- 著者: JP Sculier, M Paesmans, J Lecomte, O Van Cutsem, JJ Lafitte, T Berghmans, G Koumakis, MC Florin, J Thiriaux, J Michel, V Giner, MC Berchier, P Mommen, V Ninane, J Klastersky (European Lung Cancer Working Party)
- Corresponding author: JP Sculier (Institut Jules Bordet, Brussels, Belgium)
- 雑誌: British Journal of Cancer
- 発行年: 2001
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (Phase III randomised trial)
- PMID: 11720426
背景
進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) は、化学療法に対する高い奏効率を示すにもかかわらず、長期生存率が極めて低い疾患である。5年生存率は10%未満に留まり、限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) のそれに比べて10倍以上低いことが報告されている (Paesmans et al. Cancer 2000)。この厳しい予後を改善するため、様々な治療戦略が試みられてきたが、交互化学療法や逐次化学療法といったアプローチでは有意な生存改善は示されなかった (Johnson, 1999)。胸部放射線療法との併用など一部成功した戦略もあるが (Pignon et al. NEnglJMed 1992; Warde et al. JClinOncol 1992)、多くの治療強化戦略では明確な生存利益は得られていない。
化学療法の強化は、SCLCの生存率向上に向けた有望なアプローチの一つと考えられてきた (Sculier and Klastersky, 1989)。その戦略には、多剤併用、薬剤用量の増量、治療期間の延長、毎週投与、そしてコース間隔の短縮による「加速化学療法 (accelerated chemotherapy)」が含まれる。加速化学療法は、コース間隔を短縮することで用量強度を高め、抗腫瘍効果の増強を目指すものである。しかし、このアプローチは骨髄抑制などの毒性を増強するリスクを伴うため、造血成長因子による支持療法が不可欠となる。
顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) は好中球産生を選択的に刺激し、化学療法後の好中球減少期間を短縮することが示されている (Lieschke and Burgess, 1992a, b)。一方、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF) は好中球、単球、好酸球の産生と機能を刺激し、より多様な血液学的・臨床的効果、特に宿主防御機構の改善が期待される。これらの造血成長因子は、SCLC患者において化学療法誘発性の好中球減少期間を短縮し、発熱性好中球減少症のエピソードを減少させることが複数の研究で示されている (Crawford et al., 1991; Trillet-Lenoir et al., 1993, 1995; Hamm et al., 1994)。また、経口抗菌薬であるコトリモキサゾールも、発熱性好中球減少症の予防に有効であることが2つの無作為化試験で報告されている (de Jongh et al., 1983; Figueredo et al., 1985)。
これらの背景から、European Lung Cancer Working Party (ELCWP) は、先行する複数の無作為化試験の経験に基づき、ED-SCLC患者における加速化学療法の有効性を評価する本第III相試験を設計した。特に、GM-CSFまたは経口抗菌薬による支持療法が、化学療法間隔の短縮と用量強度の増加を通じて、ED-SCLC患者の生存期間を改善できるかという重要な臨床的疑問が未解明であった。これまでの研究では、LD-SCLCにおける加速化学療法の有効性は示唆されていたものの (Arriagada et al., 1993)、ED-SCLCにおける明確なエビデンスは不足しており、本研究はそのギャップを埋めることを目的とした。
目的
本研究の主要目的は、進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者において、EVI (エピルビシン、ビンデシン、イホスファミド) レジメンの標準3週間隔投与 (アームA) と比較して、GM-CSF支持下2週間隔加速投与 (アームB) または経口抗菌薬 (コトリモキサゾール) 支持下2週間隔加速投与 (アームC) が、主要エンドポイントである全生存期間 (OS) に与える効果を検証することである。
副次目的としては、各治療アームにおける奏効率 (ORR)、完全奏効率 (CR)、部分奏効率 (PR) を評価すること、血液毒性および非血液毒性を含む安全性プロファイルを比較すること、そして各アームにおける薬剤の用量強度 (絶対用量強度 (ADI)、相対用量強度 (RDI)、累積投与量) および治療遵守状況を分析することであった。特に、GM-CSFまたはコトリモキサゾールが化学療法間隔の短縮を可能にし、用量強度を増加させることで、生存期間の改善に繋がるか否かを明らかにすることを目指した。本試験は、ED-SCLCにおける加速化学療法の臨床的有用性を評価する第III相無作為化比較試験として実施された。
結果
患者背景と治療遵守状況: 合計243例の患者が登録・無作為化されたが、10例が不適格と判断された。最終的に233例の適格患者が解析対象となり、アームAに78例、アームBに78例、アームCに77例が割り付けられた。3アーム間の患者背景因子 (性別、年齢、Karnofsky PS、病変タイプ、病期、脳転移の有無、体重減少) には有意な差は認められず、良好にバランスが取れていた (Table 1)。患者の84%が男性であり、75%がKarnofsky PS ≥ 80%であった。脳転移を有する患者は20%であった。中央値追跡期間は4.02年 (範囲 0.45-7.49年) であった。治療コースの完遂率にはアーム間で有意差はなかった。3コース完遂率はアームAで82%、アームBで81%、アームCで79%であった。6コース完遂率はそれぞれ51%、60%、52%であった。GM-CSFはアームBの患者の68% (コースの67%) で計画通り投与されたが、倦怠感、体重減少、発疹 (n=17)、持続的白血球減少 (n=2)、合併症 (n=3) により早期中止されたケースも存在した。コトリモキサゾールはアームCの患者の83%で計画通り投与された。治療遅延は加速アームで有意に多く、特にアームCで顕著であった。最初の3コースにおける治療遅延の発生率は、アームAで37%、アームBで58%、アームCで87%であり、アームCが最も高かった (p<0.001)。全6コースでは、それぞれ69%、85%、97%の患者で遅延が発生した (p<0.001)。治療期間中央値はGM-CSF支持アームBで有意に短縮された (p<0.001)。例えば、全6コースの治療期間中央値は、アームAで136日、アームBで109日、アームCで143日であった。
用量強度の分析: 累積投与量に関しては、3アーム間で有意な差は認められなかった (Table 2)。例えば、イホスファミドの総累積投与量は、アームAで28,900 mg/m²、アームBで29,400 mg/m²、アームCで29,200 mg/m²であり、p=0.14であった。しかし、絶対用量強度 (ADI) はアームBで有意に高かった (p<0.001)。イホスファミドのADI (mg/m²/週) は、アームAで1,460、アームBで1,840、アームCで1,530であった。一方、相対用量強度 (RDI) はアームCで有意に低かった (p<0.001)。イホスファミドのRDI (%) は、アームAで87%、アームBで73%、アームCで61%であった。これは、アームCにおける頻繁な治療遅延が原因であると考えられる。
奏効率の評価: 評価可能患者における最良奏効率 (ORR) は、アームAで59%、アームBで76%、アームCで70%であった (Table 3)。アームBのORRはアームAと比較して有意に高かった (p=0.04)。しかし、アームAとアームCの直接比較では有意差はなかった (p=0.17)。ITT (intent-to-treat) 解析における最良ORRは、アームAで58%、アームBで71%、アームCで65%であり、3アーム間全体では有意差は認められなかった (p=0.25)。完全奏効率 (CR) は全体的に低く、アームAで4/76例 (5.3%)、アームBで4/72例 (5.6%)、アームCで4/71例 (5.6%) であった。Minimal residual disease (MRD) は、アームAで6例、アームBで9例、アームCで8例に認められた。奏効持続期間中央値は、アームAで241日 (95% CI 195-287)、アームBで186日 (95% CI 164-206)、アームCで206日 (95% CI 176-236) であり、アーム間に有意差はなかった (p=0.13)。サブグループ解析では、男性においてアームBがアームAより有意に高いORRを示し (77% vs 59%, p=0.05)、女性においてアームCがアームAより高いORRを示した (81% vs 50%, p=0.05) (Table 4)。
全生存期間の比較: 3アーム間で全生存期間 (OS) に統計的有意差は認められなかった (p=0.86) (Figure 1)。中央値生存期間は、アームAで286日 (95% CI 233-349)、アームBで264日 (95% CI 220-308)、アームCで264日 (95% CI 223-305) であった。2年生存率は、アームAで5% (95% CI 0-11%)、アームBで6% (95% CI 0-12%)、アームCで6% (95% CI 0-12%) であった。性別、Karnofsky PS、病変タイプ、体重減少、年齢などのサブグループ解析においても、3アーム間で生存期間に有意な差は認められなかった (Table 4)。
安全性プロファイル (血液毒性・非血液毒性): Grade III-IVの血小板減少は、アームBで45%と、アームAの16%およびアームCの22%と比較して有意に高頻度で発生した (p<0.001) (Table 6)。一方、Grade III-IVの好中球減少の発生率には3アーム間で有意差はなかった (アームA 85%、アームB 84%、アームC 93%、p=0.16)。しかし、初回コースにおける好中球減少の持続期間中央値は、アームBで4日と、アームAの7日およびアームCの7日と比較して有意に短縮された (p<0.001)。感染症に関しては、全グレードの感染症総数はアームBで64件と、アームAの43件、アームCの41件と比較して41%増加した (Table 7)。しかし、重症感染症 (Grade III-IV) の発生率は、アームCでアームAと比較して減少傾向を示した。非血液毒性 (悪心・嘔吐、下痢、口内炎、神経毒性、心毒性、呼吸器毒性、出血など) には、3アーム間で有意差は認められなかった (Table 6)。治療関連死亡は合計12例発生し、アームAで5例、アームBで4例、アームCで3例であり、アーム間に有意差はなかった。
予後因子の多変量解析: 多変量解析により、独立した予後因子として年齢 (HR 1.38, 95% CI 1.03-1.85, p=0.03)、Karnofsky PS (HR 0.62, 95% CI 0.44-0.88, p=0.007)、および好中球数 (HR 1.54, p<0.01) の3因子が特定された。治療アームは生存の独立予後因子ではなかった (Table 5)。
考察/結論
本第III相無作為化試験は、進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者において、GM-CSF支持下での加速化学療法が生存期間の改善には寄与しないことを示した。アームBでは、GM-CSFの併用により絶対用量強度 (ADI) が有意に増加し、評価可能患者における奏効率も標準アームAと比較して有意に高かった (76% vs 59%, p=0.04)。しかし、この奏効率の改善は、中央値生存期間 (アームB 264日 vs アームA 286日, p=0.86) や2年生存率 (アームB 6% vs アームA 5%) の延長には繋がらなかった。この奏効率と生存期間の乖離は、ED-SCLCにおいて奏効率の改善が必ずしも生存利益に直結しないという重要な知見を示唆している。
先行研究との違い: 本研究の結果は、Thatcherら (2000) が報告したG-CSF支持ACEレジメンを用いた研究結果と対照的である。Thatcherらの研究では、主に限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) 患者において、加速化学療法が奏効率と生存期間の両方を改善した。この違いの最も有力な説明は、病期特異性であると考えられる。LD-SCLCでは加速化学療法による用量強度増加が有効である可能性があるが、本研究で対象としたED-SCLCではその効果が認められなかった。これは、ED-SCLCの生物学的特性がより進行しており、用量強度増加による利益が得られにくいことを示唆する。また、本研究のEVIレジメンにシスプラチンやエトポシドが含まれていない点も、先行研究との違いを生んだ可能性として挙げられる。これらの薬剤はメタ解析によりSCLCにおいて最も有効な薬剤として確立されている (Mascaux et al., 2000)。
新規性: 本研究は、ED-SCLC患者に特化してGM-CSFまたは経口抗菌薬を用いた加速化学療法の効果を評価した、数少ない大規模無作為化試験の一つである。特に、コトリモキサゾールによる化学療法加速を試みたアームCの結果は、経口抗菌薬のみでは用量強度を維持した加速化学療法が実現不可能であることを新規に示した。アームCでは、相対用量強度 (RDI) が著明に低下し (61%)、治療遅延が非常に高頻度で発生した (6コースで97%)。これは、造血成長因子なしに化学療法間隔を短縮することの困難さを明確にするものである。一方で、コトリモキサゾールが重症感染症 (Grade III-IV) の発生率を減少させたことは、その感染予防効果を再確認するものであった。
臨床応用: 本研究の結果は、ED-SCLCに対する化学療法加速が、GM-CSF/G-CSF支持下であっても生存利益を示さないことを明確に確認した。この知見は、American Society of Clinical Oncology (ASCO) が2000年に発表した造血コロニー刺激因子 (CSF) の使用に関する勧告、すなわちED-SCLCの標準化学療法に対する予防的CSF投与は推奨されないという内容を支持するものである (Ozer et al., 2000)。したがって、ED-SCLCの日常臨床において、生存期間の延長を目的としたGM-CSF支持下の加速化学療法は推奨されない。
残された課題: 本研究の限界として、二次治療の使用率が高いことが挙げられる。本研究では、100例の患者が二次化学療法を受け、その大部分がプラチナ製剤とエトポシドの併用であった。このような高頻度のサルベージ化学療法が、3アーム間の生存期間の差を均等化し、加速化学療法の潜在的な生存利益をマスクした可能性が残された課題である。また、GM-CSFとG-CSFの選択が結果に影響を与えた可能性も否定できない。GM-CSFはG-CSFと比較して忍容性が低いことが報告されており (Hamm et al., 1994)、本研究でもアームBで非重症感染症の増加と血小板減少の増加が認められた。今後の検討課題として、LD-SCLCやその他の予後良好な患者集団において、加速化学療法の概念をさらに検証する余地がある。また、G-CSFとGM-CSFのどちらが加速化学療法の支持療法としてより適切であるかについても、さらなる比較試験が必要である。
方法
本研究は、European Lung Cancer Working Party (ELCWP) が実施した多施設共同無作為化第III相試験 (NCT番号はなし) であり、ベルギー、フランス、ギリシャ、スペイン、スロバキアの27施設が参加した。患者登録は1993年4月から2000年4月にかけて行われた。
適格基準: 病理学的に証明された進展型小細胞肺癌 (WHO分類に基づく)、未治療、Karnofsky Performance Status (PS) が60以上、年齢75歳未満、適切な血液学的 (白血球数 ≥ 4000/mm³、血小板数 ≥ 100,000/mm³)、腎機能 (血清クレアチニン < 1.5 mg/dL)、肝機能 (血清ビリルビン < 1.5 mg/dL) を有する患者が対象とされた。過去の悪性腫瘍歴は非黒色腫皮膚癌または子宮頸部上皮内癌を除き除外された。
無作為化: 適格患者は、以下の3つの治療アームに1:1:1の比率で無作為に割り付けられた。無作為化は、参加施設、Karnofsky PS (≤70 vs ≥80)、および脳転移の有無によって層別化された。無作為化アルゴリズムには最小化法 (Freedman and White, 1976) が用いられ、中央化されたコンピュータシステムによって管理された。
- アームA (標準群): EVIレジメン (エピルビシン 90 mg/m²、ビンデシン 3 mg/m²、イホスファミド 5 g/m²; 全薬剤をDay 1に静脈内投与) を3週間隔で6コース投与。
- アームB (GM-CSF支持加速群): EVIレジメンを2週間隔で6コース投与。GM-CSF (5 µg/kg/日、皮下注) をDay 3からDay 13まで、または好中球数がnadir後に4000/mm³に達するまで投与。
- アームC (抗菌薬支持加速群): EVIレジメンを2週間隔で6コース投与。コトリモキサゾール (トリメトプリム 160 mg + スルファメトキサゾール 800 mg、1日2回経口) をDay 3から全コース終了まで投与。
治療遅延と用量調整: 加速アーム (BおよびC) では、Day 15時点で好中球数 < 1000/mm³ または血小板数 < 75,000/mm³ の場合、治療を1週間延期した。標準アームでは、好中球nadir < 500/mm³ または血小板nadir < 25,000/mm³ の場合にEVI用量を25%減量し、血液学的回復 (好中球数 > 1500/mm³、血小板数 > 100,000/mm³) がない場合は1週間延期した。2コース間の遅延が5週間を超えた場合、患者は治療中止とされた。
奏効評価: 腫瘍奏効はWHO基準に基づき、最初の3コース終了後および全治療終了後に評価された。3コース後に病勢進行または効果不変の患者は治療中止とされた。完全奏効 (CR) は、全ての病変の消失が4週間以上持続することと定義され、気管支鏡検査やCTスキャンを含む完全な検査での正常化を要件とした。部分奏効 (PR) は、測定可能病変の最大径の積の合計が50%以上減少することと定義された。
エンドポイント: 主要エンドポイントは全生存期間 (OS) であった。副次エンドポイントは奏効率、毒性、および用量強度であった。
統計解析: 生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定され、ログランク検定 (log-rank test) により比較された。群間の割合の比較にはFisherの正確検定またはχ²検定が用いられた。多変量解析にはCox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) が使用された。有意水準はp<0.05とされた。
サンプルサイズ: 本研究は、対照アーム (アームA) の中央値生存期間を30週と仮定し、いずれかの試験アームで75%の相対的生存期間延長を検出するために設計された (α=0.05、β=0.20)。この検出力要件を満たすために、各アーム78例 (合計234例) の適格患者と195例の死亡が必要とされた (Freedman, 1982)。最初の30例登録後に毒性に関する中間解析が実施されたが、生存または奏効に関する中間解析は行われなかった。