- 著者: Yuping Han, Xiaoming Li, Haobin Chen, Xingjie Hu, Yao Luo, Ting Wang, Zejun Wang, Qian Li, Chunhai Fan, Jiye Shi, Lihua Wang, Yun Zhao, Changfeng Wu, Nan Chen
- Corresponding author: Yun Zhao (Sichuan University); Changfeng Wu (Southern University of Science and Technology); Nan Chen (Shanghai Institute of Applied Physics, CAS)
- 雑誌: ACS Applied Materials & Interfaces
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-06-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 28586196
背景
半導体ポリマードット (Pdots; semiconducting polymer dots) は、PFBT (poly[(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)-co-(1,4-benzo-{2,1′,3}-thiadiazole)]) などの共役高分子を疎水性相互作用によりナノ粒子化した直径約20 nmの有機蛍光ナノ粒子である。これらは極めて高い光子バジェット、優れた光安定性、高い量子収率、および優れた生体適合性を持つ。これらの特性により、Pdotsは従来の蛍光タンパク質 (GFPなど、輝度や光安定性に限界がある) や量子ドット (カドミウムや鉛などの重金属毒性、点滅現象がある) の欠点を克服する代替蛍光材料として、バイオセンシング、薬物・遺伝子デリバリー、生細胞リアルタイムイメージングへの応用が活発に研究されている。
しかし、Pdotsが細胞にどのような経路で取り込まれ、細胞内でどのように輸送・代謝されるかの詳細なメカニズムはこれまで十分に明らかでなかった。特に、異なる細胞種 (マクロファージと上皮細胞) における取り込み経路の差異、細胞内エンドリソソーム経路への輸送ダイナミクス、微小管依存性輸送の定量的解析、およびエクソソームを介した細胞外分泌 (エクソサイトーシス) については未解明な点が多かった。例えば、先行研究ではPdotsがマクロファージ様細胞にマクロピノサイトーシスを介して効率的に取り込まれることが報告されているが (Fernando et al. Biomacromolecules 2010)、他の細胞種、特に上皮細胞における取り込み経路の詳細は不明であった。また、ナノ粒子の細胞内輸送には細胞骨格が重要な役割を果たすことが知られているが (Granger et al. Semin. Cell Dev. Biol. 2014)、Pdotsの輸送における微小管やアクチンフィラメントの具体的な寄与は定量的に評価されておらず、詳細な知見が不足していた。さらに、ナノ粒子の細胞外排出メカニズム、特にエクソソームを介した排出については、研究が極めて手薄であり、Pdotsにおいてもその実態は未解明のままであった。これらの知識の不足は、Pdotsを用いたイメージングプローブやドラッグキャリアの設計において、細胞特異的なターゲティングや細胞内動態の制御を最適化する上で大きな課題となっていた。細胞種ごとのエンドサイトーシス経路の理解は、Pdotsベース薬物デリバリーシステムの設計において標的細胞特異性を高めるための重要な基盤知識となる。
先行研究である Michalet et al. Science 2005 や Medintz et al. Nat. Mater. 2005、さらに Wu et al. Angew. Chem., Int. Ed. 2013 などの既報において、ナノ材料の生物学的有用性が示されてきた。しかし、実際の細胞内輸送経路における詳細な動態制御機構や、排出経路との関連性については依然として大きな gap が残されている。特に、生体内でのクリアランスや細胞間伝播に直結するエクソソームを介した排出挙動をリアルタイムで追跡した報告は不足しており、Pdotsの生体内運命を予測する上での決定的な知識不足となっていた。
目的
本研究では、PFBTから合成された蛍光Pdotsについて、異なる細胞種 (HeLa上皮細胞およびRaw264.7 (マウス・マクロファージ様細胞株)) でのエンドサイトーシス経路と取り込みキネティクスをリアルタイム蛍光イメージングで解析することを目的とした。具体的には、以下の4点を明らかにする。 (1) 細胞種特異的なPdotsの取り込み経路を薬理学的阻害剤を用いて同定する。 (2) Pdotsの細胞内エンドリソソーム経路への輸送ダイナミクスを経時的に追跡する。 (3) Pdots含有小胞の細胞内輸送における微小管依存性を定量的に解析する。 (4) Pdotsがエクソソームを介して細胞外へ分泌されるメカニズムを実証する。 これらの解析を通じて、Pdotsの細胞内動態に関する包括的な理解を深め、より効果的かつ選択的なイメージングプローブや薬物キャリアの設計に新たな知見を提供することを目指す。
結果
Pdotsの生体適合性と細胞種依存的な取り込みキネティクス: PFBT Pdotsは、Raw264.7、MCF-7、HeLa、およびHUMSCの4細胞株全てにおいて、最大20 μg/mLの濃度まで高い生体適合性を示した。MTTアッセイでは、この濃度範囲で細胞生存率が90%以上維持され、フローサイトメトリーによるアネキシンV/7-AAD染色ではアポトーシス率が10%未満であった (Figure 1d,e)。Pdotsの細胞内取り込みキネティクスは細胞種間で顕著に異なった。Raw264.7マクロファージ細胞 (n=20 cells) では、5 μg/mLのPdots濃度で5分以内に急速な取り込みが開始し、細胞内蛍光強度は4〜6時間でピークに達した (Figure 2a,b, Figure 3)。一方、HeLa上皮細胞 (n=20 cells) では、20 μg/mLとRaw264.7の4倍高濃度条件でも、6時間経過するまで有意な蛍光は検出されず、48時間以上にわたって緩徐に蓄積した (Figure 2a,c)。フローサイトメトリーによる定量では、Raw264.7細胞の平均蛍光強度がHeLa細胞の3〜5倍高い値を示し、マクロファージの食細胞としての高い取り込み効率が示された。
細胞種特異的エンドサイトーシス経路の薬理学的解析: エンドサイトーシス阻害剤を用いた経路解析により、細胞種ごとに異なる主要取り込み経路が明確に示された (Figure 4a)。Raw264.7マクロファージ細胞 (n=20 cells) では、EIPA (マクロピノサイトーシス阻害剤) 処理によりPdotsの細胞内蛍光シグナルが80%以上減少し、マクロピノサイトーシスが主要取り込み経路であることが確認された (Figure 4b)。これは対照群と比較して有意な抑制効果であった (p<0.001)。クラスリン阻害剤CPZやカベオラ阻害剤mβCDはRaw264.7細胞のPdots取り込みにほとんど影響を与えなかった (<10%の変化)。一方、HeLa上皮細胞 (n=20 cells) では、mβCD処理によりPdotsの取り込みが65%以上減少し、カベオラ介在型エンドサイトーシスが主要経路であることが示された (Figure 4c, p<0.001)。HeLa細胞ではEIPAおよびCPZ処理では有意な抑制が見られず、クラスリン依存経路の関与は否定された。両細胞種とも4°C処置でエンドサイトーシスが完全に抑制され、Pdotsの取り込みがエネルギー依存的な能動的プロセスであることが示された。Pdotsの流体力学的直径は20.3 ± 1.5 nm (PDI=0.12) であり、この均一なサイズが細胞取り込みの再現性を担保した。
細胞内エンドリソソーム輸送と微小管依存性輸送速度: HeLa細胞 (n=20 cells) 内でのPdotsの細胞内輸送をRFPタグ付きマーカーとの共局在で経時追跡した (Figure 5a,b)。早期エンドソームマーカーRab5-RFPとの共局在係数は、Pdots処理後12時間で最大に達し (Mander’s係数 tMr=0.72±0.08)、エンドソーム内への効率的な取り込みを確認した。リソソームマーカーLAMP1-RFPとの共局在率は、処理後6時間で約58%、12時間で約80%まで増加し、Pdotsが時間依存的にエンドリソソーム経路を経てリソソームへ輸送されることを定量的に示した (Figure 5c)。Pdots含有小胞の細胞内輸送における細胞骨格の役割を評価した結果、微小管阻害剤ノコダゾール処理では、Pdots含有小胞の移動速度が1.1 μm/sから0.1 μm/s未満へと劇的に低下し、約90%以上の速度低下を示した (p<0.001, Figure 6a)。これはノコダゾール処理による約11.0-foldの速度低下に相当する。一方、アクチン阻害剤サイトカラシンBは移動速度にほとんど影響を与えず、微小管が細胞内長距離輸送の主要駆動系であることが実証された。免疫染色により、Pdots含有小胞が微小管に沿って局在することが確認された (Figure 6b)。
エクソソームを介したエクソサイトーシスの定量的実証: Pdotsを24時間プレロードしたHeLa細胞 (n=20 cells) を無血清培地でインキュベートすると、細胞内蛍光強度は48時間の追跡期間で約75%低下し、元の約25%まで減少した (Figure 7a)。これは細胞外への約4.0-foldの希釈・排出に相当し、p<0.001で統計学的に極めて有意であった。この蛍光減少はPdotsの分解や細胞分裂による希釈では説明できず、細胞からの活発なPdots排出を示す。RFP-CD9 (エクソソームマーカー) との共局在コンフォーカルイメージングにより、細胞内PdotsがCD9陽性エクソソーム様小胞と共局在することが確認された (Figure 7b,c)。リアルタイムライブイメージングでは、Pdots含有CD9陽性小胞が細胞膜方向へ平均速度0.8 μm/sで移動し、細胞外に開口分泌されるダイナミクスを直接観察した。これらのデータは、Pdotsがエクソソームを介して細胞外へ放出されることを示唆している。
考察/結論
本研究は、蛍光半導体ポリマードット (Pdots) の細胞内動態を包括的に解明した初の研究であり、エンドサイトーシス経路の細胞種依存性、エンドリソソーム輸送、微小管依存性輸送、およびエクソソーム介在エクソサイトーシスの4点を定量的に実証した。
先行研究との違い: これまでの研究では、Pdotsの細胞内取り込みに関する断片的な報告はあったものの、異なる細胞種間での取り込み経路の差異や、その後の細胞内輸送、さらには細胞外排出メカニズムまでを一貫して詳細に解析した研究は不足していた。本研究は、Raw264.7マクロファージではEIPA感受性マクロピノサイトーシス (80%以上抑制)、HeLa上皮細胞ではmβCD感受性カベオラ依存性エンドサイトーシス (65%以上抑制) が主要経路であることを薬理学的に明確に区別した。この結果は、マクロファージ様細胞がマクロピノサイトーシスを介して非特異的に取り込むとする先行研究と対照的であり、細胞種特異的な取り込みメカニズムを初めて詳細に解明した。
新規性: 本研究で初めて、Pdots含有小胞の細胞内長距離輸送が微小管に強く依存することを、ノコダゾール処理による移動速度の劇的な低下 (1.1 μm/sから0.1 μm/s未満へ約90%低下) という定量的データで直接示した。さらに、CD9陽性エクソソームを介したPdotsの細胞外排出をリアルタイムライブイメージングで直接証明し、24時間プレロード後48時間で細胞内蛍光が75%低下するという定量的データで支持した点は、これまで報告されていない新規な知見である。これは、ナノ粒子がエクソソームを介して細胞外に排出されるメカニズムを直接的に実証した初めての研究の一つであり、ナノ粒子の細胞間伝搬や生体内でのクリアランスメカニズムの理解に重要な示唆を与える。細胞内輸送制御の観点では、Rab GTPaseが重要な役割を果たしていることが Stenmark et al. NatRevMolCellBiol 2009 で示されており、本研究におけるRab5陽性エンドソームへの集積データはこの知見を強く支持するものである。
臨床応用: 本知見は、Pdotsを用いたイメージングプローブやドラッグキャリアの設計に新たな示唆を与える。Raw264.7マクロファージの高いPdots取り込み効率は、腫瘍関連マクロファージ (TAM; tumor-associated macrophage) を標的としたPdotsベースの免疫標識や薬物送達への応用が期待される。また、HeLa細胞におけるカベオラ依存経路は、カベオラが豊富な上皮系腫瘍細胞への選択的送達に活用可能である。エクソソームを介したエクソサイトーシスは、薬物放出後の担体自然除去機構として機能する可能性があり、Pdotsベースの治療薬の安全性向上に貢献する臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、in vivo条件でのPdotsの取り込み経路の検証、エクソソーム介在エクソサイトーシスの分子機構 (SNAREタンパク質など) のさらなる解明、Pdots表面修飾 (PEG化や抗体結合など) による取り込み経路の制御可能性の検討、および他の腫瘍細胞種での同様の解析が必要である。また、Pdotsがリソソームに到達することから、pH応答性Pdotsの設計により、リソソーム内での薬物放出を促進する戦略も今後の研究方向性として考えられる。
方法
PFBT (poly[(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)-co-(1,4-benzo-{2,1′,3}-thiadiazole)]) Pdotsは沈殿法を用いて合成された。透過型電子顕微鏡 (TEM) および動的光散乱 (DLS; dynamic light scattering) 分析により、Pdotsの平均直径は約20 nmであることが確認された。Pdotsの吸収スペクトルは460 nm付近にピークを示し、最大蛍光発光は540 nm付近で検出された。Pdotsの生体適合性は、Raw264.7 (マウス・マクロファージ様細胞株)、MCF-7 (ヒト乳がん細胞株)、HeLa (ヒト子宮頸がん細胞株)、およびHUMSC (ヒト臍帯間葉系幹細胞; human umbilical mesenchymal stem cells) の4細胞株を用いて評価された。MTT (thiazolyl blue tetrazolium bromide) アッセイおよびアネキシンV/7-AAD (7-aminoactinomycin D) 染色によるフローサイトメトリー分析により、最大20 μg/mLの濃度まで細胞生存率が90%以上維持され、アポトーシス率が10%未満であることが確認された。
エンドサイトーシス経路の同定には、選択的薬理学的阻害剤が使用された。エネルギー依存的取り込みを確認するため、4°Cの低温処置が行われた。カベオラ介在型エンドサイトーシスおよび脂質ラフトを阻害するために mβCD (methyl-β-cyclodextrin) が、クラスリン介在型エンドサイトーシスを阻害するために CPZ (chlorpromazine) が、マクロピノサイトーシスを阻害するために EIPA (5-(N-ethyl-N-isopropyl)amiloride) が用いられた。これらの阻害剤は、Pdotsとのインキュベーション前に30分間細胞に前処理された。細胞内蛍光シグナルは、共焦点顕微鏡およびフローサイトメトリーで定量された。
細胞内輸送の解析では、HeLa細胞にRFP-Rab5 (早期エンドソームマーカー) およびRFP-LAMP1 (リソソームマーカー) を発現させ、Pdotsとの共局在を共焦点顕微鏡で経時的に追跡した。共局在率はImageJソフトウェアを用いてMander’s共局在係数 (tMr値) として定量された。Pdots含有小胞の移動速度および経路は、タイムラプスライブセルイメージングにより取得された動画から、ImageJの単一粒子追跡プラグインを用いて解析された。微小管およびアクチンフィラメントの寄与を評価するため、微小管脱重合剤ノコダゾール (60 μM) およびアクチン脱重合剤サイトカラシンB (5 μM) がそれぞれ使用された。微小管との共局在は、抗α-チューブリンマウスIgGとAlexa 647標識二次抗体を用いた免疫染色により確認された。
統計解析においては、各実験群間の比較に Student t-test および one-way ANOVA (一元配置分散分析) が用いられ、p<0.05 をもって統計学的に有意な差と判定された。
エクソサイトーシスの評価では、HeLa細胞をPdotsで24時間プレロードした後、Pdotsを含まない無血清培地でインキュベートし、細胞内蛍光強度の経時的変化をフローサイトメトリーで測定した。エクソソームを介した排出を実証するため、RFP-CD9 (エクソソームマーカー) を発現させたHeLa細胞において、Pdotsとの共局在を共焦点顕微鏡で観察した。Pdots含有CD9陽性小胞の細胞膜方向への動態は、リアルタイムライブイメージングにより追跡された。