• 著者: Ellen M. Lavoie Smith, Herbert Pang, Constance Cirrincione, Stewart Fleishman, Electra D. Paskett, Tim Ahles, Linda R. Bressler, Camilo E. Fadul, Chetaye Knox, Nguyet Le-Lindqwister, Paul B. Gilman, Charles L. Shapiro (for the Alliance for Clinical Trials in Oncology)
  • Corresponding author: Ellen M. Lavoie Smith (University of Michigan School of Nursing, Ann Arbor, MI)
  • 雑誌: JAMA
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-04-02
  • Article種別: Randomized Clinical Trial
  • PMID: 23549581

背景

CIPN (chemotherapy-induced peripheral neuropathy、化学療法誘発性末梢神経障害) は、タキサン系薬剤 (パクリタキセル、ドセタキセル)、プラチナ製剤 (オキサリプラチン、シスプラチン)、ビンカアルカロイド、ボルテゾミブなどの神経毒性化学療法を受けたがん患者の20%から40%に発症する主要な副作用である (Smith et al., Cancer Nurs 2010; Kautio et al., Support Care Cancer 2011; Loprinzi et al., J Clin Oncol 2011)。CIPNによる疼痛は、化学療法終了後数ヶ月から数年にわたって遷延することが多く、がんサバイバーの日常機能およびQOL (quality of life) を著しく損なう (Smith et al., J Pain Symptom Manage 2011; Bakitas, Nurs Res 2007; Shimozuma et al., Support Care Cancer 2012)。

CIPNに対する薬物療法の開発は長年にわたって試みられてきたが、ノルトリプチリン (Hammack et al., 2002)、ガバペンチン (Rao et al., Cancer 2007)、ラモトリギン (Rao et al., Cancer 2008) を含む複数の薬剤が第3相無作為化比較試験で検証された。しかし、これらはいずれもプラセボに対する明確な疼痛軽減効果を証明できなかった。NCCN (National Comprehensive Cancer Network) タスクフォースが2009年に公表した包括的総説 (Stubblefield et al., J Natl Compr Canc Netw 2009) においても、CIPN疼痛管理の有効な薬物療法は未確立と結論付けられていた点が重要なgap in knowledgeとして残されていた。

一方、SNRI (serotonin-norepinephrine reuptake inhibitor) であるデュロキセチンは、痛みの侵害刺激伝達を脊髄後角で抑制する機序を介して (Willis & Westlund, J Clin Neurophysiol 1997)、糖尿病性末梢神経障害性疼痛 (Goldstein et al., Pain 2005; Wernicke et al., Neurology 2006; Raskin et al., Pain Med 2005)、線維筋痛症 (Russell et al., Pain 2008) などで FDA 承認を取得している。しかし、CIPNとこれらの疾患では神経損傷機序が異なり、タキサン系薬剤とプラチナ製剤によるCIPNの病態機序も相違することから、CIPN患者を対象とした大規模前向きRCTが手薄であり、CIPNに対するSNRIの直接効果は未解明であり、検証が不足していた。本試験は、この空白を埋める目的で計画された。

目的

CALGB-170601試験 (NCT00489411) として、パクリタキセルまたはオキサリプラチン主体の神経毒性化学療法後に CIPN 疼痛を有する患者を対象に、デュロキセチン60mg/日を5週間投与した際の平均疼痛スコアの変化をプラセボと比較することを主要目的とした。副次目的は、神経障害特異的QOLであるFACT/GOG-Ntx (Functional Assessment of Cancer Therapy/Gynecologic Oncology Group-Neurotoxicity)、疼痛による日常機能干渉度であるBPI-SF (Brief Pain Inventory-Short Form)、有害事象プロファイル、化学療法クラス別サブグループ解析、および IMMPACT (Initiative on Methods, Measurement, and Pain Assessment in Clinical Trials) 推奨に基づく30%・50%疼痛軽減達成割合のレスポンダー解析であった。

結果

デュロキセチンによる主要評価項目での有意な疼痛軽減: 本試験には231例が登録され、グループA (デュロキセチン先行) に115例、グループB (プラセボ先行) に116例が割り付けられた。11例が治療未施行で除外され、220例 (グループA n=109、グループB n=111) が治療を開始した。6例 (グループA 1例、グループB 5例) が初期治療期に全くデータを提供せず、intent-to-treat解析から除外された (脱落率19%)。ベースライン患者背景は両群で概ね均衡していたが、ベースライン平均疼痛スコアはグループA 6.1 (SD 1.7) vs グループB 5.6 (SD 1.6) で有意差を認めた (p=0.02、Table)。

初期治療期終了時、デュロキセチン先行群の平均疼痛スコアは平均1.06ポイント低下 (95% CI 0.72-1.40) vs プラセボ先行群の0.34ポイント低下 (95% CI 0.01-0.66) であり、群間差0.73 (95% CI 0.26-1.20、p=0.003) と統計的に有意な疼痛軽減効果が示された (Figure 2)。効果量 (effect size) は0.513であり、Cohen基準による中等度の効果 (d≥0.5) に相当した。感度解析でも多重代入法 (p=0.002) およびパターン混合モデル (p=0.004) で一貫した結果が確認された。デュロキセチン先行群の59%が何らかの疼痛軽減を報告したのに対し、プラセボ先行群では38%にとどまった。

レスポンダー解析における臨床的意義の確認: IMMPACT推奨に基づく探索的レスポンダー解析において、30%以上の疼痛軽減を達成した患者の RR はデュロキセチン群で1.96 (95% CI 1.15-3.35) と有意に高かった。50%以上の疼痛軽減を達成した患者の RR は2.43 (95% CI 1.11-5.30) と更に大きく (Figure 3)、デュロキセチンが実質的に重要な疼痛改善 (50%軽減) を2倍以上の割合で達成することが示された。30%軽減は「中程度の重要な改善」、50%軽減は「実質的に重要な改善」と解釈されることから、本薬の臨床的意義は明確であった。クロスオーバー治療期においても、デュロキセチン投与期の平均疼痛スコア変化1.42 (95% CI 0.97-1.87) はプラセボ期0.41 (95% CI 0.06-0.89) と比較して有意に大きく (期間差1.01、95% CI 0.36-1.65、GEE p=0.002)、一貫した治療効果が確認された。

化学療法薬クラス別の効果差異 — プラチナ優位: 事前規定の探索的サブグループ解析において、オキサリプラチン主体のプラチナ製剤誘発CIPN患者 (n=129、全体の59%) では、デュロキセチン群の平均疼痛スコア差が1.06 (95% CI 0.48-1.63) と大きく、30%疼痛軽減の RR は3.05 (95% CI 1.49-6.27)、50%軽減の RR は3.78 (95% CI 1.32-10.84) と、臨床的に非常に顕著な効果が示された (Figure 4)。一方、タキサン系薬剤誘発CIPN患者 (n=87、全体の40%) では、平均疼痛スコア差は0.19 (95% CI -0.61-0.98、p=0.63) と統計的有意差は認められなかった。30%軽減RR 0.97 (95% CI 0.41-2.32)、50%軽減RR 1.22 (95% CI 0.35-4.18) いずれも非有意であった。なお、CIPN疼痛高リスク群 (糖尿病・末梢血管疾患合併者) vs 非リスク群でデュロキセチン効果に有意差はなかった。

QOL・日常機能・非疼痛症状の改善: BPI-SF干渉スコアの変化は、デュロキセチン先行群7.9ポイント減少 (95% CI 5.4-10.5) vs プラセボ先行群3.5ポイント減少 (95% CI 1.1-5.9) であり、群間差4.40 (95% CI 0.93-7.88、p=0.01) で疼痛による日常機能干渉が有意に軽減された。FACT/GOG-Ntx総スコアは、デュロキセチン先行群2.44ポイント改善 (95% CI 0.43-4.45) vs プラセボ先行群0.87ポイント改善 (95% CI -1.09-2.82) であり、群間差1.58 (95% CI 0.15-3.00、p=0.03) と神経障害特異的QOLが有意に改善した。足のしびれ・チクチク感の改善は、デュロキセチン群で41% (95% CI 31-52%) に対し、プラセボ群では23% (95% CI 15-33%) であった。

有害事象と脱落の非対称性: Grade 4-5の有害事象および血液毒性は両群で報告されなかった。Grade 2非血液毒性はデュロキセチン群16% vs プラセボ群27%、Grade 3非血液毒性はデュロキセチン群7% vs プラセボ群3%であった。デュロキセチン群で最多の有害事象は疲労 (7%)、不眠 (5%)、悪心 (5%) であり、プラセボ群では傾眠 (8%)、不眠 (7%)、疲労 (5%) であった。有害事象を理由とした脱落率はデュロキセチン先行群11% vs プラセボ先行群1% (p<0.001) と有意に乖離しており、デュロキセチン群での Grade 3有害事象の高率が一因と考えられた。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、CIPNによる疼痛に対して初めて大規模第3相RCTで有効性を実証した点で、これまでの研究と異なる画期的な成果である。既報のランダム化試験では、ノルトリプチリン (Hammack et al., 2002)、ガバペンチン (Rao et al., Cancer 2007)、ラモトリギン (Rao et al., Cancer 2008)、外用薬 (Barton et al., Support Care Cancer 2011) を含む複数の薬剤がCIPN疼痛への有効性を証明できなかった。本試験は群間差0.73 (p=0.003)、効果量0.513を達成し、IMPACTが定義するMCID 0.98点のレンジ内かつ臨床的に意義のある効果規模であることを示した。特に糖尿病性神経障害試験 (Goldstein et al., 2005、差0.60-0.98) と対照的に、オキサリプラチン誘発CIPNでは1.06 (95% CI 0.48-1.63) という大きな効果が得られた (Figure 4)。

新規性: 本研究で初めて、SNRIクラスのデュロキセチンがCIPNによる疼痛軽減において臨床的有効性を有することが大規模RCTで実証された。これまで報告されていない新規知見として、CIPNの薬物療法が確立されていない現状において最初の有効な治療選択肢を提示した点が本研究の最大の新規の意義である。また、化学療法薬クラスによってデュロキセチン効果に差がある可能性 (プラチナ製剤 vs タキサン系) を示したことも新規知見であり、神経障害の病態機序の違いが薬効に反映される可能性を初めて示した。

臨床応用: 本試験の結果は臨床応用の観点から直接的かつ実践的な意義を持つ。デュロキセチンは投与1週以内に疼痛軽減効果が発現し (Figure 2)、疼痛軽減と並行して日常機能干渉度とQOLの改善が認められた。忍容性も概ね良好で、本試験結果を受け ASCO (American Society of Clinical Oncology) はその後のガイドラインでデュロキセチンをCIPN疼痛管理の唯一の推奨薬として採択しており、臨床現場における標準治療の確立につながった。ただし、デュロキセチンが CYP2D6 (cytochrome P450 2D6) の中等度阻害薬であることから、タモキシフェンとの併用により活性代謝物エンドキシフェンへの転換が阻害される可能性があるため、臨床現場での薬物相互作用管理が必要である (Jin et al., JNCI 2005)。また、ワルファリンや NSAIDs との併用で出血リスクが高まる点にも注意を要する。

残された課題: 今後の検討として以下が重要である。本試験はプラチナ製剤誘発CIPNへの効果は顕著だったが、タキサン系薬剤誘発CIPNでは明確な有効性が示されず、別の機序に基づく治療開発が今後の研究課題として残されている。また、本試験は5週間という短期投与に限定されており、長期投与 (5週超) における有効性維持および安全性は未検証のため future research が必要である。さらに、ビンカアルカロイドやボルテゾミブなどの他の神経毒性薬剤によるCIPNへの適応可能性も未検討であり、別途評価が求められる。脱落率のデュロキセチン群 vs プラセボ群の非対称性 (11% vs 1%) はブラインド破りのリスクをもたらしうる limitation として残されており、解釈に際して留意が必要である。CTCAE に基づくベースライン神経障害のグレーディングは inter-rater reliability が不十分であることも limitation の一つである。

方法

試験デザインと登録: CALGB/Alliance が主導した第3相、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、2群クロスオーバー試験。米国8つの NCI (National Cancer Institute) 資金援助型多施設共同ネットワーク (地域分散した学術・コミュニティ施設) において、2008年4月から2011年3月に患者登録が実施され、追跡は2012年7月に完了した。本試験は NCT00489411 として登録された。各施設の IRB (institutional review board) 承認を取得し、全参加者から書面でインフォームドコンセントを取得した。目標登録数232例 (脱落20%想定) で、2群間0.98点差を90%検出力 (両側α=0.05) で検出できるよう設計された。

患者選択基準: 25歳以上で、パクリタキセル、ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセル、ドセタキセル、オキサリプラチン、またはシスプラチンの化学療法を完了し3ヶ月以上経過した患者を対象とした。NCI CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v3.0 grade 1以上の感覚神経障害を有し、BPI-SF平均疼痛項目で4点以上 (0=痛みなし、10=最悪) の疼痛を有する症例を適格とした。圧迫性神経障害 (手根管症候群、脊柱管狭窄症、神経根症、上腕神経叢障害)、軟膜癌腫症、重度うつ病・自殺企図、双極性障害、アルコール乱用、重大な摂食障害、著明な腎・肝機能異常を有する患者は除外した。糖尿病や末梢血管疾患を合併する患者は「高リスク」として層別化対象とされ、各群に同数割り付けた。セロトニンレベルに影響を与える薬剤の併用は禁止されたが、2週間前から安定用量のオピオイド・アセトアミノフェン・NSAIDの併用は許容された (週次用量変動±10%以内)。

割付と盲検化: CALGB/Alliance Statistical Center による1:1コンピューター割付で、グループA (デュロキセチン先行→プラセボ) またはグループB (プラセボ先行→デュロキセチン) に層別化 (神経毒性薬クラス: タキサン系 vs プラチナ製剤、疼痛リスク: 高リスク vs 非リスク) した。キット番号ベースの中央盲検化により患者・医療従事者全員が盲検化された。

介入: 初期治療期 (1-5週目): デュロキセチン30mg×1カプセル/日 (1週目) → デュロキセチン30mg×2カプセル/日 (2-5週目、合計60mg/日)、またはプラセボ同量を投与。2週間のウォッシュアウト期 (6-7週目) を挟んで、クロスオーバー治療期 (8-12週目) で対照薬を投与し、総試験期間は14週間であった (Figure 1)。

評価指標: 主要評価項目は BPI-SF 平均疼痛項目の初期治療期前後変化 (1週目初日 vs 6週目初日)。BPI-SF は11点数値評価スケール (0=痛みなし、10=想像可能な最悪) を用い、疼痛干渉スコア (7項目合計、0=干渉なし-70=完全干渉) も評価した。QOL は FACT/GOG-Ntx (手足のしびれ・疼痛・不快感、難聴、耳鳴り、関節痛、筋痙攣、脱力感、歩行困難などを11問で評価、0-44点) を1・6・8・13週目初日に実施した。

統計解析: 主要評価項目は共分散分析 (ANCOVA) モデルで層別化因子とベースライン値を調整した最小二乗平均を比較した。クロスオーバーデータの統合にはgeneralized estimating equations (GEE) を使用し、期間効果・キャリーオーバー効果を評価した。欠測データ影響評価には多重代入法 (multiple imputation) とパターン混合モデル (pattern-mixture model) による感度解析を実施。群間比較にはWilcoxon rank test、χ²検定、正確二項95%信頼区間を使用し、統計解析には SAS v9.2 を使用した (両側α=0.05)。レスポンダー解析では30%・50%疼痛軽減達成割合の相対リスク (RR: relative risk) を分割表から算出した。IMMPACT 推奨に従い、最小臨床的重要差 (MCID: minimal clinically important difference) を群間平均疼痛スコア差0.98点と規定した。