• 著者: Vincent Liu, Katalin Sandor, Patrick K. Yan, Zhuang Miao, Yajie Yin, Robert R. Stickels, Andy Y. Chen, Kamir Hiam-Galvez, Caleb A. Lareau, Ansuman T. Satpathy, et al.
  • Corresponding author: Vincent Liu (Stanford University), Caleb A. Lareau (MSKCC), Ansuman T. Satpathy (Stanford University)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-07-13
  • Article種別: Original Article (Report)
  • PMID: 42242233

背景

腫瘍微小環境 (TME) には骨髄系細胞を中心とする自然免疫細胞が豊富に存在し、抗腫瘍免疫療法の応答を大きく規定する。adaptive免疫においてはTCR/BCR配列解析によりT細胞・B細胞のクローン動態が詳細に解明されてきたが (Caushi et al. NatMed 2022)、自然免疫細胞には体細胞組換えに相当する遺伝学的マーカーが存在しないため、同等のクローン解析が不可能であった。腫瘍内マクロファージやDCの起源については主に転写産物・タンパク質プロファイルによる間接的推定にとどまり、個々の細胞がいつ、どこで、どのような前駆細胞から分化したかは未解明であった (Cassetta et al. CancerCell 2020)。とくに3型樹状細胞 (DC3) と呼ばれるCD1c+樹状細胞サブセットはNSCLCに豊富で組織常在CD8+T細胞の活性化に関与するとされるが、その単球との系譜関係はマウス以外では検証されていなかった (Mulder et al. NatCancer 2022)。また単球の分化運命が腫瘍局所の環境シグナルによって決まるのか、あるいは末梢においてすでに細胞内在的に規定されているのかという根本的問いも未解決であった。これらの課題に対し、ミトコンドリアDNA (mtDNA) 変異を内在性クローンバーコードとして活用する新技術が必要とされていた。

目的

本研究の目的は、ヒトがん患者の腫瘍・非腫瘍組織・末梢血から採取した細胞にmtDNA体細胞変異を利用したシングルセルクローン追跡を適用し、(1) 腫瘍内自然免疫細胞のクローン起源を明らかにすること、(2) DC3の系譜的起源をモノサイトとの関係において解明すること、(3) 骨髄系細胞の分化運命が腫瘍浸潤前から周辺血でエピジェネティクス的にプログラムされているかを検証することである。

結果

所見1: Mitotrekによるクローン追跡の成功とクローン多様性の全体像: NSCLCデータセット (n=5 patients) では5,146クローン (細胞数29,010、scATAC-seq品質フィルタリング後の23.2%) を回収し、うち3,190クローン (62%) が≥3細胞、573クローン (11%) が≥10細胞を含んだ。クローン回収数は細胞回収数と強く相関した (Pearson R=0.90)。クローン内での細胞型一致率はランダム対照と比較して有意に高く (Kruskal-Wallis p<0.05)、Mitotrekの系譜追跡精度を生体内で裏付けた (Fig. 1H)。卵巣がん (n=5 patients) では4,560クローン・20,713細胞を回収 (Pearson R=0.93)。226クローン (≥5細胞を持つクローンの20%) で細胞型組成が背景分布と有意に乖離し (Padj<0.05)、免疫細胞・間質細胞・腫瘍細胞の増殖・分化イベントを捉えた (Fig. 1I)。NSCLC n=5例 + 卵巣がん n=5例の合計218,715細胞にMitotrekを適用し、mtDNA体細胞変異10,584個からクローン構造を同定した。

所見2: 骨髄系細胞の広範な組織浸潤とリンパ球との対比: クローン組織分布の比較により、骨髄系細胞 (モノサイト・マクロファージ・DC) は複数組織サイトにわたるクローン共有率が最も高く、27%の骨髄系クローンが複数サイトに跨って検出されたのに対し、CD8+T細胞クローンは8%、CD4+T細胞クローンは16%であった (Fig. 2G)。適応免疫細胞はintratumoral/NILT特異的拡大が著明で、B細胞・形質細胞は局所限定的であった (Fig. 2F)。一方CD8+T細胞は末梢との組織横断的クローン共有が最も高く、抗腫瘍CD8+T細胞応答の全身性を反映した。NK/ILC (自然リンパ球細胞) を含む単球支配クローンはNILT特異的に多く、腫瘍局所と正常肺での骨髄系細胞動態の差異が示された。また同一患者でmatched scRNA/TCR-seqデータが得られた卵巣がん例 (SU-O-002) ではCD4+T細胞のクローン平均7.6細胞 vs CD8+T細胞25.4細胞 (Student’s t test p=0.029) と腫瘍種による差異も確認された (Fig. S4G)。腫瘍内骨髄系クローンのmyeloid fractionsは平均58.5%で、CD4+T (78.7%) やCD8+T (78.3%) に比べ低く、マクロファージは複製拡大より連続浸潤によりTMEを補充するというモデルを支持した。

所見3: DC3は単球と同一クローンに属し、エピジェネティクス的にモノサイト特徴を保持する: 21,676個のNSCLC骨髄系細胞を13サブタイプに細分化したところ、DC3特異的DARはcDC2に比べて単球・マクロファージで有意に高いアクセシビリティを示し (Fig. S9A, 9B)、逆にCD14+単球DARもcDC2よりDC3で高く開いていた。chromVAR解析では単球関連TF (CEBP)、マクロファージ関連TF (AP-1、MAF、MiT-TFE)、DC関連TF (BCL11A、IRF4/8) がDC3で同時活性化されており、モノサイト由来性を強く示唆した (Fig. 3G-I)。クローン頻度相関解析では、DC3の最近接クローン細胞型は単球およびMoMΦ (単球由来マクロファージ) であり、cDC2 (古典的2型樹状細胞) は単球との相関が低かった (Fig. 3K, 3L)。代表クローン (3068G>A変異) では末梢血にn=35個のCD14+単球、組織にn=41個のCD14+単球、腫瘍/NILTにn=13個のDC3が検出され、連続的な浸潤・分化過程を反映した (Fig. 3M)。同パターンは卵巣がんでも再現され (Fig. S10)、DC3の単球由来性は腫瘍種を問わない普遍的な性質であることが確認された。

所見4: 末梢血単球でのDC/マクロファージ分化バイアスの事前確立: クローンレベルの細胞型組成解析により、同一クローン内で腫瘍・NILT両サイトにわたりDCまたはマクロファージ一方向への分化バイアスが一貫して維持されるDC-biasedクローンおよびMΦ-biasedクローンを同定した (Fig. 4G)。DC-biasedクローンは腫瘍ではDC3に、NILTではモノサイトに偏り、MoMΦ1-biasedクローンはNILT特異的に豊富で、MoMΦ2 (SPP1+) -biasedクローンは腫瘍内に限局した。さらに、この分化バイアスは腫瘍浸潤前の末梢血CD14+単球においても既にエピジェネティクス的に識別可能であった。DC-biasedモノサイトでは炎症性プログラム (NF-κB、IRF、STAT2、BLIMP-1) が、MΦ-biasedモノサイトでは免疫抑制プログラム (MAF family、NRF2、RUNX1/2) が優勢であった (Fig. S11I)。腫瘍浸潤後もIRF・BLIMP-1モチーフはDC-biasedモノサイトで差別的にアクセシブルを維持し、さらにID3/ID4が選択的に開放されることで抗腫瘍ポテンシャルが強化された (Fig. S11J)。転写産物レベルでもIRF1・IRF3・BLIMP-1 (DCバイアス) およびMAF/c-MAF (MΦバイアス) の差別的発現が確認され、DC-biasedモノサイトでFCER1AおよびEREG、MΦ-biasedモノサイトでC1QA・C1QB・C1QCの上昇が検出された (Fig. S11Q)。

考察/結論

① 先行研究との違い: これまでの腫瘍骨髄系細胞研究は転写・タンパク質プロファイルに基づく推定的系譜解析にとどまり、ヒト生体内での実際のクローン関係は不明であった (Biswas et al. JClinInvest 2019)。本研究はmtDNA体細胞変異という内在性バーコードを用いて、ヒト腫瘍の自然免疫細胞の系譜関係をクローン解像度で初めて直接実証した点で、これまでの間接証拠に基づくモデルと異なり、DC3の単球由来性を確定的に示した。マウスではDC3が単球と共通の骨髄前駆細胞から生じることが近年報告されていたが、本研究はヒトDC3が循環単球から末梢組織への浸潤後に直接分化することを示し、実際の分化経路を特定した。

② 新規性: 本研究で初めて、腫瘍浸潤骨髄系細胞のDC/マクロファージ分化運命が腫瘍局所環境ではなく末梢血単球のエピジェネティクス状態によって事前に規定されるという概念を、ヒト生体内クローン追跡により実証した。単球の「peripherally programmed differentiation fate」という新規な概念は、腫瘍免疫が腫瘍浸潤前から全身レベルで形成されうることを示唆する新規の視点を提供する。

③ 臨床応用: 末梢血単球のエピジェネティクス状態がDC/マクロファージ分化運命を決定するならば、腫瘍免疫の制御は腫瘍局所ではなく全身レベルで介入可能であることを示唆する。免疫チェックポイント阻害療法への応答予測バイオマーカーとして、末梢血単球のエピジェネティクスプロファイル (IRF/NF-κB vs MAF/NRF2) が有望候補となる。また腫瘍内SPP1+MoMΦ2 (免疫抑制性) の前駆単球をcirculation段階で識別・標的化する新しい治療戦略への臨床応用が期待される。

④ 残された課題: 本研究の主要な限界は、NSCLC・卵巣がん計10例という限られたコホートサイズであり、他の腫瘍種や治療歴を持つ集団での検証が今後の課題である。また本アプローチは断面的であり、単球浸潤・分化の時間的動態は捉えられない。縦断的サンプリングや追加前駆細胞集団との統合による分化シーケンスの解明、さらに核由来変異の活用によるサブクローン構造解析など、今後の研究で課題を解決することが重要である。

方法

Mitotrekフレームワークの開発: ミトコンドリアシングルセルATAC-seq (mtscATAC-seq) を用いてクロマチンアクセシビリティとmtDNA変異を同一細胞で同時解析するMitotrekを開発。計算パイプラインは (1) heteroplasmy行列の二値化、(2) >20%細胞に検出される非特異変異の除去、(3) 複数クローン割付け細胞の除外によりクローン割付け精度を優先する。造血幹・前駆細胞 (HSPC: hematopoietic stem and progenitor cell) コロニーデータでのベンチマーク精度は91.3%・85.3% (2ドナー)。

対象: NSCLC患者5例 (腺がん3例、扁平上皮がん1例、神経内分泌1例) の腫瘍・非腫瘍肺組織 non-involved lung tissue (NILT) ・末梢血、および卵巣がん患者5例の腫瘍・末梢血に適用。合計n=10例。

細胞数: NSCLC コホート: 83,371細胞 (腫瘍/NILT) + 41,587 PBMC (末梢血単核球); 卵巣がんコホート: 52,154細胞 (腫瘍) + 41,603 PBMC; 合計218,715細胞。高信頼性 mtDNA変異10,584個を回収 (偽バルク頻度 <1%、mgatkパイプライン使用)。

解析: ArchRによる differentially accessible region (DAR) 解析・ transcription factor (TF) モチーフ解析・chromVARによるTF活性推定、クローン間頻度相関・細胞型組成解析、疑似時間解析によるmonocyte→DC3/MΦ分化軌跡推定。統計: Kruskal-Wallis検定 (Benjamini-Hochberg補正)、Spearman・Pearson・Kendall相関、二項GLM (Wald statistic)。CD1c (cluster of differentiation 1c、DC3サブセットマーカー) の発現パターンもサブタイプ解析に使用した。