• 著者: A. Veerappan, M. Thompson, A.R. Savage, M.L. Silverman, W.S. Chan, B. Sung, B. Summers, K.C. Montelione, P. Benedict, B. Groh, A.G. Vicencio, H. Peinado, S. Worgall, R.B. Silver (共同筆頭著者: Veerappan, Thompson, Savage)
  • Corresponding author: R.B. Silver (Department of Physiology and Biophysics, Weill Cornell Medicine, New York, NY)
  • 雑誌: American Journal of Physiology - Lung Cellular and Molecular Physiology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-04-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27130530

背景

早産児の慢性肺疾患である CLD (chronic lung disease of prematurity) は、米国において在胎29週未満・出生体重1,500 g未満の極低誕生体重児の68%に発症する最も一般的な未熟児合併症であり (Stoll et al. Pediatrics 2010)、酸素毒性を含む炎症性傷害が主要な病因と考えられている。CLDの病理所見は、肺胞形成障害、瘢痕形成、炎症の三つを主要な特徴とし、CLDの既往がある患者は小児喘息、成人COPD、肺気腫のリスクが増大することが長期追跡研究から示されている (Baraldi et al. N Engl J Med 2007)。これらの長期的な影響は、CLDの早期診断と治療の重要性を強調している。

CLDを示す剖検肺において、トリプターゼ陽性肥満細胞の過形成が20年以上前から観察されており (Lyle et al. Pediatr Pulmonol 1995)、ゲノムワイドトランスクリプトーム解析では、CLD肺で最も高発現する5遺伝子のうち3つが肥満細胞特異的マーカーである CPA3 (carboxypeptidase A3) や TPSAB1 (tryptase alpha/beta 1)、TPSABAB2 であることが示されている (Bhattacharya et al. Am J Respir Crit Care Med 2012)。ヒヒの BPD (bronchopulmonary dysplasia) モデルでも肥満細胞過形成が確認されているが (Subramaniam et al. Am J Respir Crit Care Med 2003)、病態形成における肥満細胞の機能的寄与はほとんど解明されておらず、大きな knowledge gap が残されていた。このため、CLDの病態における肥満細胞の直接的な役割を明らかにする必要があったが、適切な動物モデルを用いた検証はこれまで不足していた。

さらに、CLDの進行を予測する信頼できるバイオマーカーは現在も不足している。エクソソームは細胞外小胞 (30-100 nm) であり、肥満細胞を含む多様な細胞から分泌されることが知られている (Lasser et al. J Transl Med 2011)。気道分泌物中に肥満細胞由来エクソソームが存在するならば、CLDの新規バイオマーカーとなり得ると仮説立てられた。エクソソームは、その内容物 (RNA、タンパク質など) を通じて細胞間コミュニケーションを媒介し、様々な疾患のバイオマーカーとしての可能性が注目されている。特に、肺疾患においては、気道吸引液である TA (tracheal aspirate) や BALF (bronchoalveolar lavage fluid) からエクソソームが検出されており、その組成が病態を反映する可能性が示唆されているが (Qazi et al. Thorax 2010)、CLDにおける肥満細胞由来エクソソームの役割やバイオマーカーとしての有用性は未開拓であり、研究が不足している。先行研究である Bhattacharya et al. (2012) や Subramaniam et al. (2003) などの報告はあるものの、臨床応用可能なバイオマーカーの確立には至っておらず、病態におけるエクソソームの動態は未解明であり、大きな課題が残されている。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、新生児高酸素曝露による肺損傷における肥満細胞の役割を解明し、CLDの潜在的なバイオマーカーを特定することである。具体的には以下の3点を検証する。

(1) 新生児マウスを高酸素に暴露することで肥満細胞過形成が誘発され、肺胞形成障害および静肺コンプライアンス増大を伴うCLD様病態が引き起こされるかを動物モデルで検証する。これにより、高酸素が肥満細胞の増加と肺の構造的・機能的変化に直接的に寄与するかを評価する。

(2) 肥満細胞欠損マウスを用いて、肥満細胞が高酸素誘発性CLD病態の発生に因果的に寄与することを実証する。肥満細胞の存在が肺損傷の進行に不可欠であるかを明らかにする。

(3) 機械換気および酸素補充が施行された早産児の TA 中に肥満細胞由来バイオマーカーである β-ヘキソサミニダーゼおよびエクソソームが存在するかを検証し、これらのバイオマーカーがCLDの進行と関連するかを評価する。これにより、臨床現場でのCLDの早期診断および予後予測に役立つ可能性を探る。

結果

高酸素曝露による肥満細胞過形成と肺構造・機能異常: 高酸素 (HO; FiO2 0.8×2週間) 曝露された野生型 CD1 マウス (n=5 mice) では、室内空気 (RA) 対照群と比較して肺内肥満細胞密度が著明に増加した。toluidine blue 染色では2週時点で HO群 85.1 ± 8.5個/mm² vs RA群 4.0 ± 2.8個/mm² (p<0.001) であり、avidin-HRP 染色でも2週 (p<0.001) および5週 (p<0.0001) の両時点で有意差が確認された (Figure 1B)。肥満細胞は肺胞腔という本来の局在部位以外に異所性に出現していた (Figure 1A)。肺ホモジネートのmRNA解析では、肥満細胞マーカーであるTpsab1 (p<0.001)、Cpa3 (p<0.05)、Tpsab2 (p<0.01) の発現がHO群で有意に増加した (Figure 1C-E)。肺胞弦長 (Lm) はHO群で有意に増大し (2週時点で p<0.001、5週時点で p<0.0001)、肺胞の拡大と単純化を示した (Figure 1F)。静肺コンプライアンスはHO群でRA対照群より有意に増大し (5週時点で p<0.001、20週時点で p<0.05)、高コンプライアンスが長期持続することを示した (Figure 1G-H)。

肥満細胞欠損による肺胞拡大およびコンプライアンス上昇の抑制: 肥満細胞欠損 (MCD) マウス (WBB6F1-W/Wv, n=3 mice) では、HO曝露にもかかわらず肺胞弦長 (Lm) の増大が認められなかった (p=NS、正常同腹仔 CC との比較で有意差維持 p<0.0001) (Figure 2B)。静肺コンプライアンスも MCD+HO群では有意な増大を示さず (p=NS)、一方 CC+HO群では有意に増大した (p<0.05) (Figure 2C)。この結果は、肥満細胞が高酸素誘発性肺胞形成障害の直接的促進因子であることを証明した。好中球、マクロファージ、リンパ球の浸潤パターンはHO曝露後2週および5週いずれも変化せず (Table 1, Figure 4, Figure 5)、高酸素曝露後期において肥満細胞が優位な炎症細胞であることが示された。

気管支肺胞洗浄液中の肥満細胞脱顆粒メディエーター上昇: HO群野生型マウス (n=5 mice) の気管支肺胞洗浄液 (BALF) では、β-ヘキソサミニダーゼ (β-hex; 肥満細胞脱顆粒指標; p<0.01) が 3.6-fold increase、ヒスタミン (p<0.0001) が 4.2-fold increase、エラスターゼ (p<0.0001) が有意に上昇した (Figure 3A-C)。BAL細胞分画 (総細胞数、マクロファージ、好中球、リンパ球) には2週および5週ともに有意差は認められず (Figure 3D-E)、メディエーター上昇が細胞増加とは独立した肥満細胞脱顆粒由来であることを示した。

ヒト早産児気管吸引液におけるβ-hex活性と臨床指標の相関: 21例の早産児 (平均在胎27.8 ± 0.5週、平均出生体重1,015 ± 93 g) のうち10例がCLD確定診断例であった (Table 2)。週1のβ-hex追跡では、CLDかつ挿管期間が21日以上の重症群 (n=7 infants) で、週1から週2にかけてβ-hex活性が有意に上昇した (1.41 ± 0.35 vs. 5.12 ± 1.27, p<0.01) (Figure 6A)。全患者の週1値とCLD重症群の週2値の比較でも有意差が認められた (1.44 ± 0.22 vs. 5.12 ± 1.27, p<0.0001)。β-hex活性はFiO2と有意に相関し (r²=0.17, p<0.01)、酸素化指標 (OI) とも相関した (r²=0.28, p<0.01) (Figure 6D-E)。

ヒトCLD患者気管吸引液からの肥満細胞由来エクソソーム同定: CLD確定例4例のプールされたTA中に、電子顕微鏡でドーナツ型のエクソソーム (30-100 nm) が確認された (Figure 7A)。ウェスタンブロットでは、TSG101、Alix (PDCD6IP)、CD63の3つのエクソソームマーカーがTA由来エクソソームとHMC-1由来エクソソームの両方で陽性であることを確認した (Figure 7B)。プロテオーム解析では、TA由来エクソソームとHMC-1/70%O2曝露由来エクソソームに共通する133タンパク質が同定され (Table 3)、うち19タンパク質は既知エクソソーム標準マーカー、82タンパク質は既知肥満細胞タンパク質 (chymase, tryptase, CPA3, elastase等) と重複した。qPCRでは、4例のCLD患者TAエクソソームすべてで肥満細胞特異的転写産物CPA3およびTPSAB1が検出された (Figure 7C)。

考察/結論

本研究は、新生児高酸素曝露による肺損傷における肥満細胞の病態的役割を動物モデルで初めて直接実証し、肥満細胞欠損マウスの保護効果によってその因果関係を明確に示した点で独自の科学的貢献である。

先行研究との違い: これまでの先行研究 (Bhattacharya et al. Am J Respir Crit Care Med 2012) が肥満細胞関連遺伝子の転写上昇を示すにとどまっていたのに対し、本研究は in vivo での機能的因果関係を確立した点で、これまでと異なる知見を提供している。

新規性: 本研究で初めて、肥満細胞欠損が肺胞拡大と肺コンプライアンス増加を抑制したことで、肥満細胞がCLD様病態の直接的な促進因子であることを明確に示した。さらに、ヒト早産児の気管吸引液中から肥満細胞特異的転写産物 (CPA3, TPSAB1) やプロテアーゼ群を内包するエクソソームを新規に同定した。この知見は、Peinado et al. NatMed 2012 が示したように、エクソソームが細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を果たすという概念を支持する。

臨床応用: 臨床的意義として、β-hexはNICUで反復採取可能な非侵襲的TA検体で測定でき、挿管21日以上の重症CLD群では2週目に特異的に上昇するという知見は、CLD進行の早期予測バイオマーカーとしての可能性を示す。β-hex活性がFiO2や酸素化指標 (OI) と相関したことは、酸素曝露による肺損傷と肥満細胞活性化の関連を示唆しており、臨床現場における早期介入の指標として臨床的有用性が高い。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で用いた高酸素モデル (FiO2 0.8) は臨床現場で必要とされる酸素濃度よりも高い場合があるため、より低いFiO2での肥満細胞過形成と肺構造への影響を検討する必要がある。また、肥満細胞過形成のメカニズム (骨髄由来前駆細胞の肺への遊走か、肺内肥満細胞前駆細胞の分化か) については今後の検討課題である。

方法

動物モデル:新生児CD1マウス (野生型)、肥満細胞欠損 (MCD) マウス (WBB6F1-W/Wv; ckit遺伝子点変異による肥満細胞選択的欠損) およびその正常同腹仔 (CC; WBB6F1-+/+) を使用した。生後0日よりFiO2 0.8のチャンバー (Biospherix) に2週間暴露後、室内空気 (RA; FiO2 0.21) に3週間戻す (=5週時点) モデルを構築した。母マウスは急性O2毒性防止のため12時間交替で交換した。一部のCD1マウスは20週まで追跡した。各実験群には n=3 mice から n=5 mice のマウスを含め、PCRおよびイムノブロッティングは最低3つの異なるサンプルで実施した。肺組織切片の評価は2名の研究者が盲検下で行った。

組織・機能評価:(a) アビジン-HRP染色および toluidine blue 染色による肥満細胞/mm²計数、(b) H&E染色による平均肺胞弦長 (Lm) 測定 (30-50視野/切片)、(c) FlexiVent (Sireq) による静肺コンプライアンス (Cst) 測定、(d) 肺ホモジネートでのTpsab1・Cpa3・Tpsab2 mRNAのリアルタイムPCR、(e) BALFでのβ-ヘキソサミニダーゼ (β-hex)・ヒスタミン・エラスターゼ (ELISA) 測定、(f) 免疫染色による好中球・マクロファージ・リンパ球計数を行った。肺機能検査は5週齢 (CD1, MCD, CC) および20週齢 (CD1) のマウスで実施した。マウスはペントバルビタール (100 mg/kg ip) で麻酔し、気管切開後、人工呼吸器 (Sireq) を用いて換気した。静肺コンプライアンスはSalazar-Knowles方程式を用いて決定し、気道抵抗 (Rn) および肺組織抵抗 (R) はブロードバンド強制振動法を用いて測定した。統計解析には Student’s t-test を用いた。

ヒト臨床コホート:在胎32週以下で機械換気・酸素補充を必要とした早産児21例 (合計52検体) から、生後72時間以内に初回TAを採取し、以後は毎週、抜管まで継続収集した。CLDは補助酸素依存が28日以上と定義した。TAからエクソソームを超遠心法で単離 (12,000 g→100,000 g) し、NanoSight (DS500) で粒子サイズ・数を計測した。電子顕微鏡で形態確認、ウェスタンブロット (TSG101, Alix/PDCD6IP, CD63) でエクソソームマーカーを検証した。Rockefeller University Proteomics Centerにて液体クロマトグラフィー質量分析 (QExactive; Proteome Discoverer 1.4 + Mascot 2.4、FDR 1%、ヒト/マウス UniProt データベース) による網羅的プロテオーム解析を実施した (TA由来エクソソームとHMC-1 細胞/70%O2暴露由来エクソソームの比較)。エクソソームRNAのqPCR解析では、ヒトCPA3、TPSAB1、TPSAB2、GAPDH遺伝子を対象とした。

統計解析:統計比較はGraphPad Prism 5.0ソフトウェアを用いて一元配置ANOVAまたは対応のない両側Studentのt検定により実施した。95%信頼水準を統計的有意とみなした。ヒトサンプルでは、グループ間の比較に一元配置ANOVAまたは対応のない両側t検定を使用し、同一グループ内の週1と週2の値の比較には対応のあるt検定を使用した。TA β-hexと酸素化指数 (OI) およびFiO2との相関度を推定するために回帰分析を用いた。