• 著者: Xin Xie, Mengying Pi, Heng Zhang, Luyang Zhou, Mei Liu, Wei Zhu, Yang Jiao, Xiaoping Gu, Zhengliang Ma
  • Corresponding author: Yang Jiao (Department of Anaesthesiology, Nanjing Drum Tower Hospital, The Affiliated Hospital of Nanjing University Medical School, Nanjing, China); Xiaoping Gu (Department of Anaesthesiology, Nanjing Drum Tower Hospital, Nanjing Drum Tower Hospital Clinical College of Nanjing University of Chinese Medicine, Nanjing, China); Zhengliang Ma (Department of Anaesthesiology, Nanjing Drum Tower Hospital, The Affiliated Hospital of Nanjing University Medical School, Nanjing, China)
  • 雑誌: International Immunopharmacology
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-05-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 40403502

背景

敗血症 (sepsis) は、感染に対する制御不能な宿主反応によって引き起こされる、生命を脅かす重篤な多臓器機能障害 (multiple organ dysfunction; MOD) を特徴とする全身性疾患である。世界中で毎年3,000万人以上が罹患し、入院患者の致死率は10%を超えるなど、現代医療における極めて深刻な公衆衛生上の課題として位置づけられている Singer et al. Jama 2016。敗血症の病態生理においては、過剰な自然免疫反応とそれに伴う炎症性サイトカインストームが中心的な役割を果たすことが知られているが、詳細な分子制御機構には依然として未解明な部分が多く残されている Giamarellos-Bourboulis et al. NatImmunol 2024

好中球 (polymorphonuclear neutrophil; PMN) は、生体防御の最前線を担う主要な免疫細胞である。活性化したPMNは、自身のDNA、ヒストン、およびミエロペルオキシダーゼ (myeloperoxidase; MPO) や好中球エラスターゼなどの顆粒タンパク質から構成される網状の細胞外構造物である好中球細胞外トラップ (neutrophil extracellular traps; NETs) を放出し、病原体を捕捉・殺滅する。しかし、過剰に形成されたNETsは血管内皮障害や微小血栓形成を誘発し、敗血症性ショックや多臓器不全を増悪させる要因となることが報告されている Zhang et al. ClinTranslMed 2023。NETsの形成機序として活性酸素種 (reactive oxygen species; ROS) の産生やオートファジーの関与が示唆されているものの、その上流で機能する細胞間シグナル伝達機構は十分に解明されていない。

近年、直径50〜150 nmの微小胞であるエクソソームが、タンパク質や核酸などの機能的分子を内包して標的細胞に伝達する重要な細胞間情報伝達媒体として注目されている Kalluri et al. Science 2020。敗血症患者の血漿中ではエクソソームの組成や濃度が著しく変化し、これが臓器障害の重症度と相関することが示されている Dixson et al. NatRevMolCellBiol 2023。しかし、PMN自身が放出するエクソソームが、他のPMNに作用してNETs形成を自己増幅させるか否か、またそのプロセスが多臓器障害にどのように寄与するかという点については、これまで直接的な検証が不足していた。特に、敗血症の病態形成におけるPMN由来エクソソームの役割に関する知見は極めて手薄であり、この領域には大きな知識ギャップが存在していた。

さらに、マトリックスメタロプロテアーゼ9 (matrix metalloproteinase-9; MMP9) は、細胞外マトリックスの分解や炎症制御に関与する酵素であり、敗血症の独立したリスク因子として同定されている。しかし、エクソソームに内包されたMMP9がPMNの機能調節やNETs形成、さらには全身性の臓器障害を誘導する具体的なシグナル経路については未確立であった。したがって、MMP9を搭載したPMN由来エクソソームが敗血症性多臓器不全を促進する分子機構を詳細に解析し、治療標的としての妥当性を検証することが強く求められていた。

目的

本研究の目的は、リポ多糖 (lipopolysaccharide; LPS) 刺激によって活性化したPMNから放出されるエクソソーム (LPS-Exos) が、in vitroおよびin vivoにおいてNETs形成を促進し、敗血症関連多臓器障害を誘導する分子メカニズムを解明することである。具体的には、LPS-Exosが内包するMMP9が標的PMNに取り込まれた後、p38ミトゲン活性化プロテインキナーゼ (mitogen-activated protein kinase; MAPK) 経路を活性化し、ROS依存的にNETs形成を誘導するシグナルカスケードを実証することを目指した。さらに、敗血症患者から単離した血漿由来エクソソームにおけるMMP9の発現レベルと、血中NETs濃度、SOFA (Sequential Organ Failure Assessment) スコア、および予後との臨床的相関性を評価し、MMP9が敗血症の重症度判定や予後予測における新規バイオマーカーとして臨床応用可能であるかを検証することを目的とした。

結果

LPS-Exosによる全身性炎症および多臓器傷害の誘発: LPS刺激PMN由来のエクソソーム (LPS-Exos) をC57BL/6Jマウス (n=12 mice) に尾静脈投与した結果、PBS投与群およびCon-Exos投与群と比較して、心臓、肝臓、腎臓、肺、脳のすべての評価臓器において、炎症性サイトカイン (IL-1β、IL-6、TNFα) のmRNA発現量が有意に上昇した (p<0.01) (Fig 1C-G)。H&E染色による組織病理学的解析では、LPS-Exos投与群において心筋壊死、肝細胞脂肪変性、糸球体への炎症細胞浸潤、肺胞壁の肥厚、および脳組織の壊死を伴う顕著な組織傷害スコアの上昇が認められた (p<0.001) (Fig 1H)。生体内顕微鏡 (IVM) 観察により、DiI標識されたLPS-ExosはCon-Exosと比較して、微小血管を通過して各臓器組織内へ広範かつ高密度に分布・集積することが実証された (Fig 1B)。

LPS-Exos誘発性臓器障害におけるNETs形成の機能的寄与: LPS-Exosを投与したマウスの血漿中では、対照群と比較してdsDNA濃度およびMPO-DNA複合体レベルが著明に増加しており、全身性NETs形成の亢進が確認された (p<0.0001) (Fig 2A, B)。免疫蛍光染色により、肝臓、肺、心臓、脳の組織内においてCitH3およびMPO陽性の網状NETs構造が顕著に増加していることが示された (Fig 2C)。この病態におけるNETsの因果関係を検証するため、DNase I (200 µg) またはPAD4阻害剤であるCl-amidine (50 mg/kg) を投与したところ、血中のdsDNAおよびMPO-DNA複合体レベルは有意に低下した (p<0.01) (Fig 2D, E)。さらに、DNase IまたはCl-amidineの併用投与は、LPS-Exosによって誘発された多臓器における炎症性サイトカインのmRNA発現を劇的に抑制し、組織傷害スコアを有意に改善させた (p<0.05) (Fig 2G-L)。これにより、NETs形成がLPS-Exos媒介性多臓器障害 (MOD) の直接的なメディエーターであることが証明された。

in vitroにおけるLPS-ExosによるPMNのNETs形成促進作用: 健常ドナーから単離したPMN (n=3 replicates) を用いたin vitro共培養実験において、DiI標識LPS-ExosがPMNの細胞質内に効率的に取り込まれることが蛍光顕微鏡観察により確認された (Fig 3B)。LPS-Exosは、PMNからのdsDNA放出およびMPO-DNA複合体形成を、投与量 (100〜200 µg) および共培養時間 (4〜12時間) に依存して有意に促進した (p<0.0001) (Fig 3C, D)。SYTOX Greenを用いた免疫蛍光染色では、LPS-Exos刺激によってPMNから伸長する典型的な細胞外DNA繊維構造 (NETs) が明瞭に可視化され、Con-Exos刺激群と比較して形成効率が有意に高いことが示された (Fig 3F)。

LPS-ExosによるROS依存的なNETs形成機構: フローサイトメトリーを用いたCM-H2DCFDA染色解析により、LPS-Exosで処理したPMNでは細胞内ROS産生が著明に増加することが示された (Fig 4A)。ROS消去剤であるNAC (16 mM) でPMNを前処理することにより、LPS-Exosによって誘導されるROS産生がほぼ完全に消失し、それに伴ってdsDNA放出およびMPO-DNA複合体形成が強力に抑制された (p<0.0001) (Fig 4B-D)。同様に、マウス末梢血から単離したPMN (n=6 replicates) においても、LPS-ExosによるROS産生亢進とNACによる抑制効果が確認された (Fig 4E, F)。in vivo実験においても、NACの腹腔内前投与はLPS-Exos投与マウスにおける血中NETsレベルの上昇を抑制し (Fig 4G, H), 多臓器における炎症反応および組織傷害スコアを有意に軽減した (p<0.01) (Fig 4I-N)。

プロテオミクス解析によるMMP9の同定と機能検証: Con-ExosとLPS-Exosのタンパク質組成を比較したプロテオミクス解析の結果、LPS-Exosにおいて104種のタンパク質が有意に発現上昇し、90種のタンパク質が低下していた (p<0.05) (Fig 5A)。KEGGパスウェイ解析では、「好中球細胞外トラップ形成 (Neutrophil extracellular trap formation)」が最も有意に濃縮されたシグナル経路として同定された (Fig 5C)。発現上昇したタンパク質群の中で、敗血症の病態に関与することが示唆されているMMP9に着目し、Western blotにてLPS-Exosにおける高発現を確認した (Fig 5D)。MMP9阻害剤JNJ0966で処理したPMNから回収したエクソソーム (JNJ-Exos) では、MMP9の発現レベルが極めて低かった (Fig 5E)。JNJ-ExosをPMNに添加した場合、LPS-Exosと比較してdsDNA放出およびMPO-DNA複合体形成能が有意に減弱しており (p<0.01) (Fig 5F, G), 標的PMNにおけるROS産生量も有意に低値を示した (Fig 5H)。

MMP9によるp38 MAPKシグナル経路の活性化: プロテオミクスデータのGSEA解析により、LPS-Exos刺激伴ってMAPKシグナル経路が有意に活性化していることが示された (Fig 5I)。Western blot解析の結果、LPS-Exosで処理したPMNでは、p38 MAPKのリン酸化レベル (p-p38) が著明に上昇したのに対し、MMP9を欠失したJNJ-Exos処理群ではリン酸化が有意に抑制された (Fig 5J, K)。さらに、p38 MAPK阻害剤であるSB203580 (0.05 µM) でPMNを前処理したところ、LPS-Exos刺激によるdsDNAおよびMPO-DNA複合体の放出が極めて有意に抑制された (p<0.0001) (Fig 5L, M)。これにより、エクソソーム由来MMP9が標的PMNのp38 MAPKを活性化し、ROS産生を介してNETs形成を誘導する直列シグナル経路が実証された。

敗血症患者における血漿エクソソームMMP9の臨床的意義: 臨床検体解析において、敗血症患者 (n=26 patients) の血漿中dsDNAおよびMPO-DNA複合体濃度は、健常対照者 (n=21 healthy controls) と比較して有意に高値を示した (p<0.01) (Fig 6A, B)。敗血症患者の血漿から単離したエクソソームにおけるMMP9発現量は著明に上昇しており、このエクソソームMMP9レベルは血中MPO-DNA複合体濃度と極めて強い正の相関を示した (Spearman r=0.7485, p<0.0001) (Fig 6D)。さらに、血漿エクソソームMMP9の高発現は、患者のSOFAスコアの高値 (Fig 6E) および院内死亡率の上昇 (Fig 6F) と有意に関連していることが明らかになった。

考察/結論

先行研究との違い: 従来のエクソソーム研究においては、内包されるmiRNAなどの非コードRNAが標的細胞の遺伝子発現を調節する機構に焦点が当てられることが多く、敗血症におけるPMN由来エクソソームの役割についてもマクロファージの極性化誘導などが報告されていた。これに対し、本研究はPMN由来エクソソームが内包する「タンパク質」としてのMMP9に着目し、これが直接的に他のPMNに作用してNETs形成を自己増幅させるという、これまでの研究とは異なる全く新しい細胞間相互作用のモダリティを提示した。さらに、血小板由来エクソソームによるNETs形成促進を報告した先行研究 Jiao et al. CritCare 2020 と比較しても、本研究はPMN自身が放出するエクソソームが起点となる「自己増幅ループ (NETストーム)」を実証した点で、病態生理学的な位置づけが大きく異なる。

新規性: 本研究は、LPS刺激されたPMN由来のエクソソームが、MMP9を標的PMNに伝達し、p38 MAPK経路の活性化およびROS産生を介してNETs形成を強力に誘導することを世界で初めて明らかにした。好中球が放出するエクソソームが、別の好中球のNETosisをトリガーするという自己増幅的なフィードバック機構は、敗血症における全身性炎症反応の暴走を説明する新規の病態モデルである。また、MMP9が単なる細胞外マトリックス分解酵素としてではなく、エクソソームの機能的積荷としてPMN内シグナル伝達を直接制御するキー分子であることを本研究で初めて同定した点も極めて独創性が高い。

臨床応用: 本研究の成果は、敗血症関連多臓器障害に対する新たな診断・治療戦略の臨床応用に直結する。臨床的意義として、敗血症患者の血漿由来エクソソームにおけるMMP9発現量が、血中NETs濃度、SOFAスコア、および死亡率と極めて強い正の相関 (r=0.7485, p<0.0001) を示したことから、エクソソームMMP9は敗血症の重症度評価および予後予測における高精度な低侵襲バイオマーカーとして臨床現場での実用化が期待される。また、MMP9阻害剤 (JNJ0966など) やp38 MAPK阻害剤を用いたエクソソーム媒介性NETs形成の遮断は、従来の抗菌薬や昇圧剤治療で効果が得られない重症敗血症患者に対する、新規の標的治療薬開発の基盤となる。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究では敗血症モデルとしてLPS投与モデルを採用しているが、より実際の臨床病態に近い盲腸結紮穿刺 (CLP) モデルを用いた再現性の検証が必要である。また、in vivoにおいてPMN由来エクソソーム内のMMP9のみを特異的かつ安全にノックアウトまたは阻害するデリバリーシステムの開発は、治療応用へ向けた技術的限界として残されている。さらに、本研究の臨床コホートは単一施設かつ小規模 (n=26) であるため、今後は多施設共同の大規模前向きコホートによる検証を行い、バイオマーカーとしての感度および特異度を確立する必要がある。

方法

臨床検体の収集: 2024年2月から5月にかけて、南京鼓楼病院の集中治療室 (ICU) に入院し、Sepsis-3.0 (The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock) 基準を満たした敗血症患者26名 (n=26 patients) および年齢をマッチさせた健常対照者21名 (n=21 healthy controls) を登録した。すべての臨床検体は、南京鼓楼病院倫理委員会の承認 (Approval No. 2024-102-02) および患者または代理人のインフォームドコンセントのもとで収集された。中心静脈カテーテルより10 mLの全血を採取し、血漿および血漿由来エクソソームの単離に供した。

実験動物: 6〜8週齢の雄性C57BL/6 wild-typeマウス (C57BL/6J strain, n=12 mice per group) を使用した。すべての動物実験は、南京第一病院動物倫理委員会 (Approval No. DWSY-23147451) のガイドラインに準拠して実施された。

エクソソームの単離と特性解析: マウス骨髄由来PMNおよびヒト末梢血由来PMNを、LPS (1 µg/mL) またはPBSで6時間刺激した。培養上清を3,000×gで15分間遠心分離して細胞破片を除去した後、0.22 µmフィルターで濾過した。ExoQuick試薬を用いてエクソソームを沈殿回収し、PBSに再懸濁した。透過型電子顕微鏡 (TEM) による形態観察、ナノ粒子トラッキング解析 (nanoparticle tracking analysis; NTA) による粒径分布測定、およびWestern blotによる表面マーカー (CD63、TSG101) の検出により特性を評価した。

プロテオミクス解析: 対照群PMN由来エクソソーム (Con-Exos) とLPS刺激PMN由来エクソソーム (LPS-Exos) のタンパク質プロファイルを、5D label-free質量分析技術を用いて比較解析した。timsTOF Pro質量分析計を使用し、発現差1.5倍以上かつp<0.05を満たすタンパク質を抽出した。KEGG (Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes) およびGSEA (Gene Set Enrichment Analysis) を用いてパスウェイ解析を実施した。

in vitro共培養実験: 健常ドナーから単離したPMNに対し、DiIで蛍光標識したLPS-Exos (100〜200 µg) を最長12時間共培養し、細胞内取り込みを共焦点顕微鏡で観察した。MMP9阻害剤であるJNJ0966 (10 µM) またはp38 MAPK阻害剤であるSB203580 (0.05 µM) を用いて前処理を行い、NETs形成への影響を評価した。JNJ0966処理PMNから回収したエクソソームをJNJ-Exosと定義した。ROSの関与を検証するため、ROS消去剤であるN-acetylcysteine (NAC; 16 mM) による前処理を実施した。

NETsの定量および検出: 培養上清中または血漿中のダブルストランドDNA (dsDNA) 濃度をPicoGreen dsDNA Quantification Kitで測定した。MPO-DNA複合体は、ELISA法を用いて定量した。免疫蛍光染色では、DAPI、SYTOX Green、抗CitH3 (シトルリン化ヒストンH3) 抗体、および抗MPO抗体を用いてNETs構造を可視化した。

in vivo臓器障害モデル: マウスにLPS-Exos (300 µg) を尾静脈投与し、24時間後に心臓、肝臓、腎臓、肺、脳組織を採取した。NETsの分解を促進するため、DNase I (200 µg) またはPAD4 (peptidylarginine deiminase 4) 阻害剤であるCl-amidine (50 mg/kg) をエクソソーム投与30分後に静脈内投与した。ROS抑制のため、NACを腹腔内投与した。組織傷害はH&E染色による病理スコアリングで評価し、炎症性サイトカイン (IL-1β、IL-6、TNFα) のmRNA発現量をqRT-PCRで定量した。生体内顕微鏡 (intravital microscopy; IVM) を用いて、DiI標識エクソソームの組織内分布をリアルタイムで観察した。

統計解析: 統計解析にはGraphPad Prism 9を使用した。正規分布データはShapiro-Wilk検定で確認後、平均±標準偏差で示し、2群間比較には両側Student’s t-test、多群間比較には一元配置分散分析 (one-way ANOVA) およびTukeyの多重比較検定を用いた。非正規分布データはMann-Whitney U testで比較し、相関分析にはSpearman correlationおよびPearson correlationを用いた。有意水準はp<0.05とした。