- 著者: Hallie C. Prescott, Massimo Antonelli, Waleed Alhazzani, Morten Hylander Møller, Fayez Alshamsi, Luciano C. P. Azevedo, Emilie Belley-Cote, Jan De Waele, Lennie Derde, Joanna C. Dionne, Laura Evans, Hayley B. Gershengorn, Carol L. Hodgson, Kimia Honarmand, Jozef Kesecioglu, Lauralyn McIntyre, Mervyn Mer, Mark E. Nunnally, Simon J. W. Oczkowski, Bram Rochwerg, Andrew Rhodes, Craig M. Coopersmith
- Corresponding author: Hallie C. Prescott (Department of Internal Medicine, University of Michigan, Ann Arbor, MI, USA; hprescot@med.umich.edu)
- 雑誌: Intensive Care Medicine
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-01-01
- Article種別: Review
- PMID: 41870560
背景
敗血症は、感染症に対する制御不能な生体反応に起因する生命を脅かす急性臓器機能障害であり、世界中で年間約4,900万症例が発生し、1,300万人の死亡を引き起こしているグローバルヘルスプライオリティである。敗血症の生存者においても、身体的、認知的、精神的な後遺症が多数報告されており、その長期的な影響も大きな課題となっている。Surviving Sepsis Campaign (SSC) は、欧州集中治療医学会 (ESICM (European Society of Intensive Care Medicine)) と米国救急集中治療医学会 (SCCM (Society of Critical Care Medicine)) の共同プロジェクトであり、成人敗血症および敗血症性ショック患者の診療ガイドラインを定期的に改訂してきた。2021年版の Evans et al の発表以降、プレホスピタルスクリーニング、末梢静脈からの昇圧剤投与、抗菌薬のタイミング、ソースコントロール、人工知能 (AI)/機械学習 (ML) の活用など、多数のランダム化比較試験 (RCT) や観察研究が発表され、ガイドラインの改訂の必要性が高まっていた。
特に、敗血症の早期認識と治療介入は患者転帰を改善するために極めて重要であると認識されているが、そのための最適な戦略については依然として未解明な点が多く、新たなエビデンスの統合が求められていた。例えば、院外での敗血症スクリーニングツールの有効性や、末梢静脈からの昇圧剤投与の安全性と有効性については、従来のガイドラインでは明確な推奨が不足しており、臨床現場における大きな課題となっていた。また、抗菌薬の適切な投与タイミングや、多剤耐性菌 (MDR (multidrug-resistant)) 感染のリスクに応じた経験的抗菌薬選択の指針も、耐性菌の世界的増加に伴い重要な課題として浮上している。さらに、敗血症生存者の長期的な身体的・認知的・精神的後遺症 (post-sepsis syndrome) への対応も、近年注目されるようになり、包括的なケア戦略の必要性が認識されている。これらの領域におけるエビデンスの不足は、臨床現場での意思決定を困難にし、患者ケアの標準化を妨げる要因となっていた。本2026年版ガイドラインは、これらの新たなエビデンスを統合し、成人敗血症・敗血症性ショックの管理に関する最新の国際的な推奨事項を提示することを目的としている。
目的
本ガイドラインの目的は、成人敗血症および敗血症性ショック患者の院内、直前院外、直後院外の管理について、antimicrobial stewardship (抗菌薬適正使用支援) 原則を反映した統合的かつエビデンスに基づいた臨床推奨を提示することである。具体的には、早期診断と治療介入の最適化、抗菌薬の適切な使用、循環動態管理の改善、および敗血症生存者の長期転帰の向上に焦点を当て、最新のエビデンスに基づいた実践的な指針を提供することを目指す。また、低・中所得国 (LMIC (low- and middle-income country)) における実装可能性も考慮し、グローバルな視点から敗血症ケアの質を向上させるための推奨を策定する。本ガイドラインは、臨床医が患者の価値観、臨床状況、利用可能な資源を考慮し、個別化された治療計画を立てるための柔軟な枠組みを提供することを意図している。
結果
パフォーマンス改善と院外スクリーニング: 病院およびヘルスシステムに対し、敗血症スクリーニング、標準業務手順書 (SOP (standard operating procedures))、および品質改善 (QI (quality improvement)) 戦略を含むパフォーマンス改善プログラム (PIP (performance improvement program)) の使用を推奨した (Table 1)。Hour-1 bundle (認識後1時間以内に開始すべき治療パッケージ) を評価したn=872のRCTにおいて、SOPの使用は抗菌薬投与までの時間短縮 (73分短縮; 95% CI 53-93分短縮) に関連し、死亡率低下の傾向を示した (aRR 0.81; 95% CI 0.48-1.39, p=0.45)。また、n=60,055を対象としたSCREEN試験では、電子アラートシステム、スタッフ教育、フィードバックの導入により、90日院内死亡率が有意に低下した (aRR 0.85; 95% CI 0.77-0.93, p<0.01)。院外搬送中の成人急性疾患患者には、標準的な敗血症スクリーニングツールの使用を提案した。QI戦略のメタアナリシス (50件の観察研究) では、死亡率がOR 0.66 (95% CI 0.61-0.72, p<0.001) と有意に減少することが示された。
院内スクリーニングとAI活用: 院内スクリーニングツールとして、NEWS (National Early Warning Score)、NEWS2、MEWS (Modified Early Warning Score)、またはSIRS (Systemic Inflammatory Response Syndrome) を、qSOFA (quick Sepsis-related Organ Failure Assessment) よりも単一のスクリーニングツールとして使用することを推奨した。これは、qSOFAが敗血症診断に対する感度が低いという多数の研究結果に基づく。例えば、n=221,429のコホート研究において、NEWS2は感度73.1% (95% CI 71.8-74.4%)、特異度 81.6% (95% CI 80.4-82.7%) であったのに対し、qSOFAは感度23.1% (95% CI 21.8-24.3%) と極めて低かった。AI/MLベースの早期警告システムは注目されているが、比較研究が不足しており、今後の研究課題とされた。
初期輸液蘇生と昇圧剤投与経路: 敗血症誘発低灌流または敗血症性ショックの成人で、最初の3時間以内に少なくとも30 mL/kgの晶質液投与を提案した。これは、Rhodes et al および Evans et al と一貫している。肥満患者では調整体重または理想体重を用いて輸液量を計算することを考慮すべきである (Table 4)。敗血症性ショック成人で、中心静脈路確保を待たず末梢静脈から昇圧剤を開始することを提案した。7試験 (n=1,657) のメタアナリシスにおいて、末梢静脈からの昇圧剤投与における合併症発生率は5.97% (95% CI 1.17-14.09%) であり、重篤な組織壊死は極めて稀であった。
平均動脈圧目標と抗菌薬タイミング: MAP (mean arterial pressure) 65 mmHgを目標として昇圧剤を滴定することを推奨した。65歳以上の敗血症性ショック患者では、初期MAP目標を60-65 mmHgの低値に設定することを提案した。これは、n=2,463を対象とした「65試験」などのメタアナリシスにおいて、65歳以上の高齢患者で低血圧許容群 (MAP 60-65 mmHg) が通常治療群と比較して、長期死亡率を減少させる可能性が示されたことに基づく (RR 0.89; 95% CI 0.81-0.98, p=0.02)。敗血症性ショック疑い・確診成人で、認識後1時間以内の抗菌薬即時投与を推奨した (Figure 2)。プレホスピタル抗菌薬投与は、搬送時間が60分を超えるショック患者において、死亡率を減少させる可能性を示唆した (OR 0.58; 95% CI 0.41-0.84, p=0.003)。
ソースコントロールと多剤耐性菌エンパリックカバー: 特定の解剖学的感染源の有無を迅速に評価することをGPSとして推奨した。ソースコントロールが必要な場合、6時間以内の早期ソースコントロールを提案した。11件の観察研究のメタアナリシスでは、早期ソースコントロールが短期死亡率をRR 0.70 (95% CI 0.51-0.95, p=0.02) で減少させ、1年死亡率もRR 0.80 (95% CI 0.71-0.95, p=0.008) と有意に減少させることが示された。特定のMDR病原体感染のリスクが高い成人には、そのMDR病原体に対する経験的抗菌薬療法を提案した。メタアナリシスでは、MDRカバーを含む経験的抗菌薬療法が短期死亡率をOR 0.71 (95% CI 0.56-0.92, p=0.009) で減少させる可能性を示唆した。
β-ラクタム系抗菌薬の持続注入と治療薬物モニタリング (TDM): 敗血症または敗血症性ショックの成人に対し、β-ラクタム系抗菌薬の維持投与において、ボーラス投与よりも持続注入 (初期負荷投与後) を推奨した。BLING III試験 (n=7,031) を含む18のRCT (n=9,108) のメタアナリシスでは、持続注入が短期死亡率をRR 0.91 (95% CI 0.85-0.97, p=0.004) で減少させ、生存退院日数を有意に増加させることを示した。TDM (therapeutic drug monitoring) は、抗菌薬のPK/PD特性の変化に対応し、臨床的失敗や毒性のリスクを低減する可能性があり、選択された患者での使用が提案された。メタアナリシス (8のRCT、n=1,241) では、TDMの使用が短期死亡率をRR 0.92 (95% CI 0.75-1.11, p=0.36) で減少させる傾向を示した。
抗菌薬のde-escalationと中止: 確定された微生物学的診断と感受性プロファイルが利用可能な場合、抗菌薬のde-escalation (狭域化) を推奨した。最終培養結果で病原体が特定されない場合でも、de-escalationが提案された。26研究のメタアナリシスでは、de-escalationが短期死亡率をRR 0.77 (95% CI 0.64-0.92, p=0.004) で減少させ、耐性菌発生率をRR 0.71 (95% CI 0.55-0.91, p=0.007) に抑制することを示した。プロカルシトニンと臨床評価の併用による抗菌薬中止判断も提案された。
真菌感染症に対する経験的治療とバイオマーカー: 敗血症または敗血症性ショックの成人全体に対して、ルーチンの経験的抗真菌薬療法の導入は推奨せず、非推奨とした (条件付き推奨)。7のRCTのメタアナリシスにおいて、経験的抗真菌薬療法は短期死亡率を減少させなかった (RR 0.93; 95% CI 0.66-1.32, p=0.69)。また、Candida (カンジダ) バイオマーカー ((1,3)-β-D-glucanなど) を用いた経験的抗真菌薬の開始判断についても、n=198のRCTにおいて死亡率改善効果が認められず (RR 0.95; 95% CI 0.71-1.28, p=0.75)、ルーチンの使用は提案しないこととした。
考察/結論
先行研究との違い: SSC 2026ガイドラインは、2021年版の Evans et al から複数の重要なアップデートを提供した点で臨床的意義が大きい。特に、従来の推奨と異なり、末梢静脈からの昇圧剤投与を積極的に推奨することで、早期の血圧回復を可能にし、中心静脈路確保の遅延による有害事象リスクを低減する可能性を示唆している。これは、これまでの中心静脈路からの投与が必須とされてきた慣行と異なり、新たな選択肢を提供する点で新規性が高い。また、敗血症の早期診断と治療介入の重要性を強調し、院外でのスクリーニングやプレホスピタル抗菌薬投与を提案することで、臨床現場における時間的遅延を最小限に抑えることを目指している。
新規性: 本ガイドラインでは、プレホスピタル (救急車やヘリコプター内) でのスクリーニングと抗菌薬投与の新規推奨、末梢静脈からの昇圧剤開始の追認、品質改善戦略の正式組み込み、post-sepsis syndromeへの長期フォローアップ強化が新規に組み込まれた。これらの推奨は、近年公表されたhour-1 bundle RCTや、末梢静脈昇圧剤の安全性研究、および進行中の複数のプレホスピタル敗血症試験のエビデンスを統合したものである。
臨床応用: 本知見は、グローバルレベルでの敗血症ケアパラダイムの進化を反映し、早期診断・治療の臨床応用を促進する。LMIC実装可能性を各章で明示した点、AIによる早期警告システムの研究優先度を位置づけた点もグローバル志向の特徴である。これにより、多様な医療資源状況下での敗血症管理の最適化が期待される。例えば、末梢静脈からの昇圧剤投与は、中心静脈カテーテル留置が困難な状況や、迅速な介入が求められる緊急の臨床現場において、患者の転帰改善に貢献する可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) プレホスピタル抗菌薬投与の効果・安全性・耐性誘発リスクの前向き検証、(2) 末梢静脈昇圧剤の至適持続時間・薬剤選択・カテーテル規格の標準化、(3) midline catheters (ミッドラインカテーテル) の活用、(4) AI/MLベースのスクリーニングツールの比較検証、(5) バイオマーカー活用の層別化、(6) post-sepsis syndromeへの構造化フォローアッププログラムのRCT、(7) LMIC設定での実装戦略・資源配分研究が挙げられる。本ガイドラインは国際集中治療医学の標準として、今後の敗血症診療・臨床研究・質改善活動の指針となる。なお、がん患者特有の免疫不全状態・好中球減少性敗血症・CAR-T (chimeric antigen receptor T-cell) 関連CRS (cytokine release syndrome) 等への適応については別途専門ガイドラインとの統合的評価が必要であり、これは腫瘍内科学の臨床実践上も重要な論点である。
方法
本ガイドラインは、GRADE (Grading of Recommendations, Assessment, Development, and Evaluations) 方式を採用し、系統的なエビデンス評価と推奨の策定を行った。ガイドライン委員会は69名の専門家で構成され、23カ国を代表し、38%の委員が低・中所得国 (LMIC) での臨床経験を有していた。委員会は、スクリーニング・早期管理、感染、循環動態、呼吸管理、補助的/追加治療、goals of care・移行ケア・長期アウトカムの6つのサブグループに分かれて活動した。各サブグループには少なくとも1名のLMIC実践者が含まれた。患者および家族諮問委員会も設置され、ガイドライン開発プロセス全体を通して患者の価値観と好みを確実に組み込むよう協力した。
PICO (Patient, Intervention, Comparator, Outcome) フレームワークを用いて臨床疑問を設定し、各疑問に対してシステマティックレビューを実施して関連するエビデンスを特定・評価した。文献検索データベースとしては、PubMed、Embase、Cochraneが使用された。エビデンスの確実性 (certainty of evidence) はGRADE方式に基づき、high、moderate、low、very lowの4段階で評価された。推奨の強さ (strength of recommendation) は、strong (「we recommend」) またはconditional (「we suggest」) のいずれかに分類され、介入の望ましい効果と望ましくない効果のバランス、エビデンスの確実性、患者の価値観と好み、資源の利用可能性、公平性、費用対効果を考慮して決定された。統計解析において、メタアナリシスにおけるリスク比 (RR) やオッズ比 (OR) の算出、95%信頼区間 (95% CI) の評価、およびP値の解釈などの統計手法が用いられた。
Good practice statement (GPS) は、エビデンスプロファイルに依拠しないが、明確で実行可能であり、必要な実践であり、純便益が明確である場合に設定された。また、「In Our Practice」ステートメントは、エビデンスが不十分な領域や確実性が低い領域における委員会の現在の実践を文書化するために導入された。新規推奨、改訂された推奨、継続された推奨 (carryover)、およびエビデンスの確実性の変更 (アップグレード/ダウングレード) は、シンボルキーを用いて明確に示された (Table 1)。推奨の最終決定には、最低75%の回答率と80%以上の合意が必要とされた。ガイドラインは、敗血症の診断を「生命を脅かす感染症による急性臓器機能障害」、敗血症性ショックを「循環機能不全を伴い死亡リスクが高い敗血症のサブセット」と定義し、Sepsis-3 (The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock) の定義と整合性を保った。文献検索やエビデンス合成において、Sepsis-3以前の定義を用いた研究も情報源として含められた。