• 著者: Gamsong Son, Jiyoung Song, Jae Chul Park, Hong Nam Kim, Hojun Kim
  • Corresponding author: Hong Nam Kim, Hojun Kim (Korea Institute of Science and Technology [KIST], Seoul, Republic of Korea)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2025
  • Epub日: 2025-05-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 40410169

背景

エクソソームは、細胞由来の脂質ナノ粒子であり、生体適合性、免疫回避性、そして血液脳関門 (BBB) などの生理学的障壁を透過する能力を持つことから、次世代の薬物送達キャリアとして大きな期待が寄せられている。特に、脳腫瘍や神経変性疾患など、中枢神経系 (CNS) 疾患の治療において、BBB透過性は極めて重要な課題である。しかし、エクソソームを薬物キャリアとして利用する上での主要な障壁は、RNAやタンパク質などの大分子治療薬を、その構造的完全性を損なうことなく効率的に搭載することであった。この問題は、エクソソームの治療応用を阻む主要なボトルネックとして認識されている。

従来の物理的または化学的搭載法、例えばエレクトロポレーション、超音波処理、凍結融解、単純インキュベーションなどは、エクソソーム膜に不可逆的な損傷を与え、搭載効率が低いという問題が指摘されている (Usman et al. 2018; Butreddy et al. 2021)。特に、大分子の搭載は困難であり、エクソソームの機能喪失を伴うことが多かった。膜融合に基づくアプローチも検討されてきたが、リポソームを用いた膜融合法は、融合効率が低く、複数ステップや12時間以上の長時間を要する上に、陰性荷電分子であるメッセンジャーRNA (mRNA) を搭載するために高濃度のカチオン性脂質 (>50 mol%) を必要とし、これが細胞毒性や組織透過性の制限につながる可能性が示唆されていた (Lin et al. 2018; Chen et al. 2024; Lv et al. 2006)。このように、エクソソームの治療応用を阻む大分子搭載の非効率性と膜損傷の問題は、未解明な点が残されており、非破壊的かつ高効率な大分子搭載法の開発が喫緊の課題であった。エクソソームを次世代の薬物送達プラットフォームとして活用するためには、このギャップを克服する新規技術が不可欠であると、既に Herrmann et al. NatNanotechnol 2021 も指摘している。

本研究では、bicontinuous cubic symmetryを持つcubosomeに着目した。cubosomeは、膜弾性理論によれば正のガウス曲率弾性率 (positive Gaussian modulus) を持ち、自発的な膜融合を可能にする特性を持つ (Helfrich 1973)。また、cubosomeは親水性および疎水性分子の両方を封入できる汎用性の高いカプセル化能を有し (Kim et al. 2017)、特にmRNAなどの大分子治療薬の搭載にも適していることが最近の研究で示されている (Ding et al. 2023)。さらに、cubosomeは内部の小さな水チャネルにより、封入された分子の分解やコンフォメーション変化を抑制し、優れた薬物貯蔵能を発揮する。これらの優れた融合特性と高いカプセル化能を考慮すると、cubosomeはエクソソームへの薬物搭載において優れた候補であると考えられるが、その応用はこれまで未開拓であった。

目的

本研究の目的は、大分子治療薬 (doxorubicin、免疫グロブリンG (IgG) 抗体、mRNA) をエクソソームへ高効率かつ非破壊的に搭載するための、膜融合性リピドナノ粒子であるcubosomeを基盤とした薬物搭載プラットフォームを開発することである。具体的には、cubosomeのマイクロ流体合成法を最適化し、様々な大分子の搭載効率と安定性を評価する。

さらに、このプラットフォームを用いて作製されたハイブリッドエクソソームが、BBB透過性や細胞特異的ホーミング効果といったエクソソーム本来の生物学的機能を保持するかをin vitro 3D BBBモデルおよびin vivoマウスモデルで検証する。特に、cubosomeとexosomeの比率を調整することで、BBB透過性および細胞取り込みのバランスを制御できる可能性を探る。最終的に、本プラットフォームが中枢神経系疾患治療への応用可能性を持つことを、doxorubicin搭載ハイブリッドエクソソームのin vivo抗腫瘍効果およびmRNA搭載ハイブリッドエクソソームの脳内タンパク質発現を通じて実証することを目指す。

結果

Cubosomeの最適化された製造と特性評価: 最適化されたマイクロ流体システムを用いることで、cubosomeの大量生産が可能となった (Fig. 2a)。製造されたcubosomeは平均サイズが約120 nmであり、PDIは0.17と単分散性を示した (Fig. 2g)。SAXS分析により、Ia3dまたはPn3mのbicontinuous cubic phase構造が確認され、特徴的なブラッグピークが√2、√4、√6の比率で観察された (Fig. 2h)。計算された格子間隔は154.4 Åであった。Cryo-TEM画像も、約121 ± 12 nmの均一なサイズと整然とした内部構造を裏付けている (Fig. 2i)。脂質濃度、総流量 (TFR)、流量比 (FRR) の検討から、脂質濃度がcubic構造形成に最も支配的な因子であることが示された (Fig. 2f)。これらの結果は、cubosomeが安定した構造と均一なサイズ分布を持つことを明確に示している。

大分子治療薬の高効率搭載と安定性: Cubosomeへの薬物搭載効率は極めて高く、doxorubicinおよびIgG (150 kDa) は85%以上の効率で搭載された (Fig. 3b)。特に、mRNA (1.9 kbおよび5 kb) の搭載効率は驚異的な約98%に達した (Fig. 3b)。蛍光顕微鏡による観察では、FAM標識mRNAとTexas Red標識cubosomeの共局在が確認され (Fig. 3c-e)、mRNAがcubosome内部に効率的に封入されていることが示された。mRNA搭載cubosomeは、薬物非搭載cubosomeと比較して約20 nm小さい101.6 nmのサイズを示したが (Fig. 3f)、SAXS分析では依然として整然としたprimitive cubic構造を保持しており、mRNAに特異的なピークも観察された (Fig. 3g)。このmRNA特異的ピークは、約0.12 Å⁻¹の位置に現れ、mRNAが5.1 nm間隔で約3.7個の繰り返し単位を持つ折り畳み構造を形成していることを示唆した。さらに、mRNA-cubosomeは室温で3週間保存した後も、cubosomeの単位格子サイズ (15.37 ± 0.10 nm) およびmRNAの折り畳み度 (3.58 ± 0.14) を維持し (Fig. 3j)、優れた安定性と薬物貯蔵能を示した (Fig. 3k)。この実験では、n=3 replicatesで安定性が評価された。

ハイブリッドエクソソームの迅速な形成と融合動態: Cubosomeとexosomeの膜融合は、FRET解析およびin situ SAXS測定により、混合開始からわずか10分以内に完了することが示された (Fig. 4d, e)。脱イオン水中では迅速な融合が観察された一方、リン酸緩衝生理食塩水 (PBS) 中ではイオンによる電荷遮蔽効果のため、融合速度が有意に遅延することが明らかになった (Fig. 4b, c, g)。PBS中では、cubosome:exosome比が1:10の場合、10分後のLiss Rhod蛍光強度の減少は57%であったが、1:1の場合では12%に留まり、粒子濃度が融合速度に影響を与えることが示唆された。融合後の粒子サイズは、全ての融合条件下で200 nm以下に維持され (Fig. 4h)、過剰な凝集は認められなかった。Cryo-TEM画像は、エクソソームとcubosomeが接触し、脂質を迅速に交換して融合孔を形成し、最終的にエクソソームタンパク質が全体に分散した完全に融合したハイブリッドエクソソームが形成される過程を捉えている (Fig. 4l)。cubosomeに搭載されたdoxorubicin、IgG、mRNAは、エクソソーム内部へ効率的に移行し、特にIgGとmRNAは検出可能な損失なく転送された。doxorubicinの転送効率は約77%であったが、IgGとmRNAはほぼ100%の効率で転送された (Fig. 4m)。これらの結果は、n=3 replicatesの実験で得られた。

BBB透過性および細胞特異的送達の制御: in vitro 3D BBBモデルを用いた評価では、HBMEC由来エクソソーム単独と比較して、ハイブリッドエクソソームはBBB透過性が増強されることが示された (Fig. 6b)。驚くべきことに、cubosomeとexosomeの比率を調整することで、BBB透過性 (高cubosome比) と脳内皮細胞への取り込みまたは相互作用 (高exosome比) のバランスを制御できることが明らかになった (Fig. 6c, f)。さらに、エクソソームの細胞由来が、BBB透過後の細胞取り込みの運命に影響を与えることが示された。HA (Human Astrocytes) 由来ハイブリッドエクソソームは、HBMEC由来ハイブリッドエクソソームとは異なり、3Dハイドロゲル内のアストロサイトに優先的に取り込まれることが確認され (Fig. 6d, e)、エクソソーム由来の天然のホーミング効果が融合後も機能することが示された。BBBバリアを越えた領域での蛍光強度の統合分析では、これらの結論が明確に裏付けられた (Fig. 6g)。この実験では、n=3-4 replicatesが用いられた。

薬物搭載ハイブリッドエクソソームのBBB透過と治療効果: in vitro BBBモデルを用いた透過性アッセイでは、doxorubicinの透過性にはcubosome単独とハイブリッドエクソソーム間で有意な差はなかったものの、IgGおよびmRNAの輸送はハイブリッドエクソソームを介することで有意に増強された (Fig. 7a)。定量的解析では、IgGおよびmRNAの透過性がcubosome単独と比較して約2倍に増加したことが示され (p < 0.0001) (Fig. 7b)。この結果は、ハイブリッドエクソソームがより大きく複雑な分子のBBB透過を促進する上で優れていることを裏付けた。Texas Red標識ハイブリッドエクソソーム (赤) がmRNA (黄) を搭載してBBBモデルを通過する共焦点画像では、内皮バリアを超えた領域で赤と黄の信号の共局在が明確に観察され (Fig. 7c)、mRNAがキャリア内で無傷のままBBBを効果的に通過することが検証された。in vivo実験では、doxorubicin搭載ハイブリッドエクソソームが有意な抗腫瘍効果を示し、mRNA搭載ハイブリッドエクソソームはCre-reporterマウスの脳内ニューロンでCre活性を誘導し、機能的な脳内タンパク質発現を実証した。これらの結果は、本プラットフォームがCNS疾患治療において高い臨床的有用性を持つことを示唆する。DoxorubicinとIgGの透過性評価にはn>8 replicates、mRNAにはn=6 replicatesが用いられた。

考察/結論

本研究は、エクソソームを基盤とした薬物送達において長年の課題であった「大分子搭載の非効率性および膜損傷」という問題を、cubosomeを介した膜融合というアプローチで根本的に解決した画期的な成果である。

先行研究との違い: これまでのリポソームを用いた膜融合法が長時間 (12時間以上) を要し、高濃度のカチオン性脂質による細胞毒性の懸念があったのに対し (Lin et al. 2018; Lv et al. 2006)、本手法はわずか10分という短時間で、mRNAを約98%という極めて高い効率でエクソソームに搭載することを可能にした点で、これまでの方法と対照的である。また、エクソソーム膜の完全性を保持できる点も、従来の物理的搭載法とは大きく異なり、本手法の優位性を示す。

新規性: 本研究で初めて、bicontinuous cubic symmetryと正のガウス曲率弾性率 (positive Gaussian modulus) を持つcubosomeの優れた膜融合特性を、エクソソームへの大分子搭載に応用した。これは、エクソソーム-リポソームハイブリッドなどの既存のハイブリッドベシクル概念を拡張し、cubosomeの物理化学的特性がもたらす独特の機序を活用した新規な薬物送達プラットフォームの確立を意味する。cubosomeの優れた薬物貯蔵能により、mRNAなどの不安定な分子を室温で3週間以上安定に保持できることも、これまで報告されていない重要な特性である。

臨床応用: 本プラットフォームは、BBB透過性を制御しつつ細胞特異的送達を可能にするため、脳腫瘍やアルツハイマー病、ハンチントン病などの神経変性疾患といった中枢神経系疾患に対する治療薬 (doxorubicin、mRNA療法) の開発に臨床応用できる可能性が高い。特に、BBB透過性を約2倍に向上させ、脳内での機能的なタンパク質発現を実証したことは、CNS疾患治療における臨床的有用性を示す強力なエビデンスである。また、mRNAベースのワクチン送達や希少疾患に対する全身性mRNA療法のための次世代プラットフォームとしても期待される。

残された課題: 今後の検討課題としては、ハイブリッドエクソソームのin vivo薬物動態、クリアランス機構、および長期的な生体安全性 (cubosomeを構成するモノオレインの代謝や免疫原性) の詳細な解析が必要である。また、製造のスケールアップと医薬品製造管理および品質管理に関する基準 (GMP) に準拠した製造法の確立も、臨床開発に向けた重要なステップとなる。本論文は、エクソソーム治療薬開発における主要なボトルネックを克服する解決策を提示し、その臨床応用への障壁を大幅に低減する基盤技術として、今後のエクソソームベースの薬物送達領域の発展を加速させるものと位置付けられる。

方法

Cubosomeの合成と特性評価: Cubosomeは、モノオレイン (GMO)、カチオン性脂質 (DOTAP)、ポリエチレングリコール化脂質 (DOPE-PEG2000) を95:4:1 mol%の比率で含む脂質フィルムから調製された。この脂質フィルムにエタノールを加え、マイクロ流体チップを用いて水相と混合することで制御合成された。最適化された製造条件は、脂質濃度0.45 M、総流量 (TFR) 4 ml/min、流量比 (FRR) 1.5:1であった。小角X線散乱 (SAXS) によりbicontinuous cubic phase構造を確認し、動的光散乱 (DLS) でサイズと多分散性指数 (PDI) を、ゼータ電位測定で表面電荷を評価した。Cryo-透過型電子顕微鏡 (Cryo-TEM) により形態と内部構造を観察した。

薬物搭載と効率評価: Cubosomeへの薬物搭載は、マイクロ流体ミキサーを用いて薬物溶液と脂質溶液を混合することで行われた。搭載薬物として、doxorubicin、IgG (150 kDa)、mRNA (1.9 kb Cre recombinase mRNA、5 kb EGFP-expressing mRNA) が用いられた。搭載効率は、高速液体クロマトグラフィー (HPLC) (doxorubicin)、酵素結合免疫吸着測定法 (ELISA) (IgG)、およびRiboGreenアッセイを用いたリアルタイム定量PCR (RT-qPCR) (mRNA) により定量された。未搭載薬物は透析バッグ (mRNA用300 kDa、doxorubicinおよびIgG用100 kDa) を用いて除去された。mRNA搭載cubosomeの安定性は、室温での3週間の保存期間にわたりSAXS測定で評価された。

ハイブリッドエクソソームの形成と特性評価: 薬物搭載cubosomeと、HeLa細胞、MDA-MB-231細胞、またはヒト脳微小血管内皮細胞 (HBMEC) 由来のエクソソームを混合し、単純な「mix-and-load」手順により10分以内に膜融合を完了させた。エクソソームはExoQuickキットを用いて分離され、DiI色素で標識された。形成されたハイブリッドエクソソームは、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA)、透過型電子顕微鏡 (TEM)、およびウェスタンブロット法により、サイズ、形態、およびエクソソーム膜タンパク質 (CD9、CD63、CD81) の保持を評価した。融合動態は、蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET) 解析 (NBD-PEおよびLiss Rhod-PEを0.5 mol%含むcubosomeを使用) およびin situ SAXS測定により詳細に解析された。膜融合の自由エネルギー変化はHelfrichの膜弾性理論に基づいて計算された。

BBB透過性評価: 微小流体チップ型in vitro 3D BBBモデル (ヒトiPSC由来脳微小血管内皮細胞 (BMEC)、ヒトアストロサイト (HA)、ヒト脳血管周皮細胞 (HBVP) をフィブリンハイドロゲル内で共培養) およびin vivoマウスモデルを用いて、ハイブリッドエクソソームのBBB透過性を検証した。BBBモデルの構築は、CD31 (内皮細胞)、GFAP (アストロサイト)、αSMA (周皮細胞) などの免疫蛍光染色により確認された。蛍光標識したキャリアの脳内皮細胞への取り込みと透過を共焦点顕微鏡で追跡した。Cubosomeとexosomeの比率 (1:0.1および1:10) がBBB輸送に与える影響も評価された。

細胞特異的送達の検証: HA由来ハイブリッドエクソソームを用いて、Qtracker 565で標識したアストロサイトへの選好的取り込み、すなわち細胞特異的トロピズムが融合後も保持されることを確認した。

治療効果のデモンストレーション: Doxorubicin搭載ハイブリッドエクソソームのin vivo抗腫瘍効果を評価した。mRNA搭載ハイブリッドエクソソームについては、Cre-reporterマウスの脳内ニューロンにおけるCre活性検出を通じて、in vivoでの脳内タンパク質発現を確認した。統計解析にはGraphPad Prismソフトウェアを用い、一元配置分散分析 (ANOVA) 後にTukeyの多重比較検定を実施した。