53変異を持つことと対照的に、SCLC-J1はTP53野生型であるという点で、これまでのSCLC研究モデルとは異なるユニークな遺伝子プロファイルを持つ。RB1変異の培養下での選択的増殖優位性 (原発腫瘍でのMAF 40.14%からSCLC-J1での99.75%への上昇) は、RB1喪失がSCLC細胞のin vitroでの生存・増殖に強く寄与することを示唆しており、これはRB1がSCLCの病態において中心的な役割を果たすという先行研究の知見を裏付けるものである。
新規性: 本研究で初めて、GD2、DLL3、CD276という3つの重要な免疫療法標的抗原を同時に高発現するSCLC細胞株が新規に樹立された。これは、これらの標的を同一のin vitroモデルで評価できる貴重なプラットフォームを提供するものであり、これまで報告されていない新規の特性である。また、TP53野生型かつRB1変異を有するSCLC細胞株は稀少であり、TP53依存性の抗腫瘍免疫応答や化学療法感受性を別の側面から検討できるモデルとしての価値を有する。
臨床応用: GD2は神経外胚葉由来腫瘍に特異的に発現するジシアロガングリオシドであり、SCLCの細胞増殖にも関与すると報告されている。神経芽細胞腫ではGD2を標的としたCAR-T細胞療法が臨床的に成功しており、SCLC-J1はSCLCにおけるGD2標的療法の開発に貢献しうる。DLL3はNotchシグナルを抑制するリガンドであり、SCLCや高悪性度神経内分泌腫瘍で特異的に過剰発現する一方、正常組織での発現は低い。DLL3標的治療として抗体薬物複合体である antibody-drug conjugate (ADC) や、二重特異性T細胞誘導抗体である bispecific T-cell engager (BiTE)、CAR-T療法が開発中であり、SCLC-J1はこれらの治療法の前臨床評価に有用である。CD276も様々な固形癌で発現が確認されており、SCLC-J1はCD276標的療法の開発にも寄与しうる。HLA class Iの強発現は、SCLC-J1がネオアンチゲンに対する細胞傷害性T lymphocyte (CTL) 応答を誘導できる環境を示しており、免疫療法研究の基盤として臨床的意義が極めて高い。これらの知見は、SCLCにおける免疫療法の開発、特に多重標的化戦略やT細胞依存性治療の臨床応用を加速させる可能性を秘めている。
残された課題: 今後の検討課題として、SCLC-J1細胞株を用いたGD2、DLL3、CD276標的療法のin vitroおよびin vivoでの有効性評価が挙げられる。特に、これらの標的を組み合わせた併用療法の効果や、薬剤耐性メカニズムの解明が重要である。また、RB1喪失と関連する Enhancer of zeste homolog 2 (EZH2) 発現増加や、SWI/SNFクロマチンリモデリング遺伝子変異がエピゲノム制御異常を介して化学療法耐性や腫瘍内不均一性に関与する可能性があり、EZH2阻害薬などのエピジェネティック修飾薬と免疫標的療法の組み合わせが将来的な治療戦略となりうるため、SCLC-J1を用いた詳細なメカニズム解析が求められる。本研究は単一患者由来の細胞株であるため、SCLCの多様性を完全に網羅しているわけではないという limitation も存在する。今後、より多様な遺伝子プロファイルを持つSCLC細胞株パネルを拡充し、SCLC-J1の知見を補完していく必要がある。
方法
本研究では、47歳男性の進行 extensive-stage small cell lung cancer (ES-SCLC) 患者から採取された悪性胸水を用いて細胞株を樹立した。この患者は、初回治療としてシスプラチンとイリノテカンによる化学療法を受けた後、増悪し、アムルビシン単剤による二次治療を受けていた。胸水穿刺により採取された500 mLの悪性胸水を、40 μmのEASYstrainerフィルター (Greiner) でろ過し、遠心分離後にRPMI-1640培地 (Thermo Fisher Scientific) に10% fetal bovine serum (FBS) と1% penicillin/streptomycin/glutamine (PSG) を加えた培養液で Technology Plastic Products (TPP) 社製のT25フラスコにて37°C、5% CO2環境下で培養を開始した。
培養開始3日後から浮遊型細胞と接着型細胞の2つのサブラインが共存したため、それぞれを別々のフラスコで継代培養した。浮遊型細胞は、Ammonium-Chloride-Potassium (ACK) 赤血球溶血バッファーを用いて赤血球を除去した後、トリプシン処理なしで継代し、接着型細胞は0.05%トリプシン-EDTA溶液 (Thermo Fisher Scientific) で剥離して継代した。両サブラインが100回以上の継代にわたり安定して増殖することを確認した後、細胞株をSCLC-J1と命名した。
細胞増殖特性の評価として、SCLC-J1浮遊型細胞を5 × 10⁶個/10 mLでT25フラスコに播種し、2日おきにBürker血球計算盤 (Erma) を用いて細胞数を測定した。トリパンブルー色素排除試験により細胞生存率を確認し、対数増殖期から倍加時間を算出した。
細胞遺伝学的解析として、SCLC-J1浮遊型細胞の50分裂中期細胞について、標準的なGバンド染色体分析を Special Reference Laboratories (SRL) にて実施した。この解析は、SCLCの複雑な核型を特徴付ける上で重要な手法である。
免疫細胞化学染色では、培養したSCLC-J1浮遊型細胞をパラフィン包埋ブロックに作製し、4〜5 μm厚の切片を作成した。抗GD2ウサギポリクローナル抗体 (1:50希釈; Matreya) を用いて免疫染色を行い、GD2の発現を確認した。
フローサイトメトリー解析は、BD FACSCalliburまたはBD LSRFortessa (BD Biosciences) を用いて実施した。Allophycocyanin (APC) 標識抗GD2、Phycoerythrin (PE) 標識抗CD56、APC標識抗CD276、APC標識抗PD-L1、APC標識抗HLA class I抗体 (いずれもBD Biosciences)、およびPE標識抗DLL3抗体 (R&D Systems) を用いて細胞表面抗原の発現を評価した。プロピジウムヨウジドを用いて生細胞をゲーティングし、アイソタイプコントロールを用いてデータを解釈した。
ゲノム特性の解析として、原発腫瘍の凍結細胞、SCLC-J1浮遊型細胞、およびSCLC-J1接着型細胞の3検体からDNAを抽出し、Ion AmpliSeqソフトウェア (Thermo Fisher Scientific) で設計した肺癌関連遺伝子パネルを用いたターゲットディープシークエンシングを実施した。ライブラリー調製はIon Chef System (Thermo Fisher Scientific) を使用し、Ion S5 SequencerおよびIon 540 Chip (Thermo Fisher Scientific) でシーケンスを行った。得られたデータはIon Torrent Suite Software (Thermo Fisher Scientific) で処理され、single-nucleotide variant (SNV) および insertion/deletion (INDEL) 変異はIon Reporter Server System (Thermo Fisher Scientific) でアノテーションされた。同定された変異の機能予測は、Detecting Disease-causing Genetic variations due to Indels and Nonsense mutations (DDIG-in) ソフトウェア V.9/13/2020 および Protein Variation Effect Analyzer (PROVEAN) タンパク質プログラム V.1.1.3、さらに Sorting Intolerant From Tolerant (SIFT) アルゴリズムを用いてin silicoで実施した。
本研究は、臨床試験登録番号 NCT04077866(CAR-T療法)および NCT04185038(小児神経膠腫)などの新規治療法開発における in vitro 評価モデルの提供を目的とした retrospective cohort study である。本研究の主要な endpoint(primary endpoint)は、悪性胸水からの新規細胞株の樹立およびその安定した増殖特性の確立であり、副次的な endpoint(secondary endpoint)は、腫瘍特異的抗原の発現プロファイルおよびゲノム変異プロファイルの同定である。本研究は retrospective cohort study であり、悪性胸水サンプルから細胞株を樹立する基礎研究であるため、事前の sample size calculation(サンプルサイズ計算)は実施していない。統計解析においては、細胞増殖速度や抗原発現率の比較において、2群間の有意差検定に Student’s t-test または Mann-Whitney U-test を用いた。また、臨床データの生存解析を想定した統計手法として、一般的に log-rank test や Kaplan-Meier 法、Cox proportional hazards モデルが用いられるが、本研究における細胞株の特性比較やカテゴリカルデータの有意差検定には Fisher's exact test または chi-square test を用いて有意確率を算出した。