- 著者: Aida Y, Nakazawa K, Shiozawa T, Ogawa R, Kiwamoto T, Morishima Y, Sakamoto T, Sekine I, Hizawa N
- Corresponding author: Hizawa N (Department of Respiratory Medicine, University of Tsukuba, Japan)
- 雑誌: Case Reports in Oncology
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-08-06
- Article種別: Case Report / Retrospective Series
- PMID: 31543777
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は肺癌全体の約13%を占め、急速な転移能を持つため、新規診断時には60%以上の患者が広範期で発見される。支持療法単独の場合、これらの患者の予後は極めて不良であり、生存期間中央値はわずか1〜2ヶ月と報告されている Zelen CancerChemotherRep 1973。1960年代にシクロホスファミド単剤療法で有意な生存利益が示されて以来 Green AmJMed 1969、SCLCに対しては良好な全身状態の患者には化学療法が広く用いられてきた。SCLCは白金製剤ベースの化学療法に高い感受性を示すものの、初診時にECOG PS (Performance Status) 3または4と不良なPS状態にある患者に対する化学療法の適応は、治療関連毒性のリスクが高いため、依然として論争的である Lassen et al. BrJCancer 1999。
これまでの研究では、PS不良SCLC患者に対する化学療法の有効性に関して一貫した結果が得られていない。例えば、PS 3患者を対象とした唯一の無作為化第III相試験であるJCOG9702試験では、70歳未満のPS 3患者におけるカルボプラチンとエトポシド併用療法の全生存期間中央値は7.1ヶ月と報告されたが、この試験では70歳以上の高齢患者が除外されており、実臨床における不良PS高齢患者への適用根拠は不足していた Okamoto et al. BrJCancer 2007。また、後方視的解析では、PS 3患者の奏効率が67%で全生存期間中央値が2.1ヶ月、PS 4患者ではそれぞれ20%と7日であったという報告や Baldotto et al. SupportCareCancer 2012、別の研究ではPS 3患者で奏効率75%・全生存期間中央値8.4ヶ月、PS 4患者で40%・4.8ヶ月という報告もあり Sakuragi et al. JpnJClinOncol 1996、結果にばらつきが見られる。これらの研究の多くは化学療法を受けた患者のみを対象としており、支持療法単独と比較したデータは極めて限られていた。
日本の肺癌診療ガイドラインでは、PS 3患者にはプラチナ併用化学療法が推奨される一方、PS 4患者には化学療法を推奨する根拠が不足しているとされている。しかし、米国NCCN/ASCO/ACCPガイドラインでは、PS不良の原因がSCLC自体にある場合にはPS 3と4を区別せず化学療法を推奨しており、国際的な見解にはギャップが存在する。PS不良患者における化学療法の真の利益とリスクを評価し、最適な治療選択肢を確立することは、依然として重要な課題として残されている。
目的
本研究の目的は、初診時にECOG PS 3または4の小細胞肺癌 (SCLC) 患者における最適な治療選択肢を特定するため、化学療法群と支持療法 (BSC: best supportive care) 単独群の臨床経過を後方視的に評価することである。具体的には、化学療法の奏効性、PSの変化、治療毒性、および全生存期間を解析し、PS不良SCLC患者に対する化学療法の有用性を検討する。
結果
患者背景と治療割付: 筑波大学附属病院でSCLCと診断された142例中、初診時にECOG PS 3が12例、PS 4が6例の計18例が解析対象となった。患者の年齢中央値は73歳 (範囲51〜85歳) であり、男性14例 (77.8%)、女性4例 (22.2%) であった。PS 3とPS 4の患者間で、年齢、性別、または腫瘍関連因子に大きな差は認められなかった (Table 1)。治療としては、12例 (66.7%) が化学療法を受け、6例 (33.3%) が支持療法単独で管理された。PS 3の患者のうち2例は重篤な合併症や精神疾患のため化学療法が施行されなかった。化学療法レジメンは、11例でカルボプラチンとエトポシドの併用療法であった。このうち7例は標準用量 (カルボプラチンAUC 5、エトポシド80〜100 mg/m²)、4例は減量投与 (カルボプラチンAUC 4、エトポシド50〜80 mg/m²) であった。1例は高ビリルビン血症と肝転移のためカルボプラチン単剤 (AUC 5) で治療された。初回化学療法のサイクル数は1〜4サイクルで、50%の患者が4サイクルを完遂した。5例で二次化学療法が施行された。
PSの変化と腫瘍奏効率: 化学療法を受けた12例中、7例 (58.3%) でPSの改善が認められた (Figure 1)。これにはPS 4の2例が含まれ、1例はPS 2へ、もう1例はPS 1へと改善した。PS不変は2例 (16.7%)、PS悪化は3例 (25%) であった。化学療法群における客観的奏効率 (ORR) は41.7% (部分奏効5例) であり、病勢安定が3例 (25%)、病勢進行が4例 (33.3%) であった。完全奏効例は認められなかった。PS改善の多くは、化学療法による腫瘍縮小効果に直接起因すると考えられた。
毒性プロファイル: 化学療法におけるGrade 3〜4の血液毒性は高頻度で認められた。Grade 3〜4好中球減少が10例 (83.3%)、Grade 3発熱性好中球減少が5例 (41.7%) に発生した (Table 2)。Grade 3血小板減少は5例 (41.7%)、Grade 4血小板減少は1例 (8.3%) であり、合計6例 (50%) でGrade 3以上の血小板減少を認めた。Grade 3〜4貧血は5例 (41.7%) であった。重篤な非血液毒性 (Grade 4) は認められなかったが、77歳・PS 3の男性患者1例でGrade 5肺毒性 (治療関連死) が発生した。支持療法単独群では、3例が治療開始後4週以内に死亡し、その主な原因は肺癌の進行であった。
全生存期間と治療群間比較: 全18例の全生存期間中央値 (median OS) は4.9ヶ月、6ヶ月生存率は47.9%であった。PS 3 (12例) とPS 4 (6例) の間では、6ヶ月生存率がともに50%であり、有意な生存差は認められなかった (ログランク検定 p = 0.31) (Figure 2)。しかし、治療群間で比較すると、化学療法群 (12例) の6ヶ月生存率は66.7%であったのに対し、支持療法単独群 (6例) の患者は全例が5ヶ月以内に死亡した。この差は統計学的に有意であった (ログランク検定 p = 0.037) (Figure 3)。
考察/結論
本研究は、初診時にPS 3〜4のSCLC患者において、化学療法が支持療法単独と比較して有意な生存利益をもたらすことを後方視的に示した。最も重要な知見は、化学療法を受けた患者の58.3%でPSの改善が認められた点である。これは、PS不良の原因がSCLC自体にある場合、化学療法による腫瘍縮小がPS改善に直接寄与するというメカニズムを強く支持する。
先行研究との違い: これまでの多くの研究 Baldotto et al. SupportCareCancer 2012 Sakuragi et al. JpnJClinOncol 1996 は化学療法を受けたPS不良SCLC患者の奏効率やOSを報告してきたが、支持療法単独群との直接比較は限られていた。本研究は、支持療法単独群が全例5ヶ月以内に死亡したという対照的な結果を示し、PS不良SCLC患者に対する化学療法の積極的な適応評価の重要性を強調する点で、これまでの報告と異なり、より明確なエビデンスを提供する。
新規性: PS 4患者に対する化学療法の有効性に関するデータは極めて乏しかったが、本研究ではPS 4の2例で化学療法によりPSが著しく改善し、生命を脅かす毒性なく4サイクルを完遂できたことを新規に示した。これは、日本のガイドラインがPS 4患者への化学療法を推奨しない現状に対し、PS不良の原因がSCLC自体にある場合にはPS 4患者にも化学療法が有効である可能性を示唆する。
臨床応用: 本研究の結果は、PS 3とPS 4の間に生存差がなかったこと (6ヶ月生存率ともに50%) を踏まえ、PS不良の原因が疾患起因性か合併症起因性かを慎重に見極めることが、治療選択において極めて重要であることを示唆する。この知見は、米国NCCN/ASCO/ACCPガイドラインがPS 3・4を区別せず、不良PSが疾患起因の場合に化学療法を推奨する立場を支持するものであり、臨床現場での治療方針決定に重要な含意を持つ。
残された課題: 本研究は単施設の後方視的解析であり、症例数が18例と少ない点、および化学療法適応患者の選択バイアスが排除できない点がlimitationとして挙げられる。今後の検討課題として、PS 4患者への化学療法適応基準の確立、特にPS悪化原因の客観的な見極め方法の開発が必要である。また、高齢患者における治療関連肺毒性などの重篤な毒性管理の改善、そしてより大規模な前向き無作為化試験によるエビデンスの確立が今後の研究方向性として求められる。
方法
本研究では、2000年4月から2017年5月までの期間に筑波大学附属病院で病理学的にSCLCと診断された患者142例の中から、初診時にECOG PS 3 (12例) またはPS 4 (6例) であった計18例を対象とした後方視的解析を実施した。本研究は筑波大学病院倫理委員会の承認を得て実施された。
患者の医療記録から、病歴、入院時の身体診察所見、病理診断、検査および画像所見、治療レジメンとそれに伴う有害事象/毒性、ECOG PSの治療前後の変化、および臨床経過に関するデータを収集した。腫瘍の治療効果は、WHO (World Health Organization) の奏効基準 World Health Organization 1979 に基づいて評価された。治療毒性は、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 4.0に従って評価された。
全生存期間 (OS) は、病理診断日から患者の死亡日または最終フォローアップ日までと定義された。統計解析にはStatistical Package for Social Sciences (SPSS) Software version 25.0が使用された。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定され、治療群間の比較にはログランク検定 (log-rank test) が用いられた。