HLA system
一行要約
HLA (human leukocyte antigen) system はヒトの主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) で、抗原ペプチドを T 細胞に提示することで適応免疫を制御し、がんでは免疫監視と免疫逃避の中心的決定因子となる。
メカニズム
第 6 染色体短腕にコードされる HLA は、ほぼ全有核細胞に発現する class I (HLA-A / HLA-B / HLA-C) と抗原提示細胞に発現する class II (HLA-DR / DQ / DP) に大別される。class I は細胞内由来ペプチドを CD8+ T 細胞に、class II は細胞外由来ペプチドを CD4+ T 細胞に提示する。腫瘍ネオアンチゲン提示は class I 抗原提示機構 (APM: antigen presentation machinery) — 免疫プロテアソーム (PSMB8 / PSMB9 / PSMB10)、ペプチド輸送体 TAP1 / TAP2、β2-microglobulin (B2M)、tapasin / calreticulin / ERp57 (endoplasmic reticulum resident protein 57) — の協調に依存し、その多くは IFN-γ (Interferon-pathway) シグナル (JAK / STAT1 / IRF1) で誘導される。HLA はヒト集団で最も多型に富む遺伝子座であり、ハプロタイプの組み合わせがネオアンチゲン提示能を規定する。
腫瘍はこの APM を多層的に不活化して免疫逃避する。遺伝的喪失としては β2-microglobulin のホモ接合性欠失・変異や、class I アレルをコードする第 6 染色体ハプロタイプの copy-neutral loss of heterozygosity (cnLOH / HLA-LOH) がある。後者は転移性大腸癌で輸注 T 細胞認識に必須の HLA-C*08:02 が cnLOH によって選択的に消失する過程として、進行病変で直接実証された (Tran et al. NEnglJMed 2016)。一方、遺伝子変異を伴わない経路として、全ゲノム倍加 (whole-genome doubling, WGD) が代謝変化を介して KDM6 ヒストン脱メチル化酵素活性を低下させ、H3K27me3 の蓄積によって MHC class I 転写調節因子をエピジェネティックにサイレンシングする機序 (Foidart et al. CancerCell 2026) や、脳転移微小環境で pSTAT1 / IRF1 が保持されたまま β2M・PSMB9 / PSMB10 等の APM 多成分が IFN-γ シグナル障害とは独立に低下する機序 (Vilarino et al. MolCancer 2026) も報告されている。
臨床位置づけ
腫瘍は HLA class I のダウンレギュレーション、β2-microglobulin 変異、HLA loss of heterozygosity (HLA-LOH) によって免疫逃避し、これらは ICI 一次・獲得耐性 (IO-acquired-resistance) の機序となる。HLA ハプロタイプ多様性 (HLA-I heterozygosity) や HLA-LOH は ICI 奏効・予後のバイオマーカーとして検討され、ネオアンチゲンワクチンや TCR-T 療法の標的設計にも HLA タイピングが必須である。
Open Questions
- HLA-LOH / β2-microglobulin 欠失を ICI 効果予測・耐性モニタリングに臨床実装する標準的検出法
- 脳転移微小環境などで生じる IFN-γ 非依存的 APM 抑制の責任分子の同定とその標的化
- 全ゲノム倍加に伴う H3K27me3 / PRC2 介在のエピジェネティックな抗原提示サイレンシングを逆転する HLA 回復療法 (PRC2 阻害等) の臨床検証
- HLA class I 喪失腫瘍に対する NK 細胞・bispecific T cell engager・非古典的 HLA-E/G を標的とした治療
- HLA ハプロタイプ多様性とネオアンチゲン提示能・ワクチン/ICI 奏効の定量的関係
関連エンティティ・概念
- エンティティ: B2M / Interferon-pathway
- 関連概念: IO-acquired-resistance / IO-primary-resistance / cancer-immunology