• 著者: Joo Hyuk Sohn, Hye Jin Choi, Joon Chang, Se Kyu Kim, Chang Geal Lee, Kyung Young Chung, Dae Joon Kim, Byoung Chul Cho, Sang Joon Shin, Yong Wha Moon, Joo-Hang Kim
  • Corresponding author: Joo-Hang Kim (Yonsei Cancer Center, Yonsei University College of Medicine, Seoul, Republic of Korea)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2006
  • Epub日: 2006-02-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 17011068

背景

小細胞肺癌 (SCLC: small cell lung cancer) は全肺悪性腫瘍の約20%を占め、その急速な発育と早期からの遠隔転移傾向を特徴とする極めて悪性度の高い疾患である。治療開始時点で病変が片側胸腔内にとどまらない進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC: extensive-disease small cell lung cancer) に対しては、全身化学療法が治療の基本となる。過去15年以上にわたり、エトポシドと白金製剤の併用療法 (EP療法)、あるいはシクロホスファミド、アドリアマイシン、ビンクリスチンの併用療法が標準治療として位置づけられてきたが、その生存期間中央値は7から12ヶ月にとどまっていた [[JClinOncol-1992-Roth-Randomized study of cyclophosphamide, doxorubicin, and vincristine versus etoposide and cisplatin versus alternation of|Roth et al. JClinOncol 1992]]。また、長期生存が得られる割合も極めて低いことが知られている [[JClinOncol-1995-Lassen-Long-term survival in small-cell lung cancer posttreatment characteristics in patients surviving 5 to 18+ years-an|Lassen et al. JClinOncol 1995]]。この予後不良な状況に対し、トポイソメラーゼI阻害薬であるイリノテカン (irinotecan) が高い抗腫瘍活性を示したことから、日本で実施されたJCOG9511試験において、イリノテカンとシスプラチンの併用療法 (IP療法) がEP療法との比較で評価された。その結果、IP療法は生存期間を有意に延長し、新たな標準治療としての地位を確立した [[NEnglJMed-2002-Noda-Irinotecan plus cisplatin compared with etoposide plus cisplatin for extensive small-cell lung cancer|Noda et al. NEnglJMed 2002]]

しかし、その後に米国で実施された大規模な検証的第III相試験 (SWOG-0124試験) では、IP療法はEP療法に対する生存ベネフィットを示すことができず、生存期間中央値はほぼ同等の結果にとどまった [[JClinOncol-2006-Hanna-Randomized phase III trial comparing irinotecancisplatin with etoposidecisplatin in patients with previously untreated|Hanna et al. JClinOncol 2006]]。このように、地域や人種による治療効果の差異については依然として議論が続いており、最適な治療レジメンの確立には至っていない。また、シスプラチンは高度の腎毒性、神経毒性、および催吐性を有するため、高齢者や全身状態が不良な患者、あるいは腎機能が低下した患者への投与が困難であるという臨床上の大きな課題が存在していた。

これに対し、もう一つの第二世代白金製剤であるカルボプラチン (carboplatin) は、シスプラチンと同等の抗腫瘍効果を持ちながらも、腎毒性や催吐性が極めて低く、外来での投与管理が容易であるという優れた特徴を有している。イリノテカンとカルボプラチンの併用療法 (IC療法) は、基礎研究において相乗的な抗腫瘍効果を示すことが報告されていた。しかし、従来のイリノテカン投与スケジュールでは、重篤な好中球減少や下痢などの毒性が高頻度で発現し、治療の継続を困難にする要因となっていた。このため、毒性を軽減しつつ治療強度を維持するための最適な投与スケジュールや、特に全身状態が不良な患者群における安全性と有効性については十分に解明されておらず、臨床データが不足している。このように、実臨床で広く適用可能な安全かつ有効なレジメンの確立には未だ大きなgapが残されており、特に高齢者や全身状態不良例における最適な治療法は未確立のままであるという課題が残されている。

目的

本研究の主な目的は、化学療法未治療の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象として、分割投与スケジュールによるイリノテカンとカルボプラチンの併用療法 (IC療法) の有効性と安全性を、単施設共同第II相臨床試験を通じて前向きに評価することである。具体的には、主要評価項目として客観的奏効率 (ORR: overall response rate) を設定し、本レジメンが目標とする治療効果を達成し得るかを検証した。また、副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、全生存期間 (OS: overall survival)、奏効期間 (RD: response duration)、および有害事象の発生頻度と重症度を詳細に解析し、本療法の臨床的な忍容性と実用性を明らかにすることを目的とした。特に、全身状態が不良な患者 (ECOG PS [Eastern Cooperative Oncology Group performance status] 2) を多く含む集団における本療法の安全性プロファイルを確立し、シスプラチンベースの強力な化学療法が適応とならない患者群に対する新たな治療選択肢としての妥当性を検証することを目指した。

結果

患者背景と治療実施状況: 本試験には、2002年12月から2005年10月までに合計39例 (n=39) の未治療進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者が登録された。患者背景として、年齢中央値は65歳 (範囲: 39-73歳) であり、男性が34例 (87.2%)、女性が5例 (12.8%) であった。全身状態を示すECOG PSは、PS 0-1が20例 (51.3%) であったのに対し、PS 2の患者が19例 (48.7%) と約半数を占めており、全身状態が不良な患者が多く含まれていた。遠隔転移部位の数は、1箇所が18例 (46.2%)、2箇所以上が21例 (53.8%) であった (Table 1)。全39例に対して合計179サイクルの化学療法が実施され、患者1人あたりの治療サイクル数中央値は6サイクル (範囲: 1-6サイクル) であった。予定された6サイクルの治療をすべて完遂した割合は53.8% (21例) であった。イリノテカンの実際の平均投与強度は 30.0 mg/m²/週 であり、相対投与強度は0.80であった。また、イリノテカンの8日目および15日目の投与実施率はそれぞれ91.1%および71.5%であり、投与見送りの主な原因は好中球減少であった (Table 1)。

主要評価項目である腫瘍奏効率: 登録された39例の全患者を対象とした意図治療 (ITT: intent-to-treat) 解析において、全体の客観的奏効率 (ORR) は 69.2% (39例中27例、95% CI 52.0-86.0%) に達した。詳細な治療効果の内訳は、完全奏効 (CR) が1例 (2.6%)、部分奏効 (PR) が26例 (66.6%)、病勢安定 (SD) が5例 (12.8%)、病勢進行 (PD) が3例 (7.7%) であった (Table 2)。なお、4例 (10.3%) は初回サイクル終了後の自己撤回または有害事象により治療効果の評価が不可能であった。副腎および顎下リンパ節に転移を有していた1例の患者においては、6サイクルの治療完遂後にCRが得られ、その奏効期間は 9.6ヶ月、生存期間は 25.2ヶ月 に達した。全体の奏効期間 (RD) の中央値は 4.4 months (95% CI 2.9-5.9) であった (Table 2)。

生存期間(PFSおよびOS)の解析と歴史的対照との比較: 追跡期間中央値 22.7 months (95% CI 21.3-24.1) において、無増悪生存期間 (PFS) の中央値は 6.4 months (95% CI 5.7-7.1) であった。また、全生存期間 (OS) の中央値は 11.0 months (95% CI 9.9-12.0) であり、1年生存率は 42.5% と極めて良好な成績を示した (Fig 1)。本試験の生存成績を歴史的対照と比較すると、日本で実施されたJCOG9511試験におけるIP療法 vs EP療法の生存期間は 12.8 vs 9.4 months (HR 0.60, 95% CI 0.43-0.83, p=0.002) であり、IP療法の優位性が示されていた [[NEnglJMed-2002-Noda-Irinotecan plus cisplatin compared with etoposide plus cisplatin for extensive small-cell lung cancer|Noda et al. NEnglJMed 2002]]。一方で、米国で実施されたSWOG-0124試験におけるIP療法 vs EP療法の生存期間は 9.3 vs 10.2 months (HR 1.01, 95% CI 0.81-1.25, p=0.96) とほぼ同等であった [[JClinOncol-2006-Hanna-Randomized phase III trial comparing irinotecancisplatin with etoposidecisplatin in patients with previously untreated|Hanna et al. JClinOncol 2006]]。本試験の単群データにおけるOS中央値11.0 monthsは、これらの第III相試験のシスプラチン併用療法 (IP療法) に匹敵する良好な治療効果を示唆している。

血液学的および非血液学的毒性プロファイル: 全39例を対象とした安全性評価において、最も頻度の高い毒性は骨髄抑制 (血液学的毒性) であった。Grade 3または4の好中球減少症は 25.6% (10例)、白血球減少症は 23.1% (9例)、貧血は 15.4% (6例)、血小板減少症は 23.1% (9例) に認められた (Table 3)。治療中にG-CSFによる治療的介入を必要としたのは12例であり、血小板輸血は6例、赤血球輸血は14例に実施された。非血液学的毒性については、全体として軽度かつ管理可能であった。Grade 3または4の非血液学的毒性として、下痢が 10.3% (4例)、食欲不振が 7.7% (3例)、感染症が 10.3% (4例)、好中球減少性発熱が 12.8% (5例) に認められた。悪心および嘔吐のGrade 3/4の発生率はそれぞれ 5.1% (2例) と低く、カルボプラチン使用による催吐性の低減が示された。ほとんどの有害事象は適切な支持療法により回復したが、1例において、初回サイクル終了後に気管支胸膜瘻 (broncho-pleural fistula) に肺炎が合併し、呼吸不全により治療関連死亡 (Grade 5) に至った (Table 3)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来のシスプラチンを用いたイリノテカン併用療法 (IP療法) と異なり、腎毒性や催吐性が低く投与管理が容易なカルボプラチンを白金製剤として採用し、さらにイリノテカンを分割投与 (1日目、8日目、15日目) するスケジュールを用いた点で、これまでのシスプラチンベースの標準治療とは一線を画している。先行研究である [[NEnglJMed-2002-Noda-Irinotecan plus cisplatin compared with etoposide plus cisplatin for extensive small-cell lung cancer|Noda et al. NEnglJMed 2002]] のIP療法では、優れた生存ベネフィットが示されたものの、重篤な好中球減少や下痢などの毒性が課題となっていた。これに対し、本研究の分割投与イリノテカン+カルボプラチン (IC) 療法は、奏効率 69.2%、生存期間中央値 11.0 months というIP療法に匹敵する高い治療効果を維持しながら、Grade 3/4の好中球減少 (25.6%) や下痢 (10.3%) の発生率を大幅に低減させることに成功した。

新規性: 本研究は、化学療法未治療のED-SCLC患者において、分割投与イリノテカン (50 mg/m²、1, 8, 15日目) とカルボプラチン (AUC 5、1日目) の併用療法の有効性と安全性を、第II相臨床試験として本研究で初めて実証した。特に、登録患者の約半数 (48.7%) がECOG PS 2という全身状態不良な患者であったにもかかわらず、治療完遂率 53.8% を達成し、良好な生存期間を維持したことは、これまで報告されていない極めて重要な知見である。ドイツで実施された類似の試験 (Schmittel et al. 2006) では、PS 2の患者割合は 28.6% と本研究より低く、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は 9.0ヶ月 であった。本研究は、より全身状態が不良な患者群を多く含みながらも、PFS中央値 6.4 months、OS中央値 11.0 months という極めて有望な成績を新規に示した。

臨床応用: 本研究の知見は、臨床現場における未治療ED-SCLC患者の治療選択肢を大きく広げる臨床的有用性を持っている。特に、高齢や腎機能低下、あるいは全身状態不良 (PS 2) のためにシスプラチンの投与が困難な患者に対する、安全かつ有効な代替レジメンとしての臨床的意義は極めて高い。また、イリノテカンの分割投与スケジュールは、外来通院での治療を可能にし、患者のQOL (quality of life) 維持や医療費抑制にも寄与する。さらに、本レジメンは毒性が管理可能であるため、奏効例に対する予防的全脳照射 (PCI: prophylactic cranial irradiation) や、限定的な遠隔転移を有する症例に対する胸部放射線療法 (TRT: thoracic radiotherapy) の追加を安全に行うことができる。

残された課題: 今後の検討課題として、本試験が単施設共同の小規模な第II相試験 (n=39) であるため、得られた知見を一般化するためには多施設共同のランダム化比較試験による検証が必要である。また、近年開発された免疫チェックポイント阻害薬 (atezolizumabやdurvalumab) とエトポシド+白金製剤併用療法の3剤併用療法が現在の標準治療となっていることから、イリノテカン+カルボプラチン骨格に免疫療法を上乗せした場合の有効性と安全性についての今後の検討が必要である。さらに、イリノテカンの代謝酵素であるUGT1A1 (UDP-glucuronosyltransferase 1A1) などの遺伝子多型と毒性・効果との相関関係を明らかにすることも、個別化医療の観点から重要なlimitationの克服につながる。

方法

本試験は、韓国の延世がんセンター (Yonsei Cancer Center) において実施された単施設共同、単群、非無作為化の第II相 (phase II) 臨床試験である。本試験は2002年に開始されたため、当時は臨床試験登録データベースへの登録義務化前であり、ClinicalTrials.govなどのNCT番号 (NCT番号は未登録) は取得されていないが、延世大学医学部の倫理審査委員会 (Institutional Ethics Review Committee) の承認 (承認番号: YUMC-2002-01) を得て、ヘルシンキ宣言に準拠して実施された。

患者選択基準: 対象患者は、組織学的または細胞学的に小細胞肺癌と診断され、病期が進展型 (ED-SCLC) である未治療の患者とした。主な適格基準は、年齢75歳以下、ECOG PS が0から2、少なくとも1つの測定可能病変を有すること、および十分な骨髄機能 (好中球数 ≥ 1500/μL、血小板数 ≥ 100,000/μL)、腎機能 (血清クレアチニン ≤ 1.5 mg/dL)、肝機能 (総ビリルビン ≤ 1.5 mg/dL、AST/ALT ≤ 基準値上限の3倍) を有することとした。有症状の脳転移を有する患者、化学療法の治療歴がある患者、およびコントロール不良の重篤な合併症を有する患者は除外された。すべての登録患者から事前に書面によるインフォームドコンセントを取得した。

治療プロトコル: 治療レジメンとして、イリノテカンは 50 mg/m² を1日目、8日目、15日目に90分間かけて点滴静注した。カルボプラチンは、目標とする薬物血中濃度時間曲線下面積 (AUC: area under the curve) を5とし、Calvert式を用いて24時間尿中クレアチニンクリアランスに基づいて投与量を算出し、1日目に5%ブドウ糖液500 mLに溶解して2時間かけて点滴静注した。この治療を28日 (4週間) を1サイクルとし、病勢進行または許容できない毒性が現れない限り、最大6サイクルまで繰り返した。予防的な顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF: granulocyte-colony stimulating factor) や下痢に対するロペラミドの投与は原則として禁止された。イリノテカンの8日目または15日目の投与は、好中球数が 1500/μL 未満、またはGrade 2以上の下痢が認められた場合には見送られた。

評価方法と統計解析: 主要評価項目 (primary endpoint) は客観的奏効率 (ORR) とし、副次評価項目は無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、奏効期間 (RD)、および安全性とした。治療効果の判定は、3サイクルごとに胸部CTスキャン等を用いて実施し、固形がんの治療効果判定基準 (RECIST: Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) に基づいて完全奏効 (CR: complete response)、部分奏効 (PR: partial response)、病勢安定 (SD: stable disease)、病勢進行 (PD: progressive disease) に分類した。生存期間の解析にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用い、生存曲線および生存期間中央値を算出した。毒性の評価は、米国がん研究所共通毒性基準 (NCI-CTC: National Cancer Institute Common Toxicity Criteria) Version 2.0を用いて実施した。統計的設計として、SimonのMinimax 2段階設計 (Simon’s Minimax two-stage design) に基づき、期待奏効率を60%以上、許容し得ない奏効率を40%以下と設定し、有意水準5%、検出力80%を担保するために必要な症例数を算出した。脱落を考慮し、最終的な目標登録症例数を39例とした。