• 著者: Paul Gutwein, Alexander Stoeck, Svenja Riedle, Daniela Gast, Steffen Runz, Thomas P. Condon, Alexander Marme, Minh-Chau Phong, Otwin Linderkamp, Alexander Skorokhod, Peter Altevogt
  • Corresponding author: Peter Altevogt (German Cancer Research Center, Heidelberg, Germany)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2005
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 15814625

背景

L1-CAM (L1 Cell Adhesion Molecule、CD171) すなわち L1 接着分子は神経系免疫グロブリン (Ig, immunoglobulin) スーパーファミリーに属する 200-220 kDa の膜貫通糖タンパク質で、6 個の Ig 様ドメインと 5 個の fibronectin III repeat から構成される。本来は発生中の神経軸索ガイダンスと細胞遊走を担うが、肺癌・グリオーマ・メラノーマ・腎癌・卵巣癌・子宮内膜癌でも過剰発現し、特に Fogel et al. ClinCancerRes 2003 により卵巣・子宮内膜癌で予後不良因子として確立されていた。

L1 は膜貫通分子でありながら ectodomain shedding (細胞外ドメイン切断による可溶化) を受け、可溶性 L1 が卵巣癌患者血清・腹水中で検出されることが報告されていた (Fogel 2003)。先行研究では ectodomain shedding は HB-EGF (heparin-binding epidermal growth factor)・TGF-α・Her2/neu (Human epidermal growth factor receptor 2)・L-selectin・APP (amyloid precursor protein) など多数の膜分子で観察され、phorbol ester や hepatocyte growth factor (HGF) などの physiologic activator により誘導されることが示されていた (Mechtersheimer et al. CancerRes 2001)。腫瘍細胞は intact な膜小胞も放出し、これには (1) 生細胞由来で MVB (Multi-Vesicular Body) と細胞膜の融合により分泌される EV (Extracellular Vesicle) としての exosome、(2) アポトーシス時に放出される apoptotic blebs の 2 種類が含まれることが知られていた (NatRevImmunol 2002)。しかし L1 含有 EV の subtype 区分と protease 機序、患者検体での確認は 未解明 であり、controversial な状態にあった。

しかしこれまで以下のギャップが残されていた。第一に、卵巣癌細胞における L1 切断機構と関与プロテアーゼの実態が不明であった (これまで何が足りなかったか①: in vivo 機序)。第二に、L1 を含む小胞の subtype 同定 (exosome / apoptotic blebs の区別) が未達であった (これまで何が足りなかったか②: vesicle subtype)。第三に、患者腹水中の L1 含有小胞の存在と可溶性 L1 の機能的意義 (autocrine/paracrine 様式) が未検証であった (これまで何が足りなかったか③: 臨床関連性)。これまで腫瘍細胞 EV 由来 soluble L1 の存在自体が示されておらず、また L1 の生理活性 (integrin 結合・ERK 経路活性化) も腫瘍環境では実証されていなかった。

目的

本研究は以下の4目的を設定した。第一に、卵巣癌細胞 (OVMz・CHO-hL1) における L1 切断の constitutive / induced 機序と関与プロテアーゼ — 特に ADAM10 (A Disintegrin And Metalloproteinase domain 10) vs ADAM17 (A Disintegrin And Metalloproteinase domain 17) — を分子レベルで決着すること。第二に、放出される L1 含有小胞の subtype を sucrose density gradient で物理的に分離し exosome 様 vs apoptotic blebs 様を同定すること。第三に、卵巣癌患者腹水中に L1 含有小胞が存在することを ex vivo で実証し臨床関連性を示すこと。第四に、ascites 由来 affinity-purified soluble L1 の機能的活性を transmigration assay と ERK phosphorylation で評価し、腫瘍生物学的意義を明らかにすること。

結果

所見1 — アポトーシス刺激は L1 切断を著明に増加させる:CHO-hL1 で C2-ceramide 40 μM および staurosporine 2 μM が 18時間後に L1 放出を有意に増加させ (Fig 1A、WB ECL detection)、TAPI-0 で部分的に阻害された (約 50% 減少)。Doxorubicin はアポトーシスを起こさず L1 放出も誘導しなかった (specificity 確認)。Caspase 阻害剤 ZVAD-fmk は staurosporine 誘発 L1 切断を 65% 抑制したが、C2-ceramide 誘発切断はわずか 20% しか抑制せず、機序が異なることを示した。OVMz で staurosporine が最強誘導剤で約 2.5-fold の可溶性 L1 増加を示し (Fig 1B)、すべての刺激が TAPI で阻害される metalloproteinase 介在切断であった。

所見2 — C2-ceramide は ADAM10 と L1 を含む membrane blebs を誘導する:L1 発現 HeLa 細胞を C2-ceramide 40 μM で 6 時間処理すると、アポトーシス特徴である membrane blebbing が形成された (Fig 2A、epifluorescence)。免疫蛍光で非処理対照では ADAM10 が細胞内 cytoplasm に局在し L1 が膜と細胞内の両方に分布していたが、C2-ceramide 処理後は ADAM10 が membrane blebs 内腔に著明に集積し、L1 も同 blebs に強く染色された (Fig 2B、red/green arrows)。これは apoptosis 時に ADAM10 と基質 L1 が同一 subcompartment に局在することを示し、blebs 内 cleavage を解剖学的に裏付けた。

所見3 — 放出小胞中に L1-220 (全長) と切断断片 L1-32 が検出される:CHO-hL1 と OVMz 上清から 100,000 ×g 超遠心で回収した membrane vesicle 中に L1-220 (full-length) と切断断片 L1-32 が両方検出された (Fig 3A,B)。TAPI 前処理は L1-32 産生を抑制し、cleavage が小胞内で metalloproteinase 介在に進行することを示した。

所見4 — Hypoxia (1% O₂) は約 2.5-fold の可溶性 L1 増加を誘導する:Hypoxia (1% O₂) は CHO-hL1 のアポトーシス率を 17% → 69%、OVMz を 11% → 25% に増加させ (Fig 4A,B)、TAPI 共存下では CHO-hL1 88%、OVMz 65% にさらに上昇した。Hypoxia は CHO-hL1 (Fig 4C) と OVMz (Fig 4D) の上清中可溶性 L1 を約 2.5-fold 増加させ、TAPI-0 でこの増加が basal レベルまで完全に阻害された。これは腫瘍内 hypoxic 領域での L1 shedding 病態を初めて示した。

所見5 — ADAM10 antisense は constitutive cleavage を 80% 抑制するが apoptosis 下では失効する:ADAM10 antisense oligonucleotide で蛋白発現が著明低下し (Fig 5A)、constitutive L1 切断 (L1-200 放出) を 80% 抑制した一方、ADAM17 antisense は無効であった (Fig 5B、specificity 確認)。しかし C2-ceramide 共存下では ADAM10 antisense の抑制効果が完全消失し (Fig 5C)、apoptosis 下では複数の metalloproteinase が動員されることが示された。これは constitutive vs induced cleavage で異なる protease 集合が動員される機構を初めて分子レベルで示した。

所見6 — Sucrose gradient で 2 種類の小胞集団が分離される:OVMz 由来小胞の sucrose density gradient (12 fractions) 解析で L1 と ADAM10 を含む小胞が (1) 中央部 (低密度、CD9+) と (2) 底部 (高密度、CD9-) の 2 集団に明瞭分離した (Fig 6B)。C2-ceramide 処理は底部の高密度小胞 (apoptotic blebs に相当) を著明に増加させたが、中央部小胞 (exosome 様、CD9+) は不変であった。これは exosome (生細胞由来 MVB 起源、constitutive) と apoptotic blebs (誘導性) を物理化学的特性 (密度・CD9 マーカー) で初めて分離した報告である。

所見7 — 患者腹水中に両型小胞が存在し可溶性 L1 が遊走を 2-fold 以上誘導する:5 例中 4 例の卵巣癌腹水で WB により L1-220 含有小胞を検出し、ELISA で可溶性 L1 を確認した (Fig 7A,B)。Sucrose gradient で apoptotic blebs 様 (L1-28+、底部) と exosome 様 (中央部) の両型が共存し、患者 4 のみ exosome 画分に L1-32 を含有した (Fig 7C、N=5 patients)。Affinity-purified ascites L1 (150/200 kDa) は HEK293 transmigration を用量依存的に約 2-fold 以上誘導し、anti-α5β1 と anti-αvβ5 mAb 10 μg/mL で阻害された (anti-αvβ3 は弱効果、anti-α6 は無効、Fig 8)。HEK293 への ascites L1 添加は transient ERK phosphorylation を惹起した (Fig 9、WB phospho-ERK)。

考察/結論

本研究は腫瘍由来 L1 が (1) 定常的に分泌される exosome 様小胞内で ADAM10 単独により切断される pathway と、(2) アポトーシス時に放出される apoptotic blebs 内で複数 metalloproteinase により切断される pathway という、2 種類の経路で生じることを 新規な 知見として初めて分子レベルで実証した。これまで腫瘍細胞からの soluble L1 の細胞外起源は不明であり、本研究は EV-associated cleavage という第三の機構を導入した点で これまで の view と異な 貢献を果たした。

先行研究 (NatRevImmunol 2002Fogel et al. ClinCancerRes 2003Mechtersheimer et al. CancerRes 2001) と異な、本研究は (i) ADAM10 (A Disintegrin And Metalloproteinase domain-containing protein 10) vs ADAM17 (A Disintegrin And Metalloproteinase domain-containing protein 17) の責任 protease を antisense knockdown で specific に同定、(ii) sucrose density gradient による exosome / apoptotic blebs 物理化学的分離、(iii) 5 例の患者腹水での ex vivo 検証、(iv) integrin (α5β1/αvβ5) 依存的な ERK 活性化と細胞遊走の機能的実証、という4点で方法論的に新しい。特に hypoxic conditions が約 2.5-fold の可溶性 L1 増加を生じる事実は、腫瘍内血管乏弱領域での EV 放出という病態理解に 新規な 視点を提供する。

臨床応用 の観点では、(1) 腹水可溶性 L1 と L1 含有小胞は卵巣癌診断バイオマーカー候補として有望であり、5 例中 4 例での検出は限られた症例ながら 臨床的意義 を示した。(2) ADAM10 阻害剤と anti-L1 mAb (mAb L1-11A 等) との併用は腫瘍 EV を標的とした 臨床応用 戦略の理論的基盤となる。(3) ERK 経路活性化を介した autocrine/paracrine 遊走促進は bench-to-bedside translational な意義を持ち、腹水 dissemination 機構の理解と治療介入点の提示につながる。L1 が単なる細胞表面接着分子でなく EV-borne 分泌型シグナル分子として機能する translational 概念は、その後の腫瘍 EV biology 全体に影響を与えた。

残された課題 として、(i) RSLE motif を含む neural form L1 が clathrin 介在 endocytose → MVB → exosome へ排出される分子経路の検証、(ii) in vivo 動物モデルでの抗腫瘍効果検証、(iii) 患者層別化マーカーとしての大規模 prospective 臨床評価、(iv) L1 を含む EV を標的とする治療開発 (immune-targeting / nanoparticle drug delivery) が 今後の検討 課題として残る。Limitation として、(a) 患者腹水サンプル数が 5 例と限定的、(b) in vitro 細胞株のみでの機序解析、(c) ADAM10 antisense oligonucleotide knockdown のオフターゲット効果 (未評価)、(d) integrin 阻害 mAb の completeness、が挙げられ、今後の研究 で改善されるべきである。

方法

細胞・刺激: ヒト卵巣癌細胞株 OVMz (Ovarian-tumor Verified Malignant zone-derived cell line)、ヒト L1 安定発現 CHO-hL1 (Chinese Hamster Ovary stable Line L1-expressing)、HeLa 細胞を使用 (DMEM + 10% FBS, 37°C, 5% Carbon-monOxide 2 (CO₂) 環境)。アポトーシス誘導剤として C2-ceramide 40 μM、staurosporine 2 μM、doxorubicin 5 μg/mL、pervanadate 200 μM、UV 照射を併用。低酸素 (hypoxia, 1% O₂、Reming Bioinstruments chamber) で 18時間培養。Metalloproteinase 阻害剤 TAPI (Tumor-necrosis-factor Alpha Processing Inhibitor) すなわち TAPI-0 (Tumor-alpha Activator Protease Inhibitor zero variant) と TAPI-1 (Tumor-alpha Activator Protease Inhibitor 1-variant) 10 μM、caspase 阻害剤 ZVAD-fmk (Z-Val-Ala-Asp fluoro-methyl ketone, pan-caspase inhibitor) 25 μM を 30分前処理。

EV isolation method (differential ultracentrifugation, UC): 上清を 1,200 ×g 10 min → 10,000 ×g 20 min で細胞 debris 除去 → 100,000 ×g (Beckman SW 40 rotor) 2-18時間で membrane vesicle 回収 (UC ベースの MISEV 概念以前の古典的方法)。Sucrose density gradient (12 fractions, 2/1.3/1.16/0.8/0.5/0.25 mol/L step gradient, 100,000 ×g 2.5時間) で exosome vs apoptotic blebs 分離 (12 分画を chloroform/methanol 沈殿で回収)。腹水サンプル (5 例の卵巣癌患者、ヘルシンキ宣言・Heidelberg 大学倫理委員会承認) も同様処理。

EV characterization markers (CD9 tetraspanin + L1 + ADAM10): Western blot (WB, SDS-PAGE → Immobilon membrane semidry blotting) で L1 ectodomain (mAb L1-11A)・cytoplasmic tail (pcytL1)・ADAM10 (#2547 ectodomain, #71 cytoplasmic tail)・CD9 (mAb Syb-1, tetraspanin/exosome marker) を検出。ELISA で可溶性 L1 定量。Affinity purification は Sepharose-linked mAb L1-11A + glycine-HCl pH 2.8 で実施。

Antisense oligonucleotide knockdown: ADAM10 specific antisense (ISIS 100750)・ADAM17 specific antisense (ISIS 16337) と mismatched control (ISIS 108030, ISIS 17337) を oligofectamine で transfection、48時間後解析。

機能アッセイ: Transmigration は 5 μm pore Transwell (Costar) 裏面に fibronectin coating、上層に HEK293 細胞、quadruplicate で crystal violet 定量。Integrin 阻害は anti-α5β1・anti-αvβ5・anti-αvβ3・anti-α6 mAb 10 μg/mL で 30分前処理。ERK / phospho-ERK は BD Transduction 社抗体で WB 検出。

統計手法: 平均 ± SE (n=4 quadruplicate per condition)、対応 Student t-test、有意水準 p < 0.05。