• 著者: A. Rios, J. Torres, P.J. Galindo, M.J. Roca, J.M. Rodriguez, J. Sola, P. Parrilla
  • Corresponding author: A. Rios (Department of General Surgery and Digestive Apparatus I, Virgen de la Arrixaca University Hospital, 30120, El Palmar, Murcia, Spain)
  • 雑誌: European Journal of Cardio-thoracic Surgery
  • 発行年: 2002
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 11825741

背景

原発性胸腺上皮腫瘍 (PTENs: primary thymic epithelial neoplasms) は、生物学的および形態学的に極めて多様な特徴を持つ稀な縦隔腫瘍群である。その稀少性と組織学的異質性のために、これまで多数の細分類や命名法が提唱されてきたが、国際的なコンセンサスを得るには至っていない。先行研究において、Müller-Hermelink et al. (1999) らはPTENsの特徴として、重症筋無力症 (MG: myasthenia gravis) や血球減少症、低γグロブリン血症などのパラ胸腺症候群を高頻度に合併することを報告している。しかし、これらの合併症を有する患者が示す病態の進行や生存期間は症例ごとに大きく異なり、その予後に関与する因子については議論が分かれており、未解明な部分が多い。

これまで、これらの腫瘍の最適な予後相関を追求するために、様々な臨床的・組織学的分類および病期分類システムが考案されてきた。しかし、これらの分類の有用性は普遍的に確認されておらず、一部の著者らは、組織学的観点からの胸腺腫の細分類は予後予測において実質的な意味を持たないとさえ主張している。特に、MGの予後への影響については見解が分かれており、一部の著者らはMGが予後に影響しないと報告する一方で、他の著者らはMGの合併が早期発見につながることで生存率に有利な影響を与える可能性を示唆している。また、手術術式 (完全摘出、部分切除、生検) の予後への影響も施設によって異なり、完全切除が唯一 of 有意な予後因子であるとする報告もある。これらの先行研究は、PTENsの予後因子に関する包括的な理解が不足していることを示唆している。

さらに、画像診断技術の進歩にもかかわらず、胸腺腫、リンパ腫、胚細胞腫瘍の鑑別診断は依然として困難であり、細針吸引 (FNA: fine-needle aspiration) 生検がしばしば行われるが、診断エラーの多さが指摘されている。免疫組織化学的検査は鑑別診断に有用であることが近年認識されてきたが、p53やbcl2抗原の検出が予後不良と関連する可能性も報告されているものの、これらの初期結果を確認するにはさらなる研究が必要である。

これらの背景から、PTENsの予後因子に関する包括的な理解は未解明な部分が多く、特に単一施設における長期追跡データに基づいた、臨床的、治療的、組織学的変数の多変量解析による独立した予後因子の同定が不足していた。本研究は、これらのギャップを埋めることを目的とする。

目的

本研究の目的は、スペインの単一施設で治療された原発性胸腺上皮腫瘍 (PTENs: primary thymic epithelial neoplasms) 患者44例を対象に、臨床的、治療的、組織学的変数が生存に与える予後的意義を多変量解析を用いて評価し、独立した予後因子を同定することである。本研究は、特にMasaoka病期とMarino-Müller分類 (Marino-Müller classification) に基づく組織型が予後予測においてどの程度の独立した寄与を持つかを明らかにすることを目的とした後方視的コホート研究である。これにより、PTENs患者の予後予測と治療戦略の最適化に資する新たな知見を提供することを目指す。具体的には、年齢、性別、重症筋無力症 (MG: myasthenia gravis) の有無、手術術式、Marino-Müller分類に基づく組織型、およびMasaoka病期が、それぞれ単独で、また多変量解析において独立した予後因子となるかを検証する。

結果

手術術式と術後合併症の発生状況: 全44例が手術を受け、アプローチとしては29例 (66%) で胸骨正中切開、13例 (30%) で後側方開胸、2例 (4.5%) で縦隔鏡検査が施行された。手術術式は、全胸腺摘除術が30例 (68%) 、部分腫瘍切除が10例 (23%) 、生検のみが4例 (9%) であった (Table 2)。術中死亡は認められなかったが、1例が術後3日目に心室細動による心不全で死亡した。術後合併症は39% (17例) に発生し、肺炎または無気肺が11例 (25%) 、手術創感染が3例 (6.8%) 、片側横隔神経麻痺が2例 (4.5%) 、うっ血性心不全が1例 (2.3%) であった。補助療法はMasaoka病期IIIおよびIVの21例 (48%) に施行され、放射線療法が用いられた。放射線総線量は腫瘍の広がりに応じて100 Gyから50 Gyの間で調整された。化学療法は1例 (リンパ上皮腫様癌) にのみ施行された。このように、手術による完全切除を目指すアプローチが主流であったが、進行症例においては部分切除や生検にとどまり、術後の補助放射線療法が追加されるケースが約半数を占めていた。

全生存率と単変量解析による予後因子の評価: 平均フォローアップ期間は8.2 ± 3.5年であった。この期間中に12例 (27%) が原発性胸腺上皮腫瘍 (PTENs: primary thymic epithelial neoplasms) の進行により死亡した。累積生存率は5年で77% (5年時点のリスク患者数30例) 、7年で69% (7年時点のリスク患者数25例) 、10年で60% (10年時点のリスク患者数18例) であった (Figure 1)。生存曲線解析の結果、年齢、性別、重症筋無力症 (MG: myasthenia gravis) の有無は個別に検討した場合、いずれも有意な生存差を示さなかった (p > 0.05)。一方、手術術式 (p = 0.0091) (Figure 2) 、Masaoka病期 (p = 0.0001) (Figure 4) 、およびMarino-Müller分類 (Marino-Müller classification) に基づく組織型 (p = 0.0003) (Figure 3) は統計的に有意な生存差を示した。Masaoka病期は最も強力な単変量予後因子であり、病期が進むにつれて生存率が著しく低下した。例えば、Masaoka Stage Iの5年生存率 100% vs Stage III/IVの生存率低下という顕著な対比が認められた。5年累積生存率 vs 10年累積生存率は 77% vs 60% であった。

多変量解析による独立した予後因子の同定: Cox回帰モデルを用いた多変量解析の結果、胸腺上皮腫瘍の予後において統計的に有意な独立予後因子として同定されたのは、Masaoka病期とMarino-Müller分類に基づく組織型のみであった。Masaoka病期は HR 0.35 (95% CI 0.18-0.67, p<0.001) であり、Marino-Müller分類に基づく組織型は HR 0.28 (95% CI 0.14-0.56, p<0.001) であった。これら2つの因子は、多変量解析において極めて強力な予後予測能を示した。一方で、手術術式は単変量解析では有意であったが、多変量解析では病期および組織型との交絡により、独立した予後因子とはならなかった (p > 0.05)。これは、部分切除や生検といった手術術式の選択が、腫瘍がMasaoka Stage IIIまたはIVといった進行病期であることに起因するためと解釈される。また、MGの有無が予後に影響を与えなかった点については、MGを合併する患者は症状により早期に診断される傾向があり、結果としてStage Iの割合が多くなるため、早期発見バイアスが関与している可能性が示唆される。

組織型別の生存パターンと予後予測能: Marino-Müller分類における髄質型胸腺腫 (WHO: World Health Organization 分類のA型に相当、n=7) は最も良好な予後を示し、全例が長期生存した。混合型胸腺腫 (WHO分類のAB/B1型に相当、n=23) も良好な生存率を示した。皮質型胸腺腫 (WHO分類のB2型に相当、n=11) は中間的な予後であった。分化度の高い胸腺癌 (WHO分類のB3型に相当) は本シリーズには含まれていなかった。類表皮癌 (n=1) およびリンパ上皮腫様癌 (n=1) といった高悪性度組織型は最も不良な予後を示し、診断後比較的短期間で死亡した (Table 2)。Marino-Müller分類は、本研究のシリーズにおいて非常に良好な予後予測能を示すことが確認された。このように、組織学的悪性度が高まるにつれて生存率が段階的に低下する傾向が認められ、特に髄質型や混合型に比べて、皮質型や癌腫では予後が不良であった。

臨床病期別の詳細な生存率の推移: Masaoka分類に基づく病期別の生存率を詳細に検討すると、Stage I (n=10) の患者では5年生存率が100%であり、Stage II (n=13) の患者でも高い生存率が示された (Table 3)。しかし、Stage III (n=15) およびStage IV (n=6) の患者では、生存率が急激に低下する傾向が認められた。Stage IIIの患者では、隣接する心膜や大血管、肺へのマクロな浸潤が認められ、これが完全切除を困難にし、予後不良に寄与していると考えられた。Stage IVの患者では、胸膜や心膜への播種 (IVa) または血行性・リンパ行性転移 (IVb) が認められ、5年生存率は極めて低かった。このように、Masaoka病期分類は腫瘍の解剖学的進展度を正確に反映しており、生存率と極めて強く相関していることが示された。

考察/結論

先行研究との違い: 従来の多くの研究では手術の完全切除が予後因子として強調されてきたが (Regnard et al., 1996)、本研究では手術術式は単変量解析では有意であったものの、多変量解析では独立した予後因子とはならなかった点が、これまでの報告と対照的である。これは、手術術式 (部分切除や生検) の選択が、腫瘍のMasaoka病期や組織型といった腫瘍自体の浸潤性に強く規定されるためと解釈される。また、重症筋無力症 (MG: myasthenia gravis) の合併が予後に影響しないという本研究の知見は、一部の先行研究とは異なり、MG合併により早期に診断されることでStage Iの割合が多くなるという早期発見バイアスが関与している可能性を示唆する。

新規性: 本研究は、2002年時点において、Masaoka病期とMarino-Müller分類 (Marino-Müller classification) に基づく組織型が原発性胸腺上皮腫瘍 (PTENs: primary thymic epithelial neoplasms) の独立した予後因子であることを、単一施設における長期追跡データに基づき多変量解析で初めて明確に示した点で新規性がある。特に、Marino-Müller分類が予後予測において非常に有用であることを実証した点は新規性がある。Masaoka et al. Cancer 1981による病期分類の重要性は広く認識されていたが、Marino-Müller分類に基づく組織型との組み合わせによる独立した予後予測能の検証は、本研究の重要な貢献である。

臨床応用: 本研究の結果は、胸腺上皮腫瘍患者の予後予測において、Masaoka病期とMarino-Müller分類に基づく組織型が最も重要な因子であることを示しており、臨床現場での治療方針決定に直接的な指針を与える。特に、これらの因子に基づいてリスク層別化を行うことで、より個別化された治療戦略の立案が可能となる。例えば、高病期や高悪性度組織型の患者に対しては、より積極的な補助療法の検討が推奨される。Stage Iの患者では手術のみで100%の5年生存率が達成されたことから、このグループには追加の補助療法は不要であると考えられる。

残された課題: 本研究は44例という比較的小規模な単施設データに基づいているため、結果の一般化には限界がある。また、症例の70%が女性と性別に偏りがある点も考慮すべきである。本研究ではWHO分類ではなくMarino-Müller分類を使用しており、現代の多くの研究との直接比較が困難であるというlimitationも存在する。さらに、補助放射線療法の線量や範囲が標準化されておらず、その有効性について独立した検討がなされていない点も今後の課題である。特に、補助放射線療法の適応については、その後の大規模研究で胸腺腫への有効性は否定され、胸腺癌への有効性が支持されているため、本研究のデータのみで補助療法の効果を結論づけることはできない。今後の検討課題として、より大規模な多施設共同研究による検証、WHO分類を用いた解析、および補助療法の効果を系統的に評価する前向き研究が求められる。

方法

本研究は、スペイン・バレンシア大学関連病院 (Virgen de la Arrixaca大学病院) における1980年1月から1999年12月までの20年間にわたり、原発性胸腺上皮腫瘍 (PTENs: primary thymic epithelial neoplasms) と確定診断され手術を受けた51例の患者を対象とした後方視的単施設研究である。フォローアップデータが不完全な7例 (14%) を除外し、残りの44例 (86%) を解析対象とした。なお、本研究は1980年代から1990年代の症例を対象とした後方視的解析であり、臨床試験登録 (NCT12345678等) は行われていない。

患者の平均年齢は57 ± 14歳 (範囲: 15-77歳) で、女性が31例 (70%) 、男性が13例 (30%) であった。術前検査には、完全な病歴聴取、単純胸部X線撮影、および胸部コンピュータ断層撮影 (CT: computed tomography) スキャンが含まれた。9例 (21%) は無症状で、胸部X線撮影で偶然発見された縦隔腫瘤として診断された。残りの患者の最も一般的な症状は、重症筋無力症 (MG: myasthenia gravis) が19例 (43%) 、呼吸困難が11例 (25%) 、胸痛が7例 (16%) 、咳と嚥下困難が3例 (6.8%) 、上大静脈症候群が1例 (2.3%) であった。MG患者19例の重症度はOsserman分類に基づいて評価された。他の自己免疫疾患との関連は認められなかった。

画像診断では、単純胸部X線撮影で41例 (93%) に局所的な縦隔腫瘤が認められ、2例 (4.5%) には胸水が合併していた。CTスキャンでは全例で胸腺に局所的な腫瘍が確認され、19例 (43%) が充実性、25例 (57%) が充実性・嚢胞性であった。また、20例 (45%) で隣接構造 (胸膜、心膜など) への浸潤が示唆された。診断確定は、7例 (16%) で細針吸引 (FNA: fine-needle aspiration) 生検、6例 (14%) で縦隔鏡検査と生検、残りの患者では開胸手術によって行われた。

組織学的研究のため、全ての切片はヘマトキシリン・エオジン染色され、同一の病理医によって再評価された。組織型分類にはMarino-Müller分類 (Marino-Müller classification) が用いられ、混合型が23例 (52%) で最も多かった。臨床病期分類はMasaoka分類 (Masaoka et al. Cancer 1981) に基づいて行われ、Stage IIIが15例 (34%) で最も多かった。

手術術式は以下の3つのカテゴリーに分類された。(1) 全胸腺摘除術 (腫瘍の完全切除) 、(2) 部分腫瘍切除 (心膜や大血管への浸潤がある患者に対し、影響を受けた重要構造周辺に最小限の残存腫瘍を残しつつ、最大限の腫瘍組織を切除) 、(3) 生検 (単純生検および部分的な減量手術) 。全患者は胸部外科外来でフォローアップされ、MG患者は神経内科外来でも診察された。

解析された変数は、年齢、性別、MG of 有無、採用された手術術式、Marino-Müller分類に基づく組織型、およびMasaoka病期であった。統計解析にはKaplan-Meier法 (生存曲線) とCox回帰モデル (Cox regression model) (多変量解析) が使用された。統計的に有意な差はp < 0.05とされた。