- 著者: Théry Clotilde, Witwer Kenneth W, Aikawa Elena, Alcaraz Maria Jose, Anderson Johnathon D, et al.
- Corresponding author: Clotilde Théry (Institut Curie/INSERM U932)
- 雑誌: Journal of Extracellular Vesicles
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-11-23
- Article種別: Review
- PMID: 30637094
背景
細胞外小胞 (extracellular vesicles; EVs) は、細胞から放出される脂質二重層に囲まれた膜構造の総称であり、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体などの多様なサブタイプを含む。過去10年間で、老化、癌、感染症、肥満に至るまで、多くの生理的・病理的経路においてEVsが重要な役割を果たすとする報告が急増した。しかし、EVsはそのサイズが極めて小さく、量も限られているため、比較的純粋な調製物の得ることや、適切な特性解析を行うことが技術的に困難である。
2014年に国際細胞外小胞学会 (International Society for Extracellular Vesicles; ISEV) は、EVsの定義および機能解析のための最低限の実験要件を定めた「MISEV2014 (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles 2014)」ガイドラインを提示した。これにより、研究者やジャーナル編集者、査読者に対し、EVs分野特有の報告要件への意識を高めることが意図された。しかし、依然として一部の論文では、実施された実験や報告された情報だけでは不十分なまま、EVsや特定のサブタイプ(特にエクソソーム)の関与について強力な結論を導き出しているケースが見受けられる。
特に、エクソソームが特異的な活性を持つという主張は、他の生物物理学的に類似したEVsと比較して、そのバイオジェネシス(生合成)や放出の分子メカニズムに関する知識が依然として限られているため、実験的に支持することが困難であるという課題が残されている。また、EVsの分離・精製における純度の評価や、共分離した非小胞成分の影響を排除するための対照実験の設計において、標準化された手法が不足している。このような状況下では、結果の信頼性と再現性を確保するための厳格な基準が未確立であり、分野全体の発展を妨げる gap が存在している。したがって、最新の知見に基づきMISEV2014を更新し、より広範な専門家の合意を得た新しいガイドラインを策定することが急務であった。
目的
本研究の目的は、MISEV2014の策定から4年間の知識の進化に基づき、細胞外小胞 (EVs) 研究における信頼性と再現性を向上させるための更新版ガイドライン「MISEV2018」を提示することである。具体的には、ISEVコミュニティによる広範なアウトリーチ(MISEV2018 Survey)を通じて、EVsの命名法、回収、前処理、分離、濃縮、特性解析、および機能解析における「絶対に必要な事項」と「可能な限り実施すべき事項」について専門家間のコンセンサスを形成することを目指した。また、単なる機能記述に留まらず、不純物を含む不均一な調製物からEVs固有の機能を証明するために必要な具体的ステップを明確にし、研究者が遵守すべきチェックリストを提供することを目的とする。
結果
命名法の再定義と運用的用語の推奨: ISEVは、細胞から自然に放出され、脂質二重層で区切られ、自己複製能を持たない粒子を「細胞外小胞 (EVs)」と定義する。エンドソーム由来の「エクソソーム」や細胞膜由来の「エクトソーム (マイクロベシクル)」といったサブタイプの特異的マーカーに関するコンセンサスは未だ得られておらず、ライブイメージング等で放出の瞬間を捉えない限り、バイオジェネシス経路に基づいてEVsを分類することは極めて困難である。そのため、信頼できるサブタイプ特異的マーカーを確立できない限り、以下の運用的用語の使用を推奨する。a) 物理的特性に基づく分類:サイズ(例:small EVs (sEVs) を < 100nm または < 200nm、medium/large EVs (m/lEVs) を > 200nm と定義)や密度(低・中・高)。b) 生化学的組成に基づく分類(例:CD63+/CD81+ EVs)。c) 起源や条件に基づく記述(例:podocyte EVs, hypoxic EVs)。MISEV2018 Surveyの回答者の 94% がこの命名法推奨に同意した。
前分析変数の管理と報告要件: EVsの回収は、ソースの特性、操作方法、保存条件などの前分析変数に強く影響される。細胞培養上清を用いる場合、細胞の同一性確認(STRプロファイル等)に加え、回収時の死細胞率を報告することが重要である。少量の細胞死であっても、放出されるEVsを上回る数の細胞膜断片が混入する可能性があるためである。また、継代数、播種密度、回収時のコンフルエンス、培養液の組成(グルコース、抗生物質、成長因子等)を詳細に報告する必要がある。特に胎児牛血清 (FCS/FBS) 等のサプリメントは外来性EVsを含有するため、血清除去培地での培養が理想的である。血清除去を行う際は、細胞の挙動やEVsの組成が変化するため、馴化ステップを含む培養履歴を明記すべきである。血清除去の手法として、100,000 x g で 18 時間以上の超遠心分離、または 200,000 x g での短時間遠心、接線流ろ過 (TFF) 等が挙げられる。
EVsの分離および濃縮手法の分類: 完全な純化は非現実的であるため、「分離 (separation)」と「濃縮 (concentration)」という用語を用いる。分離手法は、回収率 (recovery) と特異性 (specificity) の2軸で4つのカテゴリーに分類される (Table 1)。1) 高回収・低特異性:沈殿キット/ポリマー (PEG等)、低分子量カットオフ遠心フィルター。2) 中回収・中特異性:サイズ排除クロマトグラフィー (SEC)、高分子量遠心フィルター、中速の超遠心分離、TFF。3) 低回収・高特異性:密度勾配遠心法、免疫親和性分離、フローサイトメトリー。4) 高回収・高特異性:現時点では達成困難な目標である。多くの研究者が一次分離後に洗浄や密度勾配、クロマトグラフィーなどの追加ステップを組み合わせて特異性を高めている。MISEV2018 Surveyでは 93% の回答者がこの分類に同意し、98% が再現性のために全手法の詳細報告を義務付けるべきであると回答した。
特性解析の多角的アプローチ: EVsの特性解析には、相補的な複数の手法を用いることが不可欠である。1) 定量的評価:ソースの量(細胞数、液量、組織重量)とEVs調製物の量(全粒子数、全タンパク量、全脂質量)の両方を報告する。粒子数測定には、ナノ粒子追跡分析 (NTA)、高解像度フローサイトメトリー、抵抗パルスセンシング (RPS) 等が用いられるが、これらはリポタンパク質やタンパク凝集塊もカウントするため、過大評価となる傾向がある。2) 単一粒子解析:電子顕微鏡 (EM) や原子間力顕微鏡 (AFM) による高解像度画像(近接像と広視野像の両方が必須)と、NTA等の粒子解析装置を組み合わせる。3) タンパク質組成:EVsマーカーの存在と、共分離した非小胞成分(汚染物質)の不在を証明する。4) トポロジー解析:コンポーネントがEVsの表面にあるか、内部にあるかをプロテアーゼ/ヌクレアーゼ消化や界面活性剤透過化を用いて評価することを新たに推奨する。
機能解析における厳格な対照実験: EVsに特定の機能を帰属させるには、単なる機能記述以上の情報が必要である。以下のステップを推奨する。a) 細胞間直接接触の不在の証明。b) 活性が可溶性メディエーターではなく、主にEVsに関連していることの証明。c) 共分離した非小胞成分ではなく、EVsに特異的に活性が結合していることの証明。d) 特定の機能が、他の小型EVsと比較してエクソソームに特異的であるかの検討。e) EV-依存的な機能が、特定のEVソースに特異的であるかの検討。特に、市販キット等で導入された抗体やビーズ、ポリマーがEVsに結合している場合、下流のプロファイリングや機能解析に影響を及ぼす可能性があるため、手続き上のコントロールを含めた厳格な検証が求められる。
コンセンサス形成プロセス: MISEV2018の策定にあたり、ISEV会員を対象とした調査が実施され、n=329 の回答を得た。ドラフトに対する同意/不同意を問う調査において、不同意回答が 20% を超えるセクションについては最終文書で異論があることを明記し、40% を超える場合は再検討を行うルールとした。結果として、どのセクションにおいても 40% の閾値を超える不同意は得られず、広範な合意に基づいたガイドラインとなった。導入部については > 99% の回答者が同意した。
考察/結論
先行研究との違い: 本ガイドラインは、MISEV2014の基本原則を維持しつつ、過去4年間の技術的進展を反映させている。MISEV2014と異なり、単なる分離手法の提示に留まらず、回収率と特異性のマトリクスによる手法の体系化を行い、またEVsに関連するコンポーネントのトポロジー(表面か内部か)の評価を新たに推奨した点に大きな違いがある。
新規性: 本研究で初めて、EVs研究における「運用的用語」の導入を強く推奨し、バイオジェネシス経路の特定が困難な現状において、サイズや密度、生化学的組成に基づいた客観的な命名法を提示したことは新規である。また、機能解析においてEVs固有の活性を証明するための詳細なステップを具体化した点も、これまでのガイドラインにはない進展である。
臨床応用: 本知見は、EVsをバイオマーカーや治療薬として利用するための標準化された基盤を提供する。臨床的意義として、不純物の混入や不適切な特性解析による誤った結論を排除することで、bench-to-bedside のプロセスにおける信頼性が向上し、診断精度や治療効果の予測可能性が高まることが期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、個別のバイオフルイド(尿、乳、脳脊髄液など)に特化した前分析変数の標準化が残されている。Limitation として、本ガイドラインの例は主に哺乳類EVsに基づいており、非哺乳類や非真核生物のEVsへの適用については、さらなるマーカーの開発と検証が必要である。
方法
本ガイドラインは、国際細胞外小胞学会 (ISEV) の専門家集団による合意形成プロセスを通じて策定された。まず、MISEV2014の有効性を評価し、最新の文献レビューおよび技術的進展を分析した。その後、ISEV会員を対象とした「MISEV2018 Survey」を実施し、ドラフトの各セクションに対する同意・不同意およびコメントを収集した。
調査の設計において、同意/不同意の回答率に基づき、20% 以上の不同意がある場合は異論を明記し、40% 以上の不同意がある場合は、ISEV理事会と選出された回答者による重点的な議論を経て再起草を行うという厳格なコンセンサス形成ルールを採用した。最終的に n=329 の専門家からの回答を分析し、統計的な傾向と定性的なコメントを統合して最終案を作成した。
文献検索においては、EVsの分離、特性解析、機能解析に関する最新のプロトコルを網羅するため、PubMed などの主要データベースを用いてレビューを行った。特に、超遠心分離、サイズ排除クロマトグラフィー (SEC)、接線流ろ過 (TFF)、およびナノ粒子追跡分析 (NTA) 等の標準的手法における回収率と特異性の比較検証が行われた。また、EV-TRACK などのナレッジベースへの実験詳細の登録を推奨することで、データの透明性と再現性を確保する仕組みを導入した。