• 著者: Marta Pelayo Alvarez, Virginie Westeel, Marcela Cortes-Jofre, Xavier Bonfill Cosp
  • Corresponding author: Marta Pelayo Alvarez (Unidad de Investigación, Dirección de Atención Primaria Palencia, Palencia, Spain)
  • 雑誌: Cochrane Database of Systematic Reviews
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-11-26
  • Article種別: Systematic Review
  • PMID: 24282143

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約15%を占め、診断時に約60〜70%の患者が進展型 (ED-SCLC) である。未治療のSCLCは診断後2〜3ヶ月で致死的であり、1年以上の生存は稀である。進展型SCLCの生存期間中央値は8〜10ヶ月、5年生存率は2〜5%と予後不良である。SCLCは高い化学療法感受性を示すが、治療による恩恵と毒性のバランスを見極める必要がある。過去30年以上にわたり、併用化学療法 (例: etoposide+platinum、ifosfamide含有レジメン) が治療の主軸であったが、その生存期間延長効果は限定的であり、中央値でわずか2ヶ月程度の延長に留まっていると報告されている Chutte et al. JClinOncol 1999

近年、緩和ケアや最善の支持療法 (BSC) の役割が再評価されており、特に高齢者や不良な全身状態 (PS) の患者における化学療法の正味の利益は未解明であった。例えば、70歳以上のSCLC患者が約32%を占め、80歳以上では約10%に達するとされるが、これらの高齢患者における化学療法の効果と毒性のバランスは十分に確立されていない Owonikoko et al. JClinOncol 2007。また、患者の多くは化学療法の効果について不正確な期待を抱いている可能性も指摘されている Weeks et al. NEnglJMed 2012。このような状況下で、化学療法の限られた利益と毒性のリスク、そして疾患の不良な予後について、患者が正確かつ理解しやすい情報を受け取ることが重要である。

本Cochraneレビューは、1998年に初版、2000年に第2版が公表されており、2013年版は二次治療のエビデンス (topotecan、picoplatin試験) を含めて更新された第3版である。この更新は、進展型SCLC患者における化学療法とBSCの比較に関するエビデンスの質と適用可能性を再評価し、特に不良な予後因子を持つ患者群における治療の意思決定を支援することを目的としている。これまでの研究では、プラチナ製剤ベースの化学療法が完全奏効率を増加させるものの、非プラチナ製剤化学療法と比較して生存期間に有意な差は認められていないという報告もある Amarasena et al. Cochrane 2008。しかし、BSCとの直接比較に関する質の高いエビデンスは不足しており、このギャップを埋めることが本レビューの重要な課題であった。特に、現代の標準治療であるプラチナ併用化学療法とBSCを直接比較したランダム化比較試験は倫理的な理由から実施が困難であり、そのエビデンスは未確立な状態が続いている。

目的

本レビューの目的は以下の3点である。 (1) 進展型SCLC患者において、一次化学療法とプラセボまたは最善の支持療法 (BSC) を比較し、全生存期間、有害事象、およびQOLへの影響を評価すること。特に、化学療法が生存期間を延長する可能性と、それに伴う毒性のバランスを明確にすることを目指した。 (2) 一次化学療法後に再発または進行した進展型SCLC患者において、二次化学療法とBSCまたはプラセボを比較し、全生存期間、有害事象、およびQOLへの影響を評価すること。再発・進行後の治療選択肢に関するエビデンスを強化することが重要である。 (3) 上記の評価結果に基づき、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) アプローチを用いてエビデンスの質を格付けすること。特に、高齢者、女性、不良な全身状態 (PS) の患者など、特定のサブグループにおける化学療法の利益とリスクのバランスを評価することも目的とした。これにより、個別化された治療戦略の策定に資する情報を提供することを意図した。

結果

本レビューでは、進展型SCLC患者に対する化学療法とBSCを比較した合計5つのRCTが組み入れられた。一次化学療法に関する2試験 (Kokron 1977b, Kokron 1982) と、二次化学療法に関する3試験 (Spiro 1989, OBrien et al. JClinOncol 2006, Ciuleanu 2010) である (Figure 1)。

一次化学療法における全生存期間 (2試験、88例): 1970年代に実施された2つの小規模試験が組み入れられた。これらの試験では、ifosfamide単剤をプラセボまたはBSCと比較した。Kokron 1977bでは、ifosfamide群でBSC群に対し平均79日間の生存延長を認めた。Kokron 1982では、ifosfamide単剤群でBSC群に対し平均78日間の生存延長 (p=0.01)、ifosfamide+CCNU (chloroethyl-cyclohexyl-nitrosourea) 群で平均66日間の生存延長 (p=0.01) が認められた。ifosfamide単剤群とifosfamide+CCNU群の間では、ifosfamide単剤群が平均12日間長く生存したが、統計的有意差はなかった (p=0.05)。これらの試験は男性患者、70歳未満、良好なPSの患者を対象としていた。エビデンスの質はGRADEで「非常に低い (very low quality) 」と格付けされた (試験の年代が古く、現代の標準治療であるプラチナ併用療法を反映しない、症例数が極めて小さい、バイアスリスクが高い等) (Summary of findings for the main comparison)。

一次化学療法における奏効率と毒性: Kokron 1977bでは、ifosfamide群で8例 (47%) が部分奏効を示したが、対照群では奏効は認められなかった。Kokron 1982では、ifosfamide群で1例が完全奏効、9例が部分奏効、ifosfamide+CCNU群で7例が部分奏効を示した。これらのデータは限局型と進展型の両患者を含むものであった。毒性に関しては、化学療法群では骨髄抑制、悪心、脱毛などの毒性が認められたが、BSC群では毒性は報告されなかった。Kokron 1977bではifosfamide群の6例 (94.1%) で血液毒性が報告された。QOLは治療開始時点のみで評価され、経時的変化のデータは得られなかった。活動レベルを評価する簡易スケールが用いられたが、その妥当性は不明であった。

二次化学療法における全生存期間 (3試験、932例): 一次治療後に再発・進行した患者に対する3つの第III相RCTが組み入れられた。Spiro 1989のmethotrexate-doxorubicin試験 (n=616) では、一次治療で4サイクルのみ受けた群で二次治療としてmethotrexate-doxorubicinを追加することで生存中央値がBSC群に対し約63日延長した (p<0.001)。一方、8サイクル受けた群では延長は21日にとどまった (p=0.160)。OBrien et al. JClinOncol 2006のtopotecan試験 (n=141) では、topotecan群の生存中央値はBSC群より84日延長し、全生存期間の調整ハザード比 (HR) は0.61 (95% CI 0.43-0.87, log-rank p=0.01) であった。Ciuleanu 2010のpicoplatin試験 (n=401) では、生存中央値は約6日延長したが、HR 0.82 (95% CI 0.65-1.03, p=0.0895) と統計的有意差には達しなかった。ただし、BSC群の26%がクロスオーバーで化学療法を受けていたことが結果希釈の要因と考えられた。

二次化学療法におけるTopotecan+Picoplatinのメタアナリシス: OBrien et al. JClinOncol 2006とCiuleanu 2010の2試験をプール解析した結果、二次化学療法のBSCに対する生存優越性はHR 0.73 (95% CI 0.55-0.96, p=0.03) と統計学的有意性を示した (Figure 4)。異質性は中程度 (I²=47%) であった。GRADEによるエビデンスの質は「低い (low quality) 」と評価された (Summary of findings 2)。6ヶ月生存率はBSC群で26%、topotecan群で49%であった。1年生存率はBSC群で13%、topotecan群で19%であった。2年生存率はBSC群で3%、topotecan群で9%であった。

二次化学療法における奏効率、QOL、および安全性: 奏効率はmethotrexate-doxorubicin群で22.3%、topotecan群で7% (95% CI 2.33-15.67) であった。Picoplatin試験では奏効率のデータは提供されなかった。QOLに関しては、OBrien et al. JClinOncol 2006では、topotecan群で呼吸困難、倦怠感、食欲不振、胸痛などの主要症状のスコアが改善し、EQ-5D (EuroQol-5 Dimensions Health) 質問票の悪化率も有意に低かった (0.15, 95% CI 0.05-0.25)。PSA (Patient Self Assessment) 質問票では、息切れ (RR 2.18, 95% CI 1.09-4.38)、睡眠障害 (RR 2.16, 95% CI 1.15-4.06)、倦怠感 (RR 2.29, 95% CI 1.25-4.19) のリスク比が有意に改善した。Picoplatin試験ではQOL改善は明確でなかった。エビデンスの質は「低い」。安全性については、化学療法群では全試験でGrade 3-4の血液毒性 (好中球減少、血小板減少、貧血)、悪心・嘔吐、倦怠感、感染症、治療関連死亡が増加した (GRADE「中等度」)。topotecan群では6%の毒性死が報告された。

サブグループ解析とバイアスリスク: 高齢者 (70歳以上)、女性、不良PS (ECOG 2以上)、refractory relapse、感受性再発などのサブグループにおける効果差を検証するデータが不足しており、サブグループ解析は限定的であった。OBrien et al. JClinOncol 2006では、治療フリー期間が60日以下の患者、PS 2の患者、女性、肝転移のある患者のサブグループで生存差が維持されたが、これらのサブグループ解析は検出力不足であった。Ciuleanu 2010では、二次化学療法を後続で受けなかった患者群、および一次化学療法後45日以内に再発・難治性となった患者群において、picoplatin群で有意な生存期間延長が観察された。組み入れられた研究のほとんどでバイアスリスクが不明または高いと評価された (Figure 2, Figure 3)。特に、ランダムシーケンス生成と割り付けの隠蔽化において、多くの研究で不明なリスクが示された。

考察/結論

本Cochraneレビューは、進展型SCLCに対する化学療法とBSCの直接比較に関するエビデンスが極めて限られていることを明らかにした。一次化学療法については、1970年代の小規模試験 (イホスファミド、計88例) から数ヶ月の生存延長が示唆されるものの、エビデンスの質は「非常に低い」と評価された。現代の標準治療であるプラチナ+エトポシド (PE) 療法の対プラセボ/BSC比較は倫理的に実施困難であり、本レビューの一次治療エビデンスはPE療法の現代臨床実装には直接適用できない。

先行研究との違い: これまでのレビューでは、進展型SCLCに対する化学療法の有効性に関する包括的なエビデンスの質的評価が不足していた。本レビューは、一次・二次化学療法それぞれについて、個々の試験結果とメタアナリシス結果を統合し、GRADEアプローチを用いてエビデンスの質を明確に格付けした点で、先行研究と異なる。特に、二次治療におけるトポテカンとピコプラチンのメタアナリシスは、生存期間延長効果を統計学的に有意に示した点で、重要な知見である。

新規性: 本研究で初めて、二次化学療法としてトポテカンとピコプラチンをプール解析し、BSCに対する有意な全生存期間延長効果 (HR 0.73, 95% CI 0.55-0.96, p=0.03) を示した。これは、二次治療における化学療法の役割を裏付ける新規なエビデンスである。また、トポテカンがQOLと症状緩和に寄与する可能性も示唆された。

臨床応用: 本知見は、進展型SCLC患者の治療選択において重要な臨床的含意を持つ。一次治療としてプラチナ併用化学療法は現代の標準治療として継続支持されるが、その直接的なBSCとの比較エビデンスは限定的である。二次治療としては、トポテカン (経口・静注) は症状緩和と生存延長の両面で妥当な選択肢となり得る。ピコプラチンは日常臨床で広く推奨されるものではないが、特定の選択基準に適合する患者では考慮可能である。患者には、化学療法の限られた利益と毒性のリスク、そして疾患の不良な予後について、正確かつ理解しやすい方法で説明する必要がある。

残された課題: 今後の検討課題として、高齢者、不良PS患者、フレイル患者など脆弱集団におけるBSCと化学療法の比較試験が強く求められる。これらの患者群における化学療法の正味の利益とQOLへの影響は依然として未解明である。また、免疫チェックポイント阻害薬単剤のBSCとの比較、QOLを主要評価項目とした患者中心アウトカム試験、緩和ケアの早期導入がSCLC患者に与える効果の検証も今後の研究方向性として挙げられる。本レビューのlimitationは、組み入れられた研究数が少なく、多くの試験でバイアスリスクが不明または高いこと、そしてQOL評価が限定的であった点である。特に、Ciuleanu 2010試験は学会抄録のみで発表されており、詳細なデータやバイアスリスク評価が困難であった。さらに、製薬会社による資金提供が研究結果に影響を与えている可能性も指摘されており、今後の研究では透明性の確保が求められる。

方法

本Cochraneシステマティックレビューは、Cochraneシステマティックレビューの標準手法に従って実施された。 検索戦略: MEDLINE (1966年〜2013年10月)、EMBASE (1974年〜2013年10月)、およびCochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) (2012年Issue 3) を系統的に検索した。また、関連学会抄録 (ASCO、ESMO、IASLC) のハンドサーチ、および専門家へのコンタクトを通じて未発表試験の同定も試みた。製薬会社にも未発表試験に関する情報提供を依頼した。言語制限は設けなかった。 組み入れ基準: 組織学的に確診された進展型SCLC患者を対象とし、化学療法とプラセボまたはBSCを比較する第III相ランダム化比較試験 (RCT) を組み入れた。患者は成人であり、一次治療または二次治療として化学療法を受けているものとした。 除外基準: 限局型SCLC、化学療法同士の比較、放射線療法単独または化学放射線療法関連試験は除外した。 データ抽出とバイアスリスク評価: 2名の評価者が独立してスクリーニング、データ抽出、バイアスリスク評価 (Cochrane Risk of Bias Tool) を実施した。意見の相違は第3者との議論により解決した。バイアスリスクは、選択バイアス (ランダムシーケンス生成、割り付けの隠蔽化)、実施バイアス (参加者と担当者の盲検化)、検出バイアス (アウトカム評価者の盲検化)、消耗バイアス (不完全なアウトカムデータ)、報告バイアス (選択的報告) の各ドメインで評価された。 アウトカム: 主要アウトカムは全生存期間 (ハザード比または中央値/平均値と信頼区間) とし、副次アウトカムは6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月生存率、奏効率 (完全奏効、部分奏効)、毒性 (毒性死、Grade 3-4有害事象)、およびQOLとした。QOL評価には、O’Brien 2006試験でPatient Self Assessment (PSA) 質問票とEuroQol-5 Dimensions Health (EQ-5D) 質問票が使用された。 統計解析: 一次治療と二次治療は別々に解析した。メタアナリシスが可能な場合は、Review Manager (RevMan 5.2) を用いてハザード比 (HR) とその95%信頼区間 (CI) を算出した。研究間の臨床的および方法論的異質性を考慮し、逆分散法とランダム効果モデル (Der Simonian and Laird法) を使用した。異質性はI²統計量で評価した (I² < 25%を低異質性、I² > 75%を高異質性とした)。欠測データは利用可能なデータのみで解析し、その潜在的影響は考察で議論した。統計解析にはKaplan-Meier法も一部の試験で用いられた。 エビデンスの質: エビデンスの質はGRADE基準に基づき、「高」「中」「低」「非常に低」の4段階で評価した。