• 著者: Nebhan CA, Cortellini A, Ma W, Gulati S, Thapa B, Hayward V, Sehgal K, Rahma OE, Bhave M, Villalona-Calero M, Sukari A, Singh R, Kyi C, Jain P, Kim C, Knepper TC, Nagasaka M, Riaz IB, Monga V, Drilon A, Feldman R, Haanen JBAG, Peters S, Schmid P, Mountzios G, Tsiambas E, Boland PM, Costa RLB, de Miguel-Perez D, Ashworth T, Agarwal N, Johnson DB
  • Corresponding author: Douglas B. Johnson, MD (Vanderbilt University Medical Center, Nashville, TN, USA)
  • 雑誌: JAMA Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34734989

背景

転移性非小細胞肺がん(NSCLC)に対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)であるペムブロリズマブやニボルマブなどは、標準治療として確立されている。しかし、これらの主要なランダム化比較試験(RCT)では、80歳以上の超高齢患者の登録数が極めて少なく、多くは65歳から75歳が主な対象であったため、この集団におけるICIの有効性と安全性に関するエビデンスは著しく不足していた (Denson et al. 2014)。高齢者では、免疫老化(immunosenescence)、複数の疾患合併、多剤併用、全身状態(PS)の低下などが重なり、若年者と同等の効果や安全性が期待できるかどうかが臨床的に重要な課題であった。特に、80代と90歳以上では身体的・機能的状態がさらに異なると予想されるが、これらを区別した系統的な評価はこれまで行われていなかった点が、知識のギャップとして残されていた (Sedrak et al. 2020)。

先行研究では、ICIの毒性プロファイルは他の抗がん剤(例:細胞傷害性化学療法)と比較して一般的に忍容性が高いとされているものの、免疫関連有害事象(irAE)は入院や重大な慢性毒性、さらには死亡を引き起こす可能性があることが報告されている (Wang et al. 2018)。irAEとその治療は、機能的予備能が低下している高齢患者に特に大きな生理的ストレスを与える可能性がある。また、免疫老化がICIの有効性を損なう可能性も理論的に懸念されていたが、その臨床的意義は未解明であった (Kugel et al. 2018)。一部の研究では、高齢患者で皮膚毒性が多く、若年患者で大腸炎や肝炎の発生率が高いなど、年齢によって毒性プロファイルがわずかに異なる可能性が示唆されていたが (Betof et al. 2017; Shah et al. 2020)、80歳以上の超高齢者における詳細なデータは不足しており、実臨床でのICIの有効性と毒性を評価する必要があった。本研究は、この高齢者集団におけるICIの臨床的転帰と安全性を詳細に評価し、年齢のみを理由としたICI治療の制限の妥当性を検証することを目的とした。特に、超高齢者におけるirAEの発生率、重症度、および治療中止に至る要因を特定することは、個別化された治療戦略を策定する上で喫緊の課題であった。

目的

本研究の目的は、80歳以上の固形がん患者におけるICI単剤療法の有効性(客観的奏効率 [ORR]、無増悪生存期間 [PFS]、全生存期間 [OS])と安全性(免疫関連有害事象 [irAE])、および治療継続率を多施設国際データから評価することである。さらに、年齢層別(80-84歳、85-89歳、90歳以上)の差異を詳細に分析し、超高齢者におけるICI治療の臨床的意義を明らかにすることを目的とした。特に、免疫老化の概念がICIの有効性やirAE発生率に与える影響を実臨床データに基づいて検証し、年齢のみを理由としたICI治療の除外基準の妥当性を評価することも重要な目的であった。本研究は、これらの知見を通じて、超高齢がん患者に対するICI治療の最適な患者選択と管理戦略の確立に貢献することを目指した。また、irAEによる治療中断の要因を年齢層別に詳細に分析し、特に90歳以上の患者におけるirAEへの対応の特殊性を明らかにすることも、本研究の重要な目的の一つである。

結果

患者背景と治療薬: 全928例の患者において、ICI開始時の年齢中央値は83.0歳(範囲 75.8-97.0歳)であった。大部分の患者(806例、86.9%)が抗PD-1療法を受けており、抗PD-L1療法は79例(8.5%)、抗CTLA-4療法は43例(4.6%)であった。最も多かった腫瘍種はNSCLC(345例、37.2%)、悪性黒色腫(329例、35.5%)、泌尿生殖器がん(GU腫瘍、153例、16.5%)であった。年齢層別の内訳は、85歳未満が626例(67.5%)、85-89歳が242例(26.1%)、90歳以上が60例(6.5%)であった。

非小細胞肺がん(NSCLC)における有効性: NSCLC患者(評価可能例276例)におけるORRは32.2%(完全奏効 [CR] 3.6%、部分奏効 [PR] 28.6%)であった。全NSCLCコホート(345例)におけるPFS中央値は6.7ヶ月(95% CI 5.2-8.6ヶ月)、OS中央値は10.9ヶ月(95% CI 8.6-13.1ヶ月)であった(Figure 1A, Figure 2A)。85歳未満のNSCLC患者のORRは34.5%に対し、85歳以上の患者では25.7%であり、統計的有意差は認められなかった(p=0.18)。OS中央値は85歳未満で11.8ヶ月(95% CI 9.3-15.3ヶ月)に対し、85歳以上で7.5ヶ月(95% CI 5.0-11.5ヶ月)と、85歳以上で有意に短縮する傾向が示された(p=0.047)。多変量解析では、高齢であること自体はNSCLC患者のPFSまたはOSと統計的に有意な関連は示されなかった(eTable 3 in the Supplement)。

悪性黒色腫における有効性: 悪性黒色腫患者(評価可能例280例)におけるORRは39.3%(CR 18.2%、PR 21.1%)であった。全悪性黒色腫コホート(329例)におけるPFS中央値は11.1ヶ月(95% CI 8.9-16.0ヶ月)、OS中央値は30.0ヶ月(95% CI 23.6-46.4ヶ月)であった(Figure 1B, Figure 2B)。85歳未満の患者のORRは35.8%に対し、85歳以上では45.5%であり、有意差はなかった(p=0.11)。OS中央値は85歳未満で34.2ヶ月(95% CI 27.8-47.6ヶ月)に対し、85歳以上で24.5ヶ月(95% CI 13.8-NAヶ月)であった(p=0.30)。

泌尿生殖器がん(GU腫瘍)における有効性: GU腫瘍患者(評価可能例126例)におけるORRは26.2%(CR 4.0%、PR 22.2%)であった。全GU腫瘍コホート(153例)におけるPFS中央値は6.0ヶ月(95% CI 5.0-10.7ヶ月)、OS中央値は15.0ヶ月(95% CI 9.1-25.4ヶ月)であった(Figure 1C, Figure 2C)。85歳未満の患者のORRは29.8%に対し、85歳以上では19.0%であり、有意差はなかった(p=0.20)。OS中央値は85歳未満で15.7ヶ月(95% CI 11.4-34.9ヶ月)に対し、85歳以上で7.2ヶ月(95% CI 6.6-NAヶ月)であった(p=0.13)。

irAEの発生率と重症度: 全928例中、383例(41.3%)が1つ以上のirAEを経験した。このうち、グレード3または4のirAEは113例(12.2%)で報告された。irAEによる死亡例は認められなかった。irAEを経験した患者のうち85例(22.2%)が入院を要し、そのうち49例(57.6%)がグレード3または4のirAEによるものであった。irAE発現までの中央期間は9.8週であり、219例(57%)がICI開始後3ヶ月以内に発生した。最も一般的なirAE(全グレード)は皮膚炎(132例、14.2%)、大腸炎/下痢(85例、9.2%)、甲状腺機能障害(75例、8.1%)であった(Table)。

年齢層別のirAE発生率: いずれの年齢層においても、全グレードirAEの発生率に統計的有意差は認められなかった。85歳未満の患者で43.1%(270例)、85-89歳で37.2%(90例)、90歳以上で38.3%(23例)であった(p=0.15)。同様に、グレード3または4のirAE発生率にも年齢による差はなかった(85歳未満で12.9% [81例]、85-89歳で10.3% [25例]、90歳以上で11.7% [7例]、p=0.57)。

irAEによる治療中断率: ICI治療中断データが利用可能であった852例中、137例(16.1%)がirAEを理由にICI治療を中止した。このうち64例(46.7%)はグレード3または4のirAEによるものであった(Table)。特筆すべきは、90歳以上の患者では、irAEを理由としたICI治療中止率が30.9%(17例)と、90歳未満の患者(15.1% [120例])と比較して2倍以上高かったことである(p=0.008)。90歳以上の患者でグレード3または4のirAEを経験した7例は、全員がICI治療を中止した。多変量解析では、高齢であること自体はNSCLC、悪性黒色腫、GU腫瘍のいずれにおいてもPFSまたはOSと統計的に有意な関連は示されなかった。

考察/結論

本多施設国際コホート研究は、80歳以上の超高齢固形がん患者928例を対象としたICI単剤療法の最大規模の評価であり、実臨床においてICIが有効に機能し得ることを示した。NSCLCにおけるORR 32.2%、OS中央値10.9ヶ月という結果は、若年患者を対象としたRCTデータ(ORR 30-45%、OS中央値10-15ヶ月)と概ね同等の水準であり、年齢単独でのICI除外根拠は薄いことを示唆する。この知見は、高齢患者におけるICIの有効性に関するこれまでの小規模な研究結果 (Johns et al. 2021; Sattar et al. 2019) とも一致する。

先行研究との違い: 免疫老化によりirAEが軽減されるという理論的懸念があったが、本研究ではirAE発生率が若年者と類似しており、全グレードおよびグレード3以上のirAE発生率に年齢層間での有意差がなかった点が、これまでの仮説と対照的である。このことは、高齢者でも同等のirAE監視・管理が必要であることを示唆する重要な知見である。

新規性: 本研究で初めて、90歳以上の超高齢患者におけるirAEによる治療中断率が、80代の患者と比較して約2倍(30.9% vs 15.1%)と著しく高いことを新規に同定した。これは、超高齢者ではirAEに対する忍容性が低いか、治療中止の閾値が低い可能性を示唆する。この現象は、患者の好み、機能状態の低下、または医師のリスク回避傾向に起因する可能性がある。

臨床応用: 本知見は、80歳以上の高齢患者においてもICI治療が臨床的に有用である可能性を示しており、年齢のみで治療を諦めるべきではないという臨床的意義を持つ。しかし、90歳以上の超高齢者ではirAEによる治療中断リスクが高いため、個々の患者のPS、併存疾患、支持療法体制、および患者の治療意向を包括的に評価する高齢者包括的評価(CGA)が不可欠である。これにより、適切な患者選択と個別化された治療戦略の策定が可能となる。

残された課題: 本研究の主要なlimitationは、後ろ向きデザインによる選択バイアスである。実臨床では、比較的健康状態の良い高齢患者がICI治療に選択されている可能性(healthy survivor bias)があり、PS情報が不完全であったり、PS 2-3の高齢者が少ない点も、結果の一般化を制限する。また、腫瘍PD-L1発現状況のデータが欠損していたこと、およびGU腫瘍における組織学的所見の混合も限界である。今後の検討課題として、ICIの応答予測バイオマーカーとCGAを組み合わせた前向き臨床試験が必要であり、超高齢者におけるICI治療の最適な適応患者を特定することが重要である。

方法

本研究は、多施設後ろ向き国際コホート研究として実施された。対象患者は、2010年から2019年の間に米国および欧州の18の学術医療機関において、80歳以上で固形がんに対しICI単剤(抗PD-1/PD-L1抗体または抗CTLA-4抗体)の治療を受けた928例である。ICIと化学療法またはICI同士の併用療法を受けた患者は除外された。患者の年齢中央値は83.0歳(範囲 75.8-97.0歳)であった。本研究は、各参加施設の施設内倫理審査委員会の承認を得て実施され、書面によるインフォームドコンセントは免除された。

腫瘍種の内訳は、非小細胞肺がん(NSCLC)345例(37.2%)、悪性黒色腫329例(35.5%)、泌尿生殖器がん(GU腫瘍、genitourinary tumors)153例(16.5%)が主要なものであった。GU腫瘍には尿路上皮がん、腎細胞がん、前立腺がんが含まれる。年齢層別の解析では、80歳未満(n=626、67.5%)、85-89歳(n=242、26.1%)、90歳以上(n=60、6.5%)の3つのグループに層別化された。

主要評価項目は、ORR、PFS、OS、irAEの発生率と重症度、およびirAEによる治療中断率であった。irAEはCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)バージョン5.0に基づいて評価された。統計解析には、カテゴリカル変数の比較にカイ二乗検定が用いられた。PFSおよびOSの評価にはKaplan-Meier曲線が使用され、ログランク検定により群間比較が行われた。臨床アウトカムの解析には、多変量Cox比例ハザード回帰モデルおよびロジスティック回帰モデルが用いられ、性別、病期、前治療歴、ECOGパフォーマンスステータスなどの共変量で補正された。施設間の潜在的なクラスタリングを考慮するため、混合効果モデルも適用された。欠測データは多重代入法を用いて補完された。解析はR統計ソフトウェア(バージョン4.0.3)を用いて2021年1月から4月にかけて実施された。本研究は後ろ向きコホート研究であり、試験登録はNCT番号では管理されていない。