- 著者: Konagai A, Yoshimura K, Hazama S, Yamamoto N, Aoki K, Ueno T, Fujioka M, Iijima H, Kato M, Uchida M, Wada T, Inoue M, Asao T, Fuse M, Wada S, Kuramasu A, Kamei R, Takeda S, Yamamoto S, Yoshino S, Oka M, Nagano H
- Corresponding author: Kiyoshi Yoshimura (Experimental Therapeutics, National Cancer Center Hospital / Division of Cancer Immunotherapy, NCCRO, Tokyo 104-0045; kiyoshim@ncc.go.jp)
- 雑誌: Anticancer Research
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-06-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 28739693
背景
NKG2D (natural killer group 2, member D) は、ナチュラルキラー (NK) 細胞、CD8+ T細胞、およびγδ T細胞といった免疫エフェクター細胞の細胞表面に発現する主要な活性化受容体である。そのリガンドであるNKG2DL (NKG2D ligands) が腫瘍細胞上に発現すると、NKG2Dとの相互作用を介してNK細胞やT細胞を活性化し、抗腫瘍免疫応答に寄与することが知られている。しかし、免疫エフェクター細胞がNKG2DLに慢性的に曝露されると、受容体であるNKG2Dが細胞表面から内包化・分解されて下方調節 (down-regulation) され、結果として腫瘍の免疫回避を招くというパラドキシカルな特性も報告されている Raulet et al. NatRevImmunol 2003。この二面性は、NKG2DLが免疫刺激と免疫抑制の両方の効果を持ちうることを示唆している。
マウスにおける主要なNKG2DLには、Rae-1 family (retinoic acid early inducible gene-1 family、Rae-1α〜ε)、H60 (histocompatibility antigen 60)、Mult-1 (murine UL16-binding protein-like transcript 1) がある。これらのリガンドは、ウイルス感染や細胞内ストレス (DNA損傷など) によって誘導され、腫瘍細胞に広く発現する。Mult-1は正常組織にも発現する点でRae-1 familyやH60とは異なる。一方、ヒトの主要NKG2DLはULBP1〜6 (UL16 binding protein 1-6) およびMICA/B (MHC class I chain-related proteins A and B) である。NKG2DLはストレス応答誘導タンパク質として、正常細胞ではほとんど発現せず、腫瘍細胞での選択的発現が免疫認識の標的となる。しかし、過剰なNKG2DL刺激によるNKG2Dのdown-regulationは、腫瘍が免疫系から逃れるメカニズムとして利用される可能性も指摘されている。
著者らの先行研究では、切除された非小細胞肺がん (NSCLC) 組織において、NKG2Dを発現する免疫細胞がNK細胞ではなくCD8+ T細胞であることが示されており、本研究はCD8+ T細胞のNKG2D機能に焦点を当てた。NKG2DL/NKG2D相互作用がT細胞活性化のメカニズムにおいて果たす役割、および免疫療法の効果に与える影響については、未解明な点が多く残されている。特に、腫瘍細胞のNKG2DL発現パターンが、免疫療法の抗腫瘍効果にどのように影響するかは、これまで十分に検討されてこなかった。先行研究である Raulet et al. (2003) や Groh et al. (2002)、Dasgupta et al. (2005) などの報告はあるものの、治療介入時における詳細な免疫動態の解析は不足している。
PSK (protein-bound polysaccharide-K、クレスチン) は、カワラタケ (Coriolus versicolor CM101) 由来の免疫活性化多糖類であり、胃腸がんや小細胞肺がんの補助免疫療法として臨床的に使用されている。PSKのToll様受容体 (TLR2) アゴニスト活性とその後の自然免疫・獲得免疫活性化機序は報告されているが、NKG2DL/NKG2D相互作用がPSK免疫療法の奏効性に与える影響は未解明であった。本研究では、PSKを免疫活性化ツールとして利用し、腫瘍のNKG2DL発現パターンがin vivoのT細胞免疫活性に与える影響を系統的に解析することで、この知識のギャップを埋めることを目指した。特に、NKG2DL発現が免疫抑制因子として作用し、腫瘍の免疫回避に寄与する可能性について、詳細な検討が不足しており、この分野の研究は手薄であった。
目的
本研究の目的は、担癌マウスモデルを用いて、腫瘍細胞におけるNKG2DLの発現パターンが免疫活性化剤PSKの抗腫瘍効果に与える影響を明らかにすることである。具体的には、NKG2DLであるRae-1 familyおよびH60の発現が、PSK刺激下でのCD8+ T細胞の活性化にどのように関与するかを解明する。さらに、混合腫瘍モデルを構築し、NKG2DL発現腫瘍の存在が全身の免疫環境に変容を与え、特にPSK感受性腫瘍への効果に及ぼす影響を評価することを目的とした。これにより、NKG2DL/NKG2D相互作用が免疫療法の奏効性を左右する重要な因子であるという仮説を検証し、将来的なバイオマーカー開発や治療戦略の最適化に資する基礎的知見を提供することを目指す。
結果
NKG2DL発現プロファイルとMHC class I発現の細胞株間差異: 腫瘍細胞株のNKG2DL発現プロファイルをフローサイトメトリーで解析した結果、明確な3つのパターンが同定された (Figure 2)。Meth-AおよびS180細胞株は、Rae-1 familyおよびH60のいずれも発現しないNKG2DL陰性群に分類された。4T1およびCT26細胞株はH60のみを発現し、Rae-1 familyは陰性であった (H60単独発現群)。K-BALBおよびISOS-1細胞株は、Rae-1 familyとH60の両者を発現する群であった (両NKG2DL発現群)。RAG細胞株はRae-1を発現したがH60は陰性であったものの、BALB/cマウスへの移植定着が低く、抗腫瘍効果の評価には至らなかった。これらのNKG2DL発現パターンは、後述するPSKへの奏効性の差異を解釈する上で重要な基盤となった (Table I)。また、MHC class I分子 (H-2D d、H-2K d、H-2L d) は、Meth-A、4T1、K-BALBの全細胞株で高発現しており (Figure 3)、PSK奏効性の差異がMHC class I発現量の違いによる細胞傷害性T細胞認識能の差に起因するものではないことが示された。
PSK抗腫瘍効果とNKG2DL発現パターンの相関: PSKの抗腫瘍効果の程度は、腫瘍細胞のNKG2DL発現パターンと明確な相関を示した (Figure 1)。NKG2DL陰性腫瘍であるMeth-Aを移植したマウス (n=9 mice) では、PSK投与により有意な腫瘍増殖抑制が認められた (p=0.0001 vs saline対照群)。同様の傾向はS180 (NKG2DL陰性) でも観察された。H60のみを発現する4T1腫瘍を移植したマウス (n=7 mice) では、PSKにより腫瘍体積は減少傾向を示したものの、対照群との統計的有意差は得られなかった。CT26 (H60のみ発現) でも同様の弱い傾向が認められた。一方、Rae-1 familyとH60の両者を発現するK-BALB腫瘍を移植したマウス (n=8 mice) では、PSKはほとんど効果を示さず、腫瘍増殖は対照群と同等であった。ISOS-1 (両NKG2DL陽性) でも同様の無効性が確認された。これらの結果から、NKG2DL陰性腫瘍は高PSK応答性、H60単独発現腫瘍は弱PSK応答性、Rae-1 familyとH60両発現腫瘍はPSK無効という一貫したパターンが確認された (Table I)。
CD8+ T細胞のNKG2D発現に対する腫瘍NKG2DL発現の影響: CD49b+ NK細胞上のNKG2D発現は、Meth-A移植マウス、K-BALB移植マウス、および正常マウス (各n=4 mice) 間で有意差が認められず (全群間p>0.05)、NK細胞のNKG2D発現は担癌状態に影響されないことが示唆された (Figure 4A)。これに対し、CD8+ T細胞上のNKG2D発現は、腫瘍の有無および種類によって異なる挙動を示した (Figure 4B)。Meth-A移植マウスでは、CD8+ T細胞のNKG2D発現が正常マウスと比較して有意に高かった (p<0.0001)。これは、腫瘍の存在がCD8+ T細胞のNKG2D発現を誘導することを示唆する。一方、K-BALB移植マウスでは、Meth-A移植マウスと比較してCD8+ T細胞のNKG2D発現が有意に低かった (p=0.0004)。PSK非投与下では、Meth-A移植マウスとK-BALB移植マウスのCD8+ T細胞内IFN-γ産生に有意差がなく (Figure 4C)、腫瘍NKG2DL発現がベースラインのIFN-γ産生を抑制するわけではないことが示された。
PSK投与によるCD8+ T細胞活性化のNKG2DL依存性: Meth-A移植マウスにPSKを投与した群 (n=5 mice) では、CD8+ T細胞のNKG2D発現がMeth-A+saline群と比較して有意に上昇した (p=0.0159)。同時に、細胞内IFN-γ産生もMeth-A+saline群より有意に増加した (p=0.0079) (Figure 4D, F)。これらの両指標における有意な上昇は、PSKがNKG2DL非発現環境でのみCD8+ T細胞を活性化することを示す。対照的に、K-BALB移植マウスにPSKを投与しても (n=4 mice)、K-BALB+PSK群とK-BALB+saline群の間でNKG2D発現 (Figure 4E) およびIFN-γ産生 (Figure 4G) のいずれにも有意な変化は認められなかった。この結果は、NKG2DL発現 (特にRae-1 familyとH60の両者発現) が、PSK刺激下でのCD8+ T細胞活性化を完全に阻害する決定的な所見であった。
混合腫瘍モデルにおける全身免疫環境変容の実証: K-BALB腫瘍をday -7に先行移植した後、day 0にMeth-A腫瘍を移植し、day 1からPSKを投与した混合腫瘍モデルを評価した (Figure 5A)。その結果、Meth-A単独移植+PSK群 (n=8 mice) で認められた腫瘍増殖抑制効果 (p=0.0004 vs Meth-A saline対照) が完全に消失した (Figure 5B)。このモデルでは、K-BALBのみならずMeth-Aの増殖も抑制されなかった。このことは、NKG2DL発現腫瘍 (K-BALB) が先行して存在することで、元来PSK感受性であるNKG2DL陰性腫瘍 (Meth-A) への効果まで完全に抑制されるという、全身性の免疫環境変容がin vivoで実証されたことを意味する。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究の中心的知見は、腫瘍細胞のNKG2DL発現パターンがPSK免疫療法の奏効性を規定し、特にRae-1 familyおよびH60の発現がCD8+ T細胞を介した免疫活性化を阻害することである。NK細胞におけるNKG2Dの持続的な刺激によるdown-regulationは従来から知られていたが Raulet et al. NatRevImmunol 2003、本研究はCD8+ T細胞上のNKG2DがNKG2DL非発現腫瘍においてPSK刺激後に増強されるという新規の機序を示した。NK細胞ではなくCD8+ T細胞がPSK免疫療法の主要エフェクターであるという本研究の知見は、著者らのNSCLC切除組織におけるNKG2D発現リンパ球がCD8+ T細胞に偏在していたという臨床観察と整合する。先行研究として、Aketa et al. (Int J Cancer 2013) は5-FU処理がMC38細胞でRae-1およびH60を上方調節し、NKG2D依存的な細胞傷害を増強することを示したが、これはNKG2DLの急性誘導と慢性発現の差違が、免疫活性化と抑制を区分している可能性を示唆し、本研究の知見と対照的である。
新規性: 本研究は、in vivoのPSK刺激後のCD8+ T細胞活性化にNKG2DL発現が与える影響を直接的に解析し、NKG2DL発現が免疫抑制因子として作用してPSKの治療効果を完全に阻害することを本研究で初めて示した。特に、NKG2DL非発現環境においてのみ、PSKがCD8+ T細胞上のNKG2D発現およびIFN-γ産生を有意に増強するという分子機序を新規に同定した。
臨床応用: 混合腫瘍モデルの知見は臨床的含意に富む。NKG2DL発現腫瘍の存在が全身免疫環境を変容させ、PSK感受性腫瘍への効果を消失させることは、複数の腫瘍病変が共存するがん患者 (臓器転移や多発転移例) において、個々の病変のNKG2DL発現パターンを考慮した免疫療法戦略の必要性を示唆する。例えば、NKG2DL高発現の転移巣が存在する患者では、全身免疫系がNKG2DLによって抑制状態に置かれており、PSKのような免疫活性化療法が効果を発揮できない可能性がある。これは単純な腫瘍量の問題ではなく、NKG2DLという特定の分子が全身免疫を変容させるという分子機序的観点から重要な知見であり、将来的なバイオマーカー開発や治療戦略の最適化といった臨床応用、あるいは臨床的有用性に資する。
残された課題: 今後の検討課題として、ヒト腫瘍での主要NKG2DLはULBP1〜6およびMICA/Bであり、マウスのRae-1 familyやH60との直接的な対応関係が明確でないというlimitationが残されている。溶解型sNKG2DL (sMICA/B、sULBPなど) の血清中濃度がNKG2D down-regulationを介して免疫回避に寄与することはヒトがんでも報告されており、本研究の知見の臨床的外軸可能性を高める間接的な証拠となるが、ヒト臨床検体を用いたさらなる検証が必要である。また、Rae-1 familyとH60の両者発現がH60単独発現よりも強い免疫抑制を示したことから、NKG2DLの種類の組み合わせと量的な側面が奏効予測に重要であると考えられ、詳細な分子メカニズムの解明が今後の研究方向性となる。
方法
細胞株: 実験には、BALB/c系統由来の8種類の腫瘍細胞株を使用した。具体的には、メチルコラントレン誘発線維肉腫であるMeth-A (methylcholanthrene-induced fibrosarcoma)、肉腫のS180、自然発生乳腺腫瘍の4T1、大腸腺癌のCT26 (colon tumor 26)、肉腫のK-BALB (Kirsten sarcoma virus-transformed BALB/3T3)、SCID (severe combined immunodeficiency) マウス由来血管肉腫のISOS-1、腎腺癌のRAG、およびC57BL/icrf由来多倍体癌のCMT93である。全ての細胞株はAmerican Type Culture Collection (ATCC) より購入し、DMEM-F12培地に10%熱不活化ウシ胎児血清 (FBS) を添加し、37℃、5% CO2の条件下で培養した。
動物実験: 8〜10週齢の雌BALB/cマウス (CLEA Japan Inc.) を使用した。各腫瘍細胞株を1×10⁶ cells/mouseで皮下移植した。PSKは腫瘍移植の翌日 (day 1) から週3回、腹腔内投与した (n=7〜9 mice)。腫瘍体積はカリパスを用いて経時的に測定し、A×B²×0.5の式で算出した (Aは最大径、Bは最小径)。腫瘍体積が6,000 mm³に達するか、腫瘍壊死が認められた時点でマウスは安楽死させた。コントロール群のマウスには、同様のスケジュールで生理食塩水 (saline) を腹腔内投与した。RAGおよびCMT93細胞株はBALB/cマウスへの定着率が低く、移植実験が成立しなかったため、最終的な解析対象から除外された。
フローサイトメトリー: 各腫瘍細胞株におけるRae-1 family、H60、およびMHC class I分子 (H-2D d、H-2K d、H-2L d) の細胞表面発現を、PE標識特異的抗体を用いてFACSCaliburで解析した。PSK投与開始から4週後に、マウスから採血および脾臓細胞を回収した。脾臓細胞 (2×10⁶ cells) は、brefeldin Aで5時間処理した後、PMA (5 ng/mL) とA23187 (250 ng/mL) で刺激した。その後、CD49b+ NK細胞およびCD8+ T細胞上のNKG2D発現と、細胞内IFN-γ (interferon-gamma) 産生をFlowJoソフトウェアで解析した。表面抗原解析では、赤血球をBD Pharm Lyseで溶血処理後、CD8a、CD49b、NKG2D抗体で染色した。
混合腫瘍モデル: K-BALB細胞 (NKG2DL両者陽性) をday -7に先行して皮下移植し、Meth-A細胞 (NKG2DL両者陰性) をday 0に皮下移植するモデルを設定した。PSKはday 1から週3回投与した (n=5〜9 mice)。Meth-A単独移植群を対照群とした。
統計解析: 全てのデータはGraphPad Prism v5.0を用いて解析した。2群以上のデータ解析には一元配置または二元配置分散分析 (ANOVA) を用い、Bonferroniの多重比較検定で群間の有意差を評価した。2群間の比較にはMann-Whitney U検定を用いた。p値が0.05以下を統計的に有意と判断した。結果は平均値±標準誤差 (SE) で表示した。