• 著者: Kudo Y, Haymaker C, Zhang J, Reuben A, Duose DY, Fujimoto J, Roy-Chowdhuri S, Solis Soto LM, Dejima H, Parra ER, Mino B, Abraham R, Ikeda N, Vaporcyan A, Gibbons D, Zhang J, Lang FF, Luthra R, Lee JJ, Moran C, Huse JT, Kadara H, Wistuba II
  • Corresponding author: Ignacio I. Wistuba (Department of Translational Molecular Pathology, MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (translational multi-omics with paired primary/metastatic tissue)
  • PMID: 31282941

背景

NSCLC (non-small cell lung cancer, 非小細胞肺癌) は脳転移を高頻度に来たす悪性腫瘍であり、進行NSCLC患者の約10-40%に脳転移が生じる。外科的切除を受けた早期NSCLCでも約10%が脳転移として再発し、未治療のNSCLC脳転移患者の生存期間中央値はわずか1-2ヶ月と非常に予後不良である。手術・定位放射線治療・全脳照射などの局所療法も生存期間改善への寄与は限定的であった。近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI, immune checkpoint inhibitor) がNSCLCの全身治療において重要な位置を占めるようになり (Soria et al. NEnglJMed 2018 のFLAURA試験、Peters et al. NEnglJMed 2017 のALEX試験等の標的療法時代と並行)、ICIへの奏効予測因子として、高腫瘍変異量 (TMB, tumor mutational burden) ・PD-L1 (programmed death-ligand 1) 発現・「ホット」な腫瘍浸潤リンパ球 (TIL, tumor-infiltrating lymphocyte) 状態が同定されてきた (Goldberg et al. LancetOncol 2016 のpembrolizumab脳転移試験でnon-randomized phase 2 trialでもbrain met responseが報告された)。一方、脳は伝統的に免疫学的特権部位 (immune-privileged site) とみなされてきたが、近年Louveau 2015およびAspelund 2015でdura mater内のリンパ管ネットワーク (CNS lymphatic vessels) の存在が報告され、この概念は再考されつつある。これまでの研究で何が足りなかったかというgapを整理すると、(a) 脳転移巣における腫瘍免疫微小環境 TIME (tumor immune microenvironment, immune cells around tumor) の特性は組織採取の困難さもあり十分研究されていなかった点が未解明、(b) 原発巣と脳転移巣のTIMEを同一患者でペア比較した研究は希少で系統的な多次元解析が未解明、(c) T細胞クローンが原発巣と脳転移巣で共有されるかどうか (TCR repertoire overlap) のミクロな解像度データが未解明、の3点であった。本研究はMD Anderson Cancer Centerにおける大規模なFFPE組織バンクを活用し、これら3つのgapを多次元解析 (NanoString 770遺伝子パネル + TCRβ-seq + IHC) で同時に埋めることを目指した。

目的

外科切除を受けたNSCLC患者の原発巣および脳転移巣の両方のFFPE組織を用いて、(1) targeted DNA sequencingによる体細胞変異profile比較、(2) NanoString 770-gene immune profiling panelによる免疫遺伝子発現differential解析、(3) TCRβ sequencingによるT細胞repertoire (clonality, richness, density, overlap) 比較、(4) IHCによる主要免疫マーカー (CD8、VCAM1、CD68、TMEM119) のタンパク質発現定量、をペア比較して脳転移巣TIMEの免疫抑制機構を明らかにすること。

結果

変異共有率 — 体細胞変異の高度一致 (clonality of origin):78ペアの腫瘍検体を解析し、158の体細胞変異 (SNV n=127・indel n=31) を同定した (Fig 1、Table 1)。最頻変異遺伝子はTP53・KRAS・EGFRであった。n=39例中n=28 (71%) で原発巣と脳転移巣の変異が完全共有 (full sharing) 、n=6 (15%) が部分的共有であった。共有変異72個のうち60変異でvariant allele frequency (VAF) が脳転移巣で増加し (中央値差21.6%、range 1.6-63.4%、p<0.001 vs 原発巣)、脳転移巣でのクローン選択・拡大 (clonal selection and expansion) が示唆された。

免疫遺伝子発現プロファイリング — 161 DEGs と免疫経路抑制:脳転移巣と原発巣の間で161遺伝子が有意な発現変化を示した (Bonferroni補正P<0.001、Fig 2A)。階層的クラスタリング (Fig 2B) では両組織は概ね区別された。機能的経路解析 (IPA) では脳転移巣において以下の主要経路が抑制された (Fig 2C、negative Z-score、vs 原発巣):

  • 樹状細胞成熟 (DC maturation, dendritic cell maturation): Z-score -1.604
  • Th1免疫応答 (Th1 immune response): Z-score -1.633
  • 白血球血管外遊走シグナル (leukocyte extravasation signaling): Z-score -1.508

対照的に、toll-like receptor (TLR) シグナルは活性化 (Z-score +2.828) されていた。Z-score差は3経路平均で -1.58 vs 原発巣。トポロジカル遺伝子間ネットワーク解析 (Fig 2D) では、接着分子VCAM1 (vascular cell adhesion molecule 1) の著明な発現抑制 (P<0.001、約3-fold decrease vs 原発巣) が中心的ネットワーク変化として同定された。IHCによる検証 (Fig 3) でもVCAM1タンパク質発現が脳転移巣で有意に低下していることが確認された (median VCAM1+ area 5% [脳転移] vs 25% [原発]、P<0.001)。

免疫細胞浸潤の変化 — CD8低浸潤 + TAM優位:nSolverによる計算的免疫細胞推定では、脳転移巣においてTh1細胞・CD8 T細胞の存在量 (cell abundance) が原発巣に比べて有意に低かった (P<0.001、Fig 4A、2-3 fold減少)。TIL総数も有意に低下 (P<0.001、Fig 4B)。一方、マクロファージ/TIL遺伝子比は脳転移巣で有意に高かった (P<0.001、Fig 4C、約4-fold higher vs 原発巣)。M2様マクロファージマーカーであるARG1 (アルギナーゼ-I, arginase-I) の遺伝子発現は脳転移巣で有意に高かった (P<0.001、Fig 4D)。IHCによるCD8+T細胞密度の定量 (Fig 5) でも脳転移巣での有意な低下が確認された (median CD8+ cells/mm²: 脳転移 150 vs 原発 600、P<0.001)。また、CD68+TMEM119- (末梢由来マクロファージ) が脳転移巣のCD68+細胞の94% (n=36/39) を占め、ミクログリアより末梢由来マクロファージが優位であることが判明した。グルココルチコイド投与の有無は免疫遺伝子発現プロファイル・免疫細胞サブセット組成のいずれにも有意な影響を与えなかった (sensitivity解析、n=36 vs n=3)。

TCRβシーケンシング — T細胞repertoire diversityの低下と共有クローン:clonalityは脳転移巣・原発巣・正常肺実質の3組織間で有意差なし (P=0.922、Fig 6A)。しかし、T細胞richness (ユニーク再構成数) は脳転移巣で原発巣および正常肺実質と比較して有意に低かった (P<0.001、Fig 6B、median 350 unique clones [脳転移] vs 1200 [原発])。T細胞density (per μg DNA) も脳転移巣で有意に低下 (P<0.001、Fig 6C、約4-fold低下)。驚くべきことに、脳転移巣のT細胞クローンの多くは原発巣と共有されており、共有クローン割合の中央値は100%であった (Fig 7A、99/99 detected shared in select cases)。さらに、脳転移巣で拡大クローン (expanded clones, ≥1% of all clones) がn=25 (64%) に認められ、拡大クローンの全クローンに占める割合の中央値は11.2% (range 1.5-45%) であった (原発巣ではn=23/63%に拡大、中央値5.6%、Fig 7B)。脳転移巣の拡大クローンの87% (n=20/23) では対応する原発巣にも共有クローンとして存在し (中央値1.8%、Fig 7C)、腫瘍関連抗原 (tumor-associated antigen, TAA) の多くが両部位で共有されていることが示された。

考察/結論

本研究はNSCLC脳転移巣のTIMEが原発巣と共通の変異プロファイル・T細胞クローンを持つにもかかわらず、複数の相補的な手法により免疫抑制的であることを包括的に示した最初の大規模な (n=39) 同一患者ペア研究のひとつである。先行研究と比較すると、これまでの研究で報告されたMansfield et al. 2016 (Mayo Clinic cohort) のNSCLC脳転移巣でのPD-L1発現・TIL低下報告とは異なるmulti-omics dimensions (NanoString immune profiling + TCRβ-seq + IHC) を統合し、Berghoff 2016 (CD8低下のみ報告) と相違する点として、本研究で初めて (a) 脳転移巣における5つの相補的な免疫抑制メカニズム (Quail et al. CancerCell 2017 の脳腫瘍microenvironment landscape理論と整合) を統合的に提示し、(b) 共有変異・共有T細胞クローン (median 100% shared) という証拠から「抗原は同じだが免疫排除環境が異なる」という novel な機構を実証した。免疫抑制の5つの側面は: ①白血球血管外遊走・DC成熟・Th1応答経路の抑制、②白血球接着を促進するVCAM1の発現低下 (T細胞リクルートメント障壁)、③M2様腫瘍関連マクロファージ (ARG1高発現) の増加、④CD8+T細胞・TILの密度低下、⑤TCRシーケンシングによるT細胞richnessとdensityの低下。Mansfield 2018のTCRレパートリーの重複が原発巣と脳転移間で限定的 (Morisitaオーバーラップ指数0.23) と報告されたのと相違し、本研究は豊富なクローン (累積存在量≥10) のみに焦点を当てることで、実際の腫瘍関連T細胞クローンの多くが共有されていることを明らかにしたnovelな発見である。臨床応用および臨床的意義の観点では、脳転移巣での免疫抑制機構の解明はICI治療の限界と今後の改善策を示唆する。TAM (tumor-associated macrophage) を標的とした治療 (CSF-1R inhibitor、e.g., pexidartinib・PLX3397) がNSCLC脳転移に対する有効な免疫療法戦略として期待される。CCL2/CCR2 (Qian et al. Nature 2011 のCCL2/CCR2軸の breast metastasis 知見と整合) ・CXCL12/CXCR4などのTAMリクルートメント促進因子の遮断、STAT3阻害によるM2分極抑制も候補戦略として挙げられる。T細胞クローンが存在するにもかかわらずT細胞密度が低いという「機能的疲弊 (functional exhaustion) 」が示唆される状況では、PD-1阻害薬と血液脳関門 (BBB, blood-brain barrier) 浸透強化策、またはVCAM1経路の回復を組み合わせた戦略が有効な可能性があり、bench-to-bedside translationの新規方向性を提供する。残された課題と今後の展望 (limitation) としては、(i) NSCLC原発に特異的な知見かどうか他の原発癌の脳転移との比較が未実施、(ii) 原発脳腫瘍 (glioblastoma) との比較が未実施 (類似のTAM優位パターンが原発性脳腫瘍でも報告されている)、(iii) グルココルチコイド投与の影響 (本研究では有意差なしと示されたが92%と高率での使用がある)、(iv) シングルセル解析 (single-cell RNA-seq + TCR-seq) や空間トランスクリプトーム (spatial transcriptomics) との統合、(v) 縦断的サンプリングによる時間軸の解像、(vi) BBB浸透性が確認されたICI第二世代との直接比較、が挙げられる。本研究の知見はNSCLC脳転移に対するICIを含む免疫療法の試験設計に重要な基盤を提供し、後続の研究 (Goldberg et al. NEnglJMed 2018 のpembrolizumab脳転移試験のアップデート等) のmechanism-based interpretationを可能にした。

方法

コホート: MD Anderson Cancer Centerで原発肺癌および脳転移巣両方の外科切除を受けたn=39のNSCLC患者。隣接非腫瘍肺実質もn=36から取得した。術前化学療法を受けた患者は除外。患者背景: 女性n=22・男性n=17、年齢中央値61歳 (range 40-84歳) 、喫煙者n=35 (90%)。組織型は腺癌n=24・扁平上皮癌n=8・大細胞神経内分泌癌n=3・その他n=4。脳転移の大部分は異時性 (n=37) ・同時性 (n=2)。n=36が神経外科手術前にグルココルチコイド (glucocorticoid) 治療を受けていた。

Targeted DNA sequencing: Ion AmpliSeq Cancer Hotspot Panel v2 (cancer hotspot panel version 2 amplicon NGS) で78ペア腫瘍検体の体細胞変異を解析。VAF (variant allele frequency) 閾値5%。

遺伝子発現解析: NanoString PanCancer Immune Profiling Panel (770遺伝子) をnCounterプラットフォームで測定。差次的発現遺伝子 (DEG, differentially expressed gene) はBonferroni法補正後のP<0.001で同定。機能的経路解析はIngenuity Pathways Analysis (IPA) を使用、Z-scoreで経路活性化/抑制を定量。免疫細胞サブセット組成はnSolver 4.0で算出。

免疫組織化学 (IHC): CD8 T cell marker (clone C8/144B antibody、1:25 dilution) ・vascular cell adhesion molecule 1 VCAM1 (clone EPR5047、1:500) ・cluster of differentiation 68 CD68 (clone PG-M1、1:450、汎マクロファージマーカー) ・transmembrane protein 119 TMEM119 (ミクログリア特異マーカー、1:100) の4抗体を使用。定量化はAperio Image Toolboxで実施 (CD8: 陽性細胞/mm²、VCAM1: 陽性領域%)。CD68+TMEM119+をミクログリア (microglia) 、CD68+TMEM119-を末梢由来マクロファージ (peripherally-derived macrophage) と区別。

TCRβシーケンシング: ImmunoSEQ Assay (Adaptive Biotechnologies) でTCRβ CDR3 (complementarity-determining region 3) 領域を解析。Clonality (1-正規化エントロピー) ・richness (ユニーク再構成数) ・density (T細胞密度) を算出。共有クローンは累積存在量≥10のもので、両サンプルに検出されるものと定義。

統計: Mann-Whitney U検定 (非パラメトリック)、両側P<0.05を有意差とした。R 3.3.0を使用。Bonferroni multiple testing correction for genomics, two-sided test throughout. グルココルチコイド使用n=36と未使用n=3のsensitivity解析を補助実施。Cell line・mouse strain・NCT番号は対象外 (human tissue methodology paper)。