• 著者: Kumar S, Zeng Z, Bagati A, Tay RE, Sanz LA, Hartono SR, Ito Y, Abderazzaq F, Hatchi E, Jiang P, Cartwright ANR, Olawoyin O, Mathewson ND, Pyrdol JW, Li MZ, Doench JG, Booker MA, Tolstorukov MY, Elledge SJ, Chédin F, Liu XS, Wucherpfennig KW
  • Corresponding author: Kai W. Wucherpfennig (kai_wucherpfennig@dfci.harvard.edu), Xiaole Shirley Liu (xsliu@ds.dfci.harvard.edu)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33707234

背景

がん薬物療法において、腫瘍細胞を直接傷害する薬剤の多くは同時に免疫細胞の生存・機能を毀損するという根本的なジレンマが存在する。化学療法は分裂中の造血前駆細胞・免疫細胞を傷害し、DNA障害を伴う薬剤は腫瘍細胞内でcGAS-STING経路を活性化してI型インターフェロン応答を惹起しうる一方、同じ薬剤が免疫細胞機能を同時に毀損するため抗腫瘍免疫との相乗効果が損なわれる (Chen et al. NatCommun 2019 らはDNA障害誘発のcGAS-STING活性化が抗腫瘍免疫と免疫毀損の両面を持つことを論じてきた)。一方、CRISPRスクリーンによる免疫チェックポイント因子の同定は近年大きく進展し、in vitro/in vivo screen でPDCD1・CBLB・PTPN2等が抗腫瘍T細胞の負の制御因子として再現的に同定されている (Manguso et al. Nature 2017 の二臓器CRISPRスクリーンが先駆的)。さらに腫瘍細胞におけるIFN-γ経路欠損が抗CTLA-4抵抗性の機序であることも報告されている (Gao et al. Cell 2016)。CARM1 (Coactivator-Associated Arginine Methyltransferase 1) はヒストンH3R17・H3R26への非対称アルギニン二メチル化を導入するエピジェネティック酵素であり、核内受容体・p160共役活性化因子・p300/CBP (cAMP response element binding protein) と協調してがん遺伝子転写を活性化する。多くのがん種でCARM1のmRNA過剰発現が報告され、乳癌・前立腺癌ではエストロゲン受容体α・アンドロゲン受容体の共役活性化因子として機能するが、T細胞機能や腫瘍内因性免疫応答との関係は系統的に検討されてこなかった点が未解明であった。先行研究で不足していたのは、(1) エピジェネティック制御因子を網羅的に解析するin vivo CRISPRスクリーンの結果が不明であった点、(2) T細胞と腫瘍細胞の双方に作用しうる「dual action」標的の概念実証が未確立であった点、(3) 既存の小分子CARM1阻害薬が臨床応用可能なエピジェネティック免疫療法となりうるかの実証ギャップが残されていた点である。

目的

エピジェネティック制御因子を網羅するin vivo CRISPR/Cas9スクリーンを起点としてCARM1を腫瘍特異的CD8 T細胞の負の制御因子として同定し、CARM1阻害がT細胞と腫瘍細胞の両方に有益な免疫学的作用を及ぼすことで免疫療法耐性腫瘍の感作を可能にするか検証する。

結果

所見1:in vivo CRISPRスクリーンによるCarm1の同定とT細胞固有の機能増強:3 pool独立のin vivo CRISPRスクリーン (各n=3 biological replicates) で、Carm1 gRNAが腫瘍浸潤CD8 T細胞中で最も継続的に濃縮されたトップヒットとして同定された (Fig 1B, 1C)。陽性対照PdcdとCblbも上位hitとして再現された一方、他のアルギニンメチルトランスフェラーゼPrmt1, Prmt2, Prmt5, Prmt6では枯渇 (depletion) が観察され、Prmt3, Prmt7, Prmt8では濃縮も枯渇も無く、Carm1特異的な作用と確認された。31候補遺伝子の二次validation screen (n=3 replicates) でもCarm1がトップに維持された。RNP (ribonucleoprotein) エレクトロポレーションで作成したCarm1 KO OT-I CD8 T細胞はB16F10-OVA細胞に対する24時間殺傷アッセイで対照KOより8.54-fold効率的な殺傷を示し (p<0.0001, unpaired two-sided Mann-Whitney, n=8-10/replicate; Fig 1D)、共培養後のCD69・グランザイムB・IL-2・IFN-γ・TNF-αの発現と抗原誘導性増殖も有意に増加した。養子移入実験 (尾静脈, n=8-10/group, three independent experiments) ではB16F10-OVA腫瘍の増殖が有意に抑制され、腫瘍内CD45.1+CD8+細胞数・グランザイムB+・IFN-γ+・Ki-67+比率が約3-fold〜5-fold増加した (Fig 1E-1G, p<0.0001)。

所見2:Carm1 KO T細胞のRNA-seqプロファイル — 記憶維持・終末分化抑制・疲弊回避:共培養24時間後のRNA-seq解析 (n=4 biological replicates/condition, DESeq2) でCarm1 KO対対照KOで1,143遺伝子の上昇・1,199遺伝子の低下が認められた (|log2FC|>1, adj p<0.05; Fig 2A, 2B)。上昇遺伝子には腫瘍内リクルートに必須のCxcr3、記憶T細胞維持転写因子Tcf7・Myb・Bcl6、記憶/接着関連表面分子Itgae (CD103)・Cd27が含まれた。低下遺伝子には終末分化マーカーKlrg1、サイトカインシグナル抑制因子Socs1/Socs3、T細胞機能不全関連遺伝子Egr2・Havcr2 (TIM3) が含まれた。qPCRで2 gRNA独立にTcf7, Myb, Bcl6, ItgaeのupとKlrg1, Havcr2のdownが再現された (Fig 2C)。GSEAでは「T-cell activation」「mitotic nuclear division」「Foxo signaling」「regulation of leukocyte-mediated cytotoxicity」が上位濃縮pathwayとして同定され (Fig 2D)、下方制御pathwayにはRNA biology・protein translation・DNA関連pathwayが入った。腫瘍浸潤Carm1 KO T細胞ではTCF7+BCL2hi記憶様集団が約2倍多く存在し (Fig 2E, 2F)、移入後16日・24日の双方でCD69活性化マーカー発現が高値を維持し、PD-1/TIM3共発現・CD39+疲弊細胞比率は低値に維持された (Fig 2G-2I, two-way ANOVA, p<0.001-0.0001)。

所見3:腫瘍細胞でのCarm1不活化が内因性I型IFN応答と免疫感作を誘導:B16F10メラノーマと4T1 TNBCのCarm1 KO株は、in vitroの増殖速度には影響がないにもかかわらず、in vivoでは免疫正常マウスで著明に腫瘍増殖が抑制された (Fig 3D, 3F, n=8-10/group, two-way ANOVA)。この効果はCD8枯渇抗体投与・Tcra-KOマウスで完全に消失し (Fig 3D, 3E)、T細胞依存性が確認された。4T1ではspontaneous lung metastasesも有意に減少した (Fig 3G)。MC38大腸癌でも同様の効果が再現された (Fig 3H)。RNA-seq解析でCarm1 KO腫瘍細胞では外因性IFN刺激なしにIrf7, Ccl5, Cxcl10, Ifit1, Oasl1, Tap1等の多数ISGが2〜7倍に発現増加し (Fig 4A, 4D)、GSEAでIFN-α/γ応答経路とp53経路の転写活性化が確認された (Fig 4B)。CARM1阻害薬EZM2302 (0.1-1 µmol/L, 7日処理) でも同等のISG誘導が再現された (Fig 4E)。cGAS二重KO株でISG誘導が消失したことから、cGAS-STING経路依存性が確認された (Fig 4F, 4G)。γH2AX foci/nucleusとRAD51 fociがCarm1 KO腫瘍細胞で対照KOより約2-3倍に増加し、微小核陽性細胞も有意に増加した (Fig 4H, 4I, 4J)。一方Carm1 KO T細胞ではγH2AX上昇は認められず (Fig 4K)、DNA損傷誘発はT細胞では起こらないことが示された。MHC-I (H2-Kb) は約1.5-2倍に増加し、IFN-γ刺激下でさらに増強した。BT549ヒトTNBC + NY-ESO-1 TCR T細胞共培養でもEZM2302前処理で殺傷感受性が増強した (Fig 3L)。

所見4:CARM1阻害が抗CTLA-4・抗PD-1耐性腫瘍を再感作 + 下流因子TDRD3/MED12同定:B16F10メラノーマ (抗CTLA-4抵抗モデル) と4T1 (抗CTLA-4抵抗モデル) でCarm1 KO + 抗CTLA-4併用は単剤抗CTLA-4より有意に強力な腫瘍抑制と延長された生存をもたらし、小分子EZM2302 (150 mg/kg twice/day, oral, days 7-21) + 抗CTLA-4併用でも同等の再感作効果を再現した (Fig 5A-5C, log-rank Mantel-Cox)。4T1ではspontaneous lung metastasesも有意に減少した (Fig 5D)。腫瘍内CD8 T細胞数 (per gram tumor) が約3-5倍に増加し、エフェクター機能 (GZMB+, IFN-γ+) も増強した一方、PD-1/TIM3+疲弊CD8 T細胞は減少した (Fig 5E-5H)。さらにmigratory cross-presenting cDC1 (CD11c+MHC-II^high CD103+) とNK細胞 (CD49b+) も有意に増加した (Fig 5I)。Tdrd3 KOがCarm1 KOと同等のISG誘導 (cGAS-STING依存)・γH2AX上昇・micronuclei誘導・腫瘍抑制・抗CTLA-4再感作を再現し、CARM1の下流effectorとして機能することが示された (Fig 6A, 6C-6G)。Med12 KOも同等のISG誘導を示し、CARM1はMED12をアルギニン二メチル化することでMED12-ヒストンH3相互作用を制御することが免疫沈降-Western解析で示された (Fig 6B, 6H, 6I)。TCGA SKCM (n=442) とLUSC (n=363) でCARM1 high腫瘍はDNA repair・p53経路活性が低下しており (Fig 7C, 7D)、ICB治療コホートでMED12 low腫瘍中でCARM1 mRNAレベルがanti-PD-1/PD-L1奏効と負相関した (Fig 7E, Mann-Whitney U)。

考察/結論

これまでの腫瘍細胞標的薬の多くは、腫瘍細胞を傷害する一方で免疫細胞も同時に毀損するため、抗腫瘍免疫との相乗効果が得られないという問題があった。これまでの先行研究では化学療法・DNA障害薬がcGAS-STING経路を活性化する報告は存在したが、本研究で示されたCARM1阻害の最大の意義は、これまでの化学療法・DNA障害薬とは異なる新規なエピジェネティック標的が、腫瘍細胞では内因性I型IFN (interferon) 応答を誘導しつつ、T細胞では機能を増強するという二重作用を同時に実現する点にある。本研究で初めて、エピジェネティック制御因子を網羅するin vivo CRISPRスクリーンによりCARM1がT細胞の負の制御因子として再現的に同定され、その不活化がTCF7+BCL2hi記憶様T細胞を増加させると同時に終末分化・疲弊を抑制することが示された。これまで報告されていない経路として、CARM1がMED12アルギニン二メチル化を介してMED12-ヒストンH3相互作用を制御し、腫瘍細胞内cGAS-STING-I型IFN応答を抑制している分子機構を提示している点も新規である (Gao et al. Cell 2016 が示した腫瘍IFN-γ経路喪失とは異なる、CARM1-MED12-cGAS軸の新規制御層が同定された)。CARM1阻害はChen et al. NatCommun 2019 らが論じたDNA障害誘発のcGAS-STING活性化と異なり、免疫細胞を毀損せずに腫瘍細胞内cGAS-STING活性化を選択的に達成する点で対照的に有利である。

臨床応用の観点では、bench-to-bedsideに直結する小分子CARM1阻害薬EZM2302が既に存在し、本研究で抗CTLA-4・抗PD-1耐性腫瘍 (B16F10, 4T1) を再感作するtranslationalな概念実証が確立された。EZM2302は経口投与可能であり、150 mg/kg二回投与/日で2週間のtreatment scheduleが既に安全に施行可能であることがマウスモデルで示されている。TCGA SKCM・LUSC・ICB-treatedコホートでCARM1発現とICB奏効が逆相関する観察的knowledgeは、ヒトでもCARM1依存性免疫抑制が機能していることを示唆し、臨床的意義の高いバイオマーカー仮説を提供する。実臨床におけるICB耐性肺癌・メラノーマ・乳癌での併用試験が臨床応用の自然な次ステップとなる (Riaz et al. Cell 2017 のnivolumab耐性メカニズム研究と統合することで、CARM1阻害を耐性克服戦略として位置づけられる)。

残された課題として、第一にCARM1阻害が誘発するDNA二本鎖損傷 (γH2AX・micronuclei) の分子機構の詳細は未解明であり、TDRD3を介したR-loop制御 (NatStructMolBiol 2014 らが示唆したTDRD3-Topo IIIB経路)・retroelement転写活性化・複製ストレス等の候補機序の検証が今後の検討課題である。第二に、本研究では腫瘍細胞内I型IFN応答とT細胞増強が独立して機能することが示されたが、臨床応用では腫瘍細胞CARM1のみを選択的に阻害するべきか、T細胞CARM1も同時に阻害するべきかの最適化が今後の研究で必要となる。第三に、limitation として、本研究はマウスシンジェニック腫瘍モデルに依存しており、ヒト腫瘍微小環境におけるCARM1阻害の効果を検証するためのhumanized mouse model や臨床試験のfuture studyが必須となる。第四に、CARM1 highの患者でICBが効きにくいことの観察的相関は、prospective biomarker検証研究で確認される必要があり、long-term safetyとオフターゲット効果の解明も今後の検討課題である。

方法

Dana-Farber/Harvardにおいて、OT-I TCRトランスジェニックxCas9ノックインマウス由来CD8 T細胞を用い、426エピジェネティック制御遺伝子+陽性対照2遺伝子 (Pdcd1, Cblb) を標的とする5 gRNA/gene + 100対照gRNAライブラリ (3 pool構成) でin vivo CRISPRスクリーンを実施した。B16F10-OVA-ZsGreen腫瘍を皮下接種した免疫正常C57BL/6マウスに編集T細胞を養子移入し、10日後に腫瘍内T細胞と脾臓内T細胞からgRNAを深度シーケンスで定量し、MAGeCKでgene-level effect sizeを算出した。Carm1 KO T細胞の機能解析は、Cas9タンパクとgRNAのRNP複合体エレクトロポレーションによるtransient editingで行い、in vitro殺傷能はB16F10-OVA-ZsGreen細胞 (E/T比1:8〜1:1, n=8-10/replicate) との24時間共培養後にCeligo image cytometerでGFP陽性細胞を計数した。表現型解析はフローサイトメトリー (TCF7, BCL2, CD69, PD-1, TIM3, CD39, KLRG1, グランザイムB, Ki-67, IFN-γ, TNF-α, IL-2)、RNA-seq (4 biological replicates/condition, DESeq2でmoderated log2FC, GSEA、Gene Ontology解析)、RT-qPCRで実施した。Carm1 KO B16F10メラノーマ・4T1乳癌 (mammary fat pad移植)・MC38大腸癌の腫瘍細胞株を作成し (n=8-10 mice/group)、in vivo増殖と全生存をモニタリング、CD8枯渇抗体投与・Tcra-KOマウスでT細胞依存性を検証した。腫瘍細胞のRNA-seqとISG発現解析、IFN-γ刺激下のSTAT1リン酸化評価、MHC-I (H2-Kb) フロー定量、cGASダブルKO株作成によるcGAS依存性検証、γH2AX/RAD51免疫蛍光・微小核 (micronuclei) 計数によるDNA損傷評価を行った。小分子CARM1阻害薬EZM2302 (150 mg/kg, 二回投与/日, 経口14日間, 第7-21日) を抗CTLA-4抗体および抗PD-1抗体と併用投与し、抗腫瘍効果を二元配置ANOVAとlog-rank (Mantel-Cox) 検定で評価した。生存解析にはlog-rank検定、群間比較にはunpaired two-sided Mann-Whitney U検定を用いた。TCGA PanCancer Atlas (SKCM n=442, LUSC n=363)、CCLE 1,208細胞株、scRNA-seq cohort 3種 (GSE123813 BCC, GSE103322 HNSCC, GSE116256 AML) のCARM1発現と経路活性をSpearman相関で解析した。ヒトTNBC細胞株BT549にNY-ESO-1特異的TCRを発現する初代ヒトCD8 T細胞を共培養させ、EZM2302前処理での殺傷能を検証した。