- 著者: Guang Han, Kelly R Bhatt, Yasin Rahim, et al.
- Corresponding author: Guang Han (University of Texas Southwestern Medical Center, Dallas, TX)
- 雑誌: JAMA Oncology
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-07-14
- Article種別: Original Article
- PMID: 35797031
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、様々ながん種において画期的な治療効果を示してきた。しかし、その作用機序上、免疫関連有害事象 (irAE) の発現リスクを伴うことが知られている。特に、既存の自己免疫疾患 (AID) を有するがん患者においては、ICI治療がAIDの増悪(フレア)や重篤なirAEを引き起こす可能性が懸念され、多くの臨床試験から除外されてきた経緯がある。このため、AID合併がん患者におけるICI療法の安全性と有効性に関する大規模なエビデンスは不足しており、臨床現場での意思決定を困難にしていた。
これまでの小規模な後方視的解析や単施設研究では、AID合併患者におけるICIの安全性と有効性について様々な報告がなされてきたが、その結果は一貫していなかった。例えば、Menzies et al. AnnOncol 2017 は、進行メラノーマ患者において、既存AIDがあってもICIの忍容性は比較的良好であることを示唆した。しかし、より多様ながん種を含む大規模コホートでの検証が求められていた。また、irAEの発生がICI治療の有効性と関連する可能性は、AIDを持たない患者において複数報告されているが、AID合併患者におけるこの関連性については、十分な規模のデータが存在せず、未解明な点が多かった。さらに、AIDの活動性(活動性AIDか非活動性AIDか)がICI治療の転帰に与える影響についても、詳細な解析が不足していた。活動性AIDの患者は、ICI開始時に免疫抑制剤を必要とすることが多く、これがICIの効果を減弱させる可能性も指摘されていた。
これらの背景から、以下の重要な臨床的疑問に対する回答が求められていた。(1) AIDの有無がICI治療の奏効率や全生存期間 (OS) にどのような影響を与えるのか。(2) AID合併患者において、免疫関連毒性(irAEまたはAIDフレア)の発生が生存転帰と関連するのか。(3) 活動性AIDと非活動性AIDのどちらがICI治療の予後に悪影響を及ぼすのか。これらの疑問に答えることは、AID合併がん患者に対するICI治療の適応をより適切に判断し、個別化された治療戦略を確立するために不可欠である。本研究は、大規模なリアルワールドデータを用いてこれらの課題に取り組むことで、臨床的ギャップを埋めることを目指した。
目的
本研究の目的は、大規模なリアルワールドコホートデータを用いて、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療を受けた固形がん患者における、自己免疫疾患 (AID) の有無およびその活動性が治療転帰に与える影響を評価することである。具体的には、以下の3つの主要な目的を設定した。
- AIDの有無によるICI治療の安全性と有効性の比較: AIDを有する患者と有さない患者の間で、ICI治療に対する奏効率 (ORR) および全生存期間 (OS) に統計学的に有意な差があるかを比較検討する。これにより、AID合併自体がICI治療の有効性を損なう因子であるか否かを明らかにする。
- 免疫関連毒性の発生と生存の関連評価: AID合併患者において、免疫関連毒性(irAEまたはAIDフレア)の発生がOSに与える影響を評価する。毒性発現が免疫活性化のバイオマーカーとして機能し、良好な生存転帰と関連するかどうかを検証する。
- AIDの活動性が予後に与える影響の評価: AID合併患者を活動性AIDと非活動性AIDに分類し、それぞれの群におけるOSを比較する。これにより、ICI開始時点でのAIDの活動性が、治療予後を予測する独立した因子であるかを明らかにし、ICI治療前のAID管理の重要性を評価する。
これらの目的を達成することで、AID合併がん患者に対するICI治療の臨床意思決定を支援し、より個別化された治療戦略の確立に貢献することを目指す。
結果
患者背景とAIDの特性: 本研究では、1822例の固形がん患者が解析対象となった。このうち147例 (8.1%) が既存の自己免疫疾患 (AID) を有していた。AID群と非AID群の間で、性別、年齢、がん種、病期、ICIの種類、ECOGパフォーマンスステータスなどの患者背景因子に統計学的に有意な差は認められなかった (Table 1)。AIDの内訳としては、乾癬 (n=38, 25.9%)、関節リウマチ (n=18, 12.2%) が最も多く、その他に甲状腺疾患、炎症性腸疾患 (IBD)、全身性エリテマトーデス (SLE) などが確認された。AID合併患者147例のうち、25例 (16.9%) がICI開始時に全身性免疫抑制療法を必要とする活動性AIDと定義された。
AIDの有無による奏効率 (ORR) および全生存期間 (OS) の比較: ICI治療に対する客観的奏効率 (ORR) は、AID群で28.6% (n=42)、非AID群で25.7% (n=431) であり、両群間に統計学的に有意な差は認められなかった (P=0.43)。同様に、全生存期間 (OS) についても、AID群と非AID群の間で有意な差は認められなかった (ハザード比 [HR] = 0.95, 95% CI 0.76-1.17, P=0.61)。この結果は、非調整解析および多変量調整後の解析のいずれにおいても一貫しており、AIDの有無自体はICI治療の有効性や患者の生存転帰に大きな影響を与えないことを示唆している。1年OS率はAID群で45.6% (95% CI 40.7-50.5)、非AID群で46.0% (95% CI 44.9-47.1) であった (Table 1)。
免疫関連毒性の発生と生存転帰の関連: AID合併患者147例のうち、87例 (59.1%) が免疫関連毒性(AIDフレア、irAE、またはその両方)を経験した。具体的には、AIDフレアのみが20例 (13.6%)、irAEのみが45例 (30.6%)、両方が22例 (14.9%) であった。AIDフレアの大部分は軽度であり、81% (34/42) がグレード1-2、19% (8/42) がグレード3であった。irAEも同様に、76% (51/67) がグレード1-2、19% (13/67) がグレード3、3% (2/67) がグレード4であった。 多変量Cox比例ハザードモデル(毒性発現を時間依存性共変量として組み込んだ解析)の結果、免疫関連毒性を経験したAID合併患者は、毒性を経験しなかった患者と比較して、全生存期間が有意に改善することが示された (HR = 0.55, 95% CI 0.32-0.95, P=0.03) (Table 2)。この関連性は、irAEのみの発生 (HR = 0.70, 95% CI 0.44-1.10, P=0.12) やAIDフレアのみの発生 (HR = 0.65, 95% CI 0.38-1.09, P=0.10) と比較して、免疫関連毒性全体でより顕著であった。この結果は、免疫関連毒性の発生が、ICIによる免疫活性化の成功を反映するバイオマーカーである可能性を示唆している。
活動性AIDと非活動性AIDの比較: AID合併患者における解析では、活動性AIDを有する患者は、非活動性AIDを有する患者と比較して、全生存期間が有意に不良であることが判明した (HR = 2.81, 95% CI 1.41-5.58, P=0.003) (Table 2)。活動性AID群の患者は、非活動性AID群と比較して、AIDフレアを経験する割合が有意に高かった (60.0% vs 22.1%, P < .001)。一方、非活動性AIDを有する患者のOSは、AIDを有さない患者のOSと統計学的に同等であった (HR = 0.77, 95% CI 0.59-1.01, P=0.06)。この知見は、ICI開始時点でのAIDの活動性が、患者の予後を大きく左右する独立した予後不良因子であることを明確に示している。
irAEの発生率と治療中止: AID群では非AID群と比較して、全グレードのirAE発生率が高い傾向にあった (39% vs 28%)。特に、グレード3以上の重篤なirAEの発生率は、AID群で12.9%、非AID群で8.0%であった。しかし、ICI治療の中止率に関しては、AID群と非AID群の間で統計学的に有意な差は認められなかった。これは、AID合併患者においても、irAEの管理が可能であり、必ずしも治療中止に至らないことを示唆している。さらに、ICI治療を受けた患者全体において、脳転移の有無もOSに影響を与える重要な因子であることが示された (HR = 2.27, 95% CI 1.12-4.61, P=0.02)。これは、進行がん患者における治療戦略を検討する上で考慮すべき点である。
考察/結論
本研究は、大規模なリアルワールドコホートデータを用いて、自己免疫疾患 (AID) を合併するがん患者に対する免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 療法の安全性と有効性を評価した最大規模の研究の一つである。本研究の主要な知見は以下の3点である。
先行研究との違い: これまでの研究では、AID合併患者におけるICIの安全性・有効性に関するデータが不足しており、特に大規模なリアルワールドデータを用いた解析は限られていた。先行研究の多くは、Tison et al. ArthritisRheumatol 2019 や Menzies et al. AnnOncol 2017 のように、特定の癌種(主にメラノーマ)や小規模なコホートに焦点を当てていた。本研究は、非小細胞肺がん (NSCLC) が主要な癌種を占める多様ながん種を含む1822例という大規模なコホートを解析しており、これまでの報告と異なり、AIDの有無自体はICI治療の奏効率や全生存期間に影響を与えないことを、より強固なエビデンスで示した。この結果は、AID合併患者であっても、AIDがない患者と同様にICI治療の恩恵を受けられる可能性を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、AID合併患者において免疫関連毒性(irAEまたはAIDフレア)の発生が、全生存期間の有意な改善と関連することを示した (HR = 0.55, 95% CI 0.32-0.95, P=0.03)。この知見は、免疫関連毒性がICIによる免疫系の活性化を反映するバイオマーカーとして機能し、治療効果と密接に関連しているという仮説を、AID合併患者においても支持するものである。これは、ICI治療における免疫活性化のメカニズム解明に新たな視点を提供する新規な発見である。
臨床応用: 本研究の知見は、AID合併がん患者に対するICI治療の臨床意思決定に重要な含意を持つ。第一に、非活動性AIDを有する患者は、AIDを有さない患者と同様にICI治療を安全かつ効果的に受けることができる可能性が高い。これは、これまでICI治療の適応が躊躇されがちであった非活動性AID患者への治療選択肢を広げるものである。第二に、活動性AIDを有する患者は、ICI治療後の予後が有意に不良である (HR = 2.81, 95% CI 1.41-5.58, P=0.003) ことが示された。この臨床的意義は大きく、ICI開始前にAIDの活動性を可能な限り抑制することが、患者の予後改善に繋がる可能性を強く示唆する。したがって、ICI治療導入前のAIDの厳格な評価と管理が、臨床現場において極めて重要である。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。まず、後方視的コホート研究であるため、残余交絡や選択バイアスの影響を完全に排除することはできない。Flatiron Healthデータベースの性質上、AIDの診断や活動性の評価が、必ずしも統一された基準で行われているわけではない可能性があり、コーディングの精度に限界がある。また、AIDの種類別の詳細な解析や、AID管理に使用された免疫抑制剤の種類や用量がICIの有効性や毒性に与える影響については、本研究では十分に評価できていない。今後の研究では、これらの点をさらに深掘りし、AIDの種類や活動性に応じた個別化されたICI治療戦略を確立するための前向き研究や、より詳細なバイオマーカー解析が残された課題である。
方法
本研究は、米国における大規模な電子医療記録データベースであるFlatiron Health社(2011年1月1日から2020年12月31日までのデータを含む)を用いた後方視的コホート研究として実施された。対象患者は、固形腫瘍に対して免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 療法を受けた成人患者である。
患者選択とデータ収集: Flatiron Healthデータベースから、ICI治療を受けた固形がん患者を特定した。自己免疫疾患 (AID) の有無は、診断コード(ICD-9またはICD-10)に基づいて特定された。AIDを有する患者は、ICI開始時に全身性免疫抑制療法を必要とする「活動性AID」と、そうでない「非活動性AID」に分類された。活動性AIDの定義は、ICI開始時に全身性免疫抑制療法を必要とする疾患状態とした。
主要評価項目: 主要評価項目は、客観的奏効率 (ORR) および全生存期間 (OS) とした。ORRは、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づくRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) バージョン1.1に従って評価された。OSは、ICI治療開始日からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。
免疫関連毒性の評価: 免疫関連毒性は、irAEまたはAIDフレアのいずれか、あるいはその両方の発生として定義された。irAEは、AIDとは関連しない炎症性イベントと定義され、AIDフレアは既存AIDの悪化と定義された。これらの毒性は、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) バージョン5.0を用いてグレード分類された。免疫関連毒性と生存の関連を評価する際には、不滅時間バイアス(immortal time bias)を考慮し、毒性発現を時間依存性共変量として組み込んだ多変量Cox比例ハザードモデルを用いた。
統計解析: 患者背景因子は、AID群と非AID群、および活動性AID群と非活動性AID群の間で比較された。カテゴリー変数はカイ二乗検定またはフィッシャーの正確検定を用いて比較され、連続変数はマン・ホイットニーU検定を用いて比較された。ORRはロジスティック回帰モデルを用いて比較された。OSの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられ、群間比較にはログランク検定が適用された。多変量解析には、年齢、性別、ECOGパフォーマンスステータス、がん種、病期、転移部位、ICIの種類などの共変量を調整したCox比例ハザードモデルが用いられた。ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) が算出された。この臨床研究はMemorial Sloan Kettering Cancer Centerの施設内審査委員会によって承認され、全ての患者から書面によるインフォームドコンセントが得られた。