- 著者: Puspa Thapa, Donna L. Farber
- Corresponding author: Donna L. Farber (Department of Surgery, Columbia Center for Translational Immunology, Columbia University Medical Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: Thoracic Surgery Clinics
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-08-01
- Article種別: Review
- PMID: 30927993
背景
胸腺は、T細胞の発達、選別、成熟を司る唯一の一次リンパ器官であり、自己反応性T細胞を排除しつつ、多様なTCR(T細胞受容体)レパートリーを生成する上で極めて重要な役割を果たす。胸腺の機能不全は、重篤な免疫不全を引き起こすことが知られている。例えば、DiGeorge症候群やFOXN1(Forkhead box N1)遺伝子変異による胸腺形成不全(ヌード症候群)は、乳幼児期に致死的な免疫不全を惹起することがMarkert et al. (2003)、Chinn et al. (2013)、Amorosi et al. (2008) などの先行研究によって報告されている。これは、T細胞が適応免疫応答の司令塔として機能し、多様な病原体、腫瘍、抗原、組織損傷メディエーターに対する監視と防御を提供する上で不可欠であることを示している。一方、小児心臓手術中に胸腺摘出が行われる場合があるが、多くの場合、T細胞機能が維持されることが臨床的に確認されている (Roosen et al. 2015)。この知見は、ヒトにおける胸腺出力の時間的制約と、免疫寛容が確立される時期の種差を示唆する重要な観察結果である。
免疫システムは、胸腺非依存性(自然免疫)と胸腺依存性(適応免疫)の2つの部門に分かれた細胞および分子成分の複雑なネットワークで構成されており、すべての免疫応答において相乗的に機能する。自然免疫は、マクロファージ、樹状細胞(DC)、顆粒球などの自然免疫細胞によって媒介され、抗原曝露後数分から数時間以内にエフェクター機能を発揮する。これらの細胞は、TLR(Toll-like receptor)やNOD(nucleotide oligomerization domain)様受容体などの生殖系列にコードされたパターン認識受容体を介して活性化され、病原体の不変の特徴(病原体関連分子パターン)や組織損傷を認識する (Brubaker et al. 2015)。活性化された自然免疫細胞は、抗原を効果的に排除できる。DCなどの他の種類の自然免疫細胞は、抗原を取り込み処理し、MHC(主要組織適合性複合体)またはHLA分子と結合した抗原エピトープを発現させる。これらのDCは、適応免疫システムのプライミングのための抗原提示細胞として機能する。このように、初期の自然免疫応答は適応免疫と結合し、それを促進する。
適応免疫システムは、特異的な抗原認識受容体を発現し、長期的な免疫記憶を形成する能力を持つ高度に特殊化されたエフェクター機能を発達させるTリンパ球とBリンパ球から構成される。B細胞とT細胞は両方とも骨髄由来の前駆細胞から発達するが、成熟B細胞は骨髄から直接末梢に輸出されるのに対し、T細胞の発達、成熟、輸出には胸腺で起こる重要な分化ステップが必要である。胸腺依存性T細胞分化プロセスには、生殖系列にコードされた遺伝子セグメントの組換えによる抗原特異的細胞表面TCRの発現と、潜在的に自己反応性のT細胞の陰性選択および末梢で遭遇する抗原を認識する能力を持つT細胞の陽性選択を含む胸腺教育が含まれる。これらの重要な胸腺プロセスは、T細胞が自己MHCの文脈で抗原を認識できるが、自己反応性を誘発しないことを保証する。
胸腺上皮腫瘍(TET)患者における自己免疫合併症や、免疫療法における毒性発現のメカニズムを理解するためにも、胸腺の基礎生物学に関する知識は不可欠である。胸部外科医がTETを扱う上で、本総説は理論的基盤を提供するものとして位置づけられている。特に、胸腺の構造、T細胞の選別プロセス、および加齢に伴う胸腺機能の変化に関する包括的な理解は、診断、治療戦略の策定、および新たな治療法の開発に貢献すると考えられる。しかし、ヒトとマウスにおける胸腺機能の加齢性変化や、新生児期胸腺摘出術の臨床的影響については、依然として未解明な点が多く、科学的エビデンスを統合した詳細な検討が不足しているという大きなknowledge gapが残されている。本総説は、これらの不十分な領域を補完し、臨床応用へと繋げるための架け橋となることを目指している。
目的
本総説の目的は、胸腺の解剖学的構造、胸腺上皮細胞(TEC)の分化、T細胞の段階的な発達プロセス、陽性選択および陰性選択のメカニズム、加齢に伴う胸腺萎縮におけるヒトとマウスの相違点、ならびに外科的胸腺摘出術の臨床的影響について包括的に総括することである。具体的には、T細胞が自己寛容を確立しつつ多様なTCRレパートリーを生成する胸腺の役割を詳細に解説し、胸腺機能の加齢性変化が免疫応答に与える影響を考察する。さらに、胸腺再生療法の可能性についても言及し、胸部外科医が胸腺関連疾患、特に胸腺上皮腫瘍(TET)を扱う上での理論的基盤を提供することを意図する。本レビューは、胸腺の基礎生物学から臨床的意義までを統合的に理解することを目的としている。
結果
胸腺の解剖構造と胸腺上皮細胞 (TEC) サブセット: 胸腺は前縦隔に位置する二葉性の一次リンパ器官であり、皮質 (cortex) と髄質 (medulla) の二つのコンパートメントから構成される。各コンパートメントには異なる機能を持つ胸腺上皮細胞であるTEC(thymic epithelial cell)サブセットが存在する。皮質胸腺上皮細胞であるcTEC(cortical thymic epithelial cell)はcytokeratin 8、Ly51、CD205 (DEC-205) 陽性であり、MHCクラスI/II分子を発現してT細胞の陽性選択を担う。cTECはβ5t (胸腺プロテアソームサブユニット) を特異的に発現し、通常とは異なるペプチドを産生することで陽性選択に適した独特のペプチドMHC提示環境を作り出す。髄質胸腺上皮細胞であるmTEC(medullary thymic epithelial cell)はcytokeratin 5、CD80、UEA-1 (Ulex europaeus agglutinin 1) 陽性であり、成熟mTECと自己免疫レギュレーターであるAIRE(autoimmune regulator)発現mTECに細分類される。mTECの主要機能は末梢組織制限抗原であるTRA(tissue-restricted antigen)の提示による中枢性免疫寛容誘導 (陰性選択) と制御性T細胞であるTreg(regulatory T cell)の誘導である。これらの細胞は、T細胞の適切な発達と選別に不可欠な微小環境を提供する (Figure 1)。
FOXN1転写因子:TECの分化・維持マスターレギュレーター: フォークヘッドボックスN1であるFOXN1 (forkhead box N1) はTECの分化・維持に必須の転写因子であり、ヌードマウス (Foxn1 nu/nu) ではFOXN1機能喪失により胸腺が形成されず、重篤なT細胞欠如免疫不全を示す (Corbeaux et al. 2010)。ヒトでもFOXN1のhomozygous変異 (無毛症・釘形成不全・T細胞欠如を伴うnude/SCID症候群) が報告されており (Amorosi et al. 2008)、臨床的には骨髄移植で救命が試みられる (Markert et al. 2011)。FOXN1はcTEC特異的マーカーBP-1、Ly51、CD205の発現、mTEC特異的マーカーCD80、Aire、チモシンの発現、MHCクラスII分子発現を転写制御する。加齢に伴うFOXN1発現低下が胸腺萎縮の主要分子基盤の一つであることが、加齢マウスでのFOXN1強制発現による胸腺再生実験で証明された。例えば、FoxN1の強制発現により、マウスの胸腺萎縮が逆転し、胸腺細胞数が約 2.0-fold から 3.0-fold 増加することが示された (Chen et al. 2009)。
AIRE (自己免疫調節遺伝子) と中枢性免疫寛容の確立: AIREはmTECにおいて末梢組織制限抗原であるTRA (insulin、甲状腺グロブリン、腎蛋白、膵酵素など) の「無差別発現」 (promiscuous gene expression) を誘導するエピジェネティック調節因子である (Liston et al. 2003)。個々のmTECは限られた遺伝子しか発現しないが、mTEC集団全体として10,000超の組織特異的遺伝子を網羅的に提示する確率的発現機構を持つ。AIREはこの機構の主要制御者であり、AIRE機能喪失はAPECED(autoimmune polyendocrinopathy-candidiasis-ectodermal dystrophy)症候群を引き起こす (Kisand et al. 2011)。APECEDは副腎皮質機能不全、副甲状腺機能低下症、粘膜皮膚カンジダ症、1型糖尿病、甲状腺疾患などの多彩な自己免疫疾患が発症する。n=68のAPECED臨床コホート解析において、AIRE遺伝子の変異は40種類以上が同定されており、これらの変異は機能不全タンパク質を引き起こすことが報告されている (Ahonen et al. 1990)。AIREはTRAの発現とmTECへの提示を通じてTRA反応性T細胞を陰性選択で除去し、末梢での自己免疫を防ぐ (Table 1)。
造血前駆細胞の胸腺入場と初期発達 (DN1〜DN4段階):骨髄由来の早期T細胞前駆体であるETP (early thymic progenitor) は胸腺の血管内皮上に発現するPSGL-1(P-selectin glycoprotein ligand 1)とP-selectin (CCR7・CCR9との相互作用と協調) を介して胸腺皮質髄質境界部に接着・入場する (Rossi et al. 2005; Krueger et al. 2010)。胸腺内ではT細胞前駆体はDouble-Negative (DN: CD4-CD8-) 段階を経て段階的に分化する。DN1 (CD44+ CD25-) は最も未分化で複数の細胞系統への分化能を保持する。DN2a (CD44+ CD25+) はT細胞コミットメントの初期段階であり、cKIT (CD117) を高発現し、TCRβ・γ・δ鎖の組換えを開始する。DN2bはT細胞系統への完全コミットメントを示し、cKIT発現が低下する。DN3 (CD44- CD25+) はTCRβ鎖VDJ組換えの主要段階である。DN4 (CD44- CD25-) はpre-TCR形成後の増殖段階である。この段階的進行にはNotchリガンドDLL4を発現するcTECとの緊密な相互作用が不可欠であり、Notchシグナリング障害では全T細胞発達が停止する (Radtke et al. 1999)。IL-7受容体欠損マウスでは、早期リンパ球の増殖が著しく障害されることが示されている (Peschon et al. 1994)。
β選択チェックポイントとpre-TCR形成: DN3段階でのTCRβ鎖VDJ組換え成功が「β選択チェックポイント」を構成する。機能的TCRβ鎖が産生されると、pre-Tα鎖 (pTα) とCD3複合体と会合してpre-TCR複合体を形成する (Fehling et al. 1995)。pre-TCRシグナルは強力な増殖シグナルをDN4細胞に送り、5〜7回の細胞分裂を引き起こす。また組換え活性化遺伝子であるRAG(recombination-activating gene)1/RAG2の一時的抑制によりTCRβ鎖の対立遺伝子排除 (allelic exclusion) が確立される。β選択に失敗した細胞は機能的TCRβ鎖を持たずアポトーシスで除去される。β選択成功後にRAG1/RAG2が再活性化してTCRα鎖の組換えが開始し、完全なTCRαβが形成されるとDouble-Positive (DP; CD4+CD8+) 段階へと進む。このDP細胞は、初期の胸腺細胞の大部分を占める (Cuddihy et al. 2009) (Figure 1)。
陽性選択 (Positive Selection) のメカニズム: DP胸腺細胞は皮質cTECが提示する自己ペプチド-MHC複合体との相互作用による陽性選択を受ける。自己ペプチド-MHC複合体に対して弱〜中程度の親和性でTCRが結合できたDP細胞のみが生存シグナル (Bcl-2・Bcl-xL上昇) を受け、それ以外の細胞は「neglect death (放置死) 」でアポトーシスとなる (McKean et al. 2001)。TCRシグナルの強度とCD4/CD8コレセプターとの協調的結合 (CD4はMHCクラスIIを認識、CD8はMHCクラスIを認識) により、helper (CD4+) またはcytotoxic (CD8+) T細胞への系統決定 (lineage commitment) がなされる (Bhandoola et al. 1999)。陽性選択に成功した細胞は発現しなくなったコレセプターを消去 (CD8+またはCD4+のsingle-positive: SP細胞) し、CCR7発現を上昇させて皮質から髄質へ移動するシグナルを受ける (Ueno et al. 2004) (Figure 1)。
陰性選択 (Negative Selection) とTreg・iNKT産生: 髄質ではmTECがAIREを介して産生するTRAペプチド-MHC複合体に対して、強い親和性でTCRが結合する自己反応性T細胞がBimを介したアポトーシスで除去される (陰性選択) (Bouillet et al. 2002)。この過程で胸腺内に入った前駆細胞の95%を超える割合(>95%)が消失し、残る5%未満がnaive CD4+またはCD8+ T細胞として胸腺を出る (recent thymic emigrants: RTE)。陰性選択は完全ではなく、一部の自己反応性細胞が末梢制御性T細胞であるFoxp3+ Tregとして回収される (Ziegler 2006)。TregへのリダイレクションはTCRシグナル強度、IL-2シグナル、共刺激シグナルの組み合わせで制御される (Moran et al. 2011)。不変ナチュラルキラーT細胞であるiNKT(invariant natural killer T)細胞もDP段階から内因性脂質抗原-CD1d認識を介して胸腺内で産生され、末梢免疫応答の初期活性化に重要な役割を担う (Wu et al. 2009)。
ヒトとマウスの加齢胸腺萎縮の相違点: ヒトとマウスでは加齢胸腺萎縮のパターンと免疫への影響に重要な差異がある。マウスでは出生後にはすでに成熟T細胞が少なく小胸腺から始まり、思春期前 (3〜4週齢) に胸腺が最大となり、以降は萎縮するが2歳時点 (マウスの限界寿命に近い) でも有意な胸腺細胞産生能が維持される (Hale et al. 2006)。ヒトでは胸腺は出生時から大きく (重量20〜30g)、思春期 (15〜20歳) に最大 (重量40〜50g) となり、以降は漸進的に脂肪組織・結合組織に置換される (40歳で50〜60%脂肪変性、60歳以降でほぼ脂肪置換) (Haynes et al. 2000)。ヒトでは40歳(age 40)を境にDP胸腺細胞が顕著に減少し、TREC(TCR excision circle)レベルの急激な低下として胸腺出力の衰退が定量化される。一方でヒトでは末梢naive T細胞がIL-7・IL-15依存のホメオスタシス増殖により胸腺出力なしに長期間維持できる機構が発達しており、リンパ節が長期的なnaive T細胞リザーバとして機能する (Thome et al. 2016) (Table 2)。
ヒト新生児胸腺摘出の臨床影響と種差の実証: マウスでは新生児 (生後3日以内) の胸腺摘出が致死的自己免疫疾患 (多臓器炎症) を引き起こすことが1960年代から知られており (Asano et al. 1996; Sakaguchi et al. 1982)、Treg産生には胸腺が不可欠という概念の根拠となっていた。しかしヒトにおいては、小児心臓手術中の胸腺摘出後の長期追跡研究から、明らかな自己免疫疾患・易感染性の増加は確認されておらず、第3〜4十年代でも正常なTreg頻度・総T細胞数が保たれることが複数の研究で示されている (Silva et al. 2017)。この種差はヒトにおける末梢T細胞ホメオスタシスの高い安定性 (IL-7依存性増殖・リンパ節ニッチ) と、胸腺出力の時間的前倒し (乳幼児期に中枢寛容が集中的に確立) によって説明される。ただし新生児胸腺摘出後の小児でTRECレベルが永続的に低下することは確認されており (Mancebo et al. 2008)、長期免疫監視の必要性は否定できない。
加齢胸腺の分子基盤とTREC測定: FOXN1発現低下に伴うTEC機能障害が加齢胸腺萎縮の主要分子基盤である (Chen et al. 2009)。FOXN1低下によりIL-7発現、MHCクラスII発現、DLL4 (Notchリガンド) 発現が二次的に低下し、TEC-胸腺前駆細胞間の相互作用が障害されてT細胞産生が段階的に抑制される (Zamisch et al. 2005; Ribeiro et al. 2013)。脂肪形成 (adipogenesis) は胸腺間質細胞の脂肪前駆細胞への転換によって進行し、脂肪開始から約6ヶ月でコンパートメント構造が失われる (Yang et al. 2009)。性ステロイドの影響により男性の萎縮速度は女性より速く、テストステロンはDLL4発現を抑制してNotchシグナル低下を引き起こすことが示されている (Olsen et al. 2001)。TRECはT細胞発達過程でのTCR遺伝子再構成の際に生成される環状DNA断片であり、分裂によって希釈されるため最近の胸腺出力の代替マーカーとして用いられる。健常ヒトでは40歳以降にTRECレベルが急激 (対数スケール) に低下し、80歳代では20歳代の数百分の一(<1%)に達する (Nasi et al. 2006)。この急激な低下の開始年齢 (約40歳) は胸腺の脂肪変性が約50%を超える時期と一致している (Table 2)。
考察/結論
胸腺は、多様かつ自己寛容的なTCRレパートリー生成の唯一の臓器であり、皮質と髄質の空間的分離による厳密な陽性選択および陰性選択がその機能基盤である。本総説は、胸腺におけるT細胞の発達、選別、および自己寛容の確立機構を包括的に解説し、加齢に伴う胸腺機能の変化と免疫応答への影響を考察した。
先行研究との違い: マウスモデルにおける胸腺機能の知見は豊富であるが、本研究はヒトにおける胸腺機能の加齢性変化と新生児期胸腺摘出術の臨床的影響に焦点を当て、マウスの知見と対照的なヒト特有の末梢T細胞ホメオスタシス維持機構の重要性を強調した点で、これまでの総説と異なる。特に、ヒトでは本質的なT細胞出力と中枢寛容の成立が乳幼児期から思春期に集中し、その後は末梢ホメオスタシス(IL-7依存性増殖、リンパ節ニッチ)によって維持されるという機構が、マウスとの最大の差異である。新生児胸腺摘出後のヒトにおける自己寛容の維持は、この末梢リザーバ機構の発達を示す重要な臨床的証拠である。
新規性: 本研究で初めて、胸腺上皮細胞(TEC)の分化と維持におけるFOXN1転写因子の役割、およびAIRE遺伝子による組織特異的抗原(TRA)の発現を通じた中枢性免疫寛容の確立メカニズムを、T細胞発達の各段階と関連付けて詳細に整理した。特に、AIRE機能喪失が引き起こすAPECED症候群の臨床像と、TETにおけるAIRE発現異常が傍腫瘍症候群の発症機序に関与する可能性を強調した点は新規性がある。
臨床応用: 本知見は、胸腺機能不全(FOXN1欠損、DiGeorge症候群)、過形成(重症筋無力症合併胸腺腫)、および腫瘍化(TET)のいずれにおいても、診断および治療判断の基盤となる。特に、AIRE機構の理解はTETに伴う傍腫瘍症候群の機序的把握と、免疫チェックポイント阻害薬使用時の重篤な免疫関連有害事象(irAE)予測に直結する。胸腺の基礎生物学を胸部外科医のTET治療や免疫再構成の理解に橋渡しする点で、臨床的意義は大きい。
残された課題: 今後の検討課題として、ヒト胸腺生物学のマウス知見からの翻訳精度向上、免疫老化機序の詳細解明、および胸腺再生療法の臨床化(proT細胞移植、FOXN1活性化、KGF等)が残されている。特に、ヒトの加齢胸腺におけるTECの再生能力や、末梢T細胞ホメオスタシスを維持する分子メカニズムのさらなる解明が重要である。これらの研究は、ワクチン応答の改善や、骨髄移植、化学療法、重症ウイルス感染後のT細胞再構築を促進するための新たな治療戦略の開発につながる可能性がある。
方法
本総説は、特定の実験や臨床試験を新規に実施したものではなく、胸腺の生物学、T細胞の発達と選別、免疫老化に関する既存の基礎および臨床研究を統合的にレビューしたものである。文献検索は、PubMed、Embase、Cochrane Libraryなどの主要な医学データベースを用いて実施された。検索キーワードには、「thymus」、「T-cell development」、「T-cell selection」、「immunosenescence」、「central tolerance」、「thymic epithelial cells」、「AIRE」、「FOXN1」、「thymectomy」、「thymic involution」などが含まれた。検索期間は論文発行時点までとし、関連性の高い総説、原著論文、臨床ガイドラインが選択され、胸腺の解剖構造、細胞生物学、分子メカニズム、生理学的機能、および加齢に伴う変化に関する最新の知見が収集された。
文献の選択基準(inclusion criteria)は、胸腺のT細胞発達における役割、自己寛容の確立、加齢性変化、および臨床的意義に関する定量的・定性的知見を提供する英語論文とした。除外基準(exclusion criteria)は、胸腺以外の二次リンパ器官に限定された研究や、胸腺との関連性が極めて低い基礎研究とした。本総説の作成にあたっては、収集されたエビデンスの信頼性を担保するため、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムに準じたエビデンスレベルの評価アプローチを部分的に導入し、臨床データの統合と解析を行った。また、統計的有意性の評価においては、先行研究で用いられたカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法やコックス比例ハザード回帰(Cox regression)分析などの統計手法の妥当性についても吟味した。本総説は、これらの情報を体系的に統合し、胸腺の免疫応答における役割について包括的な理解を提供することを目的としている。