• 著者: Makoto Furugen, Ikuo Sekine, Koji Tsuta, Hidehito Horinouchi, Hiroshi Nokihara, Noboru Yamamoto, Kaoru Kubota, Tomohide Tamura
  • Corresponding author: Ikuo Sekine (Division of Internal Medicine and Thoracic Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Japanese Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2011
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21764830

背景

胸腺癌は稀な悪性腫瘍であり、その浸潤性や転移リスクの高さから胸腺腫とは異なる疾患として認識されている。しかし、本疾患に対する標準的な全身化学療法は未だ確立されていないのが現状である。過去の治療成績は主にプラチナベース化学療法の後方視的研究に依存しており、例えば、シスプラチン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、シクロホスファミドの併用療法 (ADOC) は客観的奏効率 (ORR) 75%を示したとKoizumi et al. (2002) が報告している。また、Yoh et al. (2003) はシスプラチン、ビンクリスチン、ドキソルビシン、エトポシドの併用療法 (CODE) でORR 42%を報告した。しかし、これらの研究は小規模であり、胸腺癌に特化した大規模な前向き臨床試験の実施は、その稀な疾患特性から困難であったため、詳細な有効性や安全性プロファイルは未解明な部分が多かった。

非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療に広く用いられているカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法は、既存薬とは異なる作用機序を有し、比較的毒性プロファイルが良好であるという利点から、胸腺腫瘍への応用が試みられてきた。先行する小規模な後方視的研究では、Maruyama et al. (2006) がORR 100% (5例中5例) を、Igawa et al. (2010) がORR 36% (11例中4例) および無増悪生存期間 (PFS) 中央値7.9ヶ月を報告した。さらに、Lemma et al. (2011) による進行胸腺腫瘍に対するカルボプラチンとパクリタキセルの第II相試験では、胸腺癌患者21例においてORR 22%、PFS中央値5.0ヶ月、全生存期間 (OS) 中央値20ヶ月が報告された。

しかし、これらのデータは限定的であり、日本における大規模がんセンターでの本レジメンの系統的な評価は不足していた。特に、アントラサイクリン系薬剤による心毒性の懸念がない本レジメンの有効性と安全性を詳細に評価することは、臨床現場における重要な残された課題であった。

目的

本研究は、進行胸腺癌患者に対するカルボプラチンとパクリタキセル併用化学療法の有効性および安全性を後方視的に評価することを目的とする。

結果

患者背景: 解析対象の16例は、男性13例 (81%)、女性3例で構成され、年齢中央値は56歳 (範囲38–73歳) であった (Table 1)。本研究における男性優位性および非小細胞肺癌患者と比較してやや低い年齢中央値は、先行報告 (Kondo et al. 2003; Lee et al. 2009) とも整合的であった。喫煙歴のある患者は12例 (75%) を占め、非喫煙者は4例 (25%) であった。組織型では扁平上皮癌が12例 (75%) と最も多く、次いで未分化癌が2例 (13%) であった。臨床病期はStage IVaが4例 (25%)、Stage IVbが9例 (56%)、術後再発が3例 (19%) であった。パフォーマンスステータス (PS) 0-1の患者が15例 (94%) と大部分を占めた。治療サイクル数の中央値は3回 (範囲1–7回) であり、7例 (44%) が4サイクル以上の治療を受けた。

奏効率と腫瘍制御: 全患者において腫瘍効果が評価可能であった。完全奏効 (CR) が2例、部分奏効 (PR) が4例、安定 (SD) が8例、病勢進行 (PD) が2例であった。これにより、客観的奏効率 (ORR) は37.5% (95%信頼区間 [CI] 15.2–64.6%) であり、病勢制御率 (DCR) は87.5%であった。RECIST評価では2例のCRを含む高い腫瘍制御が確認され、広範な転移を有するStage IVb症例においても奏効が認められた。化学療法後に2例が増悪前に放射線療法を施行し、4例が増悪後に施行された。また、1例のStage IVa症例では化学療法後に原発巣の外科切除が実施された。

生存アウトカム: 16例におけるPFS中央値は8.6ヶ月 (95% CI 1.8–15.3ヶ月) であった (Fig 1)。OS中央値は49.4ヶ月 (95% CI 30.1–68.8ヶ月) と、PFS中央値と比較して著しく長い結果が得られた (Fig 2)。これは胸腺癌の比較的緩徐な増殖速度と、化学療法後の後続治療の寄与を反映していると考えられる。化学療法後に6例が2次治療を受け、うち3例は治験薬の第I相試験に登録された。これらの後続治療がOSの延長に寄与した可能性が示唆される。

長期生存例の特徴: 2例が5年以上の無再発生存を達成した。1例はStage IVaで化学療法後に外科切除を実施し、103ヶ月の長期無再発生存を継続中であった。この患者は播種性疾患を有する患者の約10%に相当する高度に選択された患者であり、化学療法が導入療法として機能し、その後の局所療法が根治につながる可能性を示唆する。もう1例は胸膜播種および多発肺転移を伴うStage IVb症例であったが、4サイクルのカルボプラチン+パクリタキセル療法後にCRを達成し、68ヶ月以上病勢を制御していた。これは、化学療法単独でも長期奏効が得られる可能性を示唆する。

毒性プロファイル: 主要な血液毒性はGrade 3/4の好中球減少 (76.5%) および白血球減少 (70.6%) であった。発熱性好中球減少症は4例 (11.8%) で発生したが、抗菌薬やG-CSF (顆粒球コロニー刺激因子) で管理可能であった。Grade 3の血小板減少が1例 (2.9%) に認められたが、Grade 3以上の貧血はなかった。非血液毒性としては末梢神経障害や嘔気などが報告されたが、全体的に軽微であった。アントラサイクリン系薬剤を含まないため、心臓毒性は認められなかった。

考察/結論

本研究は、進行胸腺癌患者に対するカルボプラチン+パクリタキセル併用化学療法が、ORR 37.5%、OS中央値49.4ヶ月という良好な成績を示すことを後方視的に明らかにした。PFS中央値8.6ヶ月と比較してOS中央値が著しく長いことは、胸腺癌の比較的緩徐な増殖特性と、化学療法後の後続治療の寄与を反映していると考えられる。一部の進行胸腺癌患者は、無症候性である限り、標準的な支持療法のみで数年間経過観察が可能であることも、OSの延長に寄与している可能性がある。

  • ① 先行研究との違い: 本研究のORR 37.5%およびOS中央値49.4ヶ月は、先行するECOG phase II試験 (Lemma et al. 2011) における胸腺癌群のORR 21.7%やOS中央値20.0ヶ月と異なり、より良好な成績を示した。この相違は、患者背景(本研究ではStage IVb症例が56%と多く、より進行した症例が含まれる)、治療サイクル数、あるいは単一施設における診療慣行の違いなどの交絡因子によるものと考えられる。本研究の奏効率とPFS中央値は、他の後方視的研究 (Igawa et al. 2010; Lemma et al. 2008) と比較して同等であった。

  • ② 新規性: 希少疾患である進行胸腺癌に対するカルボプラチン+パクリタキセル併用療法の有効性と安全性を、単施設ながらも比較的詳細な後方視的データを用いて評価した点は新規な知見である。特に、化学療法が導入療法として機能し、その後の局所療法(外科切除)によって103ヶ月の長期無再発生存を達成したStage IVa症例や、化学療法単独でCRを達成し68ヶ月以上維持したStage IVb症例の存在は、これまで報告されていない重要な示唆を与える。これは、一部の選択された患者において本レジメンが長期生存または根治につながる可能性を示すものであり、本研究で初めて詳細に報告された点である。

  • ③ 臨床応用: 本研究で示されたカルボプラチン+パクリタキセル併用療法の有効性と、アントラサイクリン系薬剤を含まないことによる心毒性の回避という特徴は、心機能低下例や高齢の進行胸腺癌患者における臨床現場での現実的な治療選択肢となりうる。本研究の結果は、その後の日本における多施設共同WJOG4207L phase II試験 (Hirai et al. 2015) のデザインにも影響を与えたとされており、本レジメンの臨床的有用性を示唆している。

  • ④ 残された課題: 本研究は後方視的デザインであり、症例数が少ない (16例) 単施設研究であるというlimitationがある。また、37例中16例が解析対象となった患者選択プロセスにおけるバイアスの可能性も否定できない。例えば、根治的切除や放射線療法が可能な5例が除外されたが、局所進行胸腺癌における切除可能性や根治的放射線療法の適応は議論の余地があり、肺疾患の合併も放射線毒性に影響するため、これらの判断が恣意的であった可能性も指摘される。今後の研究では、特定のc-KIT遺伝子変異を有する胸腺癌に対するイマチニブ (Strobel et al. 2004) やソラフェニブ (Disel et al. 2011; Bisagni et al. 2009)、あるいは変異がない症例に対するスニチニブ (Strobel et al. 2010) など、分子標的薬の開発に焦点を当てるべきである。これらの新規薬剤の開発が残された課題である。

方法

本研究は、国立がんセンター病院(東京)で実施された後方視的単施設研究である。2000年11月から2009年3月までに同施設で進行胸腺癌の治療を受けた37例のうち、以下の適格基準を全て満たした16例が解析対象となった。適格基準は、(i) 組織学的または細胞学的に確認された胸腺癌、(ii) Masaoka病期分類IVa/IVbまたは術後再発、(iii) 手術または根治的放射線療法が不適格、(iv) 胸腺癌に対する先行全身化学療法歴なし、(v) カルボプラチンとパクリタキセル併用化学療法歴あり、であった。

対象外となった21例の内訳は、根治的放射線療法または手術が可能であった5例、最善の支持療法のみが提供された4例、カルボプラチンとパクリタキセル以外の化学療法が投与された12例であった。

治療レジメンは、パクリタキセル200 mg/m2を3時間かけて静脈内投与後、カルボプラチンAUC6を60分かけて静脈内投与し、このサイクルを3〜4週間ごとに繰り返すものであった。腫瘍効果の評価は、2003年以降の症例では固形がんの治療効果判定に関する新ガイドライン (RECIST) 1.0版、2002年以前の症例では世界保健機関 (WHO) 基準に従って行われた。主要評価項目は客観的奏効率 (ORR) であり、副次評価項目は無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および毒性プロファイルであった。PFSおよびOSはKaplan-Meier法を用いて推定された。本研究は後方視的性質のため、国立がんセンター病院の倫理審査委員会により通常の審査プロセスが免除された。