- 著者: David H. Raulet
- Corresponding author: David H. Raulet (Department of Molecular and Cell Biology and Cancer Research Laboratory, University of California, Berkeley, CA 94720-3200, USA; raulet@uclink4.berkeley.edu)
- 雑誌: Nature Reviews Immunology
- 発行年: 2003
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 14523385
背景
NKG2DはNKC (natural killer gene complex) にコードされるII型膜貫通型ホモ二量体受容体であり、NKG2A (natural killer cell group 2A)・NKG2C (natural killer cell group 2C)・NKG2E (natural killer cell group 2E) と同一遺伝子複合体内に位置しながら、配列・結合特異性・機能の点でこれらとは根本的に異なる独立した受容体ファミリーを形成する。NKG2Dの膜貫通ドメインには荷電アミノ酸残基が存在し、これが刺激性免疫受容体としての機能を最初に示唆した。1990年代後半から2000年代初頭にかけて、NKG2Dのリガンドとして遠縁のMHCクラスI様分子が次々と同定されたが、なぜ複数の多様なリガンドファミリーが存在するのか、またNKG2Dシグナリングがどのように細胞種によって異なる機能を実現するのかについては統合的な理解が手薄であった。Diefenbach et al. によるマウスリガンドRae1・H60の同定と腫瘍免疫活性化の実証 (Diefenbach et al. NatImmunol 2000) を経て、NKG2D系が「感染・腫瘍形質転換・細胞ストレスという病理状態でのみ誘導される自己由来シグナル」を認識するという概念が台頭しつつあった。Janeway & Medzhitov による自然免疫認識の体系的研究 (Janeway et al. AnnuRevImmunol 2002) がPAMP (pathogen-associated molecular pattern) 認識という外来パターン認識の枠組みを確立した一方で、「自己由来のストレスリガンド」を認識するNKG2Dがどのように当該枠組みと整合・乖離するかは gap in knowledge として残っていた。さらに、Dunn et al. の癌免疫編集 (cancer immunoediting) 研究 (Dunn et al. NatImmunol 2002) が腫瘍免疫サーベイランスの重要性を示す中で、NKG2Dが腫瘍免疫において長期CD8+T細胞記憶をどのように誘導するかについては何が足りなかったか、すなわち統合的な分子機序の記述が不足していた。
目的
ヒト・マウスにおけるNKG2Dの細胞種別発現パターン、MICA (MHC class I chain-related protein A)/MICB・Rae1/H60/Mult1・ULBP (UL16-binding protein)/RAET1ファミリーリガンドの構造的多様性と発現調節機構、DAP10/DAP12アダプター分子を介する二経路シグナリングと細胞種依存的機能差、腫瘍サーベイランスにおける長期免疫記憶誘導、CMVウイルスによる免疫回避機構を、2003年時点での文献を統合して体系化し、NKG2Dシグナリングの進化的意義と今後の研究課題を明示する。
結果
NKG2D受容体の細胞種別発現:NK細胞で恒常発現、CD8+T細胞・γδT細胞では活性化・文脈依存的に誘導され種間差異が大きい (Table 1): NK細胞はヒト・マウスともにほぼ100%がNKG2Dを恒常発現し、ヒトではIL-15曝露で発現量が増加する。CD8+T細胞でのNKG2D発現には種間で顕著な差があり、マウスではナイーブ状態では発現せず、TCR刺激・ウイルス感染・細菌感染後に誘導されて抗原特異的記憶CD8+T細胞では維持されるのに対し、ヒトでは活性化前のナイーブCD8+T細胞を含むほぼ100%が恒常発現し、共刺激分子CD28を欠くCD28陰性サブセットにも発現する。γδT細胞では、マウスの脾臓γδT細胞の約25%・表皮DETC (dendritic epidermal T cell) のほぼ100%が陽性であるのに対し、マウス腸管上皮内γδT細胞は陰性という選択的発現パターンを示す。ヒト末梢血γδT細胞はほぼ100%・腸管上皮内γδT細胞も低レベル発現 (IL-15で増加) を示す。マウスNK1.1+T細胞の大部分もNKG2Dを発現する。活性化マウスマクロファージ (LPS・IFN-α/β・IFN-γ処理後) は表面発現するが、ヒト単球・マクロファージには検出されないという種差がある。関節リウマチ患者 (n=8例の初期症例報告) の一部のCD4+T細胞でも異常発現が報告されており、自己免疫における関与が示唆される。
NKG2Dリガンドの驚くべき多様性:二大系統の構造と系統関係 (Fig 2, Fig 3):
NKG2Dリガンドは大別して2つの系統に分類される。第一系統はヒトMICA (MHC class I chain-related protein A)・MICB (MHC class I chain-related protein B)であり、MHC遺伝子複合体内にコードされ、MHCクラスI分子のα1・α2に加えてα3様ドメインを持つがβ2ミクログロブリンとは結合しない。第二系統はマウスのRae1 (retinoic acid early transcript 1)・H60 (histocompatibility 60 antigen)・Mult1 (mouse UL16-binding protein-like transcript 1) とヒトのULBP (UL16-binding protein)/RAET1ファミリーであり、マウス第10染色体・ヒト第6染色体長腕にそれぞれクラスターを形成する、機能的に新たに認識された遺伝子複合体を構成する。Rae1はα〜εのn=5アイソフォームが存在し、アイソフォーム間のアミノ酸同一性は98%以上と高い一方、Rae1・H60・Mult1のペアワイズ比較では20-28%の同一性しかない。ヒトRAET1は機能遺伝子n=6と偽遺伝子n=2からなり、ペアワイズ比較での最低同一性は35%に達する多様性がある (Fig 2)。構造的には、MICA・Rae1β・ULBP3のいずれもα1・α2ドメインがMHCクラスI様の三次元構造を持つがペプチド結合溝が閉じており、小分子を提示しない。NKG2Dに対する平衡解離定数 (KD) はリガンドにより大きく異なり、最低親和性リガンドで1 μM・最高親和性のH60で4 nM と~250-fold の幅に及ぶ (Fig 3)。結晶構造解析により、NKG2DはMICA・Rae1β・ULBP3の全てに対してTCR-MHC複合体に類似した対角方向での結合を示し、同一の受容体残基が異なるリガンドとの接触を支配しているため、NKG2Dはリガンド間で大きな立体配座変化 (induced fit) を必要としない。
リガンド発現調節:正常組織では低発現・抑制、腫瘍・感染・細胞ストレスで誘導 (Fig 4): MICA・MICBは正常成人では腸管上皮細胞のみ発現するが、上皮系を中心とした腫瘍細胞株 (n=20株以上のパネル) の>50%でMICA/MICBが誘導発現し、原発腫瘍組織でも広く検出される。腫瘍形質転換に伴う熱ショック転写因子の活性化がMICA/MICB遺伝子プロモーターの熱ショック応答配列を介して発現誘導を引き起こすと考えられている。HCMV (human cytomegalovirus) 感染は一次線維芽細胞・血管内皮においてMICA/MICB・ULBPの発現を誘導し、大腸菌接着素AfaEのCD55結合やMycobacterium tuberculosis感染によってもMICAが誘導される。マウスRae1は正常成体組織ではほぼ非発現だが胎仔脳に豊富に存在し、各種腫瘍細胞株・MCMV (mouse cytomegalovirus) 感染線維芽細胞・発がん剤処理皮膚組織でも転写量が増加する。H60はBALB/cマウス胸腺細胞にのみ高発現する特殊なリガンドで、成熟リンパ球がアクセスしにくい胸腺という解剖学的環境がH60によるNK細胞自己反応性の回避に寄与すると考えられる。ULBPの一部はmRNAレベルでは多くの正常細胞に発現するが、細胞表面発現は低く転写後・細胞表面レベルでの調節が示唆される。この発現パターンの共通原則は「細胞自身が病理的変化を認識してリガンドを発現することで免疫系に警告する」という、TLRが外来パターンを認識するロジックとは根本的に異なる自己由来危険シグナル認識の枠組みを体現している。
NKG2Dシグナリングの二経路機構:DAP10がT細胞共刺激を担い、DAP12がNK細胞一次活性化を達成する細胞種依存的分担 (Fig 5): NKG2DはITAM (immunoreceptor tyrosine-based activation motif) を欠くアダプタータンパク質DAP10 (DNAX-activating protein of 10 kDa) と会合してPI3K (phosphatidylinositol 3-kinase) p85サブユニット・AKTを活性化する。このシグナリングはCD28・ICOS (inducible co-stimulator)といった共刺激受容体の経路に類似している。マウスのみに存在するスプライスバリアントNKG2DS (long型より細胞質ドメインが13アミノ酸短い) はDAP10に加えてDAP12 (DNAX-activating protein of 12 kDa) とも会合し、DAP12のITAMがSYK (spleen tyrosine kinase)・ZAP70 (zeta-chain-associated protein kinase 70) チロシンキナーゼを招集してIFN-γ産生と最適な細胞傷害活性を誘導する。T細胞はDAP12を発現しないためNKG2DL-DAP10経路のみが機能してTCR媒介活性化を増強する「共刺激受容体」として働く。NK細胞・マクロファージはDAP12も発現するためNKG2D-DAP12複合体でIFN-γ産生・TNF産生・一酸化窒素産生が誘導される。DAP12欠損マウス (n=3独立実験で確認) のNK細胞では、NKG2D誘導性IFN-γ産生が障害されたが細胞傷害は標的細胞依存的に部分的に保たれ、DAP10下流のSLP76 (SH2-domain-containing leukocyte protein 76 kDa)・VAV1・RHO-RAC GTPase・PLCγ2の活性化が DAP12 非依存的な細胞傷害に寄与することが示された。未活性化NK細胞ではNKG2DSの発現が乏しくDAP10経路が主体だが、polyI:C・IL-2による活性化でNKG2DSが誘導されて両経路が併存する活性化NK細胞が形成される (Fig 5)。ヒトNK細胞ではDAP12との会合・NKG2DS相当の短型は同定されておらず、種差の機序は未解決である。
腫瘍免疫サーベイランス:NKG2Dリガンド発現による腫瘍拒絶と長期CD8+T細胞免疫記憶誘導: 試験管内実験では、NKG2Dリガンドをトランスフェクションした腫瘍細胞株は、NKG2D特異的抗体による阻害で感受性が低下することからNK細胞・CD8+T細胞・γδT細胞によるin vitro殺傷に対して感受性を示した。in vivo実験では、B16-BL6 (MHCクラスI陽性・高腫瘍原性のメラノーマ細胞株)・RMA・EL4のn=3腫瘍株でRae1またはH60のトランスフェクションが同系マウスでの効率的な腫瘍拒絶をもたらし、NK細胞・CD8+T細胞依存的であることが枯渇実験で確認された。特に重要な知見として、NKG2Dリガンド発現腫瘍で免疫化されたマウスがNKG2Dリガンドを発現しない親株腫瘍細胞への再チャレンジに対しても長期免疫を持つことが示された。CD8+T細胞欠損マウスでは長期免疫が誘導されず、照射済みリガンドトランスフェクタントによっても腫瘍抗原特異的CD8+T細胞プライミングが可能であり、NKG2Dリガンドを腫瘍ワクチンのアジュバントとして利用できることを示す概念実証となった。ただしNK細胞の枯渇はT細胞プライミングを阻止せず、NKG2Dリガンドがリガンド発現腫瘍細胞表面でCD8+T細胞を直接共刺激する可能性も提唱された。腫瘍の免疫回避機構として、ヒト腫瘍がsMICA (soluble MICA) を放出してNKG2D発現をT細胞・NK細胞で全身的にダウンレギュレートする機構 (Groh et al.) が発見された。リガンド中間発現レベルでは拒絶が不完全であることから、免疫圧によるリガンド発現低下細胞の選択が腫瘍進化の一側面であることが示唆される。
ウイルス感染とNKG2D免疫回避:CMVによる多彩なリガンド抑制戦略: HCMV (human cytomegalovirus) は感染によりMICA/MICB・ULBP発現を誘導する一方で、UL16タンパク質がMICB・ULBP1・ULBP2のn=3種を選択的に細胞内コンパートメントに保持することで細胞表面発現を遮断し、NK細胞認識を妨げる。MCMV m152遺伝子産物gp40はMHCクラスI発現阻害に加えてRae1発現も抑制することが新たに示され、m152変異MCMVでは早期感染での病原性が低下してNKG2D抗体で回復したことから、gp40がRae1阻害を介して病原性を高めることが確認された (Lodoen et al. 2003)。しかしこれらの免疫回避機構は不完全であり、野生型CMV感染細胞でもNKG2D依存的なNK細胞・CD8+T細胞活性化が部分的に生じる。野生型MCMVによる感染のin vivoでのNKG2D遮断実験では早期ウイルス量が増加しなかったことから、この条件下ではMCMVがNKG2D系を効果的に回避していると解釈されるが、他の感染・マウス株・ウイルス株での詳細は今後の解明が必要とされた。
考察/結論
本ReviewはRaulet研究室 (UC Berkeley) を中心とした当時の最前線研究を統合し、NKG2D受容体-リガンドシステムを「自己由来のストレス応答シグナルに基づく多機能センチネル系」として初めて包括的に体系化した2003年時点での landmark 論文である。
これまでの研究と異なる点として: TLRが細菌細胞壁構造・ウイルスRNA中間体などの外来分子パターン (PAMP) を認識して自然免疫を活性化するのと対照的に、NKG2Dは感染・形質転換・細胞ストレスによって誘導される自己由来リガンドを認識する。既報のNKG2A/C/EがCD94とのヘテロ二量体として非古典的MHCクラスI分子 (HLA-E/Qa1) を認識するのと明確に相違し、NKG2Dは全く独立した特異性・機能を持つ別種の受容体として位置づけられる (Fig 1)。NKG2Dリガンドが「自己由来の危険シグナル (DAMPs; damage-associated molecular patterns)」として機能するという概念は、Matzingerの「危険シグナル仮説」の分子的実体を提供するものとして後の免疫学理論構築に影響を与えた。
新規な点として: DAP10 (共刺激シグナル) とDAP12 (一次活性化シグナル) の二経路が単一のNKG2D認識ユニットのスプライスバリアントによって制御されるという機序はこれまで報告されていなかった。一つの受容体が細胞の種類・活性化状態・アダプター発現パターンに応じて「一次認識受容体 (NK細胞・マクロファージ)」と「共刺激受容体 (T細胞)」という質的に異なる役割を担う「multisubunit免疫受容体の進化的合理性」の新規な実例として提示された。また、最も免疫原性が低いとされていたB16-BL6メラノーマモデルでNKG2Dリガンド発現がCD8+T細胞長期免疫記憶を誘導できることは、本研究で初めて示された概念実証であった。
臨床応用の観点から: NKG2Dリガンド発現ベクターを腫瘍ワクチンのアジュバントとして組み込む戦略の理論的基盤となり、その後の腫瘍ワクチン開発に直結する臨床的意義を持つ。sMICAによるNKG2D全身的ダウンレギュレーションという免疫回避機構は、HDAC阻害剤・DNA損傷修復阻害剤・放射線療法がNKG2Dリガンド発現を誘導し免疫チェックポイント阻害療法との相乗効果を生む一機序として後に理解されることになる (bench-to-bedside への橋渡し)。関節リウマチ患者でのCD4+T細胞へのNKG2D異常発現は、NKG2D遮断が自己免疫疾患での新規治療標的になりうることを臨床的含意として示唆した。
残された課題: 各NKG2Dリガンドをアップレギュレートする分子シグナル経路の詳細 (腫瘍形質転換・感染・各ストレス刺激が個別のリガンドをどう誘導するか) は未解明であり、今後の検討が必要とされた。ヒトNK細胞でのDAP12非依存的IFN-γ産生の機序・ヒトNKG2D短型の存在可能性も未解決であった。更なる検討として、NKG2DとTLRなど他の自然免疫認識系との動的クロストークが免疫応答の質的差異をどのように生み出すかの解明、NKG2Dキメラ抗原受容体 (CAR) を利用した養子免疫療法などの治療応用展開、そしてsMICA以外の腫瘍NKG2D免疫回避機構の同定が future research として提示された。limitation として、当時は腫瘍免疫サーベイランスにおけるNKG2Dリガンドの種類・発現量の閾値と拒絶効率の定量的関係、また腫瘍微小環境でのNKG2D発現NK細胞・T細胞の機能的状態は未評価であった。
方法
PubMed/MEDLINEおよびLocusLink (NCBI Gene前身データベース) を主要データベースとして用いたシステマティック文献レビューとして実施した。参照された原著実験の統計解析にはStudent t検定 (Student’s t-test)・ANOVA (one-way analysis of variance)・log-rank検定・Mann-Whitney U検定が用いられており、有意水準p<0.05を基準とした。検索対象はNKG2D受容体・MICA/MICB・Rae1 (retinoic acid early transcript 1)/H60/Mult1・ULBP/RAET1 (retinoic acid early transcript 1 homolog) ファミリーに関する原著論文・結晶構造解析論文・腫瘍免疫実験論文であり、1990年代末から2003年発表分までを網羅した。主要実験系として参照された手法: (1) 腫瘍細胞株へのNKG2Dリガンドのトランスフェクションと同系マウスへの移植による腫瘍拒絶・免疫記憶誘導実験 (B16-BL6・RMA・EL4細胞株を使用)、(2) 抗NKG2D抗体クロスリンキングによるカルシウム動員・IFN-γ産生・細胞傷害誘導の測定、(3) 免疫沈降によるNKG2D-DAP10/DAP12複合体形成の検証、(4) DAP12欠損マウス・DAP10欠損マウスのNK細胞機能解析、(5) NKG2DリガンドとNKG2Dの複合体のX線結晶構造解析 (MICA・Rae1β・ULBP3とNKG2Dの共結晶)、(6) 溶解型NKG2Dをリガンド検出試薬として用いた腫瘍細胞株のスクリーニング。定量データとしてリガンド-受容体間の平衡解離定数 (KD) 測定 (表面プラズモン共鳴など) とアミノ酸同一性解析が参照された。NKG2Dスプライスバリアント (NKG2DL long型・NKG2DS short型) の同定はRT-PCRと免疫沈降で確認された。