• 著者: Dennis K. Jeppesen, Aidan M. Fenix, Jeffrey L. Franklin, James N. Higginbotham, Qin Zhang, Lisa J. Zimmerman, Daniel C. Liebler, Jie Ping, Qi Liu, Rachel Evans, William H. Fissell, James G. Patton, Leonard H. Rome, Dylan T. Burnette, Robert J. Coffey
  • Corresponding author: Robert J. Coffey (robert.coffey@vumc.org, Department of Medicine, Vanderbilt University Medical Center)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30951670

背景

細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle) 研究はRNA・DNA・タンパク質の細胞間輸送メディエーターとしてエクソソームへの関心を急速に高め、Valadi et al. 2007によるmRNA・miRNAのエクソソーム介在性細胞間転送の発見 (Valadi et al. NatCellBiol 2007) を契機に、数百の「エクソソーム成分」がExoCartaデータベースに登録されてきた。しかし、EV研究の根本的な障害はEVの不均一性とNV (non-vesicular extracellular matter、非小胞性細胞外物質) の混在であり、標準的な超遠心分離法 (100,000 × g) ではsEV (small extracellular vesicle、小型EV) とNVを十分に分離することが困難であった。より洗練された精製法によってEVサブタイプを特性解析したKowal et al. 2016でも (Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016)、多くの「エクソソームタンパク質」の帰属を確定するには不十分であった。Ago1-4 (argonaute proteins) ・ヒストン・GAPDH等の高存在量タンパク質がエクソソームに含まれるという報告が相次いだが、これらがNVや夾雑物に由来する人工産物である可能性が系統的に検証されておらず、gap in knowledge として残っていた。特に、エクソソームが二本鎖DNA (dsDNA: double-stranded DNA) を搭載し液体生検の対象となるという主張は腫瘍生物学的にも重要な含意を持つが、dsDNAの細胞外コンパートメントへの帰属と分泌機序は手薄な状態であった。さらに、エクソソームとプラズマ膜由来微小胞 (microvesicle) を分子的に識別する特異的マーカーが不足しており、両者の生物学的機能の解析が困難であった。MISEV2018が命名・精製法の標準化を推進する中 (Mathieu et al. NatCellBiol 2019)、ExoCarta上位25タンパク質の実際のEVサブタイプへの帰属を精密な手法で再評価する必要があった。

目的

高分解能イオジキサノール密度勾配分画とDIC (direct immunoaffinity capture、直接免疫アフィニティー捕捉) を組み合わせた精密精製法を確立し、古典的エクソソームと非小胞性細胞外成分の組成を正確に分離・特性解析すること。特にAgo1-4・ヒストン・各種RBP (RNA-binding protein、RNA結合タンパク質) ・dsDNAの細胞外コンパートメントへの帰属を明確化し、微小胞特異的分子マーカーを同定するとともに、細胞外dsDNAの分泌機序を解明すること。

結果

ExoCarta上位タンパク質の大半はNV画分に帰属する: 高分解能12-36%イオジキサノール密度勾配分画で、CD63・CD81陽性sEV低密度プールとフィブロネクチン・RPS3陽性NV高密度プールが明確に分離された (Fig 1C)。TEM解析で低密度プールにのみカップ形状小胞が確認され (Fig 1E)、NTA解析でTriton X-100処理による低密度プール (sEV) の粒子消失 (p<0.001、one-way ANOVA、n=18) が示された (Fig 1D)。LC-MS/MSプロテオミクス (n=6生物学的反復) では、sEVとNVのタンパク質プロファイルが主成分分析で明確に2集団に分離され (Fig 2B)、sEV分画にはSDCBP (syntenin-1) とPDCD6IP (ALIX) が最多タンパク質として同定された。一方、GAPDH・PKM・ENO1・HSP90・チューブリン・ヒストンH2A/H3はNV分画に強く濃縮されており、sEVと比較して>15-fold (quasiFDR<0.001) の濃縮比を示した (Fig 2D-E)。ExoCarta上位25タンパク質中のGAPDH・PKM・HSP90をはじめとする多数がNV優勢であることがheatmapで確認された (Fig 2F)。DIC法で捕捉したCD63/CD81/CD9陽性古典的エクソソームにはGAPDH・EEF2・EEF1A1・PARK7/DJ1が検出されなかった (Fig 4F-H)。これら一連の結果は、標準的なP120超遠心ペレットに「エクソソーム」として混入していた高存在量細胞質タンパク質の多くがNV由来であることを3独立実験で系統的に証明した。

Ago1-4とvaultはエクソソームに含まれない: Ago1-4タンパク質はP120粗sEV分画に検出されたが、高分解能密度勾配精製後はすべてNV分画に移行した (Fig 3E)。DICによるCD81/CD63/CD9陽性エクソソームにはAgo1-4が検出されなかった (Fig 4B, 4C)。Gli36細胞でAgo1-4が密度勾配sEV分画にわずかに検出される場合でも、DIC精製エクソソームからは消失したため、Ago担持sEVはエクソソームとは別種の小胞集団と考えられた。miRNA生合成機構の構成要素であるDrosha・DGCR8・Dicer・TRBP・GW182はP120粗sEVから一切検出されなかった (Fig 3B)。意外なことに、AgoへのmiRNA二本鎖装填に必要なHSP90もDIC精製古典的エクソソームから検出されなかった (Fig 4B, 4C)。さらにvaultの主要タンパク質MVP (major vault protein、vault全質量の>70%) および関連タンパク質VPARP (vault poly ADP-ribose polymerase) ・TEP1 (telomerase-associated protein 1) はいずれもNV分画に強く濃縮されており (quasiFDR p<0.00001) (Fig 4K)、TEM解析でNVプール中にvault構造 (約41 × 72.5 nm) が観察された (Fig 4J)。VTRNA (vault RNA) 1-1~1-3・2-1も短鎖RNA-seqでNV分画に優勢であった (Fig 4L)。これらの結果はAgo1-4を含む報告されたexosomal RBPの実態がNV由来であることを示した。

Annexin A1は微小胞の新規特異的マーカーである: 密度勾配分画でAnnexin A1・A2はエクソソームマーカーCD9・TSG101・ALIXより低密度に浮遊し (Fig 5C, 5D)、flotillin-1・flotillin-2よりもさらに低密度を示した。DICによるCD81/CD9/CD63陽性エクソソームからAnnexin A1・A2は検出されなかった (Fig 5E)。3D SIM解析によりAnnexin A1陽性小胞がプラズマ膜から直接ブレビングする様子が可視化され、サイズ分布は約150 nm1 µm (n=221、4独立実験) と古典的微小胞に一致した (Fig 5F)。加えて15 µmの大型プラズマ膜ブレビング (large oncosome様、n=82、4独立実験) もAnnexin A1陽性であった (Fig 5G)。一方、ARRDC1 (arrestin domain-containing protein-1) 陽性ARMM (ARRDC1-mediated microvesicle) はsEVに濃縮され、CD63/CD81陽性エクソソームとは別集団を形成した (Fig 5I, 5J)。ARF6は大型EV・sEV両分画に存在し、ALIX・syntenin-1はCD63/CD81/CD9陽性エクソソームに強く陽性であった。ヒト血漿でもDIC精製CD81陽性プラズマエクソソームはAnnexin A1/A2陰性・syntenin-1/flotillin-1/CD9/Annexin XI陽性であることが確認された (Fig 5K)。

dsDNAとヒストンはエクソソームに含まれず、アンフィソーム依存的に分泌される: 密度勾配分画でヒストンH2A・H3はNV分画にのみ検出され、dsDNAもNV分画でのみ確認された (Fig 6A, 6B)。DNase I前処理実験ではsEV分画にdsDNAは存在せず (N.D.)、NV分画のdsDNAはDNase Iで完全消化された (Fig 6C)。Bioanalyzerによるサイズ分布解析で細胞外dsDNAの大半は1,000~10,000 bpの範囲にあり、ピークは約6,000 bpであった (Fig 6D)。DIC精製CD81陽性エクソソームからdsDNAは検出されなかった (Fig 6F)。3D SIM解析でCD63陽性MVE近傍にdsDNAが局在し、CD63・LC3B双陽性アンフィソームにdsDNAが共局在し、一部アンフィソームがプラズマ膜に接していることが観察された (Fig 7H)。ATG7 KO細胞ではオートファゴソーム形成障害により、RAB27A KO細胞ではMVEの膜融合障害により、それぞれ細胞外dsDNA分泌が有意に減少した。LC3B-PE陽性AEV (autophagic extracellular vesicle、自食性細胞外小胞) はDICによりCD63/CD81/CD9陽性エクソソームと完全に別集団であることが確認された (Fig 7K)。

考察/結論

本研究は、「エクソソーム」として報告されてきた多くのタンパク質・RBP・dsDNAが不十分な精製法に由来する人工産物であることを高分解能密度勾配分画とDICという2つの相補的手法で系統的に証明した。これまでの既報と異なり、Ago1-4・GAPDH・PKM・ヒストン・リボソームタンパク質等は古典的エクソソームに存在せず、その帰属がNV画分であることが精密手法で確立された。特に、Melo et al. 2014の「エクソソームによる細胞非依存的miRNA生合成」モデル (Melo et al. CancerCell 2014) については、Drosha・DGCR8・Dicer・TRBP・GW182が細胞外に検出されないという本研究の結果から、エクソソームがmiRNA生合成に必要な分子機構を持たないことが明確になり、このモデルの再評価が必要である。また、多数のmiRNAが精製sEVではなくNV画分に濃縮されており、細胞外miRNAの検出はエクソソームによる分泌の証拠にはならないことが示された。

Annexin A1の微小胞特異的マーカーとしての同定は本研究で初めて確立された新規の知見であり、これまで報告されていなかった exosome vs microvesicle の明確な分子識別を可能にする重要なツールを提供する。ARMMとも異なる独立した集団であることも確認されており、EV heterogeneity の解析に向けた分類体系を実験的に支持する。この発見の臨床的意義は、EVを液体生検や薬物送達に応用する際の正確な小胞サブタイプ識別に直結し、Annexin A1陽性microvesicleと古典的エクソソームの機能的差異を解明する基盤となる。

dsDNAの「アンフィソーム (amphisome) 依存的・エクソソーム非依存的」分泌機序の発見は、腫瘍由来循環DNAの生物学的起源に新規な視点を提供し、液体生検診断の科学的基盤を変える可能性がある。アンフィソームがオートファゴソームとMVEの融合体として核外クロマチンをプラズマ膜融合により分泌するというモデルは、LC3共役機構がEVへのRNA積載を制御するという後続研究 (Leidal et al. NatCellBiol 2020) とも整合的である。エクソソーム担体としての「能動的DNA分泌」という従来モデルを完全に否定し、より複雑なオルガネラ間クロストークを介した機序を提案した点は、腫瘍免疫・炎症・メタスタシス研究に広い影響を与える。

残された課題として、Ago1-4等のNV成分の生化学的実体の詳細な解明、NV画分と最近記述されたexomereとの分子的関係の明確化、およびアンフィソーム経路の腫瘍生物学的意義と治療標的としての可能性の検討が挙げられる。また、古典的テトラスパニン (CD63/CD81/CD9) を欠く「非古典的エクソソーム」の組成については本研究の枠外であり、今後の研究において重要な課題となる (limitation: 本研究はCD63/CD81/CD9陽性exosomeのみを対象としており、非古典的EV集団への知見は直接適用できない)。さらに更なる検討として、cell-typeおよび刺激依存的なEV組成変化の精密マッピングと、本手法の臨床検体への普及が今後の研究として重要である。

方法

細胞モデルとバリデーション: ヒト大腸癌細胞株DKO-1 (double-knockout 1、DLD-1 (ATCC CCL-221) 由来 DNMT1/DNMT3B double-knockout derivative) とグリオブラストーマ細胞株Gli36 (human glioblastoma cell line) を主要モデルとして使用した。正常ヒト腎上皮細胞 (primary human renal epithelial cells)、新鮮手術摘出CRC (colorectal cancer) 組織・隣接正常粘膜・リンパ節転移巣、およびヒト血漿でバリデーションを実施した。

EV精製 (ISEV2023準拠): 差速遠心分離 (300 × g → 2,000 × g → P15 [10,000 × g 粗大型EV] → P120 [120,000 × g 粗sEV]) でP120粗sEV分画を調製後、高分解能イオジキサノール密度勾配 (12-36% または 6-30%) で浮遊分画を行い、CD63・CD81陽性低密度プール (sEV) と高密度プール (NV) を分離した。ISEV2023ガイドラインに従い、陽性テトラスパニンマーカー (CD63・CD81・CD9) 3種および陰性intracellular marker (カルネキシン) によるEV characterization、NTA (nanoparticle tracking analysis) による粒子数・サイズ分布測定、BCAアッセイによるタンパク質濃度定量、粒子数/タンパク質比算出を標準手順として実施した。Triton X-100処理で小胞膜性を確認した。

DIC法: 超遠心なしで前洗浄培養上清に抗CD63・抗CD81・抗CD9磁気ビーズを直接添加し、古典的テトラスパニン陽性エクソソームを単離した。IgGビーズをネガティブコントロールとして使用した。

解析: LC-MS/MSプロテオミクス (liquid chromatography-tandem mass spectrometry、n=6反復、quasiFDR (quasi false discovery rate) 統計)、短鎖RNA-seqおよび長鎖RNA-seq、Western blot、Bioanalyzer電気泳動 (DNA断片サイズ解析)。構造解析にはSIM (structured illumination microscopy、3次元構造化照明顕微鏡) と陰性染色TEM (transmission electron microscopy) を使用した。

遺伝学的検証: ATG7 KOおよびRAB27A KO細胞株でdsDNA分泌へのオートファジー・MVE (multivesicular endosome、多小胞体) 依存性を検証した。DNase I前処理実験でdsDNAの非小胞性を確認した。統計: one-way ANOVAによる多重比較 (Holm-Bonferroni補正)、*p<0.001をカットオフとした。主要実験はすべて3回以上の独立した生物学的反復 (n≥3 independent biological replicates) で実施し、再現性を確認した。