• 著者: UN Lassen, K Osterlind, FR Hirsch, B Bergman, P Dombernowsky, HH Hansen
  • Corresponding author: UN Lassen (Finsen Center, Department of Oncology, National University Hospital, Copenhagen, Denmark)
  • 雑誌: British Journal of Cancer
  • 発行年: 1999
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 10027322

背景

小細胞肺がん (SCLC) の化学療法中、特に初回サイクルにおける早期死亡 (early death: ED) は、患者の予後を大きく左右する臨床的に重要な問題である。早期死亡は、腫瘍の急速な進行に起因する早期非毒性死亡 (early non-toxic death: ENTD) と、感染症や骨髄抑制などの治療毒性に起因する早期毒性死亡 (early toxic death: ETD) に大別される。コペンハーゲン肺がんグループ (Copenhagen Lung Cancer Group) が実施した2つの最近のランダム化比較試験 (RCT) では、SCLC患者全体の12.6% (限局型6.7%、進展型18.9%) が早期死亡に至っており、これは1976年から1981年の過去の試験における4.2%と比較して大幅な増加を示していた。この早期死亡率の上昇は、エトポシドとシスプラチンを組み合わせたEPレジメンの導入による骨髄毒性の増強が示唆されていた。国際肺がん研究学会 (IASLC) が設定した「毒性死亡率5%以下」という基準を今回の試験結果は超えており、高リスク患者を治療開始前に同定し、適切な治療戦略を立てることが喫緊の課題であった。特に、エトポシドの早期導入を伴う治療アームでは、EDが19%、ETDが10%、グレードIVの白血球減少症が51%と極めて高い毒性死亡率が報告されており、EPレジメンと毒性死亡の関連が強く疑われていた。しかし、これまでの研究では、早期死亡の要因をENTDとETDに明確に区別し、それぞれの予測因子を大規模なコホートで詳細に解析した報告は不足していた。また、臨床現場で簡便に利用できる予後予測アルゴリズムの確立も未解明のままであった。例えば、Radford et al. Eur J Cancer 1993は敗血症性合併症の予測因子を同定したが、早期毒性死亡と後期毒性死亡を区別していなかった。さらに、Stephens et al. Lung Cancer 1994も毒性死亡率を分析したが、ETDそのものを直接的に捉えることはなかった。本研究は、これらのギャップを埋めることを目的とし、SCLC患者における早期死亡の発生率、その内訳、および関連する予測因子を詳細に解析し、実用的な予後スコアリングシステムを開発する必要があった。

目的

本研究の目的は、1981年から1991年に実施された2つの連続したランダム化比較試験に登録されたSCLC患者937例の包括的なデータベースを用いて、化学療法初回サイクル中の早期死亡 (ED) の発生率と、その主要な原因である早期非毒性死亡 (ENTD) および早期毒性死亡 (ETD) の予測因子を多変量解析により同定することである。さらに、これらの予測因子に基づいて、臨床実践において簡便かつ効果的に早期死亡リスクの高い患者を識別するための予後スコアリングアルゴリズムを開発し、その有用性を検証することを目的とした。特に、EPレジメン (エトポシドとプラチナ製剤の併用) が早期死亡、特にETDに与える影響を定量的に評価し、その特異的なリスク寄与を明らかにすることも重要な目的の一つである。最終的には、このアルゴリズムが高リスク患者の治療選択、特に高強度化学療法の適応判断に役立つことを示唆する。

結果

早期死亡率の全体像と内訳: 評価可能な937例中、初回化学療法サイクル中の早期死亡は118例 (12.6%) に認められた。死亡原因の内訳は、早期毒性死亡 (ETD) が38例 (4%)、早期非毒性死亡 (ENTD) が80例 (8.6%) であった。早期死亡の大部分は、化学療法開始後第2週、すなわち骨髄抑制が最も深くなる時期に発生した。過去の1976-81年の試験における早期死亡率が3.4%、ETDが1.4%以下であったことと比較すると、本研究のRCTにおける早期死亡率 (ED 12.6%、ETD 4%) は統計学的にも臨床的にも顕著な上昇を示した。特に、エトポシドを早期に導入した先行試験では、EDが19%、ETDが10%、グレードIVの白血球減少症が51%と極めて高い毒性死亡率が記録されており、EPレジメンとの関連が強く示唆されていた。

EPレジメンと毒性死亡の特異的関連: EPレジメン (エトポシドとプラチナ製剤の併用) を含む治療アームでは、非EPアームと比較してETDが有意に増加した (p=0.0002)。ロジスティック回帰分析において、EPレジメンはETDに対する最も強力なリスク因子であり、ハザード比 (HR) は6.66 (95% CI 2.66-16.70, p=0.0001) と著明に高かった。一方、ENTDに対するEPのHRは1.15 (95% CI 0.66-2.00, p=0.6) であり、有意な関連は認められなかった。この結果は、EPレジメンが毒性死亡に特異的に影響することを示唆している (Table 4)。興味深いことに、ETDがより多く発生したEPアームでは、白血球減少の最低値 (nadir) は非EPアームよりも良好な傾向にあった。このことは、毒性死亡の増加が白血球減少の深さだけでなく、好中球減少期間の延長など、複合的な機序による可能性を示唆する。

早期死亡の予測因子 (多変量解析): ロジスティック回帰分析 (Table 4) の結果、早期死亡 (ED) 全体の独立した予測因子は、年齢 (HR 2.21, 95% CI 1.32-3.71, p=0.003)、PS (HR 2.06, 95% CI 1.66-2.56, p<0.00005)、LDH (HR 1.62, 95% CI 1.35-1.95, p<0.00005)、およびEPレジメン (HR 2.32, 95% CI 1.42-3.79, p=0.0008) であった。 早期非毒性死亡 (ENTD) の独立した予測因子は、年齢 (HR 2.58, 95% CI 1.38-4.83, p=0.003)、PS (HR 1.88, 95% CI 1.46-2.42, p<0.00005)、LDH (HR 1.45, 95% CI 1.18-1.78, p=0.0004) であった。進展型病期はHR 1.92であったが、有意差は認められなかった (p=0.07)。 早期毒性死亡 (ETD) の独立した予測因子は、PS (HR 1.86, 95% CI 1.34-2.57, p=0.0002)、LDH (HR 1.59, 95% CI 1.20-2.10, p=0.001)、およびEPレジメン (HR 6.66, 95% CI 2.66-16.70, p=0.0001) であった。年齢および病期はETDの独立した予測因子とはならなかった。 PS 1-2の比較的良好な症例においても、LDH高値、高齢 (≥65歳)、EPレジメンの組み合わせはそれぞれHR 1.7、2.4、5.3とリスクを上昇させ、良好なPSであっても他の因子によってリスクが増大する可能性が示された。転移臓器 (肝、骨髄、脳) は独立した予測因子とならなかった。ETD患者の事前PS分布を見ると、PS 1が27%、PS 2が27%を占め、ETDの50%超が比較的良好なPSの患者で発生していた。ETD患者の年齢中央値は64歳、LDH中央値は860 U/l、肝転移は40%であり、コントロール群 (年齢61歳、LDH 436 U/l、肝転移18%) と比較して有意に高値であった (Table 3)。

予後スコアリングアルゴリズムの構築と検証: ENTDとETD双方のハザードを考慮し、以下の簡便な予後スコア (Table 5) が構築された:

  • PS 3または4: 2点
  • LDHが正常上限の2倍超 (>900 U/l): 1点
  • 年齢65歳以上: 1点 合計スコアが2点以上を「不良予後群」と定義した。この基準により、全体の21% (n=200) が不良予後群に分類され、残りの79% (n=737) が良好予後群に割り当てられた。 不良予後群 (n=200) のメジアン生存期間は133日であり、全患者のメジアン309日 (95% CI 289-329日) と比較して著明に短かった (Figure 2)。2年生存率は4.5%、3年生存率は2.0%と不良であり、特にEPレジメンを受けた不良予後群における早期死亡率は41%に達した。 良好予後群 (n=737) のメジアン生存期間は351日 (95% CI 331-371日) であり、早期死亡を除外した生存解析 (メジアン344日, 95% CI 325-363日) と同等の良好な成績を示した。EPレジメンを受けた良好予後患者の3年生存率は11.4%と、全患者の7.8%を大きく上回った。

早期死亡除外による生存解析への影響: 1985-91年試験では、早期死亡患者を解析から除外すると、EPレジメンの生存優位性がより鮮明になった。全患者での比較 (メジアン生存期間の差1か月, p=0.04) が、良好予後群のみの解析ではメジアン生存期間の差が2か月 (376日 vs 310日, p=0.03) に拡大した。また、1981-85年試験では、EPアームの劣性が早期死亡除外後に消失 (p=0.15) し、EPレジメンによる毒性死亡が試験成績に大きなバイアスをもたらしていたことが確認された (Figure 1)。

考察/結論

本研究は、1981年から1991年に実施された2つの大規模RCTのデータに基づき、SCLC化学療法初回サイクル中の早期死亡率 (12.6%、うち毒性死亡4%) を系統的に定量化し、臨床的に実用的な予後スコアリングアルゴリズムを開発した点で新規性が高い。

先行研究との違い: 最も重要な知見は、EPレジメンが早期毒性死亡 (ETD) のリスクをハザード比 (HR) 6.66 (95% CI 2.66-16.70, p=0.0001) と著明に増大させる一方で、早期非毒性死亡 (ENTD) にはほとんど影響しないという特異性である。これは、Morittu et al. (1989) がエトポシドと毒性死亡の関連を指摘していたものの、ETDとENTDを明確に区別した大規模解析はこれまで報告されておらず、先行研究と対照的な知見である。EPレジメンによる毒性増大は、単に白血球減少の深さだけでは説明できず、好中球減少期間の延長や、肝機能障害によるエトポシド蓄積 (肝転移との相互作用) など、複合的な病態が関与している可能性が考えられる。

新規性: 本研究で初めて、SCLC患者における早期死亡の病態をENTDとETDに分離して各因子の独立的寄与を明確化し、PS、LDH、年齢の3変数のみで構成される簡便なスコアを実装した。Radford et al. Eur J Cancer 1993Stephens et al. Lung Cancer 1994も予後指数を提唱したが、早期毒性と晩期毒性を区別せず、ETDそのものを直接捉えていなかった。本研究のアルゴリズムは、これらの先行研究の課題を克服し、より詳細なリスク層別化を可能にする点で新規性がある。

臨床応用: 本研究で提案されたスコアリングシステムは、臨床現場においてSCLC患者の治療開始前に高リスク患者を識別する上で極めて有用な臨床的意義を持つ。合計スコアが2点以上となる不良予後群 (全体の約21%) は、メジアン生存期間が133日と短く、EPレジメン下での早期死亡率が41%に達するため、高強度化学療法の適応について慎重な再考が必要である。この層の患者には、緩和的アプローチ、減量レジメン、あるいは経口エトポシドへの切り替えなどが選択肢として検討されるべきである。また、PS 1-2の比較的良好な患者であっても、高齢かつ高LDH (スコア2点相当) の場合は標準EPレジメン下で毒性死亡リスクが高く、これらの患者に対する血液学的サーベイランスの強化やG-CSF併用の積極的な検討が推奨される。

残された課題: 本研究の限界として、後ろ向き解析であること、ETDと疾患進行が死亡直前に混在しうる可能性、および1980年代から1990年代の治療レジメン (現在の標準EP療法とは用量、スケジュール、支持療法が異なる可能性) が挙げられる。現代のSCLC診療では、アテゾリズマブやデュルバルマブなどの免疫チェックポイント阻害剤がEP療法に上乗せされており、高リスク患者への免疫療法のリスク・ベネフィットの観点から、本スコアの概念は再評価される余地がある。今後の検討課題として、前向き試験による本アルゴリズムの検証、および現代の治療レジメンにおけるその適用可能性の評価が必要である。しかし、治療開始前にPS、LDH、年齢の3変数で高リスク患者を識別する本アルゴリズムの基本原則は、25年以上を経た現在においても臨床判断の参考枠組みとして有用性を保っていると考えられる。

方法

本研究は、1981年から1985年に実施された試験LU-8109と、1985年から1991年に実施された試験LU-8501という2つのランダム化比較試験に登録されたSCLC患者941例のうち、評価可能な937例を対象とした後ろ向きコホート研究である。これらの試験は、デンマークとスウェーデンの複数の施設で共同実施された。両試験では、PS (Performance Status)、CNS転移、骨髄転移、肝機能検査値などによる患者の除外基準が設けられていなかったため、不良予後因子を持つ患者が比較的多く含まれる「未選択集団」であった。

早期死亡 (ED) は「化学療法開始後4週間 (初回サイクル) 以内の死亡」と定義された。早期毒性死亡 (ETD) は「好中球減少と発熱エピソード中の死亡」とされ、早期非毒性死亡 (ENTD) は「その他 (病勢進行や併存疾患を含む) による死亡」と明確に区別された。好中球減少があっても発熱や感染症の兆候がない患者はENTD群に分類された。

EPレジメン (エポポドフィロトキシンと白金製剤を初回サイクルに投与) の影響を評価するため、EPレジメンの有無を示すダミー変数が作成された。ENTD、ETD、およびED全体に対する予測因子を同定するため、ロジスティック回帰分析が用いられた。説明変数には、病期 (限局型/進展型)、転移臓器 (肝、骨髄、脳)、性別、年齢 (65歳を閾値として二値化)、PS (WHO分類)、LDH (乳酸脱水素酵素)、アルカリホスファターゼ (ALK-P) などの生化学的・血液学的変数、およびEPレジメンへの曝露が含まれた。LDHは正常上限値 (450 U/l) の倍率でカテゴリー化された。

得られたハザード比 (HR) の重み付けに基づき、臨床的に実用的な予後スコアリングアルゴリズムが構築された。このスコアリングシステムを用いて患者をリスク群に分類し、カプランマイヤー法により生存分析を実施し、ログランク検定で群間の統計的有意差を評価した。統計解析にはSPSS (Statistical Package for the Social Sciences) version 6.1.3が使用された。本研究は、特定の臨床試験登録番号 (例: NCT01234567) は付与されていないが、既存のランダム化比較試験のデータを二次解析したものである。