- 著者: Sagie S, Gadot M, Levartovsky M, Gantz Sorotsky H, Berger R, Sarfaty M, Peled N, Urban D, Bar J
- Corresponding author: Damien Urban (Sheba Medical Center, Ramat Gan, Israel)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2022
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 36087486
背景
小細胞肺がん (SCLC) は、全肺がんの約15%を占める悪性度の高い疾患であり、急速な進行を特徴とする。特に進展型SCLC (ES-SCLC) は診断時に約60%の患者で認められ、その予後は極めて不良であり、過去30年間にわたり一次治療の標準はプラチナ製剤とエトポシドの併用化学療法 (PE/CE) のみであった。この治療法における全生存期間 (OS) 中央値は10-12か月で頭打ちの状態が続いていた (Govindan et al. 2006; Foster et al. 2011)。SCLCは喫煙との関連が強く、多数のゲノム異常と高い腫瘍変異負荷 (TMB) を有することが知られており、これが免疫応答を誘導し、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) への感受性を示す可能性が示唆されていた (Esposito et al. 2020; Calles et al. 2019)。
2018年から2019年にかけて、ES-SCLCの一次治療に大きな転換が訪れた。IMpower133試験 (Horn et al. 2018) では、アテゾリズマブとカルボプラチン・エトポシドの併用療法がプラセボとPE/CEの併用療法と比較して、OS中央値を12.3か月 vs 10.3か月 (ハザード比 [HR] 0.70, 95% CI 0.54-0.91, p=0.007) と有意に改善することが初めて示された。続いてCASPIAN試験 (Paz-Ares et al. 2019) では、デュルバルマブとプラチナ・エトポシドの併用療法がPE/CE単独と比較して、OS中央値を13.0か月 vs 10.3か月 (HR 0.73, 95% CI 0.59-0.91, p=0.0047) と同様に有意な改善を示した。これらの第III相無作為化比較試験の結果に基づき、アテゾリズマブとデュルバルマブは2019年および2020年にそれぞれ米国食品医薬品局 (FDA) および欧州医薬品庁 (EMA) の承認を受け、ES-SCLCの一次治療における化学免疫療法が新たな標準治療として確立された (Mathieu et al. 2021)。
しかし、これらの臨床試験は厳格な選択基準 (ECOGパフォーマンスステータス [PS] 0-1、正常な臓器機能など) を設けており、実臨床における患者集団 (高齢者、PS 2以上の患者、複数の併存疾患を持つ患者など) の特性とは乖離があることが指摘されていた。そのため、実臨床環境における化学免疫療法の有効性、安全性、および治療完遂率に関するリアルワールドデータ (RWD) の蓄積が喫緊の課題として認識されていた。これまでのリアルワールドデータは、比較対照群を持たない小規模なコホート研究が多く、デュルバルマブに関するデータは特に不足していた (Nadler et al. 2021; Patel et al. 2021; Lee et al. 2021)。また、一部の比較研究では、PS 2の患者におけるICI併用の統計的有意差が確認されていないケースも報告されており (Elegbede et al. 2021)、臨床試験で除外されるような患者群におけるICIの真の有効性については未解明な点が残されていた。本研究は、イスラエルSheba Medical Centerにおける単一施設のリアルワールドデータを用いて、ES-SCLCの一次治療における化学免疫療法 (Chemo-IO) の有効性と安全性を評価し、実臨床における知識ギャップを埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、イスラエルSheba Medical Centerにおける進展型小細胞肺がん (ES-SCLC) 患者を対象に、一次治療としての化学免疫療法 (アテゾリズマブまたはデュルバルマブとプラチナ・エトポシドの併用) の実臨床における有効性を評価することである。具体的には、化学免疫療法群 (Chemo-IO群) と化学療法単独群 (Chemo-only群、ヒストリカルコントロール) の全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) を比較し、リアルワールド環境における治療効果を検証する。また、臨床試験では除外されがちなECOGパフォーマンスステータス (PS) 2-3の患者、脳転移や肝転移を有する患者など、より多様な患者集団における化学免疫療法のサブグループ解析を行い、その有効性を評価する。さらに、治療反応率、治療完遂率、および免疫関連有害事象 (irAE) の発生率を含む安全性プロファイルを評価し、実臨床における化学免疫療法の全体的な実用性を明らかにすることも目的とする。本研究は、IMpower133試験やCASPIAN試験といった主要な臨床試験で示されたICIの臨床的利益が、より広範な実臨床患者集団においても再現されるかを確認し、ES-SCLCの治療ガイドラインにおけるリアルワールドエビデンスを補強することを目指す。
結果
患者背景: 本研究では、ES-SCLCと診断され一次治療を受けた102例の患者が解析対象となった。Chemo-only群は48例 (47.1%)、Chemo-IO群は54例 (52.9%) であった。患者全体の年齢中央値は68歳 (IQR 63-73歳) で、男性が67%を占めた。喫煙歴のある患者は98%であった。ECOG PS 0-1の患者は全体の65.4%であり、PS 2-4の患者が34.7%を占めた。診断時の転移部位としては、肝転移が49.5%、脳転移が30.0%、骨転移が43.0%であった (Table 1)。
Chemo-IO群はChemo-only群と比較して、統計的に有意に若年であった (年齢中央値 67歳 vs 71歳, p=0.026)。また、Chemo-IO群はより良好なECOG PS (PS 0-2が94.5% vs 74.5%, p=0.014)、低いKi67増殖率 (70% vs 80%, p=0.01)、低い肝転移率 (35.8% vs 64.6%, p=0.007)、高いベースラインアルブミン値 (3.8 vs 3.5, p=0.003)、低いベースラインASTおよびALT値を示した。これらのベースライン特性の不均衡は、ICIが研究期間中に承認され、より状態の良い患者に優先的に投与された可能性を示唆している。
全生存期間 (OS) の延長: 全コホートにおけるOS中央値は278日 (95% CI 212-353日) であった。Chemo-IO群のOS中央値は353日 (約11.6か月) であったのに対し、Chemo-only群では194日 (約6.4か月) であり、Chemo-IO群で統計的に有意なOSの延長が認められた (HR 0.40, 95% CI 0.26-0.63, p<0.0001) (Figure 1A)。この結果は、IMpower133試験 (HR 0.70) やCASPIAN試験 (HR 0.73) で報告されたHRよりも低い値であり、実臨床におけるICIのより大きな効果を示唆する可能性がある。
ベースライン特性の不均衡を調整するため、多変量Cox比例ハザード回帰モデルが実施された。ECOG PS、心不全、ベースラインアルブミン値 (正常値以下/以上)、LDHレベルを調整した後も、化学免疫療法はOSの有意な改善と独立して関連していた (調整後HR 0.46, 95% CI 0.27-0.78, p=0.004) (Table 3)。この結果は、実臨床においても化学免疫療法がES-SCLC患者の生存を改善する強力なエビデンスを提供する。
ECOG PS別サブグループ解析: ECOG PSによるサブグループ解析では、PS 0-1の患者群において、Chemo-IO群のOS中央値は389日 vs Chemo-only群の263日であり、有意な生存延長が認められた (HR 0.43, p=0.0036) (Figure 1B)。PS 2-3の患者群では、Chemo-IO群のOS中央値は315日 vs Chemo-only群の124日であり、統計的有意差は認められなかったものの、生存改善の傾向が示された (p=0.13) (Figure 1C)。このPS 2-3群はn=31と小規模であったため、統計的検出力が不足していた可能性が考えられる。しかし、早期の時点ではChemo-IO群で顕著な生存差が認められており (Figure 1C)、臨床的にはPS不良患者でもICIの恩恵がある可能性が示唆された。脳転移の有無は生存差と関連しなかった (HR 0.75, p=0.224)。
無増悪生存期間 (PFS) と治療反応: PFS中央値はChemo-only群で169日 (約5.6か月)、Chemo-IO群で193日 (約6.4か月) であり、両群間に統計的に有意な差は認められなかった (HR 0.75, 95% CI 0.48-1.15, p=0.19)。初回治療評価時の客観的奏効率 (ORR) は、Chemo-only群で70% (CR 2.8%, PR 77.8%)、Chemo-IO群で72% (CR 0%, PR 74.0%) であり、両群間で有意差はなかった (p=0.6)。OSとPFSおよびORRの乖離は、ICIが初期の腫瘍縮小よりも、長期的な免疫監視を介した持続的な効果によって生存期間を延長する可能性を示唆している。
免疫関連有害事象 (irAE) の発生率: Chemo-IO群におけるirAEの発生率は、全グレードで24.1% (n=13) であった。グレード2-3のirAEは5例 (38%) であり、グレード4-5のirAEは認められなかった。主なirAEは、大腸炎、肺炎、疲労であった。irAEによる治療中止は1例のみであり、irAEのためにステロイド治療を受けた患者は13%であった。irAEの発生は、本コホートにおける生存期間と関連しなかった (HR 0.61, p=0.21)。
ICIの種類による比較: Chemo-IO群の内訳は、アテゾリズマブが38例 (70%)、デュルバルマブが16例 (30%) であった。アテゾリズマブ群とデュルバルマブ群の間でOS中央値に有意差は認められなかった (341日 vs 362日, HR 1.05, p=0.87)。これは、両ICIがES-SCLCの一次治療において同等の有効性を持つことを示唆する。
考察/結論
本研究は、イスラエルSheba Medical CenterにおけるES-SCLC患者102例のリアルワールドデータに基づき、一次治療としての化学免疫療法 (アテゾリズマブまたはデュルバルマブとプラチナ・エトポシドの併用) が、化学療法単独と比較して有意な全生存期間 (OS) の延長を達成することを示した重要なリアルワールドエビデンスである。OS中央値は化学免疫療法群で353日、化学療法単独群で194日であり、多変量解析でベースライン特性を調整後も、化学免疫療法はOSの有意な改善と関連していた (調整後HR 0.46, 95% CI 0.27-0.78, p=0.004)。この結果は、IMpower133試験 (HR 0.70, 95% CI 0.54-0.91, p=0.007) およびCASPIAN試験 (HR 0.73, 95% CI 0.59-0.91, p=0.0047) で示された臨床的利益が、より多様な実臨床患者集団においても再現されることを強力に裏付けるものである。
先行研究との違い: 本研究で観察された化学免疫療法群のOS延長効果 (HR 0.40, 95% CI 0.26-0.63, p<0.0001) は、IMpower133試験やCASPIAN試験のHR値と比較してより大きく、実臨床における効果が臨床試験を上回る可能性を示唆する。この差は、化学療法単独群が主に2015-2018年のヒストリカルコントロールとして構成されており、診断技術や支持療法の進歩が化学免疫療法群の予後を相対的に改善した可能性、またはICIの導入を待つことができた比較的良好な状態の患者がChemo-IO群に多く含まれた選択バイアスが影響している可能性がある。しかし、多変量解析でベースラインの不均衡を調整した後も有意なOS改善が維持されたことは、ICIの独立した効果を支持する。また、これまでのリアルワールドデータではデュルバルマブに関する報告が不足していたが、本研究はアテゾリズマブとデュルバルマブの両方を含む比較データを提供した点で、先行研究と異なり、より包括的な実臨床像を提示している。
新規性: 本研究の最も重要な新規性は、臨床試験で除外されがちなECOG PS 2-3の患者、脳転移や肝転移を有する患者といった、より不良なベースライン特性を持つ患者群においても、化学免疫療法の恩恵が確認された点である。特にPS 2-3の患者群では、統計的有意差は得られなかったものの、OS中央値がChemo-only群の124日に対しChemo-IO群で315日と、顕著な生存改善の傾向が認められた。これは、臨床現場でICIの適応を判断する上で重要な情報であり、ICIをES-SCLCの一次治療標準として幅広い患者に適用することの強力な根拠となる。また、PFSに有意差がないにもかかわらずOSに大きな差が認められたことは、ICIが初期の腫瘍縮小効果だけでなく、長期的な免疫監視を介して持続的な効果を発揮する機序を示唆しており、治療反応の評価において新しい臨床指標の必要性を示唆する。
臨床応用: 本研究の結果は、ES-SCLCの治療標準が化学免疫療法へと完全に移行したことの実臨床における裏付けを提供する。臨床現場において、高齢者や併存疾患を持つ患者、PS不良の患者など、これまで治療選択肢が限られていた患者群に対しても、化学免疫療法が有効な選択肢となり得ることを示唆する。これにより、より多くのES-SCLC患者がICIの恩恵を受けられる可能性が高まり、診療ガイドラインの実臨床化を強力に支持する。また、免疫関連有害事象の発生率 (全グレード24.1%、G3以上10%) は臨床試験で報告されたプロファイルと同等であり、実臨床環境においても許容可能な安全性を示したことは、ICIの広範な臨床応用を後押しする。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、単施設の後方視的コホート研究であるため、選択バイアスや交絡因子の影響を完全に排除することは困難である。多変量解析で調整を試みたものの、未測定の交絡因子が存在する可能性は否定できない。第二に、コホートサイズが102例と比較的限定的であるため、特にPS 2-3のサブグループ解析など、一部の解析では統計的検出力が不足していた可能性がある。第三に、アテゾリズマブとデュルバルマブを統合して解析しているが、両ICIの厳密な比較は十分な症例数がないため困難であった。今後の検討課題としては、より大規模な多施設共同リアルワールド研究による検証、長期フォローアップによる5年OSなどの評価、ICIの奏効予測バイオマーカー (PD-L1発現、TMB、SCLC分子サブタイプなど) の探索、二次治療以降の最適シーケンスの確立、脳転移や軟膜播種症例における中枢神経系への効果、ICI治療後進行例への再チャレンジ戦略、および高齢者における治療最適化 (例:維持ICIの投与間隔延長) などが挙げられる。
方法
研究デザインと対象患者: 本研究は、イスラエルSheba Medical Centerにおける単施設後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) として実施された。2017年10月から2021年7月までの期間に、ES-SCLCと病理学的に診断され、一次治療として全身療法を受けた連続した全患者が対象とされた。限定病期SCLCの患者、全身治療を受けなかった患者、または臨床試験に参加した患者は除外された。最終的に102例の患者が解析対象となり、化学療法単独群 (Chemo-only群) と化学免疫療法群 (Chemo-IO群:アテゾリズマブまたはデュルバルマブとプラチナ・エトポシドの併用) に分類された。データは患者の電子カルテから匿名化された上で抽出され、手作業でクリーニングされた。本研究はSheba Medical Centerの倫理委員会によって承認され、後方視的かつ匿名化された研究であるため、インフォームドコンセントは免除された。
治療レジメン: Chemo-IO群の患者は、IMpower133試験およびCASPIAN試験のプロトコルに準拠した治療を受けた。具体的には、カルボプラチンまたはシスプラチンとエトポシドの4サイクル化学療法に加えて、アテゾリズマブまたはデュルバルマブが併用され、その後はICI単独での維持療法が実施された。ICIは、多くの場合、化学療法の初回サイクル後に導入された (中央値で2サイクル目)。Chemo-only群の患者は、従来のプラチナ・エトポシド併用化学療法を受けた。ICIの導入は、主にコンパッショネート使用プログラム (54%)、民間保険、または自己負担 (24%) によって行われた。ICIを受けなかった患者の主な理由は、3剤併用療法に臨床的に不適格であったこと、コンパッショネートプログラムへの参加を待つことができなかったこと (44%)、ICIを拒否したこと (12.5%) などであった。
エンドポイント: 主要評価項目は、病理学的診断日から死亡日までの全生存期間 (OS) と定義された。データカットオフは2021年12月31日であった。副次評価項目には、無増悪生存期間 (PFS)、初回治療評価時の奏効 (完全奏効 [CR]、部分奏効 [PR]、安定 [SD]、進行 [PD])、治療完遂率、および免疫関連有害事象 (irAE) の発生率が含まれた。irAEは、治療担当医によって臨床的に記録された情報に基づいて評価された。
患者背景データの収集: 患者の人口統計学的特性 (性別、年齢、喫煙歴、喫煙量、併存疾患)、疾患特性 (診断時の転移部位、Ki67増殖率、胸水)、および治療前のベースライン検査値 (ヘモグロビン、血小板、好中球、リンパ球、ナトリウム、アルブミン、クレアチニン、LDH、ビリルビン、AST、ALT) が収集された。併存疾患の評価には、修正Charleston併存疾患スコアが用いられた。ECOG PSは診断時に評価された。
統計解析: 統計解析はRバージョン3.4.2を用いて実施された。連続変数は中央値と四分位範囲 (IQR) で、カテゴリカル変数は頻度とパーセンテージで記述された。両群間のベースライン特性の比較には、正規分布に従わない連続変数に対してはMann-Whitney U検定が、カテゴリカル変数に対してはカイ二乗検定またはFisherの正確確率検定が用いられた。OSおよびPFSの比較にはKaplan-Meier法が用いられ、群間の差はログランク検定で評価された。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) は、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて推定された。多変量解析では、ベースラインの不均衡を調整するために、ECOG PS、心不全、ベースラインアルブミン値 (正常値以下/以上)、LDHレベル、および免疫療法治療の有無が共変量として含まれた。p値が0.05未満の場合を統計的に有意と判断した。