• 著者: Ruffini E, Huang J, Cilento V, Goren E, Detterbeck F, Ahmad U, Appel S, Bille A, Boubia S, Brambilla C, Cangir AK, Falkson C, Fang W, Filosso PL, Giaccone G, Girard N, Guerrera F, Infante M, Kim DK, Lucchi M, Marino M, Marom EM, Nicholson AG, Okumura M, Rami-Porta R, Rimner A, Simone CB, Asamura H
  • Corresponding author: Enrico Ruffini (Thoracic Surgery, University of Torino, Turin, Italy)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-09-09
  • Article種別: Original Article / Staging Project Report
  • PMID: 37689391

背景

胸腺上皮性腫瘍 (TET: thymic epithelial tumor) は、前縦隔に発生する最も頻度の高い原発性腫瘍群であるが、全体的には希少疾患であり、胸腺腫 (thymoma)、胸腺癌 (thymic carcinoma)、NETT (neuroendocrine thymic tumor) の3主要組織型を包括する。長年にわたり、Koga et al. (1994) が発表したMasaoka-Koga外科病理分類がTETの病期評価の基盤として広く用いられてきたが、この分類は単一施設の限られた患者集団のデータに基づくものであり、国際的な多様性の反映や大規模コホートにおける検証が不十分であるという課題が認識されていた。

この問題に対応するため、国際肺癌学会 (IASLC: International Association for the Study of Lung Cancer) と国際胸腺悪性腫瘍研究グループ (ITMIG: International Thymic Malignancy Interest Group) は2009年に共同でTNMに基づく病期分類の開発に着手し、8,000例を超える世界的なレトロスペクティブデータベースを構築した。その成果として2017年のUICC (Union for International Cancer Control) および2018年のAJCC (American Joint Committee on Cancer) 第8版TNM分類において、胸腺腫・胸腺癌・NETTに共通して適用可能なTNM分類が初めて標準化された (Detterbeck et al., 2014; Nicholson et al., 2014; Kondo et al., 2014)。第8版TNM分類では、T1からT4 (隣接臓器への浸潤範囲)、N0/N1/N2 (前縦隔/深部リンパ節)、M0/M1a/M1b (胸膜播種/遠隔転移) の枠組みが採用された。

しかし第8版の臨床導入後に複数の外部検証研究が実施され、改善すべき点とknowledge gapが明らかになった。腫瘍サイズについてはFukui et al. (2016)、Bian et al. (2018)、Okumura et al. (2019) が予後との関連を示したにもかかわらず、第8版ではT分類への採用に至らなかった。縦隔胸膜のT記述子としての有用性は術前画像診断での検出困難性と病理評価の非一貫性から疑問視されていた。さらに、肺・横隔神経への浸潤 (T3) の予後が他のT3病変 (大血管浸潤など) と比べて良好である可能性が示唆されており、この分類が腫瘍の生物学的挙動を適切に反映しているかについて議論が続いていた。これらの問題点は大規模データによる検証が不十分なまま未解明であり、第8版の分類に残された知識の空白 (gap) を埋めるためには11,347例規模の国際コホートによる系統的解析が不可欠であった。

目的

本研究の目的は、TD-SPFC (Thymic Domain Staging and Prognostic Factors Committee) が世界各国の胸腺専門コンソーシアムから収集した11,347例の国際データベースを解析し、TNM第9版に向けたTET病期分類の改訂提案を行うことである。具体的には、(1) Stage I腫瘍における腫瘍サイズの予後的意義を検証してT1カテゴリーの細分化閾値を設定すること、(2) 縦隔胸膜をT記述子から除外することの妥当性を評価すること、(3) 肺・横隔神経浸潤のT3からT2への再分類を統計的・臨床的に裏付けること、および (4) NおよびM分類と病期群について第8版維持の妥当性を実証することを目的とした。

結果

データ構成と解析母集団: 収集された11,347例のうち、有効な組織型と生存データを持つn=9,147が主要解析対象となった。外科治療を受けた患者はn=8,830 (96.5%) であり、非手術療法はn=251 (2.7%) であった。OS解析には9,147例、再発解析にはR0症例n=3,845を用いた。cStageに関する情報は6,831例 (75%) で欠損または未決定であり、pStageとcStageの両方が利用可能であったのは1,506例 (16%) にとどまった。組織型別のリンパ節転移率は胸腺腫1.5%、胸腺癌17.6%、NETT 27.7%であり、腫瘍の侵攻性に比例する分布を示した。N1/N2比率は、胸腺腫で1.1%/0.4%、胸腺癌で8.3%/9.3%、NETTで22.3%/5.3%であった。

T分類変更提案1:T1の腫瘍径細分化と縦隔胸膜の削除: Stage I胸腺腫において5cm閾値でのFFR (R0) 解析を行ったところ、T1a (≤5cm) とT1b (>5cm) の間に統計的に有意な生存差が確認された (HR 1.87, p=0.003)。Stage I胸腺癌でも同様の傾向が認められたが (HR 1.93, p=0.11)、早期胸腺癌の症例数が少なく有意差には至らなかった。Table 4に示すとおり、T1a (≤5cm) 症例の累積再発率4% (55/1,372例) vs T1b (>5cm) 症例の7% (78/1,045例) という差が認められ、5cmが臨床的に意味のある境界値であることが裏付けられた。一方、縦隔胸膜浸潤は術前画像診断での検出が実務上困難であり、病理医による認識・報告にも一貫性が欠けるという問題から、T記述子から削除することが提案された。腫瘍径と縦隔胸膜を同時にT1分類に組み込むことは過度の複雑化につながるため、腫瘍径のみをT1記述子として採用する判断がなされた (Table 1)。

T分類変更提案2:肺・横隔神経浸潤のT2への再分類: 第8版でT3に分類されていた肺浸潤および横隔神経浸潤は、解析の結果、他のT3腫瘍 (腕頭静脈・上大静脈・胸壁浸潤など) と比較してT2腫瘍に近い予後を示すことが明らかになった。臨床的観点からも、横隔神経浸潤・隣接肺実質への浸潤は心膜浸潤 (T2) と同等の手術複雑度と見なされる一方、大血管浸潤 (T3) とは明確に異なるとの専門家コンセンサスが得られた。この再分類により、第9版提案TNMにおけるT2は「心膜・肺・横隔神経浸潤」を包括する区分となり (Table 1)、Stage IIとIIIA間の生存曲線分離が第8版と比較して視覚的に大幅に改善した。

N分類の統計的検証と第8版維持: 胸腺癌のpN解析では、pN1 vs pN0 に有意な生存差 (HR 1.5, 95% CI 1.1-2.1, p=0.017) が、pN2 vs pN1 にも有意差 (HR 1.8, 95% CI 1.2-2.7, p=0.006) が認められた。胸腺腫のpN解析では、pN1 vs pN0 で顕著な有意差 (HR 2.9, 95% CI 1.8-4.7, p<0.001) が認められたが、pN2 vs pN1 では有意差は認められなかった (HR 1.1, 95% CI 0.5-2.5, p=0.85)。cN情報の欠損が多くデータ駆動的な変更根拠を確立できなかったため、N分類 (N0: 転移なし、N1: 前縦隔/胸腺周囲リンパ節、N2: 深部胸腔内・頸部リンパ節) は第8版を維持することが提案された (Table 2)。

M分類のpM解析では、胸腺癌でpM1a vs pM0 (HR 1.8, 95% CI 1.3-2.4, p=0.001) およびpM1b vs pM1a (HR 1.8, 95% CI 1.1-2.8, p=0.014) に有意差が確認された。胸腺腫でもpM1a vs pM0 で顕著な有意差 (HR 3.7, 95% CI 3.0-4.6, p<0.001) が認められ、第8版M分類 (M0/M1a/M1b) の予後識別能が支持された (Table 2)。胸膜播種病変数や遠隔転移のオリゴメタスタシス (oligometastatic disease) 概念については、データの粒度が不十分で結論を得られなかった。

病期群の検証と累積再発発生率による識別能確認: 第9版提案TNM分類に基づく累積再発発生率 (CIR) は、Stage I-T1aで4% vs Stage I-T1bで7%、Stage Iで6% vs Stage IIで26%、Stage IIIAで38% vs Stage IVAで54%と病期の上昇に伴い一貫して増加し (Stage I: 138/2,491例、Stage II: 103/390例、Stage IIIA: 44/117例、Stage IVA: 49/91例)、早期病期群間での良好な分離が確認された (Figure 1A, 1B)。連続する病期群間のCox解析では、Stage II対I (FFR HR 4.26, p<0.0001; OS-R-any HR 2.77, p<0.0001)、Stage IIIA対II (FFR HR 1.51, p=0.02)、Stage IVA対IIIB (FFR HR 2.96, p=0.01)、Stage IVB対IVA (OS-R-any HR 1.46, p=0.002) で有意差が認められた (Table 5)。Stage IIとIIIA間の生存曲線分離は、肺・横隔神経浸潤の再分類により第8版と比較して明確に改善した。病期群の定義 (Stage I〜IVBの6グループ) は第8版と同一で維持されることが決定された (Table 3)。

考察/結論

本研究は、11,347例という過去最大規模の多国籍TETデータベースを用い、TNM第9版に向けた包括的な病期分類改訂提案を行った。これまでの研究では腫瘍サイズはTET全体のコホートで予後との関連が十分に示されなかったため第8版では採用されなかったが、本研究では5cm閾値でのT1細分化が特に早期胸腺腫 (Stage I) におけるFFR予後識別に統計的に有意であることを大規模データで実証した。縦隔胸膜はその評価困難性から既報においても批判を受けていたが、本研究はこれをT記述子から削除しT1記述子として腫瘍径のみを採用するという明確な提案を示した点で既報と異なる。肺・横隔神経浸潤のT2への再分類は、従来のT3分類との対照的な知見を示すものであり、腫瘍の生物学的挙動に即した分類の精緻化を実現した。

本提案の新規な点は、世界13のコンソーシアムが関与する統一データベースを基盤として、腫瘍径によるT1サブカテゴリー化および肺・横隔神経浸潤のT2再分類という二つの重要な変更が早期病期TETの予後識別能を本研究で初めて大規模に実証した点にある。特に、Stage IIとIIIA間の生存曲線分離の改善は、第8版では不明確であった病期群間の識別能をより臨床的に意味のある形で達成するものである。また、T1への腫瘍径導入は他臓器腫瘍のTNM分類で広く採用されている客観的指標の採用であり、TET分類の国際的一貫性を高める新規の改善である。

臨床的意義として、本提案分類は臨床現場での病期評価の標準化と再現性の向上に寄与する。腫瘍径5cmという客観的・再現性の高い指標によるT1細分化は、術前画像から得られる情報で病期を評価可能にし、臨床試験での患者層別化の精度向上に直結する。縦隔胸膜削除は術前診断困難性を解消し、臨床的含意として病期分類プロセスを簡略化する。肺・横隔神経浸潤のT2再分類は、これらの患者が他のT3病変患者と異なる予後を持つことを明示し、治療強度選択への適切な情報を提供する。TETは稀少疾患であるため国際的な統一分類の維持が特に重要であり、本提案はN・M分類と病期群を第8版から大きく変えずに最小限の改訂にとどめることで分類の継続性も担保している。

残された課題として、cStage情報が75%の症例で欠損しており前向きデータ収集による次版改訂への対応が今後の検討課題である。NETTは全解析を通じて症例数が少なく統計的結論を導けなかったため、NETT専用の病期評価の妥当性については今後の研究での検証が必要とされる。N分類のリンパ節ステーション別詳細情報の欠如も、次版改訂に向けた残された課題の一つであり、ITMIGが推奨するリンパ節郭清・報告の標準化が求められる。胸膜播種の病変数や遠隔転移のオリゴメタスタシス的特性に関する情報欠如も将来のM分類精緻化における課題である。外部データセットによるvalidation解析が実施できていない点もlimitationであり、将来的な独立コホートでの検証が期待される。

方法

本研究は多国籍・多施設共同のレトロスペクティブコホート研究として実施された。Cancer Research And Biostatistics (CRAB) が統括する中央データベースに、JART (Japan Association for Research in Thymoma, n=2,659)、ChART (Chinese Alliance for Research in Thymomas, n=1,515)、ESTS (European Society of Thoracic Surgeons thymic registry, n=1,411)、KART (Korean Association for Research in Thymoma, n=1,357)、ITMIG (n=813)、フランスのRYTHMIC (Reseau tumeurs THYMiques et Cancer, n=383)、スペイン胸腺腫瘍データベース (n=86) など13施設・コンソーシアムからデータが集積された。全11,347例の中から、有効な組織型と生存データを持つ9,147例を主要解析対象とし、R0完全切除 (complete resection) が確認された3,845例を再発解析に用いた。

転帰指標として全生存期間 (OS: overall survival) と再発 (無再発生存期間 [FFR: freedom from recurrence]、累積再発発生率 [CIR: cumulative incidence of recurrence]) を使用した。OS曲線はKaplan-Meier法により算出し、生存曲線の比較にはlog-rank検定を適用した。ハザード比 (HR: hazard ratio) の算出にはCox比例ハザードモデル (Cox regression) を用い、腫瘍タイプ (胸腺腫・胸腺癌・NETT) を層別化因子とした。多変量解析は胸腺腫と胸腺癌で別々に実施し、性別・年齢 (65歳超対以下)・地域 (アジア-オーストラリア対ヨーロッパ-北米)・Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) performance status (PS 0/1 vs >1)・切除状態で調整した。腫瘍径の予後的意義はStage I腫瘍でFFR (R0) を用いて評価し、5cm閾値でのT1細分化を検討した。cStageとpStageの整合性は両情報が利用可能な1,506例 (全体の16%) で評価した。解析はSAS version 9.4 (Statistical Analysis System Institute, Cary, NC) を使用した。