- 著者: Mengying Hu, Di-Ao Liu, Inbal Wortzel, Paul Collier, Theodore M. Nelson, Jonathan Foox, Guojie Zhong, Gabriel Tobias, Tetsuhiko Asao, Linda Bojmar, Candia M. Kenific, Gang Wang, Simone Caielli, Zurong Wan, Sarah Qureshy, Max Reed, Richard Piszczatowski, Purnima Ravisankar, Julia A. Brown, Sihan Xiong, Huajuan Wang, Pernille Lauritzen, Yael Aylon, Henrik Molina, William R. Jarnagin, Moshe Oren, Ben Z. Stanger, Jack Bui, Gabriele Bergers, Agnès Noël, Paul M. Grandgenett, Michael A. Hollingsworth, David Tuveson, Nancy Boudreau, Jacqueline Bromberg, David Kelsen, David R. Jones, Laura Santambrogio, Melody Y. Zeng, Virginia Pascual, Han Sang Kim, Christopher E. Mason, Haiying Zhang, Irina R. Matei, David Lyden
- Corresponding author: Haiying Zhang (Weill Cornell Medicine, New York, NY); Irina R. Matei (Weill Cornell Medicine); David Lyden (Weill Cornell Medicine)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-04-30
- Article種別: Original Article
- PMID: 42066762
背景
腫瘍免疫回避の主要なメカニズムは、抗原プロセシング・提示 (APP) 機構の障害である。腫瘍細胞は、主要組織適合遺伝子複合体クラスI (MHC-I) の発現低下、抗原プロセシングおよびペプチドローディングに関わる分子 (TAP1/2, Tapbp, 免疫プロテアソーム) の機能不全、さらには樹状細胞 (DC) のクロスプレゼンテーション抑制などを通じて、T細胞による認識から逃避する。これらの現象は、いわゆる「cold tumor」表現型と、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) に対する低応答性の根底にあると考えられている (Hu et al., 2026; Matei et al., 2026)。例えば、MHC発現の低下や喪失は、ICIへの抵抗性メカニズムとして報告されている Zaretsky et al. NEnglJMed 2016。これまで、APP経路を上方制御する唯一の既知のメカニズムはインターフェロン-γ (IFN-γ) シグナルであったが、腫瘍微小環境 (TME) におけるその多面的な作用により、臨床での効果は限定的であると報告されている Gao et al. Cell 2016。したがって、腫瘍抗原提示を増強する代替メカニズムの特定は、より効果的な抗腫瘍免疫応答を誘導するために不可欠である。この領域における知識ギャップが残されており、新たな治療戦略の開発が不足している。
細胞外小胞 (EVs) は、全ての生細胞から放出されるナノ粒子であり、タンパク質、脂質、遺伝物質を含有し、細胞間コミュニケーションを媒介する。EVsがDNAをカーゴとして含むことは、Thakur et al. CellRes 2014によって報告されて以来、注目を集めている。Lyden研究室の先行研究では、腫瘍由来EV-DNAがクッパー細胞を介した抗腫瘍免疫をプライミングし、肝転移を抑制することが示された Hoshino et al. Nature 2015。しかし、免疫細胞、特にTリンパ球由来EVのカーゴ組成、輸送メカニズム、および生理的役割については十分に解明されていない点が課題として残されていた。特に、活性化T細胞由来EV (AT-EVs) が抗原提示細胞や腫瘍細胞とどのように相互作用し、免疫応答に影響を与えるかは未解明であった。
本研究は、活性化T細胞由来細胞外小胞(AT-EVs)が、新規合成されたゲノムDNA(AT-EV-DNA)を内包し、granzyme B(Gzmb)が核ラミンを切断することで、このDNAを樹状細胞や腫瘍細胞の核内に送達するメカニズムを明らかにした。このAT-EV-DNAは抗原提示関連遺伝子に富み、その核内転送によりMHCおよび抗原提示経路(APP)機構がエピソーム的に増強される。これにより、膠芽腫、膵臓癌、乳癌の同所性モデルにおいて、AT-EVsが抗PD-1療法と相乗的に作用し、免疫不応性腫瘍の免疫原性を回復させることを示し、アセルラー免疫療法の前臨床概念実証を確立した。
目的
本研究の目的は、活性化T細胞由来EV (AT-EVs) の分子カーゴ、特にEV-DNAの組成、由来 (既存ゲノムDNA vs. 新規合成DNA)、標的細胞への送達経路、および抗原プロセシング・提示 (APP) 機構への影響を詳細に解析することである。さらに、in vivoにおけるAT-EVsの抗腫瘍効果を体系的に評価し、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) との併用療法における相乗効果を検証する。最終的に、AT-EVsを「アセルラー免疫療法」として位置づける可能性を検証し、免疫不応性腫瘍に対する新たな治療戦略を確立することを目指す。具体的には、以下の点を明らかにすることを目的とした。
- AT-EVsおよび非活性化T細胞由来EVs (NT-EVs) の生体内分布と、リンパ節樹状細胞 (LN-DC) への取り込み効率を比較する。
- AT-EVsがLN-DCの遺伝子発現プロファイル、特にAPP経路に与える影響をRNAシーケンス解析により評価する。
- AT-EVsの免疫刺激効果を媒介する主要なカーゴ分子を同定し、特にEV-DNAの量、起源、断片化パターン、および表面結合の有無を詳細に解析する。
- AT-EV-DNAがAPP関連遺伝子のコピー数増加を示すか、またそのDNAが新規合成されたものであるかを検証する。
- AT-EV-DNAの核内送達メカニズムを解明し、granzyme B (Gzmb) の関与および核ラミン切断の役割を明らかにする。
- 膠芽腫、膵臓癌、乳癌の同所性マウスモデルにおいて、AT-EVs単独および抗PD-1抗体との併用による抗腫瘍効果を評価する。
結果
AT-EVsの生体内分布とDCへの選択的取り込み: NIR815標識EVを用いたin vivo生体内分布解析の結果、AT-EVsとNT-EVsは、線維芽細胞由来EVと比較して、胸腺、脾臓、骨、特にリンパ節 (LN) などの免疫臓器に選択的に集積することが示された (Figure 1A)。特に、LNへの集積は顕著であり、n=3 miceで確認された。フローサイトメトリーおよび免疫蛍光染色により、LN内のCD11c+ DCへの優先的な取り込みが確認された (Figure 1B, 1C)。この結果は、T細胞由来EVが免疫応答に関与する細胞に特異的に作用する可能性を示唆する。
AT-EVsはLN-DCにおいてAPP経路を特異的に上方制御する: RNAシーケンス解析により、AT-EVs処理されたLN-DCでは、抗原プロセシング・提示 (APP) 経路が最も顕著に濃縮されたパスウェイであることが明らかになった (Figure 1D, S2C)。対照的に、NT-EVs処理されたLN-DCでは、グリコシル化やケラチン化などのパスウェイが濃縮された。ボルケーノプロット解析では、AT-EVs処理LN-DCにおいて、MHC分子およびAPP機構関連遺伝子 (H2-K1, Nlrc5, Ciita, Psmb8/9, Tap1/2, Tapbp, Tapbpl, Cd74) が上位20位の有意に上方制御された遺伝子群に多く含まれており、log2FC > 0.5かつ-log10(P) > 1.301の閾値で有意差が認められた (Figure 1D)。in vitroでの骨髄由来DC (BMDC) を用いた実験では、AT-EVsがリポ多糖 (LPS) の10倍以上のCD86発現誘導を引き起こし、AT-EVsでプライミングされたBMDCはMHC-I/IIの発現を上昇させ、同種CD4+/CD8+ T細胞の強力な増殖と活性化を誘導した (Figure 1E, 1F, 1G)。これは、AT-EVsが接触非依存的にDCの抗原提示能力を増強することを示す。BMDCを用いた実験はn=3 miceで実施された。
EV-DNAが免疫増強効果の中核を担う: 様々な細胞由来EVのカーゴ解析の結果、好中球、T細胞、およびCD40活性化B細胞由来EVが、マクロファージ、DC、線維芽細胞、または腫瘍細胞由来EVと比較して、著しく高いDNA含有量を示すことが判明した (Figure 2A)。T細胞の活性化 (抗CD3/CD28抗体または抗原提示BMDCによる) は、EV-DNAレベルをさらに増加させた (Figure S4D)。AT-EV-DNAは99.99%以上が核由来であり、ゲノム全体をカバーする150 bpから20 kbの二本鎖DNA断片であり、ピークは2 kbであった (Figure 2D, S4K, S4L)。Baseline-ZERO DNase (DNase0) 処理によりEV-DNAの70%以上が除去され、特に1 kb以上のDNA断片が大幅に減少したことから、T細胞由来EV-DNAの大部分がEV表面に結合していることが示唆された (Figure 2D, S4J)。このDNase0処理はAT-EVの形態を変化させなかった (Figure S4I)。
APP関連遺伝子のコピー数増加と新規合成DNAの選択的パッケージング: AT-EV-DNAは、NT-EV-DNAと比較して、AT-EVsによって活性化されたDCで転写が上方制御される遺伝子座 (特に染色体17上のMHC領域) のコピー数が増加していることがWGSにより明らかになった (Figure S4M)。遺伝子オントロジー (GO) 解析では、APP経路がトップヒットとなり、H2-ob, H2-q10, Tap1, H2-ab1, H2-k1, Psmb9などのAPP関連遺伝子がこのパスウェイを駆動していることが示された (Figure 2E)。これらの遺伝子のプロモーター領域を含む全長がAT-EV-DNA中に検出され、qPCRによりマウスおよびヒト双方でMHCおよびAPP遺伝子の相対的コピー数増加が確認された (Figure 2F, S5A, S5B)。BrdUパルスチェイス実験では、T細胞のゲノムDNA中のBrdUシグナルが72時間後も60%以上保持されたのに対し、EV-DNA中のBrdUシグナルは72時間後には約7.7%に急減した (Figure 2G)。これは、AT-EV-DNAが新規合成されたゲノムDNAが選択的にEVにパッケージングされることを示唆する。非活性化T細胞ではBrdUの取り込みは観察されなかった。
Granzyme Bを介した核内DNA送達とAPP遺伝子のエピソーム的発現: プロテオーム解析により、ヒストンおよび転写・翻訳関連タンパク質がAT-EVsに濃縮されていることが判明した (Figure S6B)。特に、granzyme B (Gzmb) がEVカーゴとして運ばれ、レシピエントDCおよび腫瘍細胞内で核ラミン (lamin A/C, B1) を切断し、核膜を一時的に再構築することで、細胞分裂非依存的にEV-DNAの核内移行を可能にすることが示された。Gzmbのノックアウトまたは阻害剤処理により、APPの上方制御は消失した。このメカニズムにより、APP遺伝子のde novo発現がエピソーム的に確立され、cGAS-STINGシグナルは関与しないことが示された。WGSではゲノムへの組み込みは確認されず、MHCの上方制御はDay 7までに消失する一過性の現象であることが示された。
in vivo抗腫瘍効果とPD-1阻害との相乗効果: 膠芽腫、膵臓癌、乳がんの同所性同系マウスモデルにおいて、AT-EVs単独投与により腫瘍内MHC-I発現とCD8+ T細胞浸潤が増加し、腫瘍増殖が抑制された。さらに、抗PD-1抗体との併用により、相乗的な腫瘍縮小効果が達成された。DNase0処理によりEV-DNAが枯渇したAT-EVsは、APPの上方制御、T細胞の腫瘍へのリクルートメント、および抗腫瘍効果を失ったことから、EV-DNAがAT-EVsの機能の中核であることが確認された。この抗腫瘍効果は、n=5 mice/groupで評価された。
考察/結論
本研究は、活性化T細胞による細胞間DNA共有という新たなパラダイム、すなわち「水平遺伝子転送」メカニズムを確立した。AT-EVsが免疫不応性腫瘍を免疫原性の高い「hot tumor」に転換し得る「アセルラー免疫療法」として機能することを示した点は新規である。特に、granzyme B (Gzmb) が、従来の細胞毒性セリンプロテアーゼとしての役割に加え、核ラミン切断による核膜リモデリングという非細胞毒性機能を介して、EV-DNAの核内送達を促進するメカニズムを解明したことは、これまでの報告と異なり、Gzmbの生物学的役割に関する理解を大きく拡張する。この発見は、従来のプラスミドトランスフェクションが困難であった非分裂細胞や休止期細胞 (特にDC) へのDNA送達を可能にする、次世代の非ウイルス性遺伝子治療プラットフォームを提示する点で新規性が高い。
先行研究との違い: Lyden研究室の先行研究では、腫瘍由来EVの臓器指向性やEV-DNAがクッパー細胞を介した抗腫瘍免疫をプライミングすることが示されていたが、本研究は、免疫細胞、特にT細胞由来EVが免疫応答に与える影響に焦点を当てた点で対照的である。これにより、EVを介した細胞間コミュニケーションが双方向的であるという理解を深める。また、Ji & Wang (2026) による同号のプレビューでは、本発見がDC-T細胞軸の反転、細胞質DNAセンシング非依存の免疫活性化、Gzmbの非細胞毒性機能、および非ウイルス性水平遺伝子伝達という4つの概念的進歩として整理されており、本研究の新規性が強調されている。
新規性: 本研究で初めて、活性化T細胞が新規合成されたゲノムDNAをEVに選択的にパッケージングし、granzyme Bを介して標的細胞の核内に送達することで、抗原提示経路関連遺伝子のエピソーム的発現を誘導し、抗腫瘍免疫を増強するメカニズムを明らかにした。これは、これまで報告されていない細胞間DNA転送の新たな様式であり、免疫細胞がどのようにして免疫応答を増幅させるかについての理解を深める。
臨床応用: 本知見は、がん免疫療法における新たな治療戦略として、AT-EVsの臨床応用に直結する。アセルラー免疫療法としてのAT-EVsは、T細胞療法と比較して製造が容易であり、冷凍保存が可能であるため、オフザシェルフ製品としての開発が期待される。また、自己免疫副作用のリスクが低減される可能性があり、HLAマッチングが不要であるため、同種AT-EVsの汎用化が期待される。特に、抗PD-1療法に抵抗性を示す「cold tumor」において、AT-EVsが腫瘍の免疫原性を回復させ、ICIとの相乗効果を発揮することは、ドライバー変異陽性非小細胞肺がん (EGFR/ALK+, KRAS+STK11/KEAP1) など、一次免疫療法抵抗性コホートにおける治療効果の改善に繋がる臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、AT-EVsの標準化された製造プロトコルの確立、APP遺伝子座がEV-DNAに選択的に濃縮される分子メカニズムの解明、HLAミスマッチ同種AT-EVsの臨床的実現可能性 (慢性炎症下での異所性MHC発現リスクを含む)、長期的な安全性 (オフターゲット遺伝子転送、異所性APP上方制御)、ICAM-1-LFA-1以外の細胞種特異的取り込み決定因子の特定、およびネオアンチゲン特異的AT-EVsとポリクローナルAT-EVsの差別化が残されている。これらの課題を克服することで、AT-EVsを基盤としたアセルラー免疫療法の実用化が加速されると期待される。
方法
EV分離・特性評価: マウス脾臓およびリンパ節 (LN) 由来のCD45+CD3+ T細胞を、抗CD3/CD28抗体とIL-2を用いてin vitroで活性化した。活性化T細胞由来EVs (AT-EVs) は、細胞が最大増殖期に達したDay 6およびDay 9の上清から、差分超遠心分離法により回収した。非活性化T細胞由来EVs (NT-EVs) は、細胞生存率が90%以上であったDay 3の上清から回収した。EVの形態は電子顕微鏡 (EM) で観察し、サイズ分布はナノ粒子トラッキング解析 (NTA) およびZetasizerを用いて評価した結果、モードサイズは約150 nmであり、弱い負の表面電荷を持つことが確認された。EVの分離プロトコルは、Bojmar et al. STARProtoc 2021のガイドラインに従って実施された。
カーゴ解析: EV-DNAの起源 (核 vs. ミトコンドリア) とゲノムカバレッジを評価するため、全ゲノムシーケンス (WGS) を実施した。WGSデータの解析には、DePristo et al. NatGenet 2011のGenome Analysis Toolkit (GATK) を用いた。新規合成DNAのEV内含有率を定量するため、BrdUパルスチェイス実験を行った。二本鎖DNA (dsDNA) のEV表面および内腔における局在は、イムノゴールドEMおよびd-STORM超解像イメージングにより可視化した。プロテオーム解析により、ヒストンおよび転写/翻訳関連タンパク質の濃度差を比較した。プロテオームデータはGraw et al. ACSOmega 2020およびAguilan et al. MolOmics 2020のガイドラインに従って正規化および解析された。EV表面に会合したDNAを選択的に除去するため、Baseline-ZERO DNase (DNase0) 処理を行い、その後の機能変化を評価した。
in vivo機能評価: NIR815標識EVをレトロオービタル静脈内 (i.v.) 投与し、Odysseyイメージングシステムを用いて各臓器への生体内分布を定量した。AT-EVs、NT-EVs、またはPBSを投与したマウスの頸部LN-DCからRNAを抽出し、RNAシーケンス解析によりトランスクリプトームを比較した。遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) を用いて、パスウェイ濃縮を評価した。T細胞プライミングは、同種混合リンパ球反応 (CFSE希釈およびCD69発現) により測定した。抗PD-1抗体との併用効果は、膠芽腫 (GBM)、膵臓癌 (PDAC)、および乳がんの同所性同系マウスモデル (C57BL/6Jマウスを使用) を用いて評価した。腫瘍増殖、腫瘍内MHC-I発現、およびCD8+ T細胞浸潤を評価した。
機序解明: Granzyme B (Gzmb) の役割を明らかにするため、Gzmbノックアウトマウス (BALB/cマウスを使用) 由来EV、Gzmb阻害剤処理、および核ラミン (lamin A/C, B1) の切断をウェスタンブロットおよびイメージングにより解析した。EV-DNAの核内移行が細胞周期に依存しないことを確認した。cGAS-STINGシグナルの活性化を評価し、EV-DNAがゲノムに組み込まれるか否かをWGSにより検証した。統計解析には、一元配置分散分析 (ANOVA) とTukey検定、および二元配置分散分析とTukey検定を用いた。データは平均値 ± 標準偏差で示し、p < 0.05を有意差ありとした。