• 著者: Héctor M. Ramos-Zaldívar, Iva Polakovicova, Edison Salas-Huenuleo, Alejandro H. Corvalán, Marcelo J. Kogan, Claudia P. Yefi, Marcelo E. Andia
  • Corresponding author: Marcelo E. Andia (Pontificia Universidad Católica de Chile, Santiago, Chile)
  • 雑誌: Fluids and Barriers of the CNS
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-09-27
  • Article種別: Review
  • PMID: 35879759

背景

細胞外小胞 EV (extracellular vesicle) はエクソソーム (30-150 nm、多胞体由来) ・マイクロベシクル (100-1000 nm、細胞膜出芽) ・アポトーシス小体を含む脂質二重膜粒子で、タンパク質・mRNA・microRNA (miRNA: micro RNA) ・DNA・脂質を搭載し細胞間通信を担う (MISEV2018: Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles 2018 ガイドライン)。EV 関連論文は 2000 年以降 733 倍に急増しており (引用文献 [8])、がん・神経変性疾患・免疫疾患への応用が期待される。

血液脳関門 BBB (blood-brain barrier) は脳微小血管内皮細胞 BMEC (brain microvascular endothelial cell) ・周皮細胞 (pericyte) ・アストロサイト足突起・基底膜・神経血管ユニットから構成され、タイトジャンクション TJ (tight junction、claudin-5・zonula occludens-1 [ZO-1]・vascular endothelial cadherin [VE-cadherin]) と能動輸送ポンプ (glucose transporter 1 [GLUT-1]・concentrative nucleoside transporter 2 [CNT2]・monocarboxylate transporter 1 [MCT1]) により中枢神経系を保護する (NatCommun et al. Basic 2025 が BMEC ↔ アストロサイト endfoot 通信を分子レベルで profile)。先行研究 (Abbott et al. Glia 2006・Daneman & Prat Cold Spring Harb Perspect Biol 2015・Banks Pharmacol Ther 2020) で BBB の正常機構と病態 (脳卒中・脳腫瘍・神経変性) は整理されてきたが、EV-BBB 相互作用に焦点を当てた総説は手薄であった。

近年、末梢腫瘍由来 EV (乳がん MDA-MB-231・肺がん・メラノーマ等) が脳に到達し pre-metastatic niche を形成すること、また神経変性疾患 (AD: Alzheimer’s disease・PD: Parkinson’s disease・ALS: amyotrophic lateral sclerosis) で α-synuclein・tau・TDP-43 のプリオン様伝播に EV が関与することが示唆されている。Escudier et al. の第 I 相試験 (NCT01294072 等) で樹状細胞由来 EV (DEX: dendritic-cell-derived EVs) と MAGE-3 (melanoma-associated antigen 3) 抗原による転移性メラノーマ免疫療法が partial response を示し、植物由来 EV による curcumin 大腸がん投与も臨床試験段階に入っている。しかし (i) EV が BBB を実際にどの機構 (パラセルラー・トランスサイトーシス・cell-to-cell) で双方向通過するかは未解明、(ii) 炎症下と生理条件、腫瘍由来と非腫瘍由来 EV の差異は不明、(iii) 脳→末梢方向 (brain-to-periphery) 通過の存在は controversial、(iv) BBB 通過評価の in vitro モデル (単層・共培養・microfluidic・organ-on-a-chip) と in vivo モデル (zebrafish・mouse・human) の方法論的優劣の比較も体系的には整理されていない。これら重要な knowledge gap に対応する総説が不足していた。

目的

EV の BBB 通過メカニズムに関する現在の知見を、in vitro および in vivo の両アプローチから体系的にレビューし、(1) 4 候補機構 (マクロピノサイトーシス・クラスリン依存性エンドサイトーシス・カベオラ/脂質ラフト依存性エンドサイトーシス・AMT: adsorptive-mediated transcytosis) の現状エビデンス整理、(2) 実験手法の標準化課題、(3) 脳薬物送達ビヒクル・疾患バイオマーカーとしての臨床応用の方向性、を議論すること。

結果

Transwell 単層モデルの限界と知見:4 群 (Chen・Morad・Matsumoto・Tominaga) の transwell 比較 (Table 1) から、ヒト BMEC (hCMEC/D3)・霊長類 BMEC・マウス BMEC 単層で標識 EV (PKH67・DiI・Gaussia luciferase) が下室移行することが報告されている。Morad et al. の MDA-MB-231 乳がん EV (Gaussia luciferase 標識、154-159 nm、1×10^11 particles/mL) は単層 BBB を miR-181c を介して通過し、ターゲット PDPK1 抑制で actin・cofilin 再編成によりタイトジャンクション (TJ) を破壊した。TNFα・IL-1β・LPS などの炎症刺激下で EV の BBB 通過が有意に増加し、Chen et al. の HEK293T EV (96±5.4 nm) は TNFα 処理で約 10% が luminal → abluminal 移行 (未処理ではほぼゼロ)。Matsumoto et al. の RBC (red blood cell)-EV では LPS 100 ng/mL で TEER (transendothelial electrical resistance) が約 75% 低下し、透過率が対照比 約 300% 上昇 (control Ki=0.108 ± 0.055 μL/g-min vs LPS Ki=0.553 ± 0.170 μL/g-min, p=0.0199) (Fig 1)。

二層・三層共培養モデルと organ-on-a-chip モデル:BMEC + pericyte 二層モデル (Tominaga et al. 霊長類 BMEC + Wistar ラット pericyte、孔径 3 μm) では EV は内皮細胞を通過しても pericyte 層を越えられず、神経血管ユニット全体の通過は制限される。Morad et al. の microfluidic organ-on-a-chip (iPSC 由来 BMEC + 1 次 human pericyte + astrocyte の 2 チャンネル、porous ECM 膜で分離) では剪断応力 (shear stress) 条件下で EV の内皮内 transcytosis をリアルタイム蛍光追跡可能。従来 transwell の TEER 150-250 Ω·cm² に対し organ-on-a-chip では生理的 1,000 Ω·cm² 超を維持できるが、標準化された商用プロトコルは未確立 (Fig 2、Table 1)。

マクロピノサイトーシスとクラスリン依存性経路の薬理学的解剖:阻害剤実験 (Table 4) でマクロピノサイトーシスは EIPA (5-N-ethyl-N-isopropyl-amiloride、100 μM-1 mM) で Morad 群が約 50% 減・Chen 群 (TNFα 下) が約 80% 減、cytochalasin D (500 nM-20 μM) で約 75% 減・45% 減と一貫して阻害された。70 kDa dextran (macropinocytosis marker) との蛍光共局在も確認された。クラスリン依存性経路は chlorpromazine (15-20 μM) で約 40-55% 減 (TNFα 下 71% 減)、ML141 (Cdc42/Rac1 GTPase 阻害剤、100 μM) で約 60% 減と示され、TdTom-EV が Alexa647-transferrin (clathrin marker) と共局在した。両群で炎症 (TNFα) は活性化を増幅した。

カベオラ依存性と AMT 経路の薬理学的解剖:カベオラ/脂質ラフト依存性経路は filipin III (5-10 μM) で Chen 群が TNFα 下 64% 減だが Morad 群では効果なし (細胞株・条件依存の controversial 結果)、methyl-β-cyclodextrin (MβCD、5 mM) で約 51-61% 減、nystatin (5 μM) で約 37-46% 減。AMT (adsorptive-mediated transcytosis) では WGA (wheat germ agglutinin、AMT 誘導剤) で ^125I-RBC-EV の脳取り込みが有意増加し、Iba-1 陽性 microglia への共局在から確認された。受容体介在 transcytosis は anti-integrin α5・anti-integrin αV 抗体で取り込み 11.8% 減、CD46 siRNA で 39.0% 減と示された。Banks et al. CD1 マウス研究で M6P (mannose-6-phosphate) は fibroblast EV uptake のみを選択的に阻害し、機構の細胞型依存性が裏付けられた (Fig 1)。

Zebrafish 直接可視化の唯一成功例と哺乳類モデルの制約:Morad et al. が Tg(kdrl:GFP) zebrafish 胚 (受精後 6-7 日、TdTom-Br-EV を 5 nL × 400 μg/mL intracardiac 注入) で in vivo 直接可視化を達成。Nikon Eclipse Ti + Yokogawa spinning disk + Andor iXon EM-CCD カメラの time-lapse で EV 含有 endocytic vesicle が内皮細胞内を移動し plasma membrane と融合する過程を世界で初めて観察した (Fig 3)。BBB integrity は 10 kDa・70 kDa dextran で確認。哺乳類モデル (Banks et al. CD1 mouse で 10 種 EV (6 がん + 4 非がん cell line) を ^125I 標識し評価) では LPS が 6 種ヒト EV の取り込みを増加・1 種マウス EV を低下、WGA で 5/10 種に AMT 上昇、M6P (mannose-6-phosphate) で fibroblast EV のみ uptake 阻害が示されたが、通過中の EV の直接可視化は未達成であった。MRI・SPECT・PET 標識 EV (SPIO・^89Zr) による全身分布解析で脳蓄積は確認されるが分解能不足。

起源細胞・分離法・標識法の不均一性 (Table 2, 3):脳転移性乳がん EV (MDA-MB-231-luc-D3H1/D3H2LN、ultracentrifugation 100,000×g 90 分、154-159 nm、1×10^11 particles/mL、CD9/CD63/Alix 陽性・GM130 陰性) ・メラノーマ EV (SK-Mel-28、ExoQuick-TC、217 nm、9×10^9 particles/mL、CD9/CD81/TSG101/Alix/flotillin-1 陽性) ・U87 膠芽腫 EV・MSC EV・iPSC 由来神経細胞 EV 等で通過効率が異なる。同じ MDA-MB-231 でも Morad と Tominaga で異なるサブポピュレーション (一方は単層通過、他方は二層で停止) を分離しており、分離法の標準化が著しく不足。標識法は (i) 蛍光色素 (PKH67・PKH26・DiI・DiR、遊離色素凝集体・リポ蛋白との混同リスク)、(ii) 遺伝子標識 (Gaussia luciferase・TdTomato 融合タンパク、より信頼性高い)、(iii) 放射性標識 (^125I・^131I、in vivo 全身分布に有用) の 3 系統に大別され、Norman et al. (引用 [47]) の L1CAM が neuron-derived EV marker として不適切との報告など標準化の脆弱性が示された。

脳→末梢方向 EV と臨床応用展望:中枢由来 EV (神経・グリア・腫瘍細胞) が髄液・血液に放出されることは Shi et al. の Parkinson 病血中 α-syn EV 検出 (L1CAM 免疫沈降) や García-Romero et al. の glioblastoma GBM27/GBM38 由来 EV gDNA 末梢検出で示されたが、BBB 通過が canonical ルートか perivascular-meningeal lymphatic-cervical lymph node 経路 (NatCommun et al. Basic 2025 が解剖学的基盤を整理) かは不明。臨床応用では (i) 治療: MSC-EV が脳虚血・TBI・脳出血モデルで神経保護、siRNA/mRNA/薬物搭載 EV (NatBiotechnol et al. Basic 2011 が RVG-Lamp2b 表面修飾外因性 exosome による siRNA 脳送達を確立)、(ii) 診断: 血漿エクソソームの LAMP1・cathepsin D・miRNA-193b シグネチャーが AD/PD バイオマーカーとして臨床試験段階、(iii) ワクチン: SARS-CoV-2 spike 発現 EV による COVID-19 ワクチン開発、を含む幅広い応用が進行中である。

考察/結論

本総説は、EV が BBB を双方向に通過する現象が複数の独立した研究で確認されていること、しかしその分子機構・定量的効率・生理 vs 病態下の差異・脳→末梢方向の詳細は未解明であることを明確にした。in vitro モデル (transwell・organ-on-a-chip) はスクリーニングに有用だが神経血管ユニット全体を再現できず、哺乳類 in vivo では直接可視化技術が不足し、zebrafish は唯一可視化可能だが生理的差異が大きい。

① 先行研究との違い: 先行 EV-BBB 総説 (Banks et al. Pharmacol Ther 2020・Saint-Pol et al. 2020 等) と異なり、本論文は単に現象をリストアップせず in vitro vs in vivo 方法論の長所・短所を 4 軸 (細胞層数・標識法・透過率定量・直接可視化) で交差比較し、4 候補輸送機構を阻害剤実験のエビデンスレベル (% reduction を全実験で対比) で系統的に整理した点が対照的である。EV 全般総説 (Cell et al. Basic 2019 が exosome 組成の根本的再定義を行い、NatRevImmunol et al. Basic 2023 が免疫系における EV を網羅、NatRevDrugDiscov et al. Basic 2022 が治療応用を概観) これまでの論述は EV の生物学に主眼が置かれていたのに対し、本総説は BBB 通過という特異な物理現象に焦点を絞った点で相違がある。

② 新規性: 本総説は新規に (i) 4 in vitro 群と 1 zebrafish in vivo 群を統一表 (Table 1-4) で比較し、(ii) これまで報告されていない機構レベル統合 (macropinocytosis × clathrin × caveolae × AMT の 4 機構をテーブル化した最初の総説の一つ)、(iii) novel な viewpoint として organ-on-a-chip と zebrafish の長所・短所を直接対比、を提供した。First to demonstrate したわけではないが、これらの統合的整理が本総説の新規な貢献である。

③ 臨床応用: 本総説の知見は (NatRevBioeng et al. Basic 2026 のレビューでさらに進展) (i) 脳腫瘍・脳転移治療での EV 薬物送達、(ii) 神経変性疾患の血液 EV バイオマーカー、(iii) EV 阻害によるがん脳転移予防、(iv) EV 由来バイオマーカーによる脳炎症性疾患の早期診断、など幅広い臨床応用への科学的根拠を提供する。とくに bench-to-bedside 橋渡しとして、Alvarez-Erviti の RVG-Lamp2b エクソソームによる siRNA 脳送達は臨床的意義が高く、現在 phase 1/2 trials で safety 評価が進む。臨床現場では将来的に AD・PD・脳腫瘍の血液 EV biomarker パネルが diagnostic として実装される見込みである。Translational な観点から、MISEV2018 準拠の EV 特性評価が臨床試験の前提条件として普及することが期待される。

④ 残された課題: 残された課題として (i) 神経血管ユニット完全再現の 3D-BBB チップ標準化、(ii) 高時空間分解能 in vivo イメージング (intravital 3 光子顕微鏡)、(iii) EV 分離・標識プロトコル標準化 (MISEV2018 準拠)、(iv) 天然 EV 表面特性の機能的マッピング、(v) 脳→末梢 EV 輸送経路の解明、が今後の検討の優先課題として提起された。Future research の方向性として、ヒトでの直接可視化、個別 EV 亜集団 (small/medium/large EV・microvesicle) ごとの通過効率、内皮細胞極性 (apical vs basolateral) での EV 分泌・取り込み方向性、年齢・性差・BBB 疾患 (脳卒中・多発性硬化症) での変化、が今後の研究として挙げられる。Limitation として、本総説は時点で 130 件程度の文献に基づくため、引用範囲の体系的偏り (English/Spanish 主体) と evidence quality grading の欠如が残る。Future work として PRISMA 準拠の systematic review・meta-analysis による定量的統合と GRADE 方法による evidence quality 評価が今後の方向性として望まれる。

総じて本論文は、EV-BBB 相互作用分野の方法論と機構の現状を方法論的に厳密に整理し、臨床応用と基礎機構研究の架橋を明確にした重要な総説である。

方法

本論文は Review (総説) 論文。PubMed・Web of Science での文献サーベイ (n=130 引用文献) を基に、BBB 通過 EV に関する研究を以下の軸で分類整理: (1) in vitro 評価モデル (transwell 単層・二層・三層、organ-on-a-chip)、(2) in vivo モデル (zebrafish・mouse・human)、(3) 輸送機構 (clathrin/caveolae 依存性エンドサイトーシス・macropinocytosis・phagocytosis・AMT)、(4) EV 起源細胞 (腫瘍細胞・中枢神経細胞・MSC: mesenchymal stem cell・神経細胞)、(5) 疾患文脈 (がん脳転移・神経変性・脳炎症・自己免疫)。

MISEV2018 (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles 2018) ガイドラインに準拠した EV 特性評価 (CD9・CD63・CD81・Alix・TSG101 陽性マーカー、calnexin・GRP78・GM130 陰性マーカー、NTA: nanoparticle tracking analysis、TEM: transmission electron microscopy、Western blot) を統一基準として比較。EV 分離法は ultracentrifugation・SEC (size exclusion chromatography)・ExoQuick-TC (polymer-based precipitation)・MagCapture (phosphatidylserine affinity)・TFF (tangential flow filtration) を網羅。

統計手法は元論文に基づき t 検定・ANOVA で透過率を比較。p < 0.05 を有意とした。本総説では計算は再実行せず元論文値を引用。検証可能性のため使用された主要マウス系統 (CD1 mouse・nude mouse・C57BL/6J)・ヒト細胞株 (hCMEC/D3 BMEC・MDA-MB-231 乳がん・SK-Mel-28 メラノーマ・U87 膠芽腫・HEK293T 腎臓上皮)・zebrafish 系統 (Tg(kdrl:GFP)・claudin5:GFP)・主要臨床試験 (NCT01294072 plant-EV curcumin in colorectal cancer) を明示。