• 著者: Héctor Peinado, Maša Alečković, Simon Lavotshkin, Irina Matei, Bruno Costa-Silva, Gema Moreno-Bueno, Marta Hergueta-Redondo, Caitlin Williams, Guillermo García-Santos, Cyrus M Ghajar, Ayuko Nitadori-Hoshino, Caitlin Hoffman, Karen Badal, Benjamin A Garcia, Margaret K Callahan, Jianda Yuan, Vilma R Martins, Johan Skog, Rosandra N Kaplan, Mary S Brady, Jedd D Wolchok, Paul B Chapman, Yibin Kang, Jacqueline Bromberg & David Lyden
  • Corresponding author: Jacqueline Bromberg; David Lyden (Weill Cornell Medical College, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-05-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22635005

背景

腫瘍由来細胞外小胞 (エクソソーム、30-100 nm) は多小胞体 (MVB) の管腔膜に由来し、細胞膜融合によって細胞外に放出されることが知られている。これらのエクソソームはmRNA、microRNA、タンパク質などの情報分子を水平伝達することで、局所的および全身的な細胞間コミュニケーションを媒介する重要な役割を果たすことが、これまでの研究で示されてきた Thery et al. NatRevImmunol 2002Valadi et al. NatCellBiol 2007Ratajczak et al. Leukemia 2006。特に、腫瘍細胞由来エクソソームは腫瘍形成の新たなメディエーターとして注目を集めている。

骨髄由来細胞 (BMDC) は、一次腫瘍の適切な微小環境の生成と転移の発生に不可欠であることが広く認識されており、このプロセスは前転移ニッチ形成 (pre-metastatic niche formation) と呼ばれている Psaila et al. NatRevCancer 2009Kaplan et al. Nature 2005。分泌因子が一次腫瘍部位と前転移ニッチの両方へのBMDCの動員に寄与することは知られていたが、エクソソームがこのプロセスにどのように関与するかは未解明であった。エクソソームは、一次腫瘍とBMDC間のクロストークにおいて、両細胞タイプの転移部位へのホーミングを誘導する役割を果たす可能性が示唆されていたが、その詳細なメカニズムは不明であった。

MET (肝細胞増殖因子受容体、c-Met) は、細胞の移動、浸潤、血管新生、および骨髄前駆細胞の動員に中心的な役割を担うオンコタンパクである。しかし、エクソソームを介した受容体型チロシンキナーゼの細胞間水平伝達が転移促進に関与するという概念は、これまで提唱されていなかった。高転移性メラノーマ細胞 (B16-F10) と低転移性細胞 (B16-F1) のエクソソームの質的差異が転移ポテンシャルを決定するという仮説を検証するとともに、循環エクソソームの臨床的バイオマーカーとしての価値を評価することが、臨床現場における診断と予後予測の精度向上に不足していた。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、高転移性メラノーマ細胞由来エクソソームが骨髄前駆細胞 (BMDC) を前転移促進表現型へと「教育」する機序としてのMETオンコタンパクの水平伝達を同定することである。また、Rab27aなどのエクソソーム産生・分泌調節因子の機能的意義を解明し、その阻害が転移に与える影響を評価する。さらに、メラノーマ患者の循環エクソソームにおけるTYRP2 (チロシナーゼ関連タンパク質-2)、VLA-4 (超後期抗原-4)、HSP70 (熱ショックタンパク質70)、METなどの特異的なタンパク質シグネチャーを定義し、これらのバイオマーカーが疾患の診断および予後予測にどのように寄与するかを評価することも目的とする。最終的に、エクソソームを介した骨髄細胞の教育が腫瘍増殖と転移を促進するという新たなメカニズムを確立し、転移プロセスにおける新規治療戦略の可能性を提示することを目指す。

結果

循環エクソソームのタンパク質濃度と予後予測: メラノーマ患者の循環エクソソームタンパク質濃度は、ステージ4患者において他の全ステージおよび健常対照と比較して有意に高値を示した (Supplementary Fig. 1b)。特に、ステージ4患者 (n=15 patients) においてエクソソームタンパク質濃度が50 µg/mLを超える群は、50 µg/mL未満の群と比較して有意に予後不良であった (p<0.05、42ヶ月追跡) (Fig. 1b)。さらに、後ろ向き解析では、ステージ3メラノーマ患者 (n=29 patients) におけるエクソソームTYRP2の高値が転移進行を予測する有意なバイオマーカーであることが示された (p<0.001) (Fig. 1e)。ステージ4患者の70%でHSP90イソフォームがエクソソーム中に検出された (Fig. 1c)。これらのデータは、循環エクソソームのタンパク質シグネチャーがメラノーマのステージ、予後、および生存を予測する液体生検バイオマーカーとして有望であることを示唆した。

高転移性エクソソームによる臓器親和性および転移ポテンシャルの変換: 蛍光標識B16-F10エクソソームを静脈内投与後、5分以内に標的臓器の血管内に検出され、24時間後には肺、骨髄、肝臓、脾臓といったB16-F10の転移標的臓器の間質に集積した (Fig. 2b)。一方、低転移性細胞由来エクソソームでは標的臓器への集積は著明に低かった。B16-F10エクソソームは肺の血管透過性を有意に亢進させ (デキストラン漏出で定量、Fig. 2c)、前転移ニッチ形成の初期イベントである血管透過性増大を直接誘導することが示された。B16-F10エクソソームを週3回28日間静脈内投与されたマウスにB16-F10-ルシフェラーゼ細胞を移植した実験では、対照粒子群と比較して肺転移負荷が240-fold増加した (ルシフェリン光子フラックスで定量、p<0.05、n=10 mice/群) (Fig. 2f)。骨および脳への転移も増加したが、B16-F1エクソソームではこれらの効果は観察されなかった。これらの結果は、エクソソームの質的差異が転移ポテンシャルと臓器親和性を媒介することを示唆する。

BMDCのエクソソーム「教育」と転移加速: B16-F10エクソソームで28日間処置したGFP+マウス骨髄をC57BL/6マウスに移植し、B16-F10mCherry細胞を皮下移植した実験では、教育済みBMDC移植群は対照BMDC群と比較して一次腫瘍増殖が有意に増大した (p<0.001、n=5 mice/群) (Fig. 3b)。一次腫瘍におけるBMDC浸潤は約4.5-fold、腫瘍血管密度は約3-fold増加した (p=0.0002、p=0.0003) (Fig. 3c)。肺転移では、転移巣面積、腫瘍負荷、転移関連BMDC数がいずれも約3-fold増大した (Fig. 3d)。B16-F10エクソソーム処置はBMDC中のc-Kit+Tie2+血管新生前駆細胞の頻度を2-foldに増大させたが、c-Kit+Sca1+造血幹細胞や他の骨髄由来細胞には影響がなかった (Fig. 3e)。Lewis肺癌モデルでも、教育骨髄移植により原発腫瘍増殖が1.3-fold、転移負荷が10-foldに増大した (Supplementary Fig. 4)。

METの水平伝達とシグナル活性化: プロテオミクス解析により、B16-F10エクソソームにはB16-F1エクソソームと比較してMETタンパク質およびリン酸化MET (pMet) が豊富に存在することが同定された (Fig. 4a)。B16-F10エクソソームで28日間処置後、骨髄前駆細胞でMet mRNA発現が有意に上昇したが、B16-F1エクソソームでは変化がなかった (Fig. 4b)。c-Kit+Met+骨髄前駆細胞の割合は、B16-F10エクソソーム処置によりB16-F10shMetエクソソームと比較して6-fold増加した (p<0.05) (Fig. 4c)。B16-F10エクソソーム処置は、骨髄細胞のHGF誘導性S6キナーゼおよびERKリン酸化を亢進させ、これはMET阻害剤クリゾチニブにより阻止された (Supplementary Fig. 5c)。Met発現を低下させたエクソソーム (B16-F10shMet) は肺転移を有意に低下させ (Fig. 4e)、Met依存的なエクソソーム教育機序を機能的に証明した。ヒトのステージ3/4メラノーマ患者の循環エクソソームでもMETおよびpMETが対照群より高発現しており (Fig. 4f)、ステージ4患者の末梢血CD45-cKITlow/+TIE2+細胞でMET発現が有意に上昇していた (Fig. 4g)。

Rab27aによるエクソソーム産生制御と転移抑制: RAB1A、RAB5B、RAB7、RAB27Aはメラノーマ細胞で高発現していることが示された (Fig. 5a)。Rab27a RNAiはエクソソーム産生量を最も効果的に減少させ (Fig. 5d)、Rab27aノックダウンマウス (n=5 mice/group) ではBMDC教育の減弱、腫瘍増殖抑制、および転移低下が確認された (Fig. 5f, g)。Rab27aノックダウンにより、腫瘍細胞からのPlGF-2 (胎盤増殖因子-2)、PDGF-AA (血小板由来増殖因子-AA)、オステオポンチンなどの血管新生促進因子の分泌も減少した (Fig. 5e)。これらの結果は、Rab27aがエクソソーム産生と転移を制御する重要な因子であることを示唆する。

考察/結論

本研究は、腫瘍エクソソームが全身循環を介して骨髄前駆細胞 (BMDC) を転移促進表現型へ永続的に「教育」するという新規パラダイムを確立し、その分子基盤としてMETオンコタンパクの水平伝達を同定した。これまで、エクソソームが活性型受容体型チロシンキナーゼを機能的な形で送達できるという概念は十分に確立されていなかったが、本研究はリガンド非依存的シグナル増幅の新機序として重要な概念的革新をもたらした。

本研究で初めて、高転移性メラノーマ由来エクソソームがMETを介して骨髄前駆細胞を前転移ニッチ形成促進表現型へと「教育」し、肺転移を最大240-fold増加させることを実証した。また、RAB27Aがエクソソーム産生と転移を制御すること、TYRP2 (チロシナーゼ関連タンパク質-2)、VLA-4 (超後期抗原-4)、HSP70 (熱ショックタンパク質70)、METからなるエクソソームシグネチャーが転移の診断・予後バイオマーカーとなり得ることを示した。この発見は、エクソソームの転移における能動的役割を実証した点で、前転移ニッチの概念を大きく発展させた。

臨床的意義として、TYRP2、VLA-4、HSP70、HSP90イソフォーム、およびMETからなるエクソソームシグネチャーは、ステージ3メラノーマにおける転移予測 (TYRP2) やステージ4における生存予測において有望なバイオマーカーであることが示された。これは、メラノーマ患者の診断および予後予測のための非侵襲的な液体生検の可能性を提示するものであり、臨床応用への道を開くものである。Rab27aをターゲットとするエクソソーム産生阻害が転移抑制に有効であるという知見は、後の多くのエクソソーム研究の方法論的基盤となり、Rab27aは現在もエクソソーム産生調節因子として広く研究されている。

残された課題として、エクソソームMETの直接的な機能的転達 (翻訳後修飾の維持など) に関する分子詳細は未解明であり、エクソソームが骨髄細胞のMET発現を誘導する間接的メカニズム (転写活性化など) との寄与の比較は今後の課題として残されている。また、ヒト患者データは後ろ向きコホートに限られており、前向き検証が必要である。MET阻害剤とエクソソーム産生阻害の組み合わせ、あるいはRab27aを標的とした治療戦略は、本論文が提示した重要な将来の治療方針である。腫瘍エクソソームが前転移ニッチを準備し転移を促進するという概念は、その後のエクソソームオルガノトロピズム研究 (インテグリン依存的臓器選好性) の基礎ともなった歴史的な論文である。

方法

本研究では、B16-F10 (高転移性)、B16-F1 (低転移性)、melan-a (非腫瘍)、およびヒトメラノーマ細胞株 (SK-Mel-28, SK-Mel-202, SK-Mel-265, SK-Mel-35) から超遠心法によりエクソソームを精製した。エクソソームの同定は電子顕微鏡およびNanoSight解析により行い、CD63、CD9、MHC-Iなどの既知のエクソソームマーカーの存在を確認した。

エクソソームのタンパク質組成を比較するため、B16-F10とB16-F1エクソソームに対して質量分析 (プロテオミクス) を実施し、高転移性エクソソームに特異的に高発現するタンパク質を同定した。蛍光標識したB16-F10エクソソームをナイーブマウスに静脈内投与し、5分後および24時間後の組織分布を蛍光顕微鏡で解析した。B16-F10エクソソームによる肺血管透過性増大は、蛍光標識デキストラン漏出アッセイを用いて評価した。

エクソソームによる骨髄前駆細胞の「教育」効果を評価するため、B16-F10エクソソームで28日間処置したGFP発現マウスの骨髄を致死照射C57BL/6マウスに移植し、その後B16-F10-mCherry細胞を皮下移植した (n=5 mice/群)。一次腫瘍増殖、BMDC浸潤、腫瘍血管密度、および肺転移負荷を評価した。B16-F10エクソソームの事前処置が転移に与える影響は、B16-F10-ルシフェラーゼ細胞を皮下移植したマウスにおいて、ルシフェリン光子フラックス定量により評価した (n=10 mice/群)。

METの機能的役割を検証するため、Met shRNAを用いてB16-F10細胞のMET発現をノックダウンした (B16-F10shMet)。この細胞由来エクソソームが骨髄前駆細胞のMet発現およびHGF誘導性シグナル伝達 (S6キナーゼおよびERKリン酸化) に与える影響をフローサイトメトリーおよびウェスタンブロットで解析した。MET阻害剤クリゾチニブを用いて、MET経路の特異性を確認した。

エクソソーム産生・分泌の調節因子を特定するため、RAB1A、RAB5B、RAB7、RAB27AのsiRNA/shRNAを用いて、メラノーマ細胞におけるエクソソーム産生量への影響を評価した。特にRab27aノックダウン細胞由来エクソソームを用いたin vivo実験により、腫瘍増殖と転移への影響を解析した。

臨床的関連性を評価するため、メラノーマ患者 (ステージ1/3/4) および健常対照からの循環エクソソームを分離し、TYRP2、VLA-4、HSP70、MET、およびリン酸化MET (pMET) の発現レベルをウェスタンブロットおよびELISAで定量した。後ろ向きコホート研究では、ステージ3メラノーマ患者 (n=29 patients) におけるエクソソームTYRP2レベルと疾患進行の相関を解析した。また、ステージ4メラノーマ患者の末梢血中のCD45-cKITlow/+TIE2+骨髄前駆細胞におけるMET発現をフローサイトメトリーで評価した。統計解析には、ANOVAおよびログランク検定、Mann-Whitney U検定を用いた。