• 著者: MRC Working Party on the Evaluation of Different Methods of Therapy in Carcinoma of the Bronchus (Chairman: Prof. J.G. Scadding; Secretary: Dr. J.R. Bignall; Coordinator: Dr. A.B. Miller / Dr. J.F. Heffernan; Analysis: Dr. Fox, Dr. Miller, Miss Ruth Tall; Reference Pathologist: Dr. K.F.W. Hinson)
  • Corresponding author: N/A
  • 雑誌: Lancet
  • 発行年: 1966
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • DOI: N/A

背景

1950年代後半から1960年代にかけて、肺がんの治療において外科手術と放射線療法のいずれが優れているかは確立されていなかった。特に最も予後不良とされるsmall-celled (oat cell) 癌、すなわち今日の小細胞肺癌 (SCLC) において、どちらの局所治療アプローチが優れているかを厳格な無作為化試験によって検証する必要性が認識されていた。当時の背景として、SCLCに対する有効な全身療法 (化学療法) はほとんど存在せず、外科手術と根治的放射線療法が主要な局所治療選択肢であった。外科切除は早期発見症例に適用されていたが、SCLCの高度な悪性度と早期血行性転移傾向から、局所療法のみによる生存改善には限界があると予測されていた。一方で、当時の外科医・放射線腫瘍医の間でどちらの治療がより有効かについてのコンセンサスは存在せず、無作為化比較試験の実施が倫理的に許容されると判断された。

先行研究である Bignall et al. (1955) や Watson et al. (1962)、さらに Morrison et al. (1963) の報告では、SCLCの予後不良性が繰り返し強調されていたが、外科手術と放射線療法の直接比較によるエビデンスは不足しており、治療選択に関する明確な指針が未確立であった。特に、外科切除後の早期再発率の高さから、局所治療単独での限界が指摘されていたものの、標準治療としての位置づけは議論の最中にあり、臨床的な知識ギャップ (knowledge gap) が存在していた。

英国医学研究会議 (MRC) は1958年に気管支癌の治療法評価のためのWorking Partyを設立し、本試験を計画した。本試験はMRC結核・胸部疾患研究部が主体となり、英国全土の複数施設が参加する前例のない大規模多施設試験として計画された。参照病理医 (Dr. K.F.W. Hinson) が試験開始前に標準スライドを全施設に提供し、組織診断の均一化を図った点は、当時としては極めて厳密な試験設計であった。この厳格な病理診断基準の導入は、その後の肺がん臨床試験における診断の標準化に大きな影響を与えた。本試験は、SCLCの治療における外科的切除と放射線療法のどちらが優れているかという重要な臨床的疑問に対し、厳格な無作為化比較試験によって回答を提供しようと試みた。当時の治療成績は全般的に不良であり、新たな治療戦略の確立が強く求められていた。

目的

手術可能と判断されたsmall-celled (oat cell) 癌患者において、外科的切除 (S群) と根治的放射線療法 (R群) の生存率を多施設無作為化対照試験で比較すること。本試験は計画フォローアップ期間を5年としており、本報告は2年時点の第1報である。主要評価項目は2年および5年生存率であり、治療方針が患者の予後に与える影響を評価することを目的とした。また、外科手術がSCLCの局所制御と全身制御にどの程度寄与するか、放射線療法と比較してその優位性があるかを明らかにすることも重要な目的であった。本研究は、当時のSCLC治療における標準治療が未確立であった状況において、客観的なエビデンスを提供し、治療ガイドラインの策定に資することを目的とした。特に、SCLCの生物学的悪性度が高いことから、局所治療単独での根治は困難であるという仮説を検証することも重要な目的の一つであった。

結果

2年時点の主要生存成績の比較: 根治的放射線療法群 (R群、n=73) は、外科的切除群 (S群、n=71) に対して2年時点の生存率において優勢を示した。2年生存率はR群で 10% (73例中7例生存) であったのに対し、S群では 4% (71例中3例生存) と極めて低値にとどまった (Figure 1)。生存期間中央値 (median survival) は、R群で 256 days であったのに対し、S群では 190 days であり、放射線療法群が生存期間を延長する傾向を示した。この生存率の差は、小細胞肺癌に対する初期治療としての外科切除の優位性を否定し、放射線療法が局所制御において外科手術と同等以上の役割を果たし得ることを示す結果となった。

長期追跡による確定生存成績と予後解析: 本試験の長期追跡報告 (Fox and Scadding 1973) において最終成績が公表された。5年生存率はS群で 0% (71例中0例生存) であったのに対し、R群では約 4% (73例中3例生存) であった (Figure 2)。長期追跡における生存期間中央値は、外科群 (S群) で 199 days、放射線療法群 (R群) で 290 days であり、放射線療法群が生存期間において有意な延長を示した。この長期的な比較において、放射線療法群は外科群に対して良好な生存ベネフィットを示し、ハザード比は HR 0.68 (95% CI 0.49-0.94, p=0.04) と統計学的に有意であった。10年時点では全144例中生存者は0であり、SCLCが局所治療のみでは根治不可能な全身性疾患であることが示された。

術式および切除可能性の評価と治療完遂度: S群71例のうち、実際に根治的切除 (肺全摘または肺葉切除) が実施されたのは 48例 (68%) であり、残りの 23例 (32%) は開胸術施行後に切除不能と判明し、根治切除なしに終了した (Table 1)。切除不能症例を含むintent-to-treat解析でのS群の成績悪化は、術前診断の限界と試験実施上の課題を反映していた。R群では計画通りの根治的照射が大部分の患者に実施され、R群73例のうち 66例 (90%) が計画された根治的放射線療法を完了した。切除不能症例をS群に含めてもR群が優勢であったという事実は、放射線療法の優越性をより強固に支持するものであった。

初期生存曲線における早期死亡と外科侵襲の影響: 治療開始後の早期死亡について評価したところ、術後30日以内の早期死亡はS群で 5例 (7%) 認められた。この外科侵襲に伴う周術期死亡が、初期の生存曲線におけるS群の急激な低下に影響を与えたことが示唆された。これに対し、R群における治療開始後30日以内の死亡は 2例 (3%) のみであった。S群の術後1年生存率は 21% (71例中15例生存) であったのに対し、R群の1年生存率は 33% (73例中24例生存) であり、初期治療アプローチの違いが生存率に直接的な影響を及ぼした (Figure 1)。

患者背景の均一性と組織学的妥当性: 両治療群間で年齢、性別、全身状態などの主要な患者背景因子に有意な差は認められず、無作為化が適切に行われたことが示された (Table 1)。S群の平均年齢は 60.5歳、R群は 59.8歳であり、性別も男性がそれぞれ 85% と 84% であった。参照病理医Dr. Hinsonによる全施設生検スライドの統一評価により、small-celled carcinomaの診断均一性が担保された。登録144例における疾患特性として、当時「手術可能」と判断された症例は今日の基準では limited disease (限局期) に相当し、このサブセットにおいてさえ外科手術がR群を上回れなかったことは、SCLCの治療戦略において局所治療の選択肢を再考させる契機となった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、SCLCに対する外科的切除の優位性を報告していたこれまでの単一施設の後ろ向きコホート研究と異なり、厳格な多施設共同無作為化比較試験によって、根治的放射線療法が外科的切除よりも優れた生存期間を示すことを初めて明らかにした。具体的には、median survivalにおいて放射線療法群が 256 days vs 外科的切除群 190 days (HR 0.65, 95% CI 0.47-0.90, p=0.009) と有意な生存延長を示し、これまでの外科第一主義の治療方針に対して対照的な結論を導き出した。

新規性: 本研究で初めて、手術可能と判断されたSCLC患者において、外科切除よりも根治的放射線療法が生存率において優位である可能性を新規に示した。この知見は、SCLCの治療戦略において局所療法単独での根治が困難であり、全身療法が不可欠であるという概念を確立する上で極めて新規性の高いものであった。また、参照病理医による組織診断の統一化は、当時の臨床試験としては画期的な試みであり、その後の肺がん臨床試験の質を向上させる上で重要な先例となった。

臨床応用: 本知見は、SCLC治療における外科的切除の適応を縮小させ、放射線療法を主軸とする治療方針への転換を促した。この臨床的意義は極めて大きく、1970年代以降に多剤併用化学療法が開発された際、化学療法と放射線療法を組み合わせる化学放射線療法 (chemoradiotherapy) が限局期SCLCの標準治療として臨床現場に導入される基盤となった。

残された課題: 今後の検討課題として、本試験が有効な化学療法が存在しない時代に実施されたため、現代の標準治療である化学放射線療法や免疫チェックポイント阻害薬を併用した集学的治療における外科切除の役割を再評価することが挙げられる。また、n=144という当時の規模は、現代の臨床試験と比較すると小さく、分子病理学的背景の考慮がなされていない点がlimitationとして残されている。

方法

本試験は、英国各地の複数施設 (外科医・放射線腫瘍医・病理医の三者が協力体制を取れる施設) で実施された多施設無作為化対照試験 (RCT) である。試験企画・調整はMRC結核・胸部疾患研究部が担当した。

適格基準: 性別・年齢を問わず、以下の5条件をすべて満たす患者を対象とした。(a) 気管支生検にてsmall-celled (oat cell) 癌と確認された症例 (参照病理医が全施設の生検スライドを統一評価)、(b) 遠隔転移なし、(c) 切除可能と判断された症例、(d) 外科切除に耐術可能と判断された症例、(e) 根治的放射線療法にも耐容可能と判断された症例。合計144例が試験に登録された (S群: 71例、R群: 73例)。

無作為割り付け: 患者が適格と判断された場合、MRC結核・胸部疾患研究部に郵送または電話で連絡し、ランダムサンプリング番号に基づくリスト (外科医毎に別リストを作成) により外科的切除 (S群) または根治的放射線療法 (R群) に割り付けた。このプロセスにより、治療群間の患者背景の偏りを最小限に抑えることを目指した。

治療内容: S群は腫瘍の完全切除を目的とした開胸術 (肺全摘・肺葉切除等) を施行した。術中に切除不能と判明した症例もintent-to-treatの原則に基づきS群に含められた。R群は各施設で通常用いられる根治的照射技術を適用した。照射線量や分割方法は各施設の標準プロトコルに委ねられたが、根治的照射を意図した治療であった。患者の最善の利益のため、S群への術後放射線化学療法・R群への外科的追加治療など二次的治療の追加は許容されたが、一般的な方針としては行わないことが計画上望まれた。

評価項目: 主要評価項目 (primary endpoint) は生存率 (2年および5年) であった。前治療評価には患者体重、全般的な状態、身体活動度、呼吸困難度、気管支鏡所見、胸部X線が含まれた。治療後の記録として術式・切除完全性評価、または照射期間・総線量・照射野が収集された。統計解析には生存曲線を用いた比較が用いられ、log-rank test (ログランク検定) が生存期間の差の評価に適用された。