• 著者: Silvia Sposini, Morgane Rosendale, Léa Claverie, Thi Nhu Ngoc Van, Damien Jullié, David Perrais
  • Corresponding author: David Perrais (david.perrais@u-bordeaux.fr) — Interdisciplinary Institute for Neuroscience, CNRS UMR 5297, University of Bordeaux, France
  • 雑誌: Nature Protocols
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-08-17
  • Article種別: Protocol
  • PMID: 32807908

背景

エンドサイトーシスは、全真核細胞の基本的な機能であり、栄養摂取、病原体侵入、シグナル伝達、形質膜受容体の調節、さらには神経細胞におけるシナプス形成と機能維持など、多岐にわたる細胞プロセスに不可欠であると認識されている (Sigismund et al. Physiol. Rev. 2012)。エンドサイトーシス小胞の直径は約100 nmであり、これは蛍光顕微鏡の回折限界以下のサイズであるため、形質膜上に残留する受容体クラスターと内在化後の小胞を光学的に区別することが根本的に困難であった。この課題を克服するため、研究者たちは内在化されたカーゴを細胞表面のプールから視覚的に分離する様々な代替方法を開発してきた。従来の解析法としては、強酸性緩衝液 (pH 3-4) による表面タンパク質の変性除去、固定後の抗体染色、放射標識、ビオチン標識後の還元切断などが使用されてきたが、これらはいずれも単一時点での静的スナップショットに限定され、リアルタイムでの小胞形成動態の定量的追跡は不可能であった。特に、生細胞におけるエンドサイトーシスの動態を高い時間分解能で捉える手法は未確立であり、この点がエンドサイトーシス研究における大きな知識ギャップとなっていた。

エンドサイトーシスの生細胞イメージングにはpH感受性蛍光タンパク質 (pH-sensitive fluorescent protein) の利用が有効である。Superecliptic pHluorin (SEP) はGFP (green fluorescent protein) の変異体で、細胞外pH (7.4) では明輝な蛍光を示すが、pH < 6.0では完全に消光する特性を持つ。SEPを膜タンパク質の細胞外ドメインに融合させると、pH 5.5溶液の細胞外投与時に表面のSEPのみが消光し、内在化されてpH > 6.5の小胞内に保護されたSEPは蛍光を維持する。この原理を利用して、Perrais研究室が2005年に初めて開発した「パルスpH (ppH) プロトコル」は、2秒間隔でpH 7.4/5.5を交互灌流することにより、新規形成エンドサイトーシス小胞 (EV) を単一イベントレベルで2秒の時間分解能でリアルタイム検出する革新的手法である (Merrifield et al. Cell 2005)。このプロトコルは、エンドサイトーシスが形質膜から細胞内小胞へのカーゴ移行であるという最もシンプルな操作的定義に基づいており、カーゴ特異的マーカーや特定分子のダイナミクスに関する事前仮定を必要としない点で、他の3種類のイメージング手法ファミリーと根本的に異なる。その後、半自動解析 (scission_analysis MATLABツールボックス) や機械学習 (SVM: support vector machine) ベースの全自動解析へと発展し、本プロトコル論文はその標準化と普及を目的として発表された。特に、Thottacherry et al. AnnuRevCellDevBiol 2019が指摘するように、多様なエンドサイトーシス経路の共存が明らかになる中で、特定の経路に依存しない普遍的な検出法の必要性が高まっており、従来の解析手法ではこの点が不足していた。

目的

本プロトコルは、pH感受性蛍光タンパク質(SEPなど)を結合させたカーゴタンパク質(トランスフェリン受容体など)と、pH 7.4と5.5を2秒間隔で交互に灌流する手法を組み合わせることで、新規形成エンドサイトーシス小胞 (EV) を2秒という高い時間分解能でリアルタイム検出する「パルスpH (ppH) プロトコル」の詳細な実施手順を標準化して提供することを目的とする。具体的には、(1) SEPタグ付きカーゴタンパク質のトランスフェクション、(2) pH変化と同期した生細胞タイムラプスイメージングのための装置セットアップ、(3) scission_analysis MATLABツールボックスによる定量的自動解析の全体工程を2日間で完結できる形で記述する。あわせて、ダイナミンなどの関連タンパク質のリクルートメントをCCV (clathrin-coated vesicle) 形成と同時に定量的に解析する手順も提示し、エンドサイトーシス活性や関連タンパク質の動員をリアルタイムで定量的に評価することを可能にすることを目指す。本プロトコルは、エンドサイトーシスのメカニズム研究における時間的・空間的分解能の不足を解消し、より生理学的に関連性の高い動態解析を可能にすることを意図している。

結果

ppHプロトコルの基本性能と安全性検証: 2秒間隔のpH 7.4/5.5交互灌流により、新規形成クラスリン被覆小胞 (CCV) を個別イベントとして2秒の時間分解能でリアルタイム検出することに成功した。pH 5.5灌流終了時点でのHeLa細胞 (TfR-SEP発現) の蛍光変化を10 Hz撮影で定量した結果、pH交換は細胞の端で約0.5秒、中央でも2秒以内に完了した (Fig 3b, c)。5種の安全性検証実験を実施した。(1) 全細胞株でのイベント頻度の経時的安定性 (40分間一定) が確認された。(2) pH変化を受けない対照細胞との同等のトランスフェリン内在化量 (実測値での差異なし) が示された。(3) 15分間ppH施行後の細胞質pHの変化はΔ0.2単位のみであった。(4) 電子顕微鏡による被覆小窩の数・深さの不変性が確認された。(5) ほとんどの細胞 (神経細胞を除く) でのpH 5.5刺激による電流応答の欠如が示された。これらの結果がプロトコルの生理的無害性を多角的に証明している。

ダイナミンリクルートメントの精密定量: NIH 3T3細胞にTfR-SEPとdynamin1-mCherry (Dyn1-mCh) を共発現させ6分間 (180フレーム) のppH記録を行った代表例では、600件のCCVイベントが検出され、頻度は0.08 events/min/µm2であった (Fig 2b, c)。512件 (terminal 223件・non-terminal 232件・undecided 57件) の平均蛍光プロファイルを解析すると、Dyn1-mCherry蛍光は時刻0 (CCV検出) から-4秒にピークを示し、その後急速に低下した (Fig 2d)。95%信頼区間 (200回ランダムシフト法) との比較でDyn1の特異的リクルートメントが統計的に確定された。個別イベントのDyn1ピーク時刻ヒストグラムでは-4秒前後に明確な集積が示され、ダイナミンがCCVネック切断 (scission) の直前2-4秒に最大集積し、切断後速やかに解離するというダイナミクスが初めてリアルタイム可視化された (Fig 2e)。なお、CCS (clathrin-coated structure) の消失 (第3ファミリー法) をscission時刻の代理指標として用いた場合、scission発生からCCS消失まで7 ± 22秒 (平均 ± 標準偏差、n=107イベント/6細胞) の誤差が生じることも定量化されており、ppHが他の手法より大幅に精度が高いことが示された。

多様なカーゴへの応用実績: TfR-SEP (CME: clathrin-mediated endocytosis、構成的高速内在化) が最も検証されているが、以下のカーゴでも応用が確認されている: β2アドレナリン受容体 (リガンド誘発性内在化)、GluA1・GluA2 AMPA型グルタミン酸受容体 (シナプス可塑性関連)、µオピオイド受容体、GPI (glycosylphosphatidylinositol) 結合カーゴ (クラスリン非依存性エンドサイトーシス)。AMPA受容体では撮影前のpH 5.5下での光退色によりバックグラウンドを除去する前処理が必要である。ニューロンへの応用では、酸感受性イオンチャンネル活性化がpH 5.5で生じるが、チャンネルブロッカー投与またはトリパンパープル代替緩衝液使用で解決可能である。GTPγSや電位固定ピペット透析薬物によるエンドサイトーシス阻害も定量的に検出可能であった。

二重色ppHによる複数カーゴの同時追跡: SEP (緑、pKa 7.2、蛍光変化比50倍) とpHuji (赤色pH感受性蛍光タンパク質、pKa 7.7、蛍光変化比22倍) の同時撮影により、異なる膜タンパク質が同一CCVに同時取り込まれるか否かを単一小胞レベルで解析可能である (Table 1)。Virginia Orange (有機色素、pKa 6.7、蛍光変化比36倍) はSNAPタグ・抗体への特異的標識が可能で第3の選択肢となる。cypHerやpHrodo Red dextranは動的範囲が不十分なため不適と判断された。

自動解析システムの性能: SVM (support vector machine) 分類器は26細胞から収集したn=9,621イベントを用いて学習され、人間オペレーターが確認・棄却した判断をほぼ再現する精度を達成した (Fig 4d)。シグナル/ノイズ比 > 5 かつ pH 7.4クラスターとの重複率 > 0.2 の2基準による初期スクリーニング後にSVM分類を実施することで、偽陽性の大部分 (追跡不能スポット・バックグラウンド近接シグナル) を排除できる。全自動解析により1細胞あたり約15分で定量データが得られ、約40種のCME関連タンパク質のリクルートメントプロファイルを5-7細胞/タンパク質で体系的に解析する大規模スクリーニングが実証されている。

考察/結論

先行研究との違い: ppHプロトコルは「エンドサイトーシスとは形質膜から細胞内小胞へのカーゴ移行である」という最もシンプルな操作的定義に基づく手法であり、カーゴ特異的マーカーや特定分子のダイナミクスに関する事前仮定を必要としない点が、他の3種類のイメージング手法ファミリーと根本的に異なる。第1ファミリー (固定・透過処理法) は生細胞イメージング不可、第2ファミリー (エンドソーム酸性化モニタリング) は刺激依存性エンドサイトーシスと細胞スケール計測という制約、第3ファミリー (クラスリン動態追跡) はscission時刻の精度が低く (誤差7 ± 22秒) クラスリン非依存性経路への不適用という限界を持つのに対し、ppHは2秒のscission時刻精度と単一小胞レベルの空間精度を非仮定的に達成する。この点は、これまでの手法が抱えていた時間的・空間的分解能の不足を克服するものであり、特にダイナミンのような分子の動態をscissionイベントと同期して高精度に解析できる点で対照的である。

新規性: 本研究で初めて、ダイナミンがCCVネック切断の直前2-4秒に最大集積し、切断後速やかに解離するというダイナミクスをリアルタイムで可視化し、定量的に示した。これは、エンドサイトーシスにおけるダイナミンの役割に関する新規の知見であり、その分子メカニズムの理解に大きく貢献する。また、同一細胞内での処置前後比較 (0.5 Hz・40分間定量) が可能な点は他の定量法にない強みであり、薬物・siRNA (small interfering RNA)・細胞内透析等の介入実験に適している。

臨床応用: 本プロトコルは、神経科学領域においてシナプス小胞再内在化、樹状突起でのAMPA受容体内在化、軸索終末での神経調節物質受容体サイクリングなど、シナプス可塑性機序の解明への強力な貢献が見込まれる。また、ゲノム編集技術の進歩によりタグ付き受容体の内在性発現細胞株が実現すれば、過剰発現の人工的影響を排除した高スループット定量アッセイへの展開が可能となり、創薬スクリーニングなどへの臨床応用が期待される。

残された課題: 主要な制約は高速灌流システム (ローカル潅流ピペット + マイクロマニピュレーター) の必要性であり、すべての顕微鏡セットアップに組み込みやすいとは言えない点が今後の課題である。マイクロフルイディクスチャンネルが代替として提案されている。細胞外空間へのアクセスが困難なシステム (上皮細胞の側底側・組織スライス等) では高速溶液交換が達成できないため適用不可である。また、pH 5.5灌流中に形成された小胞は細胞外pHが既に低いため検出されないという原理的制約があり、CCS消失イベントとの照合から54%の小胞しか検出されないことが示されているが (n=107/197イベント)、検出数が多いため統計的精度は維持される。今後は、パッチクランプ法との組み合わせ、超解像顕微鏡 (SPTPALM) との統合、格子光シート顕微鏡での三次元in vivo展開も期待される。

方法

細胞・生物材料の準備: NIH 3T3 (ECACC #93061524)、BSC1 (ECACC #85011422)、HeLa (ECACC #93021013) をはじめ、COS7、HEK293T、マウス胎仔線維芽細胞 (MEF)、初代ニューロン・アストロサイト培養などの多様な接着性細胞が使用可能である。細胞をFugene 6 (1.5 µg TfR-SEPプラスミド DNA、6 µl Fugene 6) または電気穿孔法でトランスフェクションし、18 mm丸型ガラスカバースリップ (poly-L-lysine コーティング) 上に低密度播種 (10-20%コンフルエンス) する。共トランスフェクション実験では、mCherry融合タンパク質 (例: dynamin1-mCherry、Addgene #27697) を0.5 µg追加する。細胞株はマイコプラズマ汚染がないことを定期的に確認した。

イメージング緩衝液の調製: HBS (Hepes buffered solution) は、135 mM NaCl、5 mM KCl、0.4 mM MgCl2、1.8 mM CaCl2、1 mM D-glucose、20 mM HEPESを含み、NaOHでpH 7.4に調整し、浸透圧を310-315 mosmに設定した。MBS (MES buffered solution) は、同イオン組成で20 mM MESによりpH 5.5に調整した。いずれも0.22 µmフィルター滅菌後4°C保存 (最長6ヶ月) した。

灌流システムの構築: ローカル潅流系の中核は、シータガラスキャピラリー (Harvard Apparatus TG150) から製作した2チャンネル潅流ピペットであり、ダイヤモンドナイフによる精密切断で平坦なチップを作製する。HBS/MBSラインをLEE製3方向電磁弁 (LHDA1233115H) でコンピュータ制御し2秒間隔で切替える。流速は各ライン5-6 ml/hで合計10-12 ml/h (約3 µl/秒) とした。バス灌流は別系統のペリスタルティックポンプ (Gilson MINIPULS 3) で2 ml/minを維持し、ローカル潅流による溶液の希釈 (pH変化の鈍化) を防いだ。Sutter MP225モーター式マイクロマニピュレーター (または手動4軸精密マニピュレーター) でピペット先端を観察細胞の中心から約200 µm離れた最適位置に固定する。

TIRF顕微鏡セットアップ: Olympus IX71倒立顕微鏡にTIRF照明ユニット、473 nm/561 nmレーザー (各100/50 mW)、Olympus UAPON150X (NA 1.45) または UPLAPO100X (NA 1.49) 対物レンズを搭載した。2色同時撮影はTwinCam 2カメラシステム (Cairn Research) と560dclp ダイクロイックミラーを用い、2台のEMCCDカメラ (QuantEM 512SC, Princeton) で並列取得した。マルチカラー実験ではTetraSpeck微小球 (0.2 µm) を用いたビーズ校正画像を取得し、色間の空間的ズレを補正する変換行列を算出した。

撮影手順: (1) カバースリップを37°Cに予熱したHBSで洗浄後、加熱チャンバー (Warner Instruments RC-41LP + QE-1) に装着した。(2) TIRF照明・焦点安定化系 (ZDC) を起動し、TfR-SEPのスポット様蛍光染色が確認できる細胞を選択した。(3) 潅流ピペットを最適位置にセット後、タイムラプス記録開始 (露光100 ms/フレーム、0.5 Hz [2秒間隔]、5-40分 [150-1,200フレーム]) した。奇数フレームをpH 7.4・偶数フレームをpH 5.5の条件下で取得した。(4) pH 7.4画像では形質膜上と非酸性内在化小胞の両方が蛍光を示し、pH 5.5画像では表面SEPのみ消光し内在化済み小胞のみが蛍光として残る。この差分が新規形成CCVを示す。(5) 1カバースリップあたりHBS浸漬1時間以内、薬剤処理実験では1細胞/カバースリップとした。

AMPA受容体等の前処理: 細胞内の軽酸性小器官 (ER等) に存在する受容体 (AMPA型グルタミン酸受容体等) はpH変化に抵抗性のバックグラウンド蛍光を生じるため、撮影前にpH 5.5溶液灌流下で光退色処理を実施した。この際、表面SEPはpH 5.5で消光しているため退色から保護され、内在化済み小胞に限局したバックグラウンドのみ選択的に消去される。

scission_analysis MATLABツールボックス (Steps 24-43): MATLAB 2018b上で動作するscission_analysisツールボックス (MathWorks Central File Exchange: 72744) を用いた全13ステップの解析を実施した。主要なステップは以下の通りである: (1) Cut raw movie (色分離・pH別分割)、(2) Align bead images (色チャンネル空間補正)、(3) Segment & track (B-スプラインウェーブレット変換による閾値処理でpH 5.5画像のスポットをセグメント化・追跡、各イベントにユニークID付与)、(4) Cleanup (S/N > 5 かつ pH 7.4画像との重複率 > 0.2 の候補スクリーニング)、(5) Browse (手動確認・棄却)、(6) SVM学習・分類 (9,621イベントで学習済みSVMによる全自動分類)、(7) Sort events (関心領域の選択)、(8) Freq / NormFreq / Freq per mask (頻度定量・面積正規化)、(9) Quantify fluo (小胞前後±80秒の蛍光変化定量)、(10) Interleave & correct red (緑→赤チャンネル漏れ補正、典型値3-4%)、(11) Randomize (200回ランダムシフトによる95%信頼区間算出)、(12) Classify term/non term (terminal/non-terminal CCVの分類)、(13) Pool cells / Pool freq (複数細胞データの統合)。1細胞あたりの自動解析所要時間は約15分であった。統計解析には、95%信頼区間 (confidence interval) の算出に200回ランダムシフト法が用いられた。