• 著者: Satoshi Igawa, Masayuki Shirasawa, Tomoya Fukui, Noriko Nishinarita, Hideyuki Sone, Takahiro Ozawa, Keisuke Sugita, Yuriko Okuma, Shintaro Kurahayashi, Taihei Ono, Ai Sugimoto, Hisashi Mitsufuji, Masaru Kubota, Masato Katagiri, Jiichiro Sasaki, Katsuhiko Naoki
  • Corresponding author: Satoshi Igawa (Department of Respiratory Medicine, Kitasato University School of Medicine, Sagamihara, Japan)
  • 雑誌: Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29393275

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約15%を占める悪性度の高い腫瘍であり、化学療法感受性が高い一方で、新規治療薬の開発は非小細胞肺癌 (NSCLC) に比べて遅れているのが現状である。特に日本では、SCLC患者の約半数が70歳以上の高齢者であり (Morita 2002)、Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status (ECOG PS) が2以上のpoor PS患者も少なくない。このような高齢者やpoor PSの進展型SCLC (ES-SCLC) 患者に対する一次治療として、日本肺癌学会のガイドラインではカルボプラチンとエトポシドの併用療法 (CE) およびアムルビシン (AMR) 単剤療法が推奨されている (Mitsudomi et al. 2016)。

AMRは、化学療法未治療のES-SCLC患者に対して79%の奏効率 (ORR) と11.0ヶ月の中央値生存期間 (MST) を示す第III世代トポイソメラーゼII阻害薬として確立されており (Yana et al. 2007)、高齢者やpoor PSのES-SCLC患者を対象とした第II相試験でも、良好な腫瘍反応、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) が報告され、忍容性も示されている (Igawa et al. 2017)。これらの結果は、AMRが一次治療として有効な選択肢であることを支持する。

一方、SCLCの二次治療としてはトポテカンやAMRが主要な選択肢となるが、一次治療としてAMRを使用した場合に、その後の再発に対してプラチナ系化学療法がどの程度の有効性を示すかに関するデータは極めて限定的であった。特に、高齢者やpoor PSといった脆弱なコホートにおける治療シーケンスの最適化に関するエビデンスは不足しており、この治療ギャップが未解明なままであった。先行研究では、高齢SCLC患者におけるプラチナ系化学療法の安全性と有効性が示唆されているものの (Okamoto et al. 2007, Ardizzoni et al. 2005)、AMR先行後のプラチナ系二次治療の具体的な成績はこれまで報告されておらず、その臨床的有用性は不明であった。本研究は、この重要な臨床的ギャップを埋めることを目的とする。

目的

本研究の主目的は、一次治療としてアムルビシン (AMR) 単剤療法を受け、その後プラチナ系化学療法を二次治療として受けた高齢者およびpoor Performance Status (PS) の進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者における、二次治療としてのプラチナ系化学療法の奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性を後方視的に評価することである。副次的に、一次治療奏効後3ヶ月超での再発をsensitive relapse、非奏効または3ヶ月以内の再発をrefractory relapseと定義し、これら二つの再発タイプ間でプラチナ系二次化学療法の効果差があるかを検討し、AMR先行→プラチナ系という治療シーケンスの有用性を明らかにすることを目指した。

結果

本研究には合計48例の患者が登録され、全例が有効性解析の対象となった。

患者背景: 登録患者48例の内訳は男性35例、女性13例であり、中央値年齢は74歳 (範囲50〜91歳) であった (Table 1)。70歳以上の高齢患者は32例 (67%)、ECOG PSが2または3のpoor PS患者は16例 (33%) を占め、本研究の対象コホートが脆弱な患者群であることが確認された。一次AMR単剤療法後の再発タイプでは、sensitive relapse群が13例、refractory relapse群が35例であり、refractorinessを示す患者が多数を占めていた。二次治療として使用されたプラチナ系レジメンの内訳は、カルボプラチンとエトポシドの併用療法 (CE) が41例 (85%) で最も多く、次いでシスプラチンとイリノテカンの併用療法が6例 (13%)、カルボプラチンとイリノテカンの併用療法が1例 (2%) であった。二次プラチナ系レジメンの投与サイクル数の中央値は4サイクル (範囲1〜6サイクル) であった。また、24例 (50%) の患者が三次治療を受けており、その内訳はイリノテカン11例、AMR6例、CE4例、トポテカン2例、カルボプラチンとイリノテカン1例であった。脳転移を有する患者は5例であったが、全例無症状であり、一次治療後に予防的全脳照射や全脳照射は受けていなかった。

奏効率 (ORR): 48例の全患者におけるプラチナ系二次化学療法の奏効率 (ORR) は39.6% (95%信頼区間 [CI] 25.8〜53.4%) であった (Table 2)。内訳は部分奏効 (PR) が19例、安定 (SD) が14例、進行 (PD) が15例であり、完全奏効 (CR) は認められなかった。再発タイプ別のORRは、sensitive relapse群で46.1% (13例中6例)、refractory relapse群で37.1% (35例中13例) であった。sensitive relapse群でORRが高い傾向は認められたものの、両群間で統計学的に有意な差は認められなかった (p=0.57)。この結果は、refractory relapse後であってもプラチナ系化学療法が一定の抗腫瘍活性を保持することを示唆する。

無増悪生存期間 (PFS): 全患者における中央値フォローアップ期間は7.0ヶ月であった。プラチナ系二次化学療法開始からの全患者の中央値無増悪生存期間 (PFS) は3.7ヶ月 (95% CI 3.0〜4.4ヶ月) であった (Figure 1a)。再発タイプ別のPFSは、sensitive relapse群で3.9ヶ月 (95% CI 2.0-5.8ヶ月)、refractory relapse群で3.7ヶ月 (95% CI 3.0-4.4ヶ月) であり、両群間に有意な差は認められなかった (p=0.52) (Figure 1b)。このPFS中央値は、高齢者やpoor PS患者の二次治療としては標準的なトポテカン単剤療法の成績 (約3ヶ月) と比較しても遜色ないものであった。

全生存期間 (OS): 全患者の中央値全生存期間 (OS) は7.6ヶ月 (95% CI 5.6〜9.6ヶ月) であった (Figure 2a)。再発タイプ別のOSは、sensitive relapse群で8.8ヶ月 (95% CI 1.9-15.7ヶ月)、refractory relapse群で7.1ヶ月 (95% CI 4.8-9.4ヶ月) であり、両群間に有意な差は認められなかった (p=0.27) (Figure 2b)。これらの生存期間は、高齢者やpoor PS患者における二次治療としては十分に有用な数値であり、標準的なトポテカン二次治療のOS (5〜7ヶ月) と比較しても同等以上の成績である。さらに、二次治療後に三次治療を受けることができた24例のOS中央値は10.4ヶ月 (95% CI 4.9-15.9ヶ月) と、治療継続可能な患者では累積的な生存利益が得られる可能性が示された。

安全性: Grade 3以上の重篤な有害事象のプロファイルはTable 3にまとめられている。最も頻繁に認められた有害事象は血液毒性であり、Grade 3または4の好中球減少が38%、白血球減少が33%、血小板減少が10%であった。発熱性好中球減少症は1例 (2%) に認められた。非血液毒性は比較的軽度であり、Grade 3の肺炎が1例、Grade 3の食欲不振が1例、Grade 3の悪心も1例に認められた。これらの有害事象は、プラチナ系化学療法で一般的に見られるものであり、管理可能であった。治療関連死亡は認められなかった。

ECOG PSの変化: プラチナ系二次化学療法を受けた48例の患者におけるECOG PSの変化を評価した (Figure 3)。二次治療開始時において、44例 (91%) の患者が一次AMR単剤療法開始時と比較してPSを維持または改善していた。Wilcoxon signed-rank testによるPSの変化の解析では、有意な差は認められなかった (p=0.45)。また、二次治療開始時と最良反応達成時のPSの変化においても有意な差は認められなかった (p=0.22)。この結果は、プラチナ系二次療法が高齢者やpoor PS患者の機能予後を著しく悪化させないことを示唆し、治療継続の可能性を支持する。

考察/結論

本研究は、アムルビシン単剤を一次治療として受けた高齢者およびpoor Performance Status (PS) の進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者におけるプラチナ系二次化学療法の有効性を評価した本研究で初めての報告である。われわれは、このコホートにおいてプラチナ系化学療法が奏効率 (ORR) 39.6%、中央値無増悪生存期間 (PFS) 3.7ヶ月、中央値全生存期間 (OS) 7.6ヶ月という臨床的に有意義な有効性を示すことを明らかにした。

① 先行研究との違い: 一般的に、二次治療の活性は一次治療への腫瘍の反応性、すなわち感受性か難治性かに依存すると考えられている。実際、日本の第II相無作為化比較試験 (Inoue et al. 2008) や国際共同第III相試験 (von Pawel et al. 2014) では、AMRまたはトポテカンを用いた二次治療において、sensitive relapse群の方がrefractory relapse群よりも高い奏効率と長いPFSを示している。しかし、これまでの報告と異なり、本研究ではAMR単剤一次治療後のプラチナ系レジメンの有効性に、sensitive relapseとrefractory relapseの間で統計学的に有意な差が認められなかった (ORR p=0.57, PFS p=0.52, OS p=0.27)。この結果は、refractory relapse群が一般的に化学療法抵抗性であることを考慮すると、プラチナ系レジメンの活性がAMR単剤療法に対する再発タイプとは独立している可能性、すなわちAMRとプラチナ系薬剤の作用機序が異なり、交差耐性が少ない可能性を示唆する。これは、既治療高齢ES-SCLC患者に対するAMR単剤療法のORR 33.7%、中央値PFS 3.4ヶ月を報告したImai et al. (2017) の成績と比較しても、本研究のプラチナ系レジメンの成績は遜色ないものであった。

② 新規性: 本研究は、一次治療にアムルビシン単剤療法を受けた高齢者またはpoor PSのES-SCLC患者において、プラチナ系化学療法を二次治療として評価したこれまで報告されていない貴重なデータを提供する。特に、再発タイプ(sensitive/refractory)によらずプラチナ系化学療法が同等の有効性を示すという知見は新規なものであり、治療戦略の選択において重要な示唆を与える。この発見は、AMRとプラチナ系薬剤の異なる作用機序に基づくものであり、両薬剤間の交差耐性が限定的であることを示唆する。この知見は、SCLCの治療シーケンスを検討する上で新たな選択肢を提供する可能性がある。

③ 臨床応用: 本研究で示されたORR 39.6%、中央値PFS 3.7ヶ月、中央値OS 7.6ヶ月という成績は、高齢者やpoor PSのES-SCLC患者における二次治療として、臨床的有用性が高いことを示唆する。特に、標準的な二次治療であるトポテカンと比較しても同等以上の生存期間が期待できる。また、本研究では91%の患者がAMR開始時と比較してPSを維持または改善しており、プラチナ系二次療法が患者の機能予後を著しく悪化させないことが確認された。これは、一次AMR→二次プラチナという治療シーケンスが、日本で広く用いられる一次CE→二次AMRの逆順として臨床現場で実施可能な、忍容性の高い戦略であることを示唆する。患者のPS維持は、その後の三次治療への移行可能性を高め、累積的な生存利益に寄与する重要な因子であると考えられる。

④ 残された課題: 本研究は後ろ向き単施設研究であるため、患者選択のバイアスや、治療レジメンが担当医の判断に委ねられたことによる交絡因子の影響がlimitationとして挙げられる。また、高齢者やpoor PS患者のQuality of Life (QoL) は重要な評価項目であるが、本研究ではQoLに関するデータは評価されていない。今後の課題として、一次AMRと一次CEの治療シーケンスを直接比較する前向き無作為化比較試験を実施し、PFS、OS、QoLを含めた多角的な評価を通じて、高齢者およびpoor PSのES-SCLC患者における最適な治療アルゴリズムを確立する必要がある。

方法

本研究は、北里大学病院において2005年3月から2016年12月の期間に、アムルビシン (AMR) 単剤を一次治療として施行され、その後プラチナ系化学療法を二次治療として受けた小細胞肺癌 (SCLC) 患者の診療録を後方視的にレビューした単施設研究である。

患者選択とデータ収集: 適格基準は以下の通りであった。組織学的または細胞学的にSCLCと診断されていること、Union for International Cancer Control (UICC) TNM分類第7版に基づきIV期であること、年齢が70歳超またはEastern Cooperative Oncology Group Performance Status (ECOG PS) が1超であること、AMR単剤を一次治療として受け、その後プラチナ系化学療法を二次治療として受けた患者であること、および胸部X線、胸腹部CT、頭部MRI、PET/CTなどの画像検査で測定可能病変を有すること。本研究は北里大学病院の倫理審査委員会の承認を得て実施された。一次AMR単剤療法を受けた80例のうち、二次治療を受けた52例が特定された。このうち、プラチナ系化学療法を受けたのは48例であり、残りの3例はAMR再治療、1例はトポテカンを受けた。二次治療を受けなかった理由は、PS悪化または患者の治療拒否であった。プラチナ系二次化学療法を受けた患者における一次AMR単剤療法のサイクル数中央値は4サイクル、奏効率は67%であった。

再発タイプの分類: 一次治療への反応に基づき、再発タイプを分類した。一次治療奏効後3ヶ月を超えて再発した患者をsensitive relapse群、一次治療に非奏効であった患者、または3ヶ月以内に再発した患者をrefractory relapse群と定義した。この分類は、SCLCの二次治療における感受性を評価する上で一般的に用いられる基準である。

二次治療レジメン: 二次治療のレジメン選択は担当医の判断に委ねられたが、主にカルボプラチンとエトポシドの併用療法 (CE) が用いられた。その他、シスプラチンとイリノテカンの併用療法、カルボプラチンとイリノテカンの併用療法も含まれた。これらのレジメンは、SCLCの標準的な化学療法として広く認識されている。

効果評価: 腫瘍病変の評価は、胸部X線、胸腹部CT、PETまたは骨シンチグラフィー、頭部CTまたはMRIを用いて実施された。胸腹部CTは少なくとも2サイクルごとに実施され、PETや骨シンチグラフィー、頭部CT/MRIは腫瘍関連症状がある場合や6ヶ月ごとに実施された。腫瘍反応は、固形癌の治療効果判定基準 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors; RECIST) ガイドラインバージョン1.1 (Eisenhauer et al. 2009) に従って評価された。最良総合効果 (best overall response) および最大腫瘍制御が腫瘍反応として記録された。

統計解析: データは2017年9月1日をカットオフ日として解析された。無増悪生存期間 (PFS) はプラチナ系化学療法開始日から治療失敗 (死亡または病勢進行) が確認された日、または最終フォローアップ日までの期間と定義された。全生存期間 (OS) はAMR単剤療法失敗後の二次治療としてのプラチナ系化学療法開始日からあらゆる原因による死亡日、または最終フォローアップ日までの期間と定義された。PFSおよびOSの解析にはKaplan-Meier法が用いられ、群間比較にはlog-rank testが適用された。また、AMR単剤療法開始時と二次化学療法開始時のECOG PSの変化を評価するためにWilcoxon signed-rank testが用いられた。サブグループ間の差異はCox比例ハザードモデルおよび多変量解析で検証された。統計解析にはSPSS統計ソフトウェアv23.0 (IBM Corp., Armonk, NY, USA) が使用され、p値が0.05未満を有意差ありとみなされた。