• 著者: Yasuto Yoneshima, Kentaro Tanaka, Yoshimasa Shiraishi, Kojiro Hata, Hiroyuki Watanabe, Taishi Harada, Kohei Otsubo, Eiji Iwama, Hiroyuki Inoue, Satohiro Masuda, Yoichi Nakanishi, Isamu Okamoto
  • Corresponding author: Isamu Okamoto (Research Institute for Diseases of the Chest, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-01-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30885351

背景

PD-1/PD-L1軸を標的とする免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、進行非小細胞肺がん (NSCLC) の標準治療として確立され、その臨床的有効性は目覚ましいものがある Reck et al. NEnglJMed 2016 Borghaei et al. NEnglJMed 2015。しかし、これらの薬剤は、自己免疫疾患に類似した免疫関連有害事象 (irAE) を30〜70%の患者に引き起こすことが知られている Topalian et al. NEnglJMed 2012。irAEの多くは免疫抑制剤や支持療法で管理可能であるが、重篤なirAEを発症する患者を事前に特定する予測因子は未だ確立されていない点が臨床上の課題である。

抗核抗体 (ANA) は、様々な核および細胞質成分に反応する自己抗体の総称であり、全身性エリテマトーデス (SLE) や関節リウマチ (RA) などの自己免疫疾患の診断において重要な血清マーカーとして広く用いられている。興味深いことに、複数の研究により、肺がん、乳がん、大腸がんなどの悪性腫瘍患者においても、自己免疫疾患患者と同様の頻度でANAが検出されることが報告されている Fernandez-Madrid et al. Clin Cancer Res 1999。このことは、ANA陽性が自己免疫疾患の前段階、あるいは免疫系の異常な状態を反映している可能性を示唆している。

ANA陽性状態がICIの安全性や有効性に影響を及ぼす可能性は理論的に考えられるものの、これまでANA陽性NSCLC患者におけるPD-1阻害薬の安全性および有効性に関する包括的なデータは不足していた。特に、既存の自己免疫疾患を有する患者はICIの臨床試験から除外されることが多く、これらの患者群におけるirAE発症リスクや治療効果に関する知見は限られているのが現状である。Leonardi et al. JClinOncol 2018 は、既存の自己免疫疾患を有するNSCLC患者におけるPD-1/PD-L1阻害薬のirAE発生率が、臨床試験で報告された発生率と同程度であったことを示唆しているが、より大規模な研究による検証が求められている。ANA陽性が免疫チェックポイント阻害薬の治療効果に与える影響については未解明な部分が多く、この知識のギャップを埋めることが重要な課題であった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的とし、ANA陽性状態がPD-1阻害薬治療を受けるNSCLC患者の安全性と有効性に与える影響を詳細に検討するものである。

目的

本研究の目的は、進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、PD-1阻害薬 (ニボルマブまたはペムブロリズマブ) による治療に際し、治療前の抗核抗体 (ANA) 陽性状態が以下の臨床転帰に与える影響を後ろ向きに評価することである。

  1. 安全性: ANA陽性群とANA陰性群の間で、免疫関連有害事象 (irAE) の発症率、重症度 (Grade 3-5 irAE)、および特定irAE (間質性肺疾患など) の発生率に有意な差があるかを検討する。また、ANA力価とirAE発症リスクの関連性、および治療中のANA力価変化がirAE発症に与える影響を評価する。
  2. 有効性: ANA陽性群とANA陰性群の間で、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、客観的奏効率 (ORR)、および疾患コントロール率 (DCR) に有意な差があるかを検討する。さらに、ANA陽性がPD-1阻害薬治療における独立した予後予測因子であるかを多変量解析により評価する。

これらの検討を通じて、ANA陽性状態がPD-1阻害薬治療の安全性および有効性に対するバイオマーカーとしての可能性を明らかにすることを目指す。本研究は、ANA陽性患者に対するPD-1阻害薬治療の臨床的判断に資する重要な情報を提供することを目的とする。

結果

患者背景とANA陽性率 (n=83): 対象患者83例の中央値年齢は67歳 (範囲36〜86歳) であり、男性が67例 (80.7%) を占めた。組織型では腺癌が58例 (69.9%)、扁平上皮癌が18例 (21.7%) であった。病期はStage IVが51例 (61.4%) であった。PD-L1発現は、TPS≥50%が23例 (27.7%)、1-49%が16例 (19.3%)、<1%が8例 (9.6%) であり、36例 (43.4%) は不明であった。ICIの種類はニボルマブが57例 (68.7%)、ペムブロリズマブが26例 (31.3%) であった。ANA陽性患者は18例 (21.7%) であり、ANA陰性患者は65例 (78.3%) であった。ANA陽性率は、年齢、性別、喫煙歴、ECOG PS、病期、組織型、PD-L1発現、ICIの種類といったいずれの患者背景因子とも有意な関連を認めなかった (Table 2)。ICI治療開始時点で活動性の自己免疫疾患症状を有する患者はいなかった。

ANA陽性とirAE発症の関連 (安全性): irAE発症率は、ANA陽性群で33.3% (6/18例)、ANA陰性群で32.3% (21/65例) であり、両群間に有意差は認められなかった (p=1.00)。Grade 3〜5の重篤なirAE発症率も、ANA陽性群で11.1% (2/18例)、ANA陰性群で6.2% (4/65例) と有意差はなかった (p=0.64)。間質性肺疾患の発症率も、ANA陽性群で11.1% (2/18例)、ANA陰性群で12.3% (8/65例) と有意差は認められなかった (p=1.00)。ANA陽性群の1例はirAE (間質性肺疾患) により死亡した。ANA力価が高いほどirAE発症率が増加する傾向が認められたが (1:40、1:80、1:160、1:320の各カットオフ解析)、統計的に有意な差には至らなかった (Figure 1)。

治療中のANA力価変化とirAEリスク: PD-1阻害薬治療中にANA力価が測定されたANA陽性患者10例中3例で、治療中にANA力価の上昇が観察された。これら3例すべてにおいてirAE (間質性肺疾患2例、甲状腺機能低下症1例) が発症した。一方、治療中にANAが再測定されたANA陰性患者65例中20例のうち、1例のみがANA陽性化したが、この新規ANA陽性化例ではirAEは発症しなかった。これらの結果は、治療中のANA力価上昇がirAE発症の予測に役立つ可能性を示唆している。

ANA陽性とPFS・OSの関連 (主要結果): 無増悪生存期間 (PFS) の中央値は、ANA陽性群で2.9ヶ月、ANA陰性群で3.8ヶ月であり、ANA陽性群で有意に短縮していた (p=0.03)。多変量解析の結果、ANA陽性は独立したPFS不良予測因子であることが示された (HR 2.06, 95% CI 1.10-3.70, p=0.02)。全生存期間 (OS) の中央値は、ANA陽性群で11.6ヶ月、ANA陰性群で15.8ヶ月であり、ANA陽性群で有意に短縮していた (p=0.03)。多変量解析においても、ANA陽性は独立したOS不良予測因子であった (HR 2.31, 95% CI 1.09-4.64, p=0.03) (Table 4, Figure 2)。客観的奏効率 (ORR) はANA陽性群で27.8%、ANA陰性群で29.2%であり、疾患コントロール率 (DCR) はANA陽性群で55.6%、ANA陰性群で64.6%であったが、いずれも両群間に有意差は認められなかった。

前化学療法との比較によるPD-1阻害薬特異的効果: 対象患者83例中67例がPD-1阻害薬治療前に細胞傷害性化学療法を受けていた。このうち、ANA陽性患者12例とANA陰性患者51例がプラチナ製剤ベースの化学療法を受けていた。プラチナ製剤ベースの化学療法におけるORR (ANA陽性群33.3% vs 陰性群23.5%, p=0.48) およびPFS (ANA陽性群6.9ヶ月 vs 陰性群5.4ヶ月, p=0.49) は、ANA陽性・陰性間で有意差を認めなかった。この結果は、ANA陽性患者における生存期間の短縮が、PD-1阻害薬治療に特異的な影響である可能性を示唆しており、ANA陽性が抗PD-1治療の免疫応答パターンに特異的に影響を与えることを示唆している。

考察/結論

本研究は、進行NSCLC患者において、治療前の抗核抗体 (ANA) 陽性状態がPD-1阻害薬治療の安全性と有効性に与える影響を評価した。主要な知見として、ANA陽性患者ではirAE発症率に有意な増加は認められなかったものの、無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) が有意に短縮することが示された。ANA陽性は、PD-1阻害薬治療における独立した予後不良因子であることが多変量解析により確認された。

先行研究との違い: この「irAEリスクへの影響は限定的だが、有効性が低い」という二面的な知見は、先行研究であるToi et al. (JAMA Oncol, 2019) の報告と一部対照的である。Toi et al. の研究では、既存の自己抗体 (リウマチ因子、ANA、抗甲状腺抗体) の複合変数がirAEリスクの増加とPFSの延長の両方に関連すると報告されている。本研究とToi et al. の研究との主な違いは、本研究がANA単独の影響を評価したのに対し、Toi et al. は複数の自己抗体の複合変数を評価した点、および評価コホートの地理的・人種的差異が挙げられる。

新規性: 本研究で示されたANA陽性群におけるPFS短縮の機序として、ANA陽性のがん患者では慢性炎症や免疫調節異常が存在し、免疫系の反応が断片的であるために、PD-1遮断による持続的な抗腫瘍効果を維持しにくい、すなわち早期耐性が生じやすい可能性が考えられる。客観的奏効率 (ORR) はANA陽性・陰性間で差がないにもかかわらずPFS・OSが短縮するという結果は、奏効後の早期耐性獲得という仮説と整合する。また、治療中のANA力価上昇とirAE発症の関連性 (ANA力価上昇を認めた3例すべてでirAEを発症) は、ANA力価の経時的なモニタリングがirAE発症の予測に役立つ可能性を示唆する新規の知見である。これまで治療中のANA力価変化とirAE発症の関連は十分に報告されていなかった。

臨床応用: 本研究の臨床的意義は複数ある。第一に、ANA陽性NSCLC患者においても、明らかな自己免疫疾患の増悪なくPD-1阻害薬を比較的安全に投与できることが示唆された。第二に、高力価のANA陽性患者や治療中にANA力価が上昇する患者では、irAE発症リスクが増加する傾向があるため、より綿密なモニタリングが適切であると考えられる。第三に、ANA陽性状態はPD-1阻害薬治療の有効性低下を予測するバイオマーカーとして利用できる可能性があるため、臨床現場での治療方針決定に貢献しうる。

残された課題: 本研究の限界としては、単施設での後ろ向き研究であるため、選択バイアスが存在する可能性が挙げられる。また、対象患者数が比較的少数 (n=83) であり、PD-L1発現が約43%の患者で不明であったことも限界点である。さらに、ANA陽性のカットオフ値が臨床検査値に依存している点も考慮すべきである。これらの限界を踏まえ、今後は大規模な前向き研究によるANA力価別の安全性・有効性データの検証が残された課題である。

方法

本研究は、九州大学病院において実施された後ろ向き単施設コホート研究である。対象患者は、2016年1月から2018年6月の期間に、進行・再発NSCLC (TNM分類第8版に基づくStage IIIまたはIV、あるいは再発) に対してニボルマブまたはペムブロリズマブの単剤療法を受けた患者のうち、治療開始前に血清ANA検査が実施された83例であった。これはretrospective cohort studyとして実施された。

ANAの測定は、ヒト上皮細胞株2 (HEp-2細胞) を用いた間接免疫蛍光法により商業ベンダーで実施された。ANA陽性は、血清希釈倍率1:40以上の力価と定義された。PD-1阻害薬治療中の最良効果は、固形がんの治療効果判定基準 (RECIST) バージョン1.1に従って評価された。主要評価項目はPFSとOS、副次評価項目はirAE発生率、ORR、DCRであった。

統計解析にはJMPソフトウェアバージョン13 (SAS Institute, Cary, NC, USA) を用いた。患者背景とANA陽性状態の関連性は、Fisherの正確検定を用いて解析された。生存期間 (PFSおよびOS) の推定にはKaplan-Meier法が用いられ、群間比較にはログランク検定が適用された。ANA陽性状態と生存転帰の関連性を評価するため、ANA陽性、性別、ECOGパフォーマンスステータス、臨床病期を共変量とする多変量Cox比例ハザード回帰モデルが用いられ、ハザード比 (HR) とその95%信頼区間 (CI) が算出された。すべてのp値は両側検定であり、p<0.05を有意差ありと判断した。本研究は九州大学および九州病院の倫理委員会によって承認された。