- 著者: Carolyn R. Shurer, Joe Chin-Hun Kuo, LaDeidra Monet Roberts, Jay G. Gandhi, Marshall J. Colville, Thais A. Enoki, Hao Pan, Jin Su, Jade M. Noble, Michael J. Hollander, John P. O’Donnell, Rose Yin, Kayvon Pedram, Leonhard Möckl, Lena F. Kourkoutis, W.E. Moerner, Carolyn R. Bertozzi, Gerald W. Feigenson, Heidi L. Reesink, Matthew J. Paszek
- Corresponding author: Matthew J. Paszek (Cornell University, Ithaca, NY, USA)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-05-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 31056282
背景
細胞は形質膜 (plasma membrane) を microvilli、cilia、filopodia、blebs、microvesicles など高度に湾曲した形状に変形させて環境と相互作用する。これら curved membrane 構造は分泌・吸収・受容体介在通信の表面積拡大を担うのみならず、発生学的形態形成における morphogen の精密配送、T 細胞・CAR-T 細胞による抗原 surveillance など多彩な機能を担う。腫瘍細胞では膜 tubule の伸長による細胞接着と長距離細胞間通信、球状 bleb の形成による amoeboid 運動、そして microvesicle の大量分泌が亢進しており、悪性度・転移能と密接に関連する (Becker et al. CancerCell 2016)。EV の組成・分子プロフィールの詳細な解析から、その heterogeneity と細胞起源依存的多様性が明らかにされており (Jeppesen et al. Cell 2019)、産生機構の物理的理解が求められる。
膜湾曲を生成する主な力源として、従来から細胞骨格 (cytoskeleton) の動態が中心的役割を担うとされてきた。アクチン重合がフィロポディア・微絨毛を押し出し、cytoskeleton の収縮が生成する静水圧が spherical bleb を形成し、microvesicle の生合成にも actin cytoskeleton が関与するモデルが提唱されている。しかし細胞表面を被覆する glycocalyx (mucin や hyaluronan などの biopolymer) は、これまでの膜形状制御 canonical model では一切考慮されていなかった。その一方で glycocalyx 組成と細胞表面形態の間には顕著な correlations が多数記録されてきた。Mucin biopolymer は上皮微絨毛・cilia・filopodia の表面に高密度で固定されており、hyaluronan は卵母細胞・滑膜細胞・神経軸索表面を被覆する。T 細胞・樹状細胞 (dendritic cells; DC) が成熟に伴い mucin 発現と膜 tubularization を同時に亢進させること、腫瘍細胞が大量の mucin と hyaluronan を発現しつつ microvesicle 分泌が著しく増加することも長く指摘されていた (Antonyak et al. ProcNatlAcadSciUSA 2011)。
しかしながら glycocalyx 組成と形質膜形態の間の causal relationship は全く解明されておらず、glycocalyx が membrane shape generation を直接駆動するという具体的な物理機構の解明が gap in knowledge として残されていた。高分子物理学の polymer brush 理論は、表面に端固定された高分子が密に充填されると分子立体配座の entropy 損失が表面に圧力を生じることを古くから示していたが (de Gennes 1980; Alexander 1977)、glycocalyx の生体 biopolymer が同様の機構で生体細胞の形質膜を変形しうるかは検証されていなかった。合成 polymer が脂質膜を変形しうることは in vitro では示されていたものの、生細胞の glycocalyx への応用はなされておらず、体系的な物理モデルと定量的検証が手薄であった。
目的
Glycocalyx 中の mucin biopolymer および hyaluronan が polymer brush 理論に基づく entropic 力 (entropic force) によって形質膜を能動的に変形させ、tubule・bleb・pearl・microvesicle といった多様な curved membrane 構造を生成するかを実験的に検証し、polymer サイズ・密度依存的な membrane morphology の変化を定量的に予測できる polymer brush 物理モデルを確立する。さらに glycocalyx が microvesicle 分泌の能動的駆動因子となる機構を解明する。
結果
Mucin biopolymer が形質膜の管状変形を誘導し glycan の柔軟性が必須である:長鎖 mucin polymer (Muc1-42TR、S/T-rich Podxl、rational mucin) を上皮細胞に高発現させると、野生型細胞や EGF-like repeats chimera と比較して形質膜が劇的に tubularization した (Fig 1B, 1C)。同等分子量の Notch1 EGF-like repeats chimera は rigid な折り畳み構造をとるために tubularization を誘導せず、柔軟に変形する unstructured polymer の性質が必要であることが示された。この効果は native Muc1 膜貫通アンカーを用いた場合でも合成 TM21 を用いた場合でも同様であり、膜貫通ドメインや細胞内シグナル経路の関与は否定された (Fig 1C)。StcE mucinase (mucin backbone 特異的プロテアーゼ、E. coli 由来) で生細胞 surface の mucin を消化すると tubule 構造が速やかに消失し (Fig 1D)、glycocalyx biopolymer の存在が管状形態の維持に必須であることが確認された。Transferrin receptor internalization assay では Muc1 発現による endocytosis への影響がなく、膜面積余剰による間接効果を除外した。さらに cell-free 系 GUV に組換え Podxl S/T-rich domain を固定すると自発的な管状・球状 membrane structure が形成され (Fig 1E、n=3)、intracellular machinery なしでも glycocalyx biopolymer が膜湾曲を直接生成できることを証明した。10TR と 42TR の mucin を同等の細胞表面密度で比較したとき、両者が野生型より有意に多くの tubule を誘導し (p < 0.001 vs 0TR)、分子量の 4-fold 差が tubularization 能に大きく影響しないことを示した (Fig 1G, 1H)。
Polymer brush 理論が glycocalyx biopolymer の物理的挙動を定量的に記述する:Polymer brush としての物理的挙動を検証するため、SEC-MALS で Muc1-42TR の Rg = 32 nm ± 0.4% および contour length 約 270 nm を計測し、persistence length 約 7.5 nm (semi-flexible random coil) を導出した (Fig 4)。ExM を用いて微絨毛断面上の mucin 伸長量 (extension) が蛍光強度 (密度の比例指標) に対して指数 0.48 ± 0.10 で scaling することを見出した (Fig 4B)。この値は円柱表面上のポリ電解質 brush の理論値 (0.33-0.5) と良く一致し、glycocalyx mucin が polymer brush として作動していることを実験的に確証した。Helfrich free-energy を最小化した polymer brush モデルでは、mucin 密度の増加とともに tubule 維持に要する点力 f が単調減少すると予測され、理論的に算出した 1/f と実験的に計測した管形成頻度の Pearson 相関係数 r=0.97 という卓越した定量的一致が得られた (Fig 5F)。この精度は polymer brush theory が glycocalyx-driven membrane shape regulation の物理基盤を正確に捉えていることを示す。相関解析は n=6 の異なる mucin 密度集団 (FACS 分取済み、180-52,000 mucins/μm²) を用いた独立した計測値から算出されており、mucin 密度を 2-fold 増加させるごとに管形成頻度は有意に上昇した (p < 0.001)。また 10TR と 42TR mucin の間でモデルは自発曲率の差を約 20% と予測し、実験での管形成能の差が小さい観察と一致した (Fig S3)。
Mucin 密度に依存した membrane shape transition と腫瘍細胞形態への適用:FACS 分取による mucin 表面密度 180-52,000 mucins/μm² の 6 集団の SEM 解析から、密度依存的な morphology 転換が観察された (Fig 5)。Mushroom-brush 転移はポリマー間距離が 2×Rg となる密度、すなわち 約 250 mucins/μm² と推定された。低密度 mushroom regime (約 180 mucins/μm²) では平均半径 260 ± 100 nm の球状 bleb が優勢であり、brush regime に移行すると bleb 頻度は急激に低下した (Fig 5D)。理論モデルは mushroom-brush 転移付近で bleb 維持圧力が最小値をとり、高密度では既知の細胞収縮機械の限界を超える圧力が必要となると予測しており、実験観察と定性的に一致した (Fig 4D)。一方 tubule 頻度は密度上昇とともに単調増加し、超高密度 (52,000 mucins/μm²) で細胞表面が tubule で完全に飽和した (Fig 5E)。腫瘍細胞への適用として、ヒト乳癌細胞 T47D・ZR-75-1 およびヒト子宮頸癌 HeLa 細胞の内在性 Muc1 高発現 subpopulation が低発現 subpopulation と比較して有意に多くの tubule を形成した (p < 0.001、Fig 2F)。CRISPR COSMC KO (O-glycan 伸長障害) および SLC35A1 KO (シアル酸付加障害) 細胞でも Muc1-42TR による tubularization は維持されたが野生型比で有意に減少し (p < 0.001)、O-glycan の core GalNAc が必要最小限の骨格構造であることが示された (Fig 2B, 2C)。
生体滑膜組織における glycocalyx 依存的形態制御:In vivo 系としての検証として馬 carpus から切除した滑膜組織を使用した (Fig 3A)。HA を大量産生する HAS3 発現 primary synoviocyte は高度に tubulated であったが、hyaluronidase (HyA) 処理で HA を分解すると 30 分以内に tubule が急速に消失した (p < 0.001、Fig 3B, 3C)。新鮮切除組織の ex vivo 観察では滑膜組織表面に HA-rich な頭部が突出する tubulated synoviocyte が確認され、HyA 処理後にその tubule 頭部が劇的に退縮した (Fig 3D, 3E)。この結果は glycocalyx biopolymer が in vitro の人工系のみならず in vivo の生体組織においても membrane morphology の維持に本質的な役割を担うことを直接示す。
Glycocalyx が membrane instability を誘導して microvesicle を放出する:管状突起の内部には F-actin (filamentous actin) コアが存在し微小管は含まれず、細胞骨格が管の機械的支持を担っていた (Fig 6A, 6B)。10 μM Latrunculin-A (LatA) によるアクチン重合阻害で管径が約 30 nm 縮小し (Fig 6C)、glycocalyx が誘導する spontaneous curvature がアクチン存在下での安定管径を超えていることが確認された。LatA 処理後には pearled および undulating membrane 構造が出現し、Helfrich-Deuling 理論が予測する 5 種の Delaunay 最小エネルギー表面 (Shape 1: cylinder / Shape 2: unduloids / Shape 3: equal-sized pearls / Shape 4-5: size-gradient pearls) がすべて細胞上で観察された (Fig 6D, 6E)。Pearl の細頸部 (neck) に蓄積する高い弾性応力が自発的膜断裂を誘導するという理論的予測に基づき EV 産生を解析したところ、Muc1-42TR 発現細胞の conditioned media には 100-400 nm の粒子が高濃度で存在し (Fig 6G)、LatA 処理でさらに産生が増加した (n=5, 5, 4, 7、Fig 6H)。cryoTEM では分泌 vesicle 表面に glycocalyx ultrastructure の被覆が明確に確認された (Fig 6I)。HAS3 発現細胞への HyA 処理は EV 産生を有意に低下させ (n=4, 5, 3、Fig 6J)、HeLa 細胞の Muc1 高発現 subpopulation は低発現 subpopulation より有意に多くの EV を産生した (n=3、p < 0.001、Fig 6K)。これらの結果は glycocalyx が Exosome-biogenesis pathway の物理的推進力として機能することを示す。
考察/結論
本研究は glycocalyx biopolymer (mucin/hyaluronan) が polymer brush 理論に基づく entropic force で形質膜を能動的に変形し、tubule・bleb・pearl・microvesicle 等の curved membrane 構造を生成するという根本的に新規なパラダイムを確立した。これまでの研究では cytoskeleton の動態 (アクチン重合による microvilli 形成、収縮による bleb 形成) が膜湾曲の主要因とされており、glycocalyx は受動的な表面被覆に過ぎないと考えられてきた。これに対照的に本研究は細胞外の glycocalyx が intracellular forces と等しく重要な membrane shape generator として機能することを初めて体系的かつ定量的に証明した。既報の polymer brush 理論は合成高分子系での検証にとどまっていたのに対し、本研究は生細胞の glycocalyx でその適用妥当性を Pearson r=0.97 という高い精度で示した。
本研究で初めて確立された重要な知見は 3 点ある。第 1 に、mucin の柔軟な unstructured polymer 性質が膜湾曲誘導に必須であり、同等分子量の rigid glycoprotein では効果がないこと。第 2 に、mucin 表面密度が 250 mucins/μm² 前後の mushroom-brush 転移を境に preferred membrane shape が bleb 優位から tubule 優位へ転換し、この転換が polymer brush 理論の定量的予測と一致すること。第 3 に、glycocalyx が actin cytoskeleton の支持を失った管状突起を pearled structure へと変形させ、その neck fission によって microvesicle を能動的に産生するメカニズムを提唱したこと。Cell-free GUV 系および equine synovial tissue ex vivo 実験での再現は、この物理機構が普遍的に成立することを強く支持する。
臨床応用の観点から、本研究の知見は複数の示唆を持つ。まず癌では MUC1 および hyaluronan の過剰発現が悪性度・転移能と相関することが知られており、glycocalyx を標的とした EV 産生制御療法の可能性が示唆される。StcE mucinase による mucin 消化で tubularization と EV 産生が速やかに消失したことは、mucinase 製剤や glycocalyx 標的療法による腫瘍微小環境の物理的リモデリングという bench-to-bedside の展望を与える。また T 細胞・DC の成熟に伴う mucin 発現亢進と membrane tubularization の連動は免疫 synapse 形成や抗原提示の臨床的意義を持ち、神経軸索の polysialic acid と神経再生、glycocalyx engineering によるバイオミメティック細胞の設計など多分野への応用が考えられる。さらに腫瘍細胞の Muc1 発現レベルが tubule 密度・EV 産生を定量的に予測することは、glycocalyx-EV signature を利用した liquid biopsy 型 biomarker 開発の可能性を示す。
一方で残された課題も多い。本研究は主として細胞培養系と equine 組織での実証にとどまり、in vivo での glycocalyx-driven EV biogenesis の動態、特に腫瘍微小環境において mucin/HA 発現変化がリアルタイムに EV 産生を制御するか否かは未解明である。また glycan 構造の多様性 (シアル酸、フコース、ガラクトースの具体的寄与) および MUC2・MUC5AC・MUC16 等の他 mucin 種の curvature 効果も今後の検討が求められる。本 polymer brush model は等膜張力 (constant membrane tension) を仮定しており、膜貯蔵 reservoir の有限性および cytoskeletal monomer 拡散律速による tubule 長制御機構については limitation として認識されている。Cytoskeleton-glycocalyx の統合的物理モデルの構築、glycocalyx 標的薬 (mucinase、hyaluronidase、抗 MUC1 抗体) の in vivo 有効性検証、そして多様な細胞型・疾患状態での glycocalyx-EV signature の網羅的解析が今後の重要研究課題として残る。
方法
実験細胞・構築物: 上皮細胞 (HEK293 [human embryonic kidney 293 cells]、MCF10A [non-tumorigenic mammary epithelial cell line]) および腫瘍細胞 (HeLa [human cervical carcinoma cells]、T47D [human breast ductal carcinoma cells]、ZR-75-1 [human breast cancer cell line]) を使用した。遺伝子工学的に設計した Mucin-1 (Muc1) biopolymer ライブラリとして、(1) native Muc1-42TR (Mucin-1 with 42 tandem repeats)、(2) Podocalyxin (Podxl) の S/T-rich 領域、(3) 合成 rational mucin (PPASTSAPGA: synthetic mucin consensus tandem repeat peptide) の 3 種を構築した。各 polymer domain を native Muc1 膜貫通アンカー (cytoplasmic tail 削除、△CT) または合成 21-アミノ酸膜貫通ドメイン (TM21) で膜固定し GFP (green fluorescent protein) reporter を付与した。陰性対照として Notch1 の EGF-like (epidermal growth factor-like) リピートから成る剛体様糖タンパク質 chimera (Muc1 と同等分子量) を構築した。CRISPR/Cas9 による Core-1 beta-3-galactosyltransferase chaperone (COSMC) knockout (KO; O-glycan 伸長障害) および solute carrier family 35 member A1 (SLC35A1) KO (シアル酸付加障害) も実施した。
形態解析・イメージング: 走査型電子顕微鏡 (scanning electron microscopy; SEM) で membrane tube/bleb/pearl の密度と形態を定量解析した。フローサイトメトリーと fluorescence-activated cell sorting (FACS) で細胞表面 mucin 量を定量・分取し、mucin 表面密度 180-52,000 mucins/μm² の 6 集団を作製した (分子密度は SDS-PAGE の nanobody 標準曲線から内挿)。Single-molecule localization microscopy (bin width 32 nm) で mucin glycan の分布を可視化し、StcE mucinase (mucin backbone 特異的プロテアーゼ、腸管出血性 E. coli 由来) 消化後の形態変化を追跡した。Expansion microscopy (ExM) で SUMO/GFP タグ挟み Muc1 polymer の伸長量と表面密度の関係を微絨毛断面で計測した。Size-exclusion chromatography coupled to multi-angle light scattering (SEC-MALS) で組換え Muc1-42TR の回転半径 (radius of gyration; Rg) を測定した。
GUV・生体組織・EV 解析: Giant unilamellar vesicle (GUV) 表面に組換え Podxl S/T-rich domain を固定し cell-free 系での自発的膜湾曲を観察した。馬の手根骨 (carpus) から切除した滑膜組織より primary synoviocyte を単離し、hyaluronidase (HyA) 処理前後の形態変化を SEM および共焦点顕微鏡で追跡した。細胞の conditioned media から extracellular vesicles (EV) を回収し、nanoparticle tracking analysis (NTA) でサイズ分布・濃度を定量、cryogenic transmission electron microscopy (cryoTEM) で形態と glycocalyx 被覆を確認した。hyaluronic acid synthase 3 (HAS3) 発現細胞でも同様の EV 産生解析を行った。ISEV2023 準拠の観点では本研究は microvesicle (plasma membrane 直接出芽、100-400 nm) を主対象とし、NTA による粒子サイズ・濃度の定量と cryoTEM による膜二重層・glycocalyx 構造の直接確認を characterization の根拠とした。
理論モデル・統計: Helfrich 自由エネルギー (Helfrich free-energy) を最小化して polymer brush が誘導する spontaneous membrane curvature および spherical bleb 維持圧力・tubule 維持点力 (point force; f) を算出した。Polymer brush モデルのパラメータとして SEC-MALS 計測値 (Rg = 32 nm、contour length 約 270 nm) を使用した。有意差検定は post-hoc Student’s two-tailed t test を用い、相関は Pearson 相関係数で評価した。