- 著者: Donatella Lucchetti, Giuseppe Santini, Luigi Perelli, Claudio Ricciardi-Tenore, Filomena Colella, Nadia Mores, Giuseppe Macis, Andrew Bush, Alessandro Sgambato, Paolo Montuschi
- Corresponding author: Paolo Montuschi (Pharmacology, Catholic University of the Sacred Heart, Rome, Italy; paolo.montuschi@unicatt.it)
- 雑誌: European Respiratory Journal
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-03-22
- Article種別: Original Article
- PMID: 33795323
背景
細胞外小胞 (extracellular vesicles; EVs) は、20〜1000 nmの膜由来構造体であり、エクソソーム (sEVs; <200 nm) とマイクロベシクル (mEVs; >200 nm) に大別される。これらは細胞間シグナル伝達の媒体として核酸 (mRNA・miRNA・dsDNA)、蛋白質、脂質を輸送し、生理的および病理的プロセスの双方において重要な役割を担うことが知られている Thery et al. JExtracellVesicles 2018。複数の体液 (喀痰上清、肺循環、気管支肺胞洗浄液など) 中のEVs検出が報告されており、呼吸器疾患の病態解明とバイオマーカー開発への応用が期待されている (McVey et al. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2019; Momen-Heravi et al. Pharmacol Ther 2018)。
呼気凝集液 (exhaled breath condensate; EBC) は、呼気中のエアロゾル粒子を収集する完全非侵襲的手法であり、miRNA封入小胞の検出は過去に報告されている (Sinha et al. J Allergy Clin Immunol 2013)。しかし、EBCからの系統的なEV (sEVs・mEVs) の分離・定量・特性解析は、本研究以前には行われていなかった。EBCは、その非侵襲性と採取の容易さから、呼吸器疾患のバイオマーカー探索において大きな可能性を秘めているが、EVsの網羅的な解析は未開拓の領域であった。
重症喘息と慢性閉塞性肺疾患 (chronic obstructive pulmonary disease; COPD) はともに慢性気道炎症疾患であるが、その病態生理は本質的に異なる。重症喘息は好酸球性炎症や気道リモデリングを特徴とする一方、COPDは好中球性炎症や肺気腫を伴うことが多い。両疾患を非侵襲的に識別できる体液バイオマーカーの開発は、精密医療の実現に向けた重要課題であり、EVs測定がその候補として注目される。しかし、EBC中のEVsサブタイプが両疾患間でどのように異なるかについては、これまで報告された研究が不足しており、この知識ギャップを埋めることが喫緊の課題であった。特に、EBCからのsEVsとmEVsの分離・特性解析に関する詳細な研究は未解明な点が多かった。
目的
本研究の目的は、EBCおよび誘発喀痰上清からsEVs・mEVsが分離・定量可能であることを、Thery et al. JExtracellVesicles 2018に準拠した複数の方法で実証することである。具体的には、動的光散乱 (dynamic light scattering; DLS)、走査型電子顕微鏡 (scanning electron microscope; SEM)、ウェスタンブロット、フローサイトメトリーを用いてEVsの物理的・生化学的特性を詳細に解析する。さらに、重症喘息、COPD、および健常対照群間でのEBCおよび喀痰由来EVsの定量的差異を初めて明らかにすることを目指した。また、EBC由来EVsの機能的特性として、肺上皮細胞への取り込み能およびDNA含有能を検証し、将来的な液体生検としての有用性を探索的に示すことを目的とした。これにより、非侵襲的な呼吸器疾患バイオマーカーとしてのEVsの可能性を評価し、特に疾患特異的なEVサブタイプパターンが診断的価値を持つかを探る。
結果
EBCおよび喀痰からのEVs分離と特性解析の成功: 本研究では、EBCおよび誘発喀痰上清からsEVs (<200 nm) とmEVs (>200 nm) の両方が初めて系統的に分離された。走査型電子顕微鏡 (SEM) による観察では、典型的な二重膜構造を持つ膜小胞形態が確認された (sEVsスケールバー=100 nm、mEVsスケールバー=500 nm) (図1b)。動的光散乱 (DLS) によるサイズ分布解析では、各分画において明確なピークが示された (図1a)。ウェスタンブロット解析では、sEVsマーカーであるCD63が30〜60 kDaの糖鎖付加型バンドとして複数検出された (コアタンパク質は26 kDa) (図1c)。Calcein-AM染色により、細胞内エステラーゼ活性を有する機能的なEVsであることが確認された。喀痰由来sEVsおよびmEVsは、EBC由来のEVsと比較してより高い酵素活性 (Calcein蛍光強度) を示し、喀痰上清がより豊富な生細胞由来EVsを含む可能性が示唆された (図1d)。これらの結果は、分離されたEVsがThery et al. JExtracellVesicles 2018に準拠した特性を持つことを強く示唆する。
テトラスパニン発現プロファイルとEVsサブタイプ確認: フローサイトメトリー解析 (アルデヒドスルフェートラテックスビーズ結合後) により、CD9およびCD63の発現はmEVsと比較してsEVsで有意に高いことが確認された (EBCおよび喀痰由来の全比較でp=0.0001)。具体的には、喀痰由来sEVs CD63 vs. 喀痰由来mEVs CD63 (p=0.0001)、EBC由来mEVs CD63 vs. 喀痰由来sEVs CD63 (p=0.0001)、喀痰由来mEVs CD9 vs. 喀痰由来sEVs CD9 (p=0.0001)、EBC由来mEVs CD9 vs. EBC由来sEVs CD9 (p=0.0001) の全比較で有意差が認められた。CD9およびCD63はエンドサイトーシス起源小胞の代表的マーカーであり、これらの結果は各分画がMISEV2018ガイドラインに準拠したEVsであることを支持するものであった (図1d)。このフローサイトメトリー解析は、分離されたEVsが適切な細胞起源マーカーを発現していることを示し、その同定の信頼性を高める。
疾患特異的なEBC-EV蛋白質濃度パターン: EBC-sEV蛋白質濃度は、重症喘息患者 (n=17 patients) で15.7±1.2 µg/mLであり、COPD患者 (n=35 patients) の9.9±1.1 µg/mL (p<0.05) および健常対照者 (n=10 individuals) の9.2±1.1 µg/mL (p<0.01) と比較して有意に高値を示した。COPD患者と健常対照者間ではEBC-sEV蛋白質濃度に有意差は認められなかった。一方、EBC-mEV蛋白質濃度は、COPD患者で16.3±1.5 µg/mLであり、重症喘息患者の9.5±1.1 µg/mL (p<0.01) および健常対照者の9.9±0.5 µg/mL (p<0.05) と比較して有意に高値を示した。重症喘息患者と健常対照者間ではEBC-mEV蛋白質濃度に有意差は認められなかった。これらの結果は、sEVsの増加が重症喘息に、mEVsの増加がCOPDに特異的であるという、疾患特異的かつ対照的なEVサブタイプパターンを初めて示したものである (図1f)。この知見は、EBC-EVsが非侵襲的な疾患識別バイオマーカーとして機能する可能性を示唆する。
喀痰EV蛋白質濃度: 喀痰上清から分離されたsEVsおよびmEVsの蛋白質濃度は、重症喘息患者 (sEV: 26.3±4.8 µg/mL、mEV: 28.7±6.9 µg/mL; n=13 patients) とCOPD患者 (sEV: 20.0±4.4 µg/mL; mEV: 28.2±4.2 µg/mL; n=35 patients) の間で有意差を認めなかった。健常対照群では喀痰誘発を実施していないため、対照群との比較は不可能であった。喀痰由来のsEVs濃度はEBC由来と比較して全体的に高い傾向にあったが (喘息患者で喀痰sEV 26.3 µg/mL vs. EBC sEV 15.7 µg/mL)、疾患間差を識別する感度はEBCよりも低く、EBCが喘息とCOPDの識別においてより優れた生体液である可能性が示唆された。この結果は、喀痰EVsも疾患関連情報を持つものの、EBC-EVsがより明確な疾患特異的パターンを示すことを強調する。
A549細胞への取り込みと機能的意義: カルセイン-AMで標識したEBCおよび喀痰由来のEVsをA549肺腺がん上皮細胞と1時間共培養したところ、共焦点顕微鏡により、EBCおよび喀痰由来のすべてのEVs画分がA549細胞に取り込まれることが確認された (図1e)。この取り込みは、DAPI核染色との合成像で細胞内部にEVsが存在することを示し、肺上皮細胞間の機能的な物質交換の媒体としてEVsが作用する可能性を示唆する。この結果は、先行するin vitro研究 (Yin et al. Respir Res 2020; Gupta et al. Am J Respir Cell Mol Biol 2019) とも整合するものであった。この機能的検証は、EBC-EVsが単なる細胞残骸ではなく、生理活性を持つことを裏付ける。
DNA含有とKRAS遺伝子型決定: EBC sEVsおよびmEVsの両方からdsDNAを抽出することに成功し、Nested-PCRによりKRAS遺伝子型決定が可能であることを示した (プールサンプル、n=3 individuals)。EBC-sEVs、EBC-mEVs、喀痰-sEVs、喀痰-mEVsのすべての分画でKRAS遺伝子のバンドが確認された (A549細胞および血漿sEVsを陽性対照として使用) (図1g)。これは、EBC-EVsが核酸の運搬体として機能し、将来的に肺がん関連変異の非侵襲的検出に応用できる可能性を示す初の証拠である。この発見は、EBC-EVsが液体生検として広範な遺伝子解析に応用できる道を開く。
考察/結論
方法論的新規性: 本研究は、EBCという完全非侵襲的な手法からEVsを初めて系統的に分離・特性解析した研究であり、Thery et al. JExtracellVesicles 2018に準拠した多角的な特性評価 (DLS、SEM、フローサイトメトリー、ウェスタンブロット) によりその妥当性を示した点で新規性が高い。EBCは低侵襲性で繰り返し採取が容易であるため、長期モニタリングや小児患者への応用において喀痰誘発よりも優れた採取手法となりうる。本研究で初めて、EBC由来EVsが機能的な細胞取り込み能とDNA含有能を持つことを示した点は、これまでのEBC研究と比較して大きな進歩である。
疾患特異的EVサブタイプパターンの病態生理的意義: sEVsの増加が重症喘息に特異的であり、mEVsの増加がCOPDに特異的であるという逆転パターンは、両疾患の異なる病態生理を反映していると考えられる点で、これまでの研究と対照的である。重症喘息におけるsEVsの増加は、気道上皮細胞や肥満細胞由来のエンドサイトーシス起源小胞の増加を示唆する可能性があり、COPDにおけるmEVsの増加は、好中球や血小板の活性化に伴うマイクロベシクルの増加を反映している可能性がある。この「EVサブタイプによる疾患識別」は、既存のEBC研究を超えた新しい診断的観点を提示するものである。
臨床応用と今後の方向性: 本研究で示されたEBC-EVsの定量的差異は、重症喘息およびCOPDの診断・モニタリングにおける非侵襲的バイオマーカーとしての臨床応用に期待が持てる。特に、EBC-EVsからDNAを分離し、KRAS遺伝子型決定が可能であることを示したことは、将来的に肺がん関連変異やエピジェネティックマーカー、miRNA解析へのEBC-EVs応用につながる重要な知見である。これは、液体生検としてのEBC-EVsの可能性を広げるものである。
残された課題と限界: 本研究は探索的横断研究であり、被験者群間での年齢、喫煙歴、アトピー状態、投薬の不均一性という重大な交絡要因が存在する点がlimitationである。EVs数の間接指標として蛋白質濃度を使用しており、将来的にはナノ粒子トラッキング解析 (nanoparticle tracking analysis; NTA) 等によるEV数の直接測定が必要となる。また、EBCからのEV採取量が少ないという技術的制約があり (プールサンプルでのDNA解析)、個別患者レベルでの核酸解析には技術的最適化が今後の課題である。さらに、ex vivoアプローチではEVsの細胞起源を同定できず、in vitro研究による起源細胞の特定が今後の研究方向性として求められる。これらの課題を克服するためには、より大規模なマッチングコホートでの前向き研究が必要である。
方法
研究デザインと倫理承認: 本研究は、イタリア・ローマのカトリック聖心大学病院附属アゴスティーノ・ジェメッリ財団IRCCS (Istituto di Ricovero e Cura a Carattere Scientifico) で実施された単施設横断的探索研究である。研究は倫理委員会の承認 (承認番号0013996/16およびP/1034/CE2012) を得ており、参加者からは書面による同意を得た。
被験者: 重症喘息患者20名 (女性12名/男性8名; 平均年齢59.0±3.0歳; FEV1 54.9±3.0%予測値; 呼気中一酸化窒素濃度; FENO中央値27 ppb; 喘息コントロール質問票; ACQ 2.4±0.2)、COPD患者35名 (女性12名/男性23名; 平均年齢71.6±1.1歳; FEV1 67.9±3.5%予測値; Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease; GOLD A/B/C/D分類 15/6/8/6例; St George’s Respiratory Questionnaire; SGRQ total 36.3±3.5; FENO中央値18 ppb)、および健常対照者10名 (全員男性; 平均年齢43.4±1.6歳; FEV1 104.1±4.1%予測値) が登録された。重症喘息の診断は、European Respiratory Society/American Thoracic Societyのガイドライン (Chung et al. Eur Respir J 2014) に基づいた。本研究の主要な限界として、群間で年齢 (p<0.0001)、喫煙歴 (p<0.0001)、アトピー状態 (p=0.0002)、および投薬 (p<0.03) のマッチングが取れていない点が挙げられる。
サンプル採取: 被験者は臨床薬理学研究室を訪れ、スパイロメトリー (Miller et al. Eur Respir J 2005)、FENO測定 (American Thoracic Society, European Respiratory Society. Am J Respir Crit Care Med 2005)、15分間のEBC採取 (EcoScreen社コンデンサー使用; Horváth et al. Eur Respir J 2017)、および喀痰誘発・分析 (Weiszhar et al. Breathe 2013; Paggiaro et al. Eur Respir J Suppl 2002) を国際標準手順に準拠して実施した。
EVs分離手順: 1 mLのEBCまたは喀痰上清サンプルをPBSで洗浄後、低速遠心 (750×gで15分間、続いて1,500×gで5分間) により細胞およびデブリを除去した。その後、17,000×gで30分間遠心してmEVs分画を、120,000×gで1.5時間遠心してsEVs分画をそれぞれ分取し、最終的に100 µlのPBSに再懸濁した。
特性解析:
- サイズ測定: 動的光散乱 (DLS) 法によりEVsのハイドロダイナミック半径を測定した。
- 形態観察: 走査型電子顕微鏡 (SEM) を用いて、sEVsおよびmEVsの形態を観察した (sEVsスケールバー=100 nm、mEVsスケールバー=500 nm)。
- ウェスタンブロット: sEVsから抽出した蛋白質に対し、抗CD63抗体 (1:500希釈、sc-5275; Santa Cruz Biotechnology) を用いてウェスタンブロット解析を行った。
- フローサイトメトリー: アルデヒドスルフェートラテックスビーズ (4 µm) にEVsを結合させた後、CD63-Brilliant Violet 421抗体およびCD9-PE抗体 (いずれも1:20希釈; BioLegend) を用いてフローサイトメトリー解析を実施した。
- 生存性確認: Calcein-AM染色により、EVsの細胞内エステラーゼ活性を評価した (Gray et al. MethodsX 2015)。
- 細胞取り込み実験: Calcein-AMで標識したEVsをA549肺腺がん上皮細胞と1時間共培養し、共焦点顕微鏡を用いて細胞内取り込みを観察した。陽性対照としてHCT116細胞とHT29由来sEVsを、陰性対照としてEV非添加A549細胞を使用した (Lucchetti et al. Am J Pathol 2017)。
- DNA抽出と遺伝子型決定: プールされたEBCおよび喀痰上清サンプル (n=3 individuals) からQIAamp MinElute Virus Spin Kit (Qiagen) を用いてDNAを抽出し、Nested-PCRによりKRAS遺伝子型決定を行った。
統計解析: 連続データは平均±SEMまたは中央値 (IQR) で示された。群間比較には、データの分布に応じて一元配置分散分析 (one-way ANOVA) またはKruskal-Wallis検定とBonferroni事後検定、およびカイ二乗検定が用いられた。p<0.05を有意差ありと定義した。