• 著者: Jhanelle E. Gray, Rebecca S. Heist, Alexander N. Starodub, D. Ross Camidge, Ebenezer A. Kio, Gregory A. Masters, W. Thomas Purcell, Michael J. Guarino, Jamal Misleh, Charles J. Schneider, Bryan J. Schneider, Allyson Ocean, Tirrell Johnson, Leena Gandhi, Kevin Kalinsky, Ronald Scheff, Wells A. Messersmith, Serengulam V. Govindan, Pius P. Maliakal, Boyd Mudenda, William A. Wegener, Robert M. Sharkey, David M. Goldenberg
  • Corresponding author: Jhanelle E. Gray (H. Lee Moffitt Cancer Center, Tampa, FL); David M. Goldenberg (Immunomedics, Morris Plains, NJ)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-07-05
  • Article種別: Original Article (Phase I/II basket trial SCLC cohort)
  • PMID: 28679770

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約15%を占め、5年生存率は6%と極めて低い予後不良悪性腫瘍である。診断時に約2/3が転移性疾患として発見され、プラチナ+エトポシドによる一次化学療法はORR (objective response rate) 60-75%と初期奏効率は高いものの、ほぼ全例で早期再発し中央値PFS約5.5か月・OS 10か月未満に留まる。

再発後の二次治療として米国で1998年以降唯一承認されているのはトポテカン (topoisomerase-I阻害薬) であり、一次治療感受性例 (前治療終了後3か月以上の奏効) のみを適応とする。OBrien et al. JClinOncol 2006 の第III相試験では支持療法単独との比較でOS改善が示されたが、1347例を対象とした系統的レビューと統合解析では感受性例でのORRは17%・抵抗性例では5%に過ぎず、Grade 3以上の好中球減少は69%に達する毒性プロファイルが問題であった。アミルビシン (amrubicin) も日本国内では2002年承認・第II相試験でmOS 7-12か月と有望な成績を示したが、欧米・豪州での第III相試験ではトポテカンに対してOS改善を示せず (vonPawel et al. JClinOncol 2014)、新規承認には至らなかった。免疫チェックポイント阻害薬では Antonia et al. LancetOncol 2016 がニボルマブ単独でORR 10%、±イピリムマブで19-23%を報告したが、承認には至っていなかった。このように、20年以上にわたり転移性SCLC (mSCLC) に対する二次治療以降の新規承認薬が存在せず、特に一次治療抵抗性例での有効な治療法が手薄であることが gap in knowledge として明確に存在していた。

Trop-2 (trophoblast cell surface antigen 2) はSCLCを含む多くの上皮性腫瘍で高発現する膜貫通型糖蛋白質であり、正常組織での発現は相対的に限定的なことから魅力的なADC標的として注目されていた。SN-38はイリノテカンの活性代謝物でトポテカンと同様のtopoisomerase-I阻害機序を持つが、単剤投与では代謝不安定・毒性のため高用量投与が困難であった。前臨床試験では抗Trop-2抗体にSN-38を結合したADCにより、腫瘍内SN-38デリバリーがイリノテカン単独に比して大幅に改善されることが示されており、ADCとしての腫瘍標的デリバリーによる治療指数改善という仮説が本試験の科学的根拠となった。

目的

転移性SCLC患者に対し、Trop-2標的ヒト化抗体hRS7にSN-38を加水分解性CL2A (carbonate-based hydrolyzable linker) リンカーで結合したADC sacituzumab govitecan (IMMU-132) の安全性・忍容性・最適用量、ならびに再発・難治性mSCLCに対する抗腫瘍活性を評価すること。

結果

患者背景とITT集団の構成:53例が登録され、年齢中央値63歳 (範囲44-82歳)、女性56% (n=30)、ECOG PS 1が89% (n=47) であった (Table 1)。前治療ライン数中央値2 (範囲1-7)、プラチナ+エトポシドは全例 (100%) が施行済みで、トポテカンおよびイリノテカン施行歴34% (n=18)、タキサン17% (n=9)、免疫チェックポイント阻害薬9% (n=5)。一次化学療法感受性例51% (n=27)・抵抗性例49% (n=26)。転移部位はリンパ節76%、肺66%、肝臓59%、胸部34%、副腎25%、骨23%と多臓器にわたる広汎な病変分布であった。ITT解析集団はプロトコール違反3例 (脳転移事前未診断2例、NSCLC/SCLC混合組織1例) を除いた50例とし、うち43例が2回以上投与かつCT評価実施の評価可能例であった。投与を受けずに脱落した7例は、cycle 1中の無関係な有害事象・同意撤回・病勢進行 (各1例) を含む。

全体奏効率と腫瘍縮小効果:CT評価可能な43例のウォーターフォールプロット (Fig 1A) では26例 (60%) が基準値からの腫瘍径縮小を示した。ITT集団 (N=50) でのORRは14% (PR 7例/50例)。投与量別では10 mg/kg群 (n=36) vs 8 mg/kg群 (n=14) の比較でORR 17% vs 7%、CBR (clinical benefit rate; PR+SD≥4か月) 39% vs 21%と高用量群の優位性が示された (Table 3)。奏効までの時間中央値は2.0か月 (範囲1.8-3.6か月)。Kaplan-Meier推定によるDOR中央値は5.7か月 (95% CI 3.6-19.9) で、試験カットオフ時点で2例が7.2か月・8.7か月にわたり奏効継続中であった (Fig 1B)。最良奏効SD (stable disease) は21例 (42%) に認められ、うち6例が単回CTで30%超の腫瘍縮小を示したが次回CTで確認されなかった。SDのDOR中央値は5.6か月 (95% CI 5.2-9.7)。ITT集団全体のCBR (PR+SD≥4か月) は34% (17/50) であった。

PFS・OS・化学療法感受性別サブグループ解析:ITT集団 (N=50) でのmPFS 3.7か月 (95% CI 2.1-4.3)、mOS 7.5か月 (95% CI 6.2-8.8) を達成した (Fig 2)。PR達成7例のmPFS 7.9か月・mOS 9.2か月と、SD≥4か月達成10例のmPFS 5.6か月・mOS 8.3か月の間に統計的有意差はなく (OS P=0.56)、確認されない30%超の腫瘍縮小を含む疾患安定化が持続的な臨床的恩恵をもたらすことが示唆された (Fig 1C)。化学療法感受性別のサブグループ解析 (Table 3) では、感受性例 (n=24) vs 抵抗性例 (n=19) の比較でORR 17% vs 16%、mPFS 3.8か月 (95% CI 2.8-6.0) vs 3.6か月 (95% CI 1.8-3.8)、mOS 8.3か月 (95% CI 7.0-13.2) vs 6.2か月 (95% CI 4.0-10.5) と統計的有意差なし (NS; not significant)。sacituzumab govitecanは一次化学療法感受性・抵抗性を問わず同等の抗腫瘍活性を示した。治療ライン別では二次治療投与群 (n=19) でORR 16%・CBR 37%・mOS 8.1か月 (95% CI 7.5-10.5) に対し、三次以降投与群 (n=24) でORR 17%・CBR 38%・mOS 7.0か月 (95% CI 6.2-20.9) と治療ライン数を超えた持続的活性が確認された。

事前トポテカン投与例での生存期間改善シグナル:43例の評価可能集団のうち、三次治療以降でtopoisomerase-I阻害薬 (topotecan・irinotecan) の前投与歴を有するサブグループ (n=15) と非投与群 (n=9) を比較すると、mOSが8.8か月 (95% CI 6.2-20.9) vs 5.5か月 (95% CI 3.2-8.3) とトポテカン前投与群で統計的有意に高く (P=0.04、Table 3)、15例中7例がサイズ縮小を示し2例でPRを達成した。これは、トポテカンと同様のtopoisomerase-I阻害機序を持つSN-38をADCとして腫瘍標的デリバリーすることで交差耐性を克服しうる可能性を示唆する。また、免疫チェックポイント阻害薬前投与4例中3例がSD (うち1例は54%の腫瘍縮小を示した後に同意撤回) を達成しており、免疫療法後進行例に対する活性も示された。

安全性プロファイルと投与管理:合計595回以上の投与 (295サイクル以上、患者あたり中央値10回、治療期間中央値2.5か月、範囲1-23か月) が実施され、治療関連死はゼロであった (Table 2)。Grade 3以上の主要有害事象は好中球減少18例 (34%)、疲労7例 (13%)、下痢5例 (9%)、貧血3例 (6%)、低酸素血症2例 (4%) であった。Grade 3以上の好中球減少は34%に発生したが、発熱性好中球減少症は1例 (2%) のみであり、トポテカンの系統的レビューで報告された好中球減少69%・発熱性好中球減少関連死2%と比較して著しく良好なプロファイルであった。G-CSF支持療法が10例 (5例は1回のみ) に使用されたが全例Grade 3発生後に限定的に使用されており、好中球減少率の過小評価は生じていない。用量減量は18例 (10 mg/kg群15例、8 mg/kg群3例) に実施し、一度減量後の追加減量は少数例に留まった。注射関連反応はゼロで、最長22か月投与例を含む全患者でsacituzumab govitecan・hRS7抗体・SN-38に対する中和抗体は未検出であった。

Trop-2腫瘍発現と患者選択への示唆:入手可能な腫瘍検体29例中25例が評価可能で、92% (23/25例) がTrop-2陽性 (IHCスコア1+以上)、うち中等度陽性2+ 52% (13例)・強陽性3+ 8% (2例)であった (Fig 3のIHC染色結果を参照)。ただし、IHCスコアと奏効の間に統計的有意な相関は認められず (PFS P=0.27、OS P=0.72)、患者選択にIHCを必要としない現実的な投与設計を支持した。SCLC患者の92%がTrop-2陽性であるという知見は、広い患者集団を治療対象とし得ることを意味する。

考察/結論

本試験は転移性SCLCに対するTrop-2標的ADC sacituzumab govitecanの抗腫瘍活性と安全性を初めて臨床的に実証した重要なエビデンスである。ITT解析でのORR 14% (10 mg/kg群17%)・mDOR 5.7か月・mOS 7.5か月という成績は、1998年のトポテカン承認以降20年間にわたり新規承認薬が存在しなかったmSCLCの治療開発に有意義な知見を提供する。

本研究と既報のパターンとは大きく相違する重要な点として、化学療法感受性・抵抗性の別を問わずORR 17% vs 16%と同等の活性を示したことが挙げられる。これは対照的に、トポテカンが感受性例でのみ保険適応を有し、1000例超のメタ解析において抵抗性例ではORR 5%に留まるという既報と根本的に異なるパターンである。また、topoisomerase-I阻害薬であるトポテカンやイリノテカンの前投与後にも活性が維持され、むしろ生存期間の改善傾向 (mOS 8.8 vs 5.5か月、P=0.04) が認められた点は本研究で初めて示唆されたADCによる耐性克服の可能性であり、ADCとしての腫瘍内高濃度SN-38デリバリーが遊離薬剤とは異なる薬理学的特性をもたらすことを示している。

臨床的意義の観点では、Trop-2 IHCによる患者選択が不要でSCLCの92%が治療対象となりうる点は、臨床現場での実用性という面で従来薬に対する明確な優位性である。発熱性好中球減少症2%という安全性プロファイルも、トポテカンと比較してより管理しやすく、bench-to-bedside的な開発の実現可能性を高める。なお、本薬剤はその後トリプルネガティブ乳癌においてTRODELVY (sacituzumab govitecan, FDA-approved trade name) として2020年にFDA迅速承認を取得し、尿路上皮癌 (2021年FDA承認) での有効性も実証されており、SCLCへの応用拡大に向けたさらなる試験の科学的根拠が強化されている。

残された課題として、単群試験であることから無作為化比較試験による検証が不可欠であり、本試験のサブグループ解析はいずれも症例数が限られており確定的な結論を導けない limitation がある。二次治療に絞った有効性確認、化学療法感受性/抵抗性での活性差の有無の確定、Trop-2 IHCスコアと臨床転帰の相関の精密化、さらに現在の標準一次治療 (プラチナ+エトポシド+免疫チェックポイント阻害薬) 後の二次治療としての有効性評価が今後の検討の核心的課題となる。SCLCの分子サブタイプ (ASCL1/NEUROD1/POU2F3/YAP1) 別の感受性差の探索、UGT1A1多型に基づく毒性個別化戦略の確立、免疫チェックポイント阻害薬や他のADCとの最適な組み合わせ療法の開発も future research として重要である。本試験の結果は無作為化第III相試験における本剤のSCLC適応確立に向けた強力な根拠を提供するものである。

方法

多施設単群第I/II相試験IMMU-132-01 (NCT01631552) のmSCLCコホートを対象とした。2013年11月から2016年6月の間に53例を登録。適格基準は18歳以上、組織学的にmSCLCと診断、標準化学療法を少なくとも1ライン施行後に再発または難治性、ECOG PS (performance status) 0-1、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) version 1.1による測定可能病変を有すること、骨髄・肝・腎機能が十分であること。直前治療終了から少なくとも2週間以上の間隔を要件とした。

Sacituzumab govitecanを8 mg/kgまたは10 mg/kg静注 (day 1、day 8、21日サイクル) で投与した。初回投与速度50 mg/hから漸増し3時間以内に完了、以降は60-90分で投与。前投薬 (diphenhydramine、アセトアミノフェン、デキサメタゾン) はオプション処方。毒性管理はG-CSF (granulocyte colony-stimulating factor) 支持療法、用量遅延、25%用量減量の規定により行った。

主要評価項目は安全性とORR (RECIST 1.1、4-6週以内のCT確認要)。副次評価項目はDOR (duration of response)、PFS (progression-free survival)、OS (overall survival)。統計解析はKaplan-Meier法 (MedCalc version 16.4.3) による生存期間推定と95%信頼区間算出を実施。ITT (intention-to-treat) 集団 (n=50) と評価可能集団 (n=43; 2回以上投与かつ初回CT評価あり) の両方で有効性を解析。プロトコール規定としてORR≥15%を臨床的意義ありの閾値とした。追加検討として腫瘍Trop-2 IHC (immunohistochemistry; 陽性定義≥10%腫瘍細胞が1+/2+/3+染色) と免疫原性検査 (ELISA法、ADCおよびIgG感度50 ng/mL、抗SN-38抗体感度170 ng/mL) を実施した。