TAP1 (Transporter associated with antigen processing 1, ABCB2)
一行要約
TAP1 は TAP2 と heterodimer を形成する ABC transporter で、プロテアソーム由来の抗原ペプチドを細胞質から小胞体内腔へ輸送し、MHC class I への loading を可能にする抗原提示装置 (antigen-processing machinery) の中核。TAP1 の発現低下 / 欠損は MHC-I 表面提示を減弱させ、CD8 T 細胞による腫瘍認識を回避する免疫逃避機序となる。NSCLC 脳転移など多くの腫瘍で IFN-γ-STAT1 軸を介した誘導不全や epigenetic silencing により下方制御され、ICB 抵抗性に関与する。
主要エビデンス
- NSCLC 脳転移の HLA-I 減弱: 脳転移巣で TAP を含む抗原提示装置が低下し IFN-γ 非依存的に免疫回避が成立 (Vilarino et al. MolCancer 2026)
- T 細胞 EV による抗原提示増強: 活性化 T 細胞由来 EV が抗原提示機構を高めて cold tumor を hot 化 (Hu et al. CancerCell 2026)
- type I IFN シグナルとのバランス: type I IFN が TAP / MHC-I を含む抗原提示を制御する文脈 (Chadwick et al. NatRevCancer 2026)
メカニズム
TAP1 は TAP2 と会合してヘテロ二量体性 ABC transporter を形成し、各サブユニットの膜貫通ドメインがペプチド結合チャネルを、ヌクレオチド結合ドメインが ATP 加水分解部位を構成する。プロテアソームで生成された 8-16 mer ペプチドを細胞質側で結合し、ATP 依存的な構造変化で小胞体内腔へ転位する。輸送されたペプチドは peptide-loading complex (TAP / tapasin / calreticulin / ERp57) を介して新生 MHC class I 重鎖 / β2-microglobulin にロードされ、安定化した複合体が細胞表面へ輸送される。TAP1 が欠損 / 低発現すると ER 内にペプチドが供給されず MHC-I が不安定化し表面提示が激減、CD8 T 細胞による腫瘍認識が成立しなくなる。TAP1 は IFN-γ-JAK-STAT1 / IRF1 により誘導されるため、この経路の障害や epigenetic silencing で下方制御される。
臨床位置づけ
TAP1 を含む antigen-processing machinery / MHC-I の発現低下は ICB 一次・獲得耐性の主要機序であり、HLA-I / TAP 発現は免疫療法応答のバイオマーカーとして研究される。低発現が epigenetic (PRC2 / DNA メチル化) または IFN シグナル障害による場合、エピジェネティック薬や IFN 経路修復で MHC-I 提示を回復させ ICB 感受性を取り戻す戦略が検討される。NSCLC 脳転移など免疫学的に “cold” な病変での TAP/HLA-I 低下は治療上の課題として注目される。
Open Questions
- TAP1 / 抗原提示装置の発現回復 (エピジェネティック介入等) が ICB 抵抗性を臨床的に克服できるか
- 脳転移などでの IFN-γ 非依存的 MHC-I 減弱の分子機序と治療標的化