- 著者: D. Andrew Loblaw, Gunita Mitera, Michael Ford, Normand J. Laperriere
- Corresponding author: D. Andrew Loblaw (Department of Radiation Oncology, Sunnybrook Health Science Centre, University of Toronto, Toronto, Canada)
- 雑誌: International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics
- 発行年: 2012
- Epub日: N/A
- Article種別: Systematic Review / Clinical Practice Guideline
- PMID: 22420969
背景
悪性硬膜外脊髄圧迫 (MESCC) は、がん転移による重篤な合併症であり、未治療の場合、進行性の疼痛、麻痺、感覚障害、括約筋機能不全をきたす。人口ベースの研究では、がんにより死亡した患者の2.5% (n=3458) が少なくとも1回のMESCC入院歴を有することが報告されており (Loblaw et al. 2003)、原発臓器によって発生率が大きく異なり、骨髄腫患者の7.9%から膵臓癌患者の0.2%までと幅があることが示されている。
本ガイドラインの著者らのグループは、過去に1998年 (Loblaw et al. 1998) と2005年 (Loblaw et al. 2005) にCancer Care Ontarioのエビデンスベース臨床実践ガイドラインを発表しており、本稿はその2011年改訂版である。Cancer Care OntarioのProgram in Evidence-Based Careは、ガイドラインを定期的に見直し、診療を変える可能性のあるデータが発表された場合に更新することを推奨している。2005年ガイドライン以降、複数のランダム化比較試験 (RCT) と新たなエビデンスベースのガイドラインが発表されたことを受け、系統的再レビューによる推奨事項の更新が必要とされた。
これまでのガイドラインでは、MESCCの症状と診断に関する2つの質問が追加されたが、これらの質問に答えるデータがほとんど不足していたため、本改訂では扱われなかった。しかし、全身性ステロイドの役割、手術と放射線療法 (RT) の適応、および以前に照射された領域における再発MESCCの治療に関する質問は、引き続き本ガイドラインの主要な焦点である。MESCCの管理は、患者の神経学的状態、予後、および腫瘍の種類によって大きく異なるため、最適な治療戦略を特定することは依然として重要かつ未解明な課題である。特に、手術と放射線療法の組み合わせ、異なる線量分割の放射線療法、およびステロイドの最適な使用法については、依然として議論の余地があり、知識のギャップが残されている。本改訂は、これらの不足している情報を補完し、最新のエビデンスに基づいた実用的な推奨を提供することを目的としている。
目的
本研究の目的は、2004年1月から2011年5月までに発表された悪性硬膜外脊髄圧迫 (MESCC) の管理に関する文献を系統的にレビューし、2005年版Cancer Care Ontarioガイドラインを更新した臨床実践推奨を提示することである。具体的には、以下の主要な臨床疑問に対するエビデンスを評価し、推奨事項を策定した。
- MESCCの管理における全身性ステロイドの役割と最適な用量は何か。
- MESCCの管理における手術の適応は何か。
- MESCCの管理における放射線療法 (RT) の適応は何か。
- 放射線療法の最適な線量分割スケジュールは何か。
- 以前に照射された領域における再発MESCCの治療選択肢は何か。
これらの疑問に対する最新のエビデンスを統合し、患者の予後や病態に応じた個別化された治療戦略を確立することを目的とした。特に、手術と放射線療法の併用療法、異なる放射線線量分割の有効性、および再照射の安全性と効果に関する最新の知見を組み込むことで、日常診療における意思決定を支援する実用的なガイドラインを提供することを目指した。
結果
文献検索により101件の論文が特定され、そのうち28件が組み入れ基準を満たした。除外理由としては、ガイドラインの質問に直接対応しないもの73件、英語以外のもの1件、重複9件、症例報告9件、論文入手不可3件であった。
ステロイドの役割と最適な用量: 最初のガイドライン発表以降、MESCCの管理における全身性ステロイドの役割を調査したRCTは1件のみであった (Graham et al. 2006)。この実現可能性研究では、30 Gyを10分割で治療されたMESCC患者20例を、デキサメタゾン96 mg/日群と16 mg/日群に無作為に割り付けた。この小規模な研究では、毒性、歩行率、生存期間に有意差は報告されなかった。研究著者らは、オーストラリアではより大規模な試験を実施できないと結論付けた。エビデンスの総合から、神経学的欠損を有するMESCC患者には、デキサメタゾン8〜10 mgの静脈内ボーラス投与後、16 mg/日を推奨する。高度不全対麻痺 (Grade 3以上) の患者には、100 mgのボーラス投与後、最大96 mg/日の高用量も考慮されるが、重大な有害事象のリスクとのバランスを考慮する必要がある。
手術と放射線療法 (RT) の併用効果: 2005年ガイドライン発表以降、1件のRCT (Patchell et al. 2005)、1件のメタアナリシス (Klimo et al. 2005)、および5件の後ろ向き研究 (Chaichana et al. 2008, Freundt et al. 2010, Rades et al. 2010, Tancioni et al. 2010, Rades et al. 2010) が発表された。最も強力なエビデンスは、Patchell et al. (2005) による多施設共同RCT (n=101) から得られた。MESCCがMRIで確認された患者 (馬尾病変は除外) を、減圧手術とそれに続く放射線療法 (30 Gy/10回) を受ける群、または放射線療法単独群に無作為に割り付けた。手術と放射線療法の併用群では、放射線療法単独群と比較して、歩行能力の維持または回復率が有意に高かった (84% vs 57%, p=0.001)。さらに、併用療法群では歩行期間の中央値が有意に長かった (122日 vs 13日, p=0.003)。尿禁制の維持率も併用療法群で優れており (74% vs 57%, p=0.005)、尿禁制期間の中央値も長かった (157日 vs 17日, p=0.016)。機能状態の維持 (FrankelおよびAmerican Spinal Injury Association (ASIA) スコアの維持, p=0.001) も併用療法群で良好であった。全生存期間の中央値も併用療法群で有意に長かった (126日 vs 100日, p=0.033)。Patchell et al. (2005) の研究では、ASIAおよびFrankelスコアの維持は、脊椎不安定性、頸椎病変、手術、およびベースラインFrankelスコアによって独立して予測された。ベースラインFrankelスコアと手術と放射線療法の併用は、歩行までの時間を独立して予測した。
放射線療法単独と手術併用RTの比較: Patchell et al. (2005) の研究における小規模なサンプルサイズと患者選択に関する懸念から、Rades et al. (2010) は、放射線療法単独と手術と放射線療法の併用を比較する後ろ向き11変数マッチドコントロール研究を実施した (2:1マッチング)。この研究では、減圧手術と放射線療法を受けた患者108例が、放射線療法単独を受けた患者216例とマッチングされた。全体として、運動機能の改善 (27% vs 26%, p=0.92)、治療後の歩行率 (69% vs 68%, p=0.99)、非歩行患者における歩行回復率 (30% vs 26%, p=0.86)、1年局所制御率 (90% vs 91%, p=0.48)、および1年全生存率 (47% vs 40%, p=0.50) のいずれのアウトカムにも有意差は認められなかった。Klimo et al. (2005) は、従来の放射線療法と手術を比較したメタアナリシスを実施した。彼らの検索戦略は2003年に終了しており、放射線療法に関する4件の研究 (患者578例) と手術に関する24件の研究 (患者1020例) を特定した。手術を受けた患者は、初回放射線療法を受けた患者と比較して、歩行回復率 (85% vs 64%) および疼痛制御 (90% vs 70%) が優れていた。ただし、彼らの分析では、骨性後方突出/脊椎不安定性、治療前の神経学的状態、内臓転移の有無、腫瘍の種類などの予後因子および予測因子は調整されていなかった。
放射線療法の線量分割スケジュール: 予後不良患者を対象としたMaranzano et al. (2005, 2009) の2つのRCTが、線量分割スケジュールの問題を扱った (Table 2)。これらの患者は、不良な組織学的特徴 (黒色腫、肺癌、肉腫、消化器癌、頭頸部癌、腎癌) を有する腫瘍、または良好な組織学的特徴を有する腫瘍であっても機能障害や不良なパフォーマンスステータスを有する患者と定義された。最初の研究 (Maranzano et al. 2005) では、300例の患者を分割照射 (15 Gy/3回 + 15 Gy/5回) 群と低分割照射 (8 Gy/2回、1週間間隔) 群に1:1で無作為に割り付けた。すべての患者は放射線療法中にデキサメタゾン16 mg/日を投与され、治療後に漸減された。歩行能力、歩行期間、膀胱機能、全生存期間、毒性、疼痛緩和について評価された。解析可能な患者は276例で、追跡期間中央値は33ヶ月であった。これらのアウトカムのいずれにも有意差は認められなかった。 Maranzano et al. (2009) による2番目の研究では、予後不良患者327例を、1週間で16 Gyを2分割する群と、8 Gyを1回照射する群に無作為に割り付けた。両群にデキサメタゾン16 mg/日が投与された。解析可能な患者は303例であった。この研究でも、歩行能力 (66% vs 62%)、歩行期間 (中央値5.0ヶ月 vs 5.0ヶ月)、膀胱制御 (87% vs 85%)、疼痛反応 (53% vs 52%)、全生存期間 (中央値4.0ヶ月 vs 4.0ヶ月) のいずれのアウトカムにも有意差は報告されなかった。注目すべきは、この研究では、照射野内再発率において2分割照射群 (2.5%) が単回照射群 (6.0%) よりも優れる傾向が非有意ながら示されたことである (p=0.12)。
短期 vs 長期放射線療法と定位放射線治療 (SRS): 非無作為化前向き比較研究 (Rades et al. 2011, n=265) では、短期放射線療法 (8 Gy/1回または4 Gy/5回) と長期放射線療法 (3 Gy/10回、2.5 Gy/15回、または2 Gy/20回) の機能転帰 (運動機能改善37% vs 39%, p=0.95) および1年全生存率 (23% vs 30%, p=0.28) に差は認められなかった。多変量解析では、放射線療法スケジュールはどちらのアウトカムの予測因子でもなかった。しかし、短期放射線療法と比較して、長期放射線療法は12ヶ月無増悪生存率 (72% vs 55%, p=0.034) および12ヶ月局所制御率 (81% vs 61%, p=0.005) を有意に改善した。系統的レビュー (George et al. 2010, Prewett et al. 2010) では、これらのデータのメタアナリシスは提供されていない。 Ryu et al. (2010) による前向き研究では、定位放射線治療 (SRS) (単回12〜20 Gy、中央値16 Gy) が評価された。この研究では、62例の患者における85病変が報告された。注目すべきは、患者はグレード4または5の筋力を有することが求められ、したがって重度の神経学的特徴を伴う病変や放射線感受性腫瘍 (リンパ腫、骨髄腫、小細胞癌、胚細胞腫瘍) は除外された。治療後、腫瘍面積の減少と硬膜嚢開存性の増加が報告された (両方ともp<0.001)。さらに重要なことに、提示時に神経学的に無傷であった患者35例中33例 (94%) が無傷のままであった。客観的な神経学的欠損 (運動機能喪失21例、感覚喪失6例) を有する患者27例中17例 (63%) が改善した (完全奏効52%、部分奏効11%)。治療は忍容性が高く、グレード2以上の急性毒性は報告されなかった。
再発MESCCの治療選択肢: Maranzano et al. (2011) は、彼らの2つのRCTデータから抽出した24例 (全579例中4.2%) の照射野内再発患者を分析した。これらの患者のうち12例が再照射 (4〜20 Gy/1〜4回、累積線量<120 Gy2) を受けた。再照射前に歩行可能であった7例中6例 (83%) が歩行能力を維持した。非歩行患者では歩行回復は認められなかった。再照射を受けた患者において放射線脊髄症の発生は報告されなかった。
考察/結論
本ガイドラインは、悪性硬膜外脊髄圧迫 (MESCC) の管理において、患者の予後評価に基づいた個別化治療アルゴリズムを提示した。
先行研究との違い: Patchell et al. (2005) のRCTでは手術と放射線療法の併用が単独放射線療法よりも優れた結果を示したのに対し、Rades et al. (2010) の後ろ向き研究では有意差が認められなかった。この違いは、Rades et al. (2010) の研究で脊椎不安定性が調整されていないなど、患者選択バイアスが影響している可能性が考えられる。Patchell et al. (2005) の研究は、手術の有効性を示す最も強力なエビデンスであり、予後良好で医学的・外科的に手術可能な患者には、手術と放射線療法の併用を第一選択とすべきである。これは、これまでの放射線療法単独の限界を克服する可能性を示している。
新規性: 本研究で初めて、複数のRCTと系統的レビューに基づき、予後不良群に対する8 Gy単回照射が、より長期の分割照射と同等の機能転帰と生存期間を示すという強力な推奨が提示された。これは、限られた生存期間の患者に対する治療負担を軽減しつつ、効果を維持できるという新規の知見である。また、定位放射線治療 (SRS) が神経学的に正常または軽微な欠損を有する患者に有望な選択肢であることも示されたが、現時点では限定的な前向きデータのみである。
臨床応用: 神経学的欠損を有するMESCC患者に対するステロイド投与は、医学的に禁忌でない限り推奨される。特に、短期間の放射線療法を受ける患者や、術後放射線療法が必要な患者には、ステロイドの継続投与が重要である。予後良好群に対する30 Gy/10回の放射線療法は、12ヶ月局所制御率 (81% vs 61%, p=0.005) の改善に基づき考慮されるが、全生存期間の改善は示されていない点が限界である。しかし、局所制御が非常に重要である場合や、綿密なフォローアップが困難な場合には、この線量分割が考慮される。SRSは、放射線感受性腫瘍 (リンパ腫、骨髄腫、小細胞癌、胚細胞腫瘍) は適応外とされた。
残された課題: 再発MESCCに対する再照射においては、放射線脊髄症を回避するために、累積線量上限 (<120 Gy2) の遵守が重要である。今後の検討課題として、SRSの役割をさらに明確にするための大規模なRCTが必要である。特に、SRSが従来の放射線療法と比較して、脊椎転移に対する初回治療としてどの程度の優位性を持つかについては、現在進行中のRadiation Therapy Oncology Group (RTOG) のRCTの結果が待たれる。また、再照射の最適な線量分割や、手術と放射線療法の組み合わせの長期的な安全性と有効性についても、さらなる研究が必要である。本2011年改訂ガイドラインは、2005年以降のエビデンスを統合し、日常診療での意思決定を支援する実用的な推奨を提供しているが、特定の患者群における最適な治療戦略については、今後の研究によってさらに洗練される必要がある。
方法
本2011年臨床実践ガイドライン更新のための系統的レビューは、オンタリオ州での使用を目的としたエビデンス要約の基礎を形成した。文献検索戦略は、Loblaw et al. (2005) による最初のレビューから採用された。
MESCCの症状と診断に関する質問については、MEDLINE (2004年〜2011年5月) およびCochrane Database of Systematic Review、Cochrane Central Register of Controlled Trials (2004年〜2011年5月) のデータベースが検索された。検索戦略には、「spinal cord compression/」または「cauda equina/ and nerve compression syndromes/」と、「spinal cord neoplasms/ or spinal neoplasms/」と、「CT scan and magnetic resonance imaging」または「CT scan and myelograph:」または「magnetic resonance imaging and myelograph:」の組み合わせが用いられた。
ステロイドの使用、手術、放射線療法 (RT)、RTの線量、および再発MESCCに関する質問については、元の論文で使用された文献検索戦略が採用され、2004年から2011年までの論文が含まれた。MEDLINE (2004年〜2011年) およびCochrane Library (2004年〜2011年5月) のデータベースが、「spinal cord compression/」または「cauda equina/ and nerve compression syndromes/」と、「radiation therapy」または「surgical resection」の検索戦略を用いて検索された。
すべての用語は、以下の出版タイプと研究デザインの検索用語と組み合わされた:臨床実践ガイドライン、系統的レビューまたはメタアナリシス、ランダム化比較試験 (RCT)、および対照臨床試験。さらに、American Society of Clinical Oncology (2011年5月まで) およびAmerican Society of Radiation Oncology (2004年〜2011年5月) の年次会議議事録に掲載された抄録も、本系統的レビューに関連するエビデンスについて系統的に検索された。
加えて、Physician Data Query臨床試験データベース (www.cancer.gov/search/clinical_trials/) で新規または進行中の試験が検索された。Canadian Medical Association Infobase (mdm.ca/cpgsnew/cpgs/index.asp) およびNational Guidelines Clearinghouse (www.guideline.gov/index.asp) でエビデンスベースの臨床実践ガイドラインが検索された。
Table 1に、本系統的レビューで扱われた各質問に対する組み入れ基準とアウトカム変数の詳細が示されている。各質問について、硬膜外脊髄圧迫の成人患者に関する完全な英語論文および抄録のみが組み入れられ、髄内および軟膜脊髄圧迫は除外された。症例研究、症例シリーズ、および重複論文は除外された (シリーズ中の最新論文が組み入れられた)。最終的に、文献検索により101件の論文が特定され、そのうち28件が組み入れ基準を満たした。除外理由としては、ガイドラインの質問に直接対応しないもの73件、英語以外のもの1件、重複9件、症例報告9件、論文入手不可3件であった。統計解析には、各研究で報告されたp値、信頼区間、および効果量 (HRなど) が用いられた。特に、Kaplan-Meier法による生存曲線解析やCox回帰分析が、生存期間の評価に利用された。