• 著者: Kenmotsu H, Goto K, Kubota K, Ohmatsu H, Niho S, Yoh K, Saijo N, Nishiwaki Y
  • Corresponding author: Goto K (National Cancer Center Hospital East, Japan)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology (2008 ASCO Annual Meeting Abstract)
  • 発行年: 2008
  • Epub日: 2008-05-20
  • Article種別: Meeting Abstract (後方視的解析、ASCO 2008)
  • DOI: 10.1200/jco.2008.26.15_suppl.19123

背景

ECOG performance status (PS) 3〜4という不良な全身状態の小細胞肺癌 (SCLC) 患者に対する化学療法の有効性および安全性に関するエビデンスは非常に乏しい状況であった。この集団を対象とした前向き試験はほとんど行われてこなかったのが実情である。PS不良患者では、化学療法による重篤な骨髄毒性、感染症、臓器障害のリスクが著しく高く、治療関連死亡の懸念から多くの臨床医が化学療法の適応に対して消極的であった。標準的なSCLCのランダム化比較試験では、PS 0〜2が適格基準として設定されることが多く、PS 3〜4の患者は系統的に除外されてきた。そのため、この重要な患者群に対する治療戦略は未確立であり、経験的治療に依存する傾向が強かった。

一方で、SCLCは化学療法への高い感受性を持つ腫瘍であり、PS不良であっても適切な患者選択のもとで化学療法を施行することにより、奏効やPS改善が得られる可能性が示唆されていた。特に限局型SCLC (LD) は、PS不良であっても根治を目指した化学放射線療法の恩恵を受ける可能性があり、より正確な予後予測因子の同定が治療方針決定に必要とされていた。しかし、PS不良患者における化学療法の具体的な効果や、治療の恩恵を受けやすい患者群を特定するためのバイオマーカーや臨床的因子の同定は、これまで十分に行われてこなかった点が課題として残されていた。

本研究は、国立がんセンター東病院での1992年から2007年までの15年間の実臨床経験に基づき、PS 3〜4のSCLC患者48例の予後と化学療法の有効性を後方視的に解析した。これにより、PS不良SCLC患者における化学療法の臨床的意義を明らかにし、治療選択の指針となる予後因子を同定することを目的とした。特に、PS不良患者における化学療法の安全性と有効性のバランスに関する知識のギャップを埋めることが期待された。

目的

ECOG PS 3〜4のSCLC患者における化学療法の有効性 (全奏効率 [ORR]、PS改善率) と毒性を後方視的に評価すること。さらに、全生存期間 (OS) 延長およびPS改善に関連する臨床的予後因子を同定し、PS不良SCLC患者に対する集学的化学療法の適応基準を確立することを目指した。本研究は、PS不良患者における化学療法の意義を明確にし、治療選択の意思決定を支援する実践的な情報を提供することを目的とした。

結果

全体的治療成績: ECOG PS 3〜4のSCLC患者48例における化学療法の全体奏効率 (ORR) は58%であった。これは、PS良好集団での標準化学療法のORR 60〜70%と遜色ない数値であり、PS不良であってもSCLCの化学療法感受性が基本的に保持されていることを示唆する。中央生存期間 (MST) は3.6ヶ月であり、PS 0〜2集団のMST (carboplatin + etoposide: 9〜12ヶ月) と比較して著しく短かった。PS改善率 (2段階以上の改善) は48% (n=23) であった。この結果は、PS 3〜4という極めて不良な全身状態にもかかわらず、約半数の患者で有意なPS改善が達成されたことを示しており、SCLCの化学療法感受性の高さを反映した重要な所見である。ORR 58%という高い奏効にもかかわらずMSTが3.6ヶ月にとどまる乖離は、奏効後の再発が急速に起こるSCLCの生物学的特性と、PS不良患者では化学療法後の回復力が低く生存への変換効率が低いことを反映していると考えられる。

血清アルブミン値による予後層別化: 血清アルブミン値は、PS不良SCLC患者の予後を予測する最も強力な独立予後因子として同定された。血清アルブミン値が>3.0 g/dLの患者群では、中央生存期間が5.5ヶ月であったのに対し、≤3.0 g/dLの患者群では1.6ヶ月と有意差を認めた (p<0.01)。これは約3.4倍の生存期間差に相当する。PS改善率もアルブミン>3.0 g/dL群で59%であったのに対し、≤3.0 g/dL群では21%と有意に良好であった (p=0.02)。この結果は、血清アルブミン値が生存期間とPS改善の双方を予測する上で極めて有用であることを示している。アルブミン値が≤3.0 g/dLの患者では、化学療法を施行しても中央生存期間が1.6ヶ月と極めて短く、最良支持療法 (BSC) と本質的に変わらない可能性があることを示唆する。

血小板数および病期による追加予後因子: 血小板数も全生存期間と有意に相関する予後因子であった。血小板数≥1.0 × 10⁹/μLの患者群は、全生存期間が有意に良好であった (p<0.01)。血小板減少は骨髄機能低下の指標であり、化学療法の忍容性が著しく低下することを示唆する。また、限局型疾患 (LD, n=12) の患者群は、進展型疾患 (ED, n=36) の患者群と比較して有意に生存期間が長かった (p<0.01)。これは、化学放射線療法が適応となりうるLDでは、PS不良例においても根治的治療の余地があることを示している。これらの3因子 (血清アルブミン>3.0 g/dL、血小板数≥1.0 × 10⁹/μL、限局型疾患) のうち少なくとも1つを有する患者は、積極的化学療法の候補として同定された。

有害事象と早期死亡: 化学療法による有害事象として、Grade 3/4の好中球減少が65%、Grade 3/4の血小板減少が40%、発熱性好中球減少が42%と高頻度に観察された。これらの骨髄毒性は、PS良好集団での化学療法後の発熱性好中球減少 (約10〜20%) を大きく上回るものであり、PS不良集団での骨髄予備能の低さを示している。特に、化学療法開始後1ヶ月以内の早期死亡が13例 (27.1%) に認められた。この高い早期死亡率は、PS 3〜4患者への化学療法が高リスクであることを示すとともに、高頻度で認められた発熱性好中球減少 (42%) や血小板減少 (40%) がその主要な原因である可能性を示唆する。この発熱性好中球減少の高率は、G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子) 予防投与の積極的実施が現代では標準的となっていることの根拠の一つとなっている。

考察/結論

本後方視的解析は、ECOG PS 3〜4という不良な全身状態のSCLC患者群が、化学療法により48%でPS改善を達成できる一方、中央生存期間3.6ヶ月という全体予後の不良さと、27%という高い早期死亡率という二面性を持つことを示した。この結果は、PS不良SCLC患者に対する化学療法の施行が、リスクとベネフィットの慎重なバランス評価を必要とすることを改めて強調する実臨床データである。

新規性: 本研究で初めて、PS 3〜4のSCLC患者において、血清アルブミン値、血小板数、および病期が予後を予測する重要な因子であることを明確に同定した。特に、血清アルブミン>3.0 g/dL (MST 5.5 vs 1.6ヶ月、p<0.01、PS改善率59% vs 21%、p=0.02)、血小板数≥1.0 × 10⁹/μL (p<0.01)、および限局型疾患 (p<0.01) の3つが、生存延長またはPS改善と有意に相関することが示された点は新規の知見である。

先行研究との違い: PS 0〜2の標準集団での化学療法のMSTが9〜12ヶ月であることと比較して、本研究のPS 3〜4患者でのMST 3.6ヶ月は著しく短く、PS状態がSCLCの予後に与える影響の大きさを改めて示した。これは、PS良好患者を対象とした過去の臨床試験の結果とは対照的である。また、CODE療法のような強度の高いレジメンがPS不良患者にも選択されていたことは当時の臨床判断の多様性を示しており、現代的にはcarboplatin + etoposideのような低強度レジメンが忍容性の観点から優先される傾向にあることと異なる。

臨床応用: これらの因子のうち少なくとも1つを有するPS 3〜4患者では、積極的な化学療法の適応を検討する価値があるという示唆は、PS不良SCLC患者の治療選択において実践的な臨床的意義を持つ。血清アルブミン>3.0 g/dL、血小板数≥1.0 × 10⁹/μL、限局型疾患のうち少なくとも1つを有する患者は、高リスク群から区別されるべき低リスクサブグループである可能性があり、個別化された治療戦略の基盤となりうる。発熱性好中球減少42%という高率は、G-CSF予防投与の重要性を示唆し、現代のPS不良SCLC管理に影響を与えている。

残された課題: 本報告の限界として、(1) 単施設の後方視的解析であり、n=48と小規模であること、(2) 学会抄録であり詳細情報が限られること、(3) 化学療法レジメンが複数混在しており均一性に欠けること、(4) 予後因子の多変量解析が示されていないこと、(5) 早期死亡13例のうち化学療法の毒性死と疾患進行死の分類が不明瞭な点が挙げられる。今後の検討課題として、これらの予後因子を組み込んだ前向き試験による検証や、PS不良SCLC患者における最適な支持療法および化学療法レジメンの確立が残されている。

方法

本研究は、国立がんセンター東病院にて1992年7月から2007年5月の約15年間に化学療法を施行されたECOG PS 3〜4のSCLC患者48例を対象とした後方視的解析である。対象患者は全例が組織学的または細胞学的にSCLCと確認されており、化学療法開始時のPSはPS 3が41例 (85.4%)、PS 4が7例 (14.6%) であった。病期の内訳は限局型 (LD) が12例 (25.0%)、進展型 (ED) が36例 (75.0%) であった。患者の年齢中央値は66歳 (範囲53〜81歳) であり、男性が42例 (87.5%)、女性が6例 (12.5%) を占めた。

主要評価指標は、PS改善率 (2段階以上の改善) および全生存期間 (OS) とした。PS改善率の比較にはカイ二乗検定を使用し、生存期間の比較にはKaplan-Meier法による生存曲線を作成し、log-rank検定を用いて群間差を評価した。探索的予後因子として、血清アルブミン値 (>3.0 g/dL vs ≤3.0 g/dL)、血小板数 (≥1.0 × 10⁹/μL vs <1.0 × 10⁹/μL)、および病期 (LD vs ED) の3因子を検討した。これらの因子がOSおよびPS改善率に与える影響を評価した。

初回化学療法レジメンの内訳は、carboplatin + etoposideが22例 (45.8%)、CODE週次療法 (cisplatin + vincristine + doxorubicin + etoposide) が15例 (31.3%)、cisplatin + etoposideが9例 (18.8%)、その他が2例 (4.2%) であった。本研究は後方視的デザインであるため、PS不良を理由に治療を拒否された患者は対象外となっており、化学療法を受けた集団のみを解析している点に留意が必要である。中央フォローアップ期間は6.6ヶ月であった。本研究は単施設での実臨床データに基づくものであり、UMIN000000000のような臨床試験登録番号は付与されていない。