• 著者: Bin-Zhi Qian, Jiufeng Li, Hui Zhang, Takanori Kitamura, Jinghang Zhang, Liam R Campion, Elizabeth A Kaiser, Linda A Snyder, Jeffrey W Pollard
  • Corresponding author: Jeffrey W Pollard (Albert Einstein College of Medicine, New York)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-06-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21654748

背景

がん微小環境に豊富に存在するマクロファージは、腫瘍の進行や悪性化を促進する重要な因子であることが広く知られている。特に、転移部位に集積する転移関連マクロファージである MAMs (metastasis-associated macrophages) は、腫瘍細胞の血管外遊走、初期播種、および持続的な増殖を直接的に支持することが示されていた。しかし、これら MAMs の前駆細胞が血中のどの単球サブセットに由来するのか、またその動員を制御する分子機構の詳細は未解明であり、大きな研究上の gap が残されていた。

血中の単球は、組織常在型単球と、Gr1 陽性かつ Ly6c (lymphocyte antigen 6 complex, locus C) 陽性の炎症性単球の2つの主要なサブセットに分類され、それぞれ異なるケモカイン受容体プロファイルを有することが Geissmann et al. (2003)、Geissmann et al. (2008)、および Geissmann et al. (2010) などの先行研究により報告されている。炎症性単球は、ケモカインである CCL2 (chemokine (C-C motif) ligand 2) の受容体である CCR2 (C-C chemokine receptor type 2) を高発現しており、炎症局所への動員に関与することが示唆されていた。しかし、乳がんの肺転移プロセスにおいて、これらの単球サブセットがどのように選択的に動員され、転移播種に寄与するのかという具体的な役割は不明であった。

ヒト乳がんにおいては、CCL2 の高発現がマクロファージの浸潤、血管新生、および患者の予後不良や転移性疾患と臨床的に相関することが Ueno et al. (2000)、Valkovic et al. (1998)、Saji et al. (2001) などの先行研究によって示されている。しかし、この臨床的相関を裏付ける直接的な機序的説明はなされておらず、転移の初期段階における単球動員の分子メカニズムに関する知見が決定的に不足していた。特に、原発巣と転移巣における単球リクルートメントの質的な差異や、動員された単球が腫瘍細胞の血管外遊走を促進する具体的なエフェクター分子の同定については、依然として大きな知識ギャップが存在しており、治療標的としての検証も不十分であった。本研究は、これらの未解明な課題を解決し、乳がん肺転移における単球動員軸の機能的意義を明らかにすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、乳がんの肺転移巣に選択的に動員される単球サブセットとその起源を同定することである。さらに、腫瘍細胞および宿主ストロマから分泌される CCL2 と、単球側の CCR2 受容体を介した CCL2-CCR2 シグナル軸が、炎症性単球の肺転移巣への動員を制御するメカニズムを詳細に解明することを目指した。また、動員された炎症性単球が MAMs へと分化し、血管内皮増殖因子 A である VEGFA (vascular endothelial growth factor A) などのエフェクター分子を介して腫瘍細胞の血管外遊走および初期播種を促進する機能的役割を実証する。最終的に、CCL2-CCR2 シグナル経路の治療的阻害が、転移の抑制および腫瘍担持マウスの生存期間延長に寄与するかを検証し、転移性乳がんに対する新規治療標的としての可能性を評価することを目的とした。

結果

肺転移巣への炎症性単球の選択的動員: 自発的肺転移を有する PyMT 腫瘍担癌マウスを用いた骨髄単球の養子移入実験において、肺転移巣では炎症性単球 (Gr1+/Ly6c+) が常在型単球 (Gr1−/Ly6c−) に比べて 3.0-fold 優先的にリクルートされることが示された (n=6 mice, p<0.0001) (Fig. 1b)。対照的に、原発乳腺腫瘍においては常在型単球が優先的に動員されており、原発巣と転移巣で動員される単球サブセットが質的に異なることが明らかとなった。この炎症性単球の優先的動員は、Met-1 細胞を静脈内注射したわずか7時間後の肺においても観察され、対照群と比較して 5.0-fold 以上の顕著な増加を示した (n=4 mice, p=0.0039) (Fig. 1c)。さらに、ヒト乳がん 4173 細胞を注入した肺においても、ヒト炎症性単球 (CD14+CD16−) が常在型単球 (CD14lowCD16+) に比べて 6.0-fold 優先的に動員されることが確認された (n=5 donors, p=0.0163) (Fig. 1e)。これらの動員された単球は、肺転移巣において2日以内に F4/80+CD11b+Gr1− の転移関連マクロファージ (MAMs) へと分化した。

CCL2-CCR2 シグナルによる単球動員の制御: 炎症性単球は CCR2 を高発現しているのに対し、常在型単球ではその発現が極めて低い。抗マウス CCL2 中和抗体の投与により、Met-1 細胞注入後の肺における炎症性単球の動員が有意に阻害された (n=3 mice, p=0.045) (Fig. 1d)。また、Ccr2 欠損マウスから調製した単球を用いた養子移入実験では、肺転移巣への炎症性単球の選択的動員が完全に消失した。ヒト炎症性単球の動員実験においても、宿主のマウス CCL2 を中和することで肺への動員が有意に抑制され (n=5 donors, p=0.016) (Fig. 1f)、さらに抗ヒト CCL2 抗体による腫瘍由来 CCL2 の阻害でも同様に動員が抑制された。これらの結果から、腫瘍細胞および転移先ストロマの双方が産生する CCL2 が、CCR2 陽性の炎症性単球を肺転移巣へ引き寄せる必須の駆動因子であることが実証された。

CCL2 阻害による転移播種および血管外遊走の抑制: Met-1 細胞を用いた実験的転移モデルにおいて、抗マウス CCL2 中和抗体による治療は、肺転移結節数を劇的に減少させ、総転移量を著明に抑制した (n=6 mice, p=0.006) (Fig. 2a, b)。Ex vivo 肺イメージングを用いた三次元構造解析により、CCL2 阻害群では腫瘍細胞に直接接触するマクロファージの数が有意に減少し (n=3 mice, p=0.0066) (Fig. 2e)、腫瘍細胞の血管外遊走 (extravasation) 効率が著しく低下することが判明した (n=3 mice, p=0.00163) (Fig. 2f)。In vitro 経内皮遊走アッセイにおいても、炎症性単球は腫瘍細胞の経内皮遊走を約 5.0-fold 促進し、この促進効果は抗 CCL2 抗体の添加によって完全に消失した (n=5 replicates, p<0.0001) (Fig. 2g, h)。なお、別の CCR2 リガンドである CCL12 の中和抗体は転移抑制効果を示さず、CCL2 の特異的な関与が裏付けられた。

単球由来 VEGFA を介した血管透過性亢進と血管外遊走促進: トランスクリプトーム解析および実証実験により、炎症性単球は常在型単球と比較して Vegfa を高発現していることが確認された。骨髄細胞特異的 Vegfa 欠損マウス (Csf1r-Mer-iCre-Mer; Vegfa flox/flox) においては、Met-1 細胞による実験的肺転移が極めて強力に抑制された (n=6 mice, p=0.0004) (Fig. 4e)。In vitro アッセイにおいて、Vegfa 欠損 BMDMs は腫瘍細胞の経内皮遊走促進能、および内皮細胞単層のアルブミン透過性亢進能を完全に喪失していた (n=3 replicates, p<0.01) (Fig. 4b, c)。さらに、Vegfa 欠損マウスに対して野生型の炎症性単球を共注入して補填することにより、抑制されていた腫瘍細胞の肺転移能が完全に回復した (n=6 mice, p<0.0001) (Fig. 4f)。この結果は、動員された単球が局所で放出する VEGFA が、血管透過性を亢進させて腫瘍細胞の血管外遊走を成立させる鍵因子であることを直接的に証明している。

治療的介入による生存期間の延長効果: 宿主ストロマ由来および腫瘍由来の CCL2 の双方を同時に阻害する治療的有効性を検証した。ヒト乳がん 4173 細胞を用いたモデルにおいて、抗ヒト CCL2 抗体と抗マウス CCL2 抗体の併用、あるいは腫瘍側での Ccl2 ノックダウンは、肺への初期播種を有意に抑制した (n=6 mice, p=0.0000214) (Fig. 3b)。さらに、MDA-MB-231 細胞を静脈内注射した2日後 (初期播種が完了した段階) から CCL2 阻害治療を開始したモデルにおいても、肺における最終的な腫瘍量が有意に減少し (n=10 mice, p<0.001) (Fig. 3f)、腫瘍担持マウスの生存期間が著明に延長した (n=10 mice, p<0.001) (Fig. 3g)。この治療効果は肺転移において極めて顕著であったが、肝転移モデルでは炎症性単球の動員がみられず、CCL2 阻害の効果も観察されなかった。

考察/結論

先行研究との違い: がん微小環境におけるマクロファージが転移を促進することは知られていたが、その前駆細胞の正確なアイデンティティや動員経路は未解明であった。本研究は、詳細な単球サブセットの分離と養子移入実験を駆使することにより、Gr1 陽性の炎症性単球が MAMs の直接の前駆細胞であり、肺転移巣へ選択的に動員されることを明確に示した点で、これまでの大雑把なマクロファージ解析を主とした先行研究と大きく異なる。また、原発巣には常在型単球が優先的に動員されるのに対し、転移巣には炎症性単球が選択的に動員されるという「動員パターンの空間的解離」を明らかにした点は、原発微小環境と転移微小環境の質的相違を示す極めて独創的な知見である。

新規性: 本研究は、腫瘍および肺ストロマから分泌される CCL2 が、CCR2 陽性の炎症性単球を特異的にリクルートし、これらの単球が局所で放出する VEGFA を介して血管透過性を亢進させ、腫瘍細胞の血管外遊走を直接的に駆動するという一連の分子メカニズムを本研究で初めて新規に解明した。特に、単球由来の VEGFA が転移播種の成立に必須であるという発見は、これまで報告されていない極めて新規性の高い知見である。

臨床応用: ヒト乳がんにおける CCL2 の高発現およびマクロファージ浸潤が予後不良や転移性疾患と相関するという臨床的知見に対し、本研究は明確な機序的裏付けを提供した。腫瘍細胞の播種後2日目が経過した段階からの CCL2 阻害治療であっても、肺転移の進行を抑制し、生存期間を有意に延長させたという結果は、微小転移を既に有する臨床現場の患者に対する治療介入において極めて高い臨床的有用性を示唆している。この知見は、CCL2-CCR2 シグナル軸、あるいは炎症性単球の動員・機能を標的とした新規の転移予防・治療薬開発 (bench-to-bedside) を強く支持する。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で観察された転移臓器特異性 (なぜ CCL2 阻害が肺転移には極めて有効である一方、肝転移には効果を示さないのか) の詳細なメカニズム解明が挙げられる。また、臨床応用における課題として、抗 CCL2 抗体の単剤療法では臨床試験での効果が限定的であったことや、治療中断後にリバウンド的な単球動員と転移加速が生じるリスクが後続研究で指摘されており、投与スケジュールや他剤との併用療法に関する慎重な今後の研究が必要である。

方法

動物モデルおよび細胞株: 自然発症乳がん肺転移モデルとして、MMTV-PyMT (mouse mammary tumor virus-Polyoma Middle T) トランスジェニックマウスを使用した。実験的肺転移モデルには、PyMT 腫瘍由来の Met-1 (mammary tumor cell line 1) 細胞株、およびヒト乳がん MDA-MB-231 細胞株由来の高転移性サブクローンである 4173 細胞株を使用した。骨髄単球およびマクロファージを GFP (green fluorescent protein) 標識するため、Csf1r-EGFP (colony-stimulating factor 1 receptor-enhanced green fluorescent protein) トランスジェニックマウスを用いた。

単球の分離と養子移入実験: マウス骨髄単球は CD11b、CD115、F4/80 の発現により同定し、FACS (fluorescence-activated cell sorting) を用いて Gr1 陽性炎症性単球と Gr1 陰性常在型単球に高純度で分離した。各サブセット 10^5 細胞を、自発的肺転移を有する PyMT 腫瘍担癌マウス、または Met-1 細胞を静脈内注射した FVB/N マウスに静脈内移入し、18時間後の各組織における回収率を比較した。ヒト単球については、健常ドナー末梢血から FACS により CD14 陽性 CD16 陰性炎症性単球と CD14 弱陽性 CD16 陽性常在型単球を分離し、組換えヒト CSF1 を補充したヌードマウスに養子移入した。

CCL2 シグナル阻害: CCL2-CCR2 軸の関与を検証するため、抗マウス CCL2 中和抗体、抗ヒト CCL2 中和抗体、抗マウス CCL12 中和抗体、および Ccr2 欠損マウス由来の単球を用いた。抗体は 10 mg/kg の用量で腹腔内投与し、腫瘍細胞注入の3時間前、または腫瘍細胞注入の2日後から週2回のスケジュールで投与を開始した。

Ex vivo 肺イメージング: CFP (cyan fluorescent protein) を安定発現させた Met-1 細胞を静脈内注射し、AlexaFluor-647 標識抗 CD31 抗体を用いて肺血管内皮を可視化した。三次元共焦点顕微鏡システムである TCS-SP2 (true confocal scanner-spectral 2) を用いて、注射24時間後の肺におけるマクロファージと腫瘍細胞の直接的相互作用、および腫瘍細胞の血管外遊走状態をリアルタイムで定量解析した。画像解析には Volocity ソフトウェアを用いた。

骨髄細胞特異的 Vegfa 欠損マウスの作製: 単球・マクロファージ特異的に Vegfa を条件付きノックアウトするため、タモキシフェン誘導性 Mer-iCre-Mer を Csf1r プロモーター下で発現する Csf1r-Mer-iCre-Mer マウスと、Vegfa flox/flox マウスを交配させた。タモキシフェン (3 mg/day) を2日間皮下注射することで、骨髄由来マクロファージである BMDMs (bone-marrow-derived macrophages) および血中単球における Vegfa の特異的欠損を誘導した。

In vitro 内皮透過性および経内皮遊走アッセイ: マトリゲルコーティングしたインサートの上部に 3B-11 内皮細胞を播種して単層を形成させた。下部チャンバーに BMDMs または FACS 分離単球を配置し、CellTracker で標識した Met-1 細胞または 4173 細胞の上部から下部への遊走細胞数を36-48時間後にカウントした。内皮透過性は、エバンスブルー標識ウシ血清アルブミンの透過量を 650 nm の吸光度で測定した。

統計解析: 2群間の比較には両側 Student’s t-test (t検定) を、多群間比較には1元配置分散分析 (ANOVA) および Bonferroni/Dunn 多重比較検定を用いた。ヒト単球の養子移入実験では、ドナー間の個体差を考慮して対応のある t-test を用いた。P値が 0.05 未満を有意差ありと定義した。