• 著者: Michael A. Postow, Robert Sidlow, Matthew D. Hellmann
  • Corresponding author: Michael A. Postow (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, postowm@mskcc.org)
  • 雑誌: N Engl J Med 2018;378:158-68
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review (Medical Progress, NEJM)
  • PMID: 29320654

背景

免疫チェックポイント阻害 (immune checkpoint blockade) は、cytotoxic T-lymphocyte antigen 4 (CTLA-4) や programmed cell death 1 (PD-1)、その ligand である programmed cell death ligand 1 (PD-L1) といった免疫の内因性ブレーキを遮断することで抗腫瘍免疫を増強し、複数のがん種で全生存を延長して FDA 承認に至った画期的治療である。一方で免疫系の活性化は正常臓器に対する炎症性副作用 = 免疫関連有害事象 (immune-related adverse events, irAE) を引き起こし、消化管・内分泌腺・皮膚・肝が高頻度に、中枢神経・心血管・肺・筋骨格・血液系がより低頻度に侵される。先行研究として Krummel et al. (1996) は CTLA-4 が T 細胞活性化を近位段階で減弱させることを ([2])、Dong et al. (2002) は B7-H1 (PD-L1) を介した T 細胞アポトーシスが免疫回避機構となることを ([3]) 示すなど、両標的の生物学的役割は別個であることが明らかにされてきた。しかし先行研究の最大のギャップは、特定 irAE を効果的に管理する戦略を定義した前向き試験が一つも存在しない (no prospective trials) ことであり、その機序の多くは依然として未解明で、臨床現場の対応は施設間でばらついていた。すなわち管理アルゴリズムの根拠は症例経験ベースに留まり、エビデンスが体系的に不足していた。さらに自己免疫疾患既往・移植後・慢性ウイルス感染・高齢といった患者集団は登録試験から除外されており、これら high-risk 群での安全性データも未確立であった。本総説はこの空白を埋めるべく、実地医家が直面する 10 の essential question に整理して既存知見を統合する。

目的

免疫チェックポイント阻害を受けるがん患者の拡大する集団をケアする実地医家が直面する 10 の essential question (なぜ irAE が起こるか / どう治療するか / いつ起こるか / なぜ一部患者にのみ起こるか / 有効性と関連するか / 免疫抑制は抗腫瘍効果を減弱させるか / 免疫抑制に意図しない害はあるか / 重篤 irAE 後に再開しても安全か / 再開する必要があるか / high-risk 患者を治療しても安全か) に沿って、発症機序・管理アルゴリズム・再投与可否・特殊集団の安全性を統合し、multidisciplinary な実臨床判断の枠組みを提示すること。

結果

irAE の発症機序と CTLA-4/PD-1 の差異:irAE の正確な病態生理は未解明だが、免疫チェックポイントが免疫学的恒常性維持に果たす役割の破綻と考えられる (Fig. 2)。CTLA-4 欠損マウスはリンパ増殖により死亡し ([5,6])、PD-1 欠損マウスは関節炎・心筋症を含むより限定的で系統依存的な自己免疫を呈する ([7])。臨床でも anti-CTLA-4 療法の irAE は anti-PD-1 と異なり一般により重篤で ([8-10])、colitis と hypophysitis は anti-CTLA-4 で、pneumonitis と thyroiditis は anti-PD-1 でより高頻度とされる ([11-14])。hypophysitis では正常下垂体細胞上の CTLA-4 発現が毒性に寄与しうると報告され ([15,16])、甲状腺障害は抗甲状腺抗体保有患者で生じることから anti-PD-1 が液性免疫も修飾する可能性が示唆される ([14])。Vitiligo は melanoma 患者で高頻度にみられ、腫瘍と正常組織の共有抗原への T 細胞交差反応性を示唆する ([18])。myocarditis 2 例の報告では心筋に T 細胞浸潤が認められ B 細胞や抗体沈着は同定されず、同一患者で心筋と腫瘍に類似 T 細胞クローンがみられたことから共有抗原への反応性が推測された ([17])。両標的の毒性プロファイルの相違 (CTLA-4 でより重篤、PD-1 で臓器特異性が異なる) は (AnnOncol et al. Clinical 2015) の anti-PD-1/PD-L1 毒性総説とも整合する。

サイトカインを介した病態と治療標的:炎症性サイトカインも病態に関与する。ある研究は ipilimumab 誘発 colitis 患者で interleukin-17 (IL-17) 上昇を同定し ([19])、前臨床 colitis モデルでも IL-17 上昇が観察されている ([20])。これらは IL-17 阻害を colitis 治療戦略に応用しうる可能性を示すが、抗腫瘍効果を逆転させる理論的リスクも症例報告で指摘される ([21])。secukinumab・ixekizumab・brodalumab という 3 種類の IL-17 阻害抗体は既に psoriasis や強直性脊椎炎で臨床使用されており ([22])、適応外での転用が将来の治療選択肢として議論される。報告された myocarditis 2 例 (n=2) では抗体沈着を伴わない T 細胞主体の浸潤が示され ([17])、サイトカイン・自己抗体・自己反応性 T 細胞のいずれが各 irAE の主因かは毒性ごとに異なりうる点が precision な治療開発の前提となる。

irAE の治療原則と多診療科連携:機序によらず irAE は正常臓器への過剰免疫の結果であり、大半はチェックポイント阻害薬の投与延期、または oral glucocorticoid 等による一時的免疫抑制で効果的に管理される ([1,23-26])。本総説は計 4 種類の主要管理手段 (投与延期・glucocorticoid・infliximab・vedolizumab) を段階的に位置づける。多診療科連携が有用で、tumor necrosis factor alpha 抗体である infliximab は Crohn 病・潰瘍性大腸炎に用いられ、中等度〜重度の checkpoint 誘発 colitis にも有効性を示した ([27])。glucocorticoid 不応時の標準として推奨されるが、長期 glucocorticoid の毒性を考えると infliximab をより早期に投与すべきかは未解決の問いである。anti-integrin α4β7 抗体 vedolizumab も case series で有効性が示唆されている ([28])。腫瘍内科医・各臓器専門内科医・救急医の協働は、pneumonitis や myocarditis のような稀だが致死的な irAE の治療戦略開発に不可欠とされる ([12,17])。

発症時期と累積リスク:irAE は通常治療開始後数週〜数か月で発症するが、治療中止後を含めいつでも出現し、経時的に増悪・寛解を繰り返しうる。anti-CTLA-4・anti-PD-1 いずれでも皮膚毒性は早期に生じる ([1,29])。anti-PD-1/PD-L1 が数か月〜数年投与される場合でも、多くの研究で長期投与が irAE の累積発症率を増加させないと示されている ([30])。一方、治療開始から数十年後 (n=many years) の長期毒性リスクは未知であり、適応が予後を数十年単位で見込む早期がん患者へ拡大すると一層重要な課題となる。

遺伝・腸内細菌叢と個体差:なぜ一部患者にのみ重篤 irAE が起こるかは不明である。自己免疫疾患の感受性遺伝子が示唆される中 ([31-34])、ipilimumab で治療された melanoma の pooled study (n=453) では、特定遺伝子型 (HLA-A status) と irAE リスクの関連は認められなかった ([35])。より大規模な genomewide association study が必要とされる。腸内細菌叢では、特定細菌種がチェックポイント阻害の有効性と関連すると前臨床・臨床データが示し ([36-38])、2 つの後ろ向き研究では Bacteroidetes 門の細菌が優勢な患者で ipilimumab 誘発 colitis 率が低いと結論づけられた ([39])。食事・プロバイオティクス・抗菌薬による細菌叢操作が抗腫瘍効果を保ちつつ colitis リスクを低減しうるか追加研究が必要である。

irAE と有効性の相関の論争:irAE の発生は免疫系が活性化された証拠だが、それが抗腫瘍免疫の改善と相関するかは論争的である (Table 2)。irAE を有する患者で奏効率が高いとする研究もあるが普遍的には確認されておらず ([1,40,41])、ある大規模後ろ向き ipilimumab 研究 (n=many) では irAE の有無で治療成績が同等であった ([42])。一般的合意は irAE が治療効果獲得の必須条件ではないという点にある。一方 vitiligo は melanoma 患者で良好な臨床転帰と関連し ([43,44])、1964 年以来 melanoma の免疫刺激療法中に vitiligo が生じうることが知られている ([45])。vitiligo は他がんでは稀で、抗原特異的免疫に直接関連する irAE はより強く有効性と相関しうると考えられる。

免疫抑制の抗腫瘍効果への影響と意図しない害:免疫抑制が治療効果を妨げるかを検証した前向き試験はないが、後ろ向き研究では免疫抑制で irAE を治療した患者の転帰は全体として悪化しなかった ([1,42])。ただし免疫抑制には別個のリスクがあり、glucocorticoid は高血糖・体液貯留・不安・医原性副腎不全を、長期使用は cushingoid 変化・骨粗鬆症・緑内障・日和見感染・近位筋力低下を招く ([46,47])。日和見感染 (Aspergillus fumigatus 肺炎・cytomegalovirus 肝炎・pneumocystis 肺炎) のリスクもある ([48-50])。進行 melanoma の後ろ向き研究 (n=790) では、irAE 管理で glucocorticoid または infliximab を受けたサブグループの重篤感染率は 13.5% であった ([51])。prednisone 20 mg/日相当を 4 週以上要する場合は Pneumocystis jirovecii 予防 (trimethoprim-sulfamethoxazole・atovaquone・pentamidine 等) を考慮すべきとされる ([52])。

重篤 irAE 後の再投与の安全性:重篤 irAE 後の再投与可否は実臨床で最重要の課題である (Fig. 1)。ある melanoma 後ろ向き研究では、免疫抑制を要した重篤 ipilimumab 関連 irAE の後に anti-PD-1 を安全に投与でき、再発 irAE は 3% と低率であった (AnnOncol et al. Clinical 2017)。NSCLC で anti-PD-1/PD-L1 を再投与された患者 (n=38) では、50% が irAE なし、24% が初回 irAE 再発、26% が新規 irAE であった (CancerImmunolRes et al. Clinical 2018)。再発 irAE は通常初回より軽度だが、生命を脅かす毒性、特に心・肺・神経毒性は再投与の絶対禁忌とされる。

再投与の必要性と high-risk 集団:nivolumab + ipilimumab 併用で最初の 4 か月以内に毒性により治療中止した進行 melanoma 患者は、継続群と同等の無増悪生存・全生存を示した ([55])。これら FDA 承認薬の特殊集団での適用可否を Table 1 が整理する。high-risk 集団では、自己免疫疾患既往患者でも安全かつ有効に治療できるとの後ろ向き報告があり ([53,57])、増悪は一般に高 grade ではない。allogeneic 造血幹細胞移植後の ipilimumab (n=28) では 21% が irAE を呈し、colitis と pneumonitis による治療関連死 1 例が報告された ([62])。固形臓器移植では anti-PD-1/PD-L1 で graft rejection 報告が ipilimumab より多い ([58-61])。慢性ウイルス肝炎 / HIV 感染患者でも忍容性は概ね良好で ([66-69])、腎機能障害 (糸球体濾過量 30-60 mL/分) を含む urothelial carcinoma での atezolizumab は ORR = 25% を示した ([70])。高齢者でも有効性は若年者と同等で irAE 増加はなく ([72,73])、90 歳超でも安全に治療された例がある ([74])。年齢自体は治療判断の因子とすべきでない (Table 1)。

考察/結論

本総説が先行研究や従来の管理ガイダンスと異なる点は、断片的な臓器別アルゴリズムの羅列ではなく、実地医家が遭遇する 10 の essential question という臨床判断の構造に沿って既存エビデンスを統合し、「irAE は治療効果の必須条件ではない」「大半は可逆だが内分泌障害は永続しうる」という対照的な原則を明確化したことである。これまで前向き試験が皆無であった領域で、後ろ向きデータと専門家コンセンサスを横断的に整理した点に新規な価値がある。臨床応用の観点では、glucocorticoid → 不応時 infliximab という標準ラダー、prednisone 20 mg/日 4 週以上での Pneumocystis 予防、重篤 irAE 後の再投与判断 (心・肺・神経毒性は絶対禁忌) といった具体的な実践指針を提供し、腫瘍内科医・各専門内科医・救急医をつなぐ multidisciplinary な橋渡しを臨床現場に促す translational な意義を持つ。本邦の肺がん免疫療法でも pneumonitis・thyroiditis を中心とする irAE 管理は日常的課題であり、関連する臓器横断的視点は重要である。一方で残された課題として、特定 irAE の管理戦略を定義する前向き試験の欠如、germline 遺伝因子や腸内細菌叢を用いたリスク層別化の未確立、免疫抑制の type・timing・duration と転帰の関係の未解明、そして早期がんへの適応拡大に伴う長期 (数十年後) 毒性リスクの不明性が挙げられる。著者らは irAE 機序の解明・国際レジストリ構築・multidisciplinary 連携の 3 点を改善機会として提示する。免疫チェックポイント阻害は化学療法より良好な安全性プロファイルを持つ ([75,76]) が、myocarditis・pneumonitis・colitis・神経毒性による稀な死亡は起こりうるため、本総説の枠組みは (NEnglJMed et al. Clinical 2018) として今後の irAE 臨床判断の基盤となる。なお機序面で myocarditis の T 細胞浸潤所見や vitiligo の交差反応性は、抗腫瘍免疫と自己免疫の連続性という concept とも整合する。

方法

該当なし (Review)。本総説は formal な系統的レビューではなく narrative review (NEJM Medical Progress 形式) であり、PubMed・MEDLINE 等を用いた明示的な系統的文献検索戦略・選択基準・PRISMA 流の流れ図は記載されていない。引用された個々の臨床試験は Kaplan-Meier 法による無増悪生存・全生存の解析を報告しているが、本総説自体は新たな統計学的プール解析を行っていない。参照範囲は、CTLA-4 欠損マウス・PD-1 欠損マウスといった前臨床 knockout model、ipilimumab・nivolumab・pembrolizumab・atezolizumab 等のチェックポイント阻害薬を用いた前向き臨床試験 (例: nivolumab + ipilimumab 併用 melanoma 試験、atezolizumab urothelial carcinoma 試験 n=many) と後ろ向きコホート研究 (melanoma n=453・n=790、NSCLC 再投与 n=38、allo-HSCT 後 ipilimumab n=28 等)、症例報告・症例集積、ならびに ESMO・NCCN といった専門学会のコンセンサスガイドラインに及ぶ。著者らはこれら計 76 文献 (References 1-76) を引用し、定量的なメタ解析やプール統計を新たに実施することなく、実地医家が直面する 10 の essential question (Table 2) という臨床判断の枠組みに沿って既存エビデンスを質的に統合している。各 question への回答は前向きデータが限られるため、後ろ向き研究と専門家の opinion を組み合わせた推奨として提示されている。